試乗レポート

メルセデス・ベンツの新型「Cクラス」、スポーティなテイストを求めるならAMGラインで即決OK

若い世代に大きな訴求力

 従来のW205はセダンとワゴンを合計して日本で累計約10万台以上を販売し、2015年~2019年には年間販売台数セグメントナンバーワンを達成したほか、数々の賞を受けるなど高く評価されてきた。そのCクラスがモデルチェンジしたとなれば、気にせずにいられないという人も少なくないことだろう。

 コロナ禍に半導体不足と大変な状況の中での船出ながら、リリースを確認したところ見どころはかなり多く、走りに関するもの以外にもいろいろ確かめたいことはあるのだが、今回はまず箱根のワインディングでの印象をお伝えしたい。

 Sクラスゆずりの要素を取り入れながら、随所にCクラスらしいスポーティさをも表現したという内外装からして、なかなか惹かれるものがある。全長の拡大による伸びやかさとロングノーズでショートデッキをより印象付けるかのようなシルエットにパワードームを備えたボンネットなどダイナミックを兼ね備えた外観は、なかなかスタイリッシュだ。グリルに小さなスリーポインテッドスターを散りばめるという芸の細かさにも驚いた。

今回の試乗車は新型「Cクラス」の「C 200 アバンギャルド(ISG搭載モデル)」(654万円)で、オプション設定のベーシックパッケージやAMGラインを装着。ボディサイズは4785×1820×1435mm(全長×全幅×全高。全長はAMGライン装着時)、ホイールベースは2865mm
エクステリアでは短いフロントオーバーハングと長いホイールベースなどによってダイナミックなプロポーションを表現するとともに、パワードームを備えるスポーティなボンネットで前へ進もうとする衝動を表現。先代モデル比で全幅の拡大は10mmに抑えつつ、全長を65mm伸長し、伸びやかなシルエットに仕上げた。足下は空力性能の高そうな18インチホイールにピレリ「P7」をセット。タイヤサイズはフロント225/45R18、リア245/40R18

 12.3インチのワイドなコックピットディスプレイと縦型11.9インチのセンターディスプレイという2つの大きな画面がまっ先に目に飛び込んでくる時代を感じさせるインテリアも、分かりやすい外観とともに比較的若い世代にも大きな訴求力があるに違いない。「MBUX」もさらに熟成されたらしいので、あらためてじっくり試してみたい。

 Sクラス似のデザインなのはW205も同じだったものの質感がだいぶ違ったところ、W206はそのあたりもかなり洗練度が高まっている。見た目だけでなくスイッチのタッチなどもSクラスに通じるクオリティを感じさせる。

インテリアではドライバー重視のスポーツ感を強調するため、ダッシュボードと縦型の11.9インチのメディアディスプレイを6度ドライバー側に傾けた新デザインを採用。また、運転席に備わる12.3インチの大型コックピットディスプレイは自立型でダッシュボード上部と大きなインテリアトリムの手前に浮かんで見えるように配置した。また、先代からホイールベースが25mm、後席レッグルームが21mm伸長され、後席のヘッドルームも13mm拡張されたことで後席の居住性が向上(数値は欧州参考値)
運転席に備わる12.3インチの大型コックピットディスプレイのデザインは変更可能
11.9インチの縦型ディスプレイを採用したセンターディスプレイでは「ハイ、メルセデス」をキーワードとして起動するボイスコントロール機能を備えるとともに、日本で販売されるDセグメント乗用車で初というAR(Augmented Reality=拡張現実)ナビゲーションを採用

 航空機エンジンのナセルを思わせる新しいデザインの角型エアアウトレットもスポーティで新鮮味がある。こうして少しずつ表現を変えていくあたりも最近のメルセデスらしい。AMGラインではツインスポークとなる最新世代のステアリングホイールは、どんどん増えてきた機能を収めながらもデザイン性を損なわせないためのアイデアだろうが、使いこなすには少々慣れが必要ではある。

 後席の居住性もホイールベースの拡大やパッケージングを突き詰めたことで各部のクリアランスが増しており、実際にも広くなったように感じられた。ここまでくると、Eクラスの立場が心配になってくるほどだ。

AMGラインらしさを訴求

 走り出して即座に感じたのは、動きがかなり素早いことだ。試乗したAMGラインには、スポーツサスペンションと18インチタイヤ&ホイールに加えてリアアクスルステアリングや約10%クイックなステアリングレシオが与えられるのが特徴で、アジリティの高さを表現するためか、より分かりやすく操舵に対して横Gが鋭く立ち上がる味付けとされている。

 おそらく、AMGラインらしさを訴求するために意図的にそのようにしたのだろうが、タメのある操作を意識しないと姿勢が乱れやすい面もあり、普通のユーザーが乗ると戸惑ってしまいそうな気も。そのあたりを理解した上で乗ることが求められそうだ。

 ドライブモードでスポーツモードを選択すると、スポーティさは増すが安定性はそのまま。スポーツプラスモードではアンダーステアとオーバーステアが強調されて、より自らの手で操っている感覚が高まる。

 リアアクスルステアリングは約60km/hを境に逆位相から同位相に切り替えて前後輪を最大2.5度操舵し、どのように作動しているかを車内のディスプレイで確認することもできる。ターンインは極めて俊敏だが、コーナーの途中からはむしろ弱アンダーステア傾向となり安定感が高まる。

 そのあたり、てっきり積極的に同位相にしているのかと思ったら、ディスプレイを見る限りそうでもなく、ごくたまにという感じ。箱根をちょっと速めのペースで走るぐらいの速度域では、同位相にするまでもないということのようだ。実際、限界自体はかなり高そうな雰囲気を感じた。おそらく絶対的なスタビリティの高さがあるからこそ、こうした攻めた味付けにすることもできたに違いない。

 W205にはあったエアサスの設定がW206にないのは、バネサスがエアサスのクオリティに達したとの認識からとのことだったが、AMGラインの乗り心地はけっこう硬め。そのあたりの乗り心地や操縦性が万人向けの味付けなのは、もうしばらくして日本に上陸する予定の標準系に任せるということのようだ。

パワートレーンも大進化

C 200 アバンギャルドはエンジン単体で最高出力150kW(204PS)/5800-6100rpm、最大トルク300Nm/1800-4000rpmを発生する新型の直列4気筒1.5リッターターボ「M254」型エンジンを搭載。エンジンとトランスミッションの間に配置されるマイルドハイブリッドシステムのISGにより、短時間なら最大で15kW(20PS)、200Nmのブーストが可能

 W205のC 200と比べてエンジンとモーターの双方がより強力になったのもうれしい。新開発の1.5リッター直4ターボのM254型と、従来のBSGに変えてエンジンとトランスミッションの間にISGを配置し、9G-TRONICを組み合わせたパワートレーンは、ISGによるブーストも効いて実用域の力強さが増している。素早くスムーズなエンジン再始動と低速走行時の良好なレスポンスも、まさしくISGの恩恵に違いない。排気量が小さいおかげでエンジン自体の発する音も軽やかで音量も小さく、変速比幅の広いATによりエンジン回転数が低く抑えられるおかげで、効率に優れる上に静粛性も高い。

 ただし、気になったのはバイワイヤのブレーキフィールだ。より積極的に回生しようとしたことの相反なのか、ペダルのロスストロークが大きい上に、減速度を踏力でコントロールするのが難しい。もう少しリニアなほうがよいように思うので、今後の改善に期待したい。

 価格については、いまのところボトムが650万円台というと、パッと見ではW205に比べてかなり高くなった印象を受けるが、実は標準装備のレベルがかなり引き上げられており、実質的にはかなり頑張ったとのこと。

 期待される最新のSクラスに通じる内外装デザインや装備はしっかり身につけながらも、とりわけAMGラインについては小さくしただけでなく、まったく違うCクラスとしての個性が与えられていることがよく分かった。W206が気になっている多くの方々は、なかなか試乗できる機会も得られずヤキモキしていることだろうが、お伝えしたようなスポーティなテイストを求める人なら即決して問題ないんじゃないだろうか。標準系も気になる人はもうしばらく様子をうかがったほうがよさそうだが、コロナ禍や半導体不足で供給も不安定なようなので、いずれにしても少しでも早めに行動を起こしたほうが、納車が早まることには違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛