試乗レポート

新型「ランドクルーザー」を本格オフロード試乗 「プラド」「70」から継承する“ブランドの軸”を実感

「ランドクルーザー」(300系)

「ランドクルーザー」(300系)のオンロード試乗は既報のとおり。ランクルの人気はすさまじく、もはや納車まで数年待ちの状態になっているようだ。ランクルはトヨタ自動車の信頼性に対する看板車種でもある。

 そんなランクルの実力をタフな条件の中で試す試乗機会があった。愛知県豊田市にある「さなげアドベンチャーフィールド」が舞台である。ここはクロカンコースと言った方がピッタリするラフロードが設定されており、日常ではなかなか経験できないクロカン車の実力を体験できる。クロカンのスペシャリスト、インストラクターも常駐している。

 コースは2つに分かれており、水深70cmの川渡りを含めた急勾配をよじ登るAコース、そしてモーグルや岩盤路のあるBコースだ。

コースに渡河エリアも設定されたAコース
モーグルなどで走行性能を体感できるBコース
試乗の合間に開発担当者に質問する時間も

 Aコースでは300系ランクルのVX ガソリンとGR SPORTのディーゼル、そして「ランドクルーザープラド」のディーゼルの3車種のハンドルを握った。

 まずはVXだ。V型6気筒ガソリンは3.5リッターターボ。トルク豊かな特性は柔軟な性格で、ジワリと走ることも得意だ。305kW(415PS)/650Nmの出力と、新プラットフォームを採用してアルミを多用することで200kgも軽くなった車両重量との効果は大きい。

最高出力305kW(415PS)/5200rpm、最大トルク650Nm(66.3kgfm)/2000-3600rpmを発生するV型6気筒3.5リッターツインターボ「V35A-FTS」型エンジン

多彩な先進装備がオフロード走行をアシスト

 いよいよ悪路にチャレンジだ。「マルチテレインモニター」で周囲の情況を確認する。悪路では直近の情況を知ることができるのは大きな安心感になる。さらにフロント画面に切り替えて停車中にスイッチを入れると、アンダービューカメラが作動して過去データから合成された車両下面のビューも見ることができる。ランドローバー車ではおなじみの装備だ。

フロントノーズの左右のドアミラー、リアハッチの4か所に設置されたカメラでドライバーの死角になりやすい車両周辺や路面状況をモニターに映し出す「マルチテレインモニター」
悪路では直近の情況を知ることができるのは大きな安心感になる

 4WDは副変速機のLoモードを選び、10速あるギヤはセレクターで1速を選択する。「マルチテレインセレクト(MTS)」は「AUTO」「DIRT」「SAND」「MUD」「DEEP SNOW」「ROCK」の6つからモードを選べ、モード毎に駆動力、サスペンション、ブレーキの制御を変えて路面に適した駆動力と走破力を得られる。システムは進化しつつ、さらに4Hiでも選択可能となった。

 勾配23度の下り坂に入る。感覚的には直角に落ちる感じだが、まだまだ余裕十分。「ダウンヒルアシストコントロール」のスイッチを押すと、1~5km/hの範囲で速度を選択できる。3km/hを選択すると、急坂でもその速度で4輪をコントロールしながら下りていく。ランクルにとっては朝飯前で、試しに5km/hに変更してもなんの問題もなかった。

下り坂で速度を一定に保ってくれる「ダウンヒルアシストコントロール」

 深い轍でも高い最低地上高とよく伸びるサスペンションの効果でフロアを打ちつけることもなく通過する。タフなコースではどのタイヤがどこを通るかを考える必要があるが、しっかり見極めればランクルにとってはハイウェイだ。

 さなげのコースは幅が狭いがマルチテレインモニターによって内輪差を確認しながら走れるので、ワイドサイズの300系ランクルでも持てあます場面はなかった。

コース幅が狭くなっている部分でもマルチテレインモニターで安全確認しながら走っていける

 70cmの水深がある渡河も用意されており、ゆっくりと川に入る。ボンネットフードの上まで水が押し寄せてくる感覚だ。川の中で右に曲がり再び陸に上がる。エンジンは好調にまわり続け、タイヤもしっかり川底を掴む。

 再び登坂路に入る。クロールコントロールを使って速度を維持して上ることもできるので、熟練ドライバーのテクニックをランクル自身がやってくれる。キックバックの少ないハンドルも素晴らしい。ガツンガツンとくるキックバックがなく、まるでクロカン車とは思えない。

 300系ではGR SPORTのディーゼルにも試乗した。こちらは3.3リッターのV型6気筒ディーゼルターボで227kW(309PS)/700Nmの出力を持つ。ガソリンエンジン車も粘り強い低速トルクのあるエンジンだったが、ディーゼルではなおさら。オフロードでさらに実力を発揮する。低回転域の広いトルクバンドは滑りやすい路面で強力は味方になる。

最高出力227kW(309PS)/4000rpm、最大トルク700Nm(71.4kgfm)/1600-2600rpmを発生するV型6気筒3.3リッターディーゼルツインターボ「F33A-FTV」型エンジン

 特にGR SPORTは悪路での機動性を求めて新開発の電子制御スタビライザー「E-KDSS」を備えている。これはGR SPORTだけの装備でほかの300系ランクルでは装着できない。E-KDSSは以前のモデルでも設定されていたが、新E-KDSSでは極悪路やオンロードの直進時にスタビライザーリンクをフリーにして、足を伸ばすことができる。同時にE-KDSSと連携して可変ダンパーもそれに合わせたセッティングになる。

 VXでもその悪路性能に舌を巻いたが、GR SPORTはまさに水を得た魚のようだ。操作系の基本は同じ。マルチテレインセレクトでAUTO以外を試したが、ROCKモードは一瞬のホイールスピンが入るとすぐにブレーキや駆動配分を制御してホイールスピンを止めるのに対して、MUDではある程度のホイールスピンを許しながら、路面を蹴るようにして前に進もうとする。AUTOはオールマイティモードで、どんな路面条件でもカバーできる。走行で面白かったのはROCKだったが、通常遭遇する路面ならAUTOでたいていは事足りるだろう。

 また、深い轍での横揺れも小さくなり、ランクル史上最大のホイールストロークが効果的に活きていることが分かる。E-KDSSの能力は悪路でのトラクションだけでなく、横揺れにも効果が高いことを実感した。

 ちなみに両車とも、タイヤはダンロップ(住友ゴム工業)の「AT23」でサイズは265/65R18。オールテレインなのでオンロードからオフロードまでカバーできるタイヤだ。

 一方、豪州仕様のプラド・ディーゼルにも乗れた。ダイレクトなフィーリングで300系とは違った走り味。ドライバーが関与するところが多く、悪路を操って走っている感覚は高くなる。同じ路面を走るにも直進の保持やアクセルワークなど作業は多いが、それだけドライバーにとってはやりがいは多い。動きは軽快だ。その代わりにキックバックも大きくなるので、ハンドルはしっかりホールドしておく必要があるし、クロールコントロールで坂を下る時もブレーキ制御の音がガンガン入ってくる。プラドにはプラドの役割があると改めて感じた。

「どんなところからも無事に帰る」というランクルの軸

豪州仕様の70系ランクルにも試乗できた

 続いてのBコースでは、300系ではディーゼルのGR SPORTとガソリンのAX、そしてなんと70系ランクル! こちらは豪州仕様で現役だ。

 コースは大きな凹凸が交互に設定されるモーグルと岩がゴロゴロする岩盤登坂、溝の深いモーグル登坂と、ランクルならではのメニューが用意されている。Aコースとはまた趣が違う。ここでも選択は4Loで、マルチテレインセレクトは基本的にAUTOを選択する。

 GR SPORTのモーグル走行は圧巻だ。サスペンションがよく伸びて、完全にタイヤが地面を離れてしまうまで余裕があるので、ボディを水平に保てる時間が長い。左右前後とタイヤが立て続けに路面を離れてしまうような場面でも素早くトラクションが掛かり、横揺れも少ない。タイヤが着地するときも大きなショックが少ないのは意外な副産物だ。

 モーグル区間を通過すると、そのまま(自分が)苦手な岩盤路に進む。大きな岩がゴロゴロしている登坂路で、普通の感覚なら到底クルマで行ける路面ではない。フロアを打たないようにコースを選びながらジワジワ進む。岩は滑りやすい。タイヤがスリップするや否や制御が入る。それでも用心しながらハンドルで方向性を確認して、タイヤが岩の上を通過するように走ると、ここでもサスペンションの接地力が高いことに助けられて自然と岩盤路を上っていく。

 また、クロールコントロールはイン側後輪にブレーキを掛けるので巨体がくるりと向きを変えることができる。雪のような滑りやすく掘れやすい所での効果は絶大だ。

 デフ関係ではフロントにはGR専用で内蔵タイプデフロックを装着している。リアデフロックは他モデルも共通だが電磁式で従来よりも幅を広く設定し、トルクがかかっているとその嵌合は強く、前後のデフロックで強力なトラクションを武器とする。

 300系のAXでもこの難しい路面を苦労せずにクリアできるが、足はGR SPORTほどは伸びないので、モーグルコースでは着地した時のショックも大きくなる。同じように岩盤路でも方向性が乱れてシャシーメンバーが岩に接触してしまった。一瞬の間だが嫌な感触で普通のクルマなら気にするところだ。こんな時に心強いのは強固なフレームで、何事もなかったように岩盤路をよじ上っていく。頑丈なボディでメンテナンスが容易なことも世界でランクルが信頼される大きな魅力の1つだ。

 最後に乗ったのは70系ランクル。日本では発売されなかったディーゼルで、まだまだ豪州、中東などの地域で販売されている。それだけ深く愛され続けており、ほかに代え難い価値があるマシンだ。

 トランスミッションは5速MTで300系から見るとふたまわりも小さいサイズだ。タイヤはマッドタイヤを履き、いかにも古い友人に会った気分だ。4.5リッターのディーゼルパワーが突出しているわけではない。操作もいたってシンプルだ。楽に走らせてくれる装置はないが、昔ながらの手順に従ってデフロックを使いながら走らせる。ドライバーには面倒な操作を要求するが、それに応えることができればこんなに信頼できる相棒はないだろう。モーグルも岩盤路もアクセル操作とブレーキを使いながら難なくクリアすると爽快な達成感が得られ、愚直な走りに感動すら覚える。

 70系、プラド、300系も2種類のエンジン、2種類のシャシーを乗らせてもらった。最新のGR SPORTの進化にも驚嘆したが、そのルーツとなった70系ランクルの実力を改めて確認した。ランクルの軸は少しもぶれていない。どんなところからも無事に帰ることを目標にした代々のクルマ作りがあった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛