試乗レポート

基準車と何が違う? 新型「ランドクルーザー GR SPORT」を日下部保雄&橋本洋平がレポート

モータージャーナリストの日下部保雄氏と橋本洋平氏が新型「ランドクルーザー」に設定された「GR SPORT」をチェック

 トヨタ自動車が8月2日に発売した新型「ランドクルーザー」(300シリーズ)は、「どこへでも行き、生きて帰ってこられること」を使命に14年ぶりにフルモデルチェンジされたモデル。

 新型ランクルでは伝統のラダーフレーム形式とボディという基本骨格を踏襲しつつ、新たにGA-Fプラットフォームを採用。従来型比から剛性が20%上げられるとともに、高張力鋼板の採用拡大やボンネット、ルーフ、全ドアパネルをアルミニウム化するなど、車両として約200kgの軽量化に成功したという。

 パワートレーンは最高出力305kW(415PS)/5200rpm、最大トルク650Nm(66.3kgfm)/2000-3600rpmを発生するV型6気筒 3.5リッターツインターボ「V35A-FTS」型エンジン、最高出力227kW(309PS)/4000rpm、最大トルク700Nm(71.4kgfm)/1600-2600rpmを発生するV型6気筒 3.3リッターディーゼルツインターボ「F33A-FTV」型エンジンの2種類を展開し、いずれもトランスミッションは10速ATを組み合わせる。

 そうした新型ランドクルーザーの基準車(ZXグレード)について、モータージャーナリストの日下部保雄氏橋本洋平氏がそのフィーリングを報告しているが、本稿の主題は専用の足まわりや内外装が与えられた「GR SPORT」。GR SPORTは基準車と何が違うのか、両氏のレポートをご覧ください。

今回の試乗車はガソリン仕様の「GR SPORT」(770万円)。市街地での走行安定性とオフロードの走破性を高次元で両立させるサスペンション制御システム「E-KDSS」をはじめ、標準車ではリアだけの電動デフロックをフロントにも装備するなど、さまざまな専用装備が与えられる。ボディサイズは4965×1990×1925mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2850mm。車両重量は同じガソリン仕様のZX(7人乗り)から20kg増の2520kg
エクステリアではマットグレー塗装の18インチホイールをはじめ、フロント&リアバンパー、ラジエーターグリル、リアマッドガード、ロッカーモール(ブラック)といった専用装備が与えられる。アウトサイドドアハンドルやドアミラーがブラック塗装なのも特徴
GR専用ブラックのインテリア。本革巻きステアリング、フロントシート(GRエンブレム付)などが専用品になるとともに、ナビ画面には専用オープニング画面も表示(T-Connectナビ装着時)される。3列目はややタイトな印象

日下部保雄「ランクルの源流を思い出させてくれる存在」

 ランクルのGR仕様と聞いて、一体どんな仕様? と考えた。ランクル自体が究極の悪路走破性を備えたクロカン車だと思っていたからこその疑問だ。しかしランクルはパリダカでの活躍が目覚ましい。そう思うとGRの本筋であるモータースポーツへのストーリーも分かりやすい。そのラリーレイドで培われたノウハウを市販のランクルに活かしたのがGR SPORTだ。

 ZXのガソリンとディーゼルを試乗した後にGR SPORTのガソリン車のハンドルを握った。GR専用のフロントグリルには大きなTOYOTAのロゴマークが入り、フロントバンパーの下部形状も異なってオフローダーの性格をさらに強く打ち出している。また、サイドのロッカーモールやドアミラーがブラック仕上げで精悍だ。

 インテリアにもGRマークが専用シートやハンドルに配されており、切削カーボン調の加飾はGR SPORTと他グレードの差別化をハッキリさせている。イグニッションスイッチをONにするとセンターディスプレイのオープニング画面にはGRのロゴが表示される演出も楽しい。

 装着タイヤはZXでは265/55R20という大きなM+Sタイヤ(GRANDTREK PT5A)を履いており、GR SPORTでは実践的な265/65R18という同じダンロップでもインチダウンしたタイヤを履くがGR SPORTには似合っている。

 ドライビングポジションは高い位置にあるが、視界も自然でハンドル、ABペダルの位置関係に無理がない。シートのハイトコントロール、ハンドルのテレスコ/チルトも大きく動かせるので、ドライバーの体格差によるドラポジの変化も小さい。

 早速街に乗り出す。足下が軽くハンドルの切り始めなど20インチタイヤのドッシリした感触とは異なる。フットワークはよさそうだ。

 ドライブモードをコンフォートからノーマル、スポーツ Sと変化させてみる。コンフォートでは路面からのアタリが弱くソフトだ。上下動の収束もタイヤでよく吸収されている感じだが、長い周期になるとオツリが残るので路面によってはノーマルモードの減衰力特性が好ましい。ZXと違って大抵の路面はノーマルかスポーツ Sで妥当な収束となる。タイヤの違いがアクティブでキビキビ走る機動性を求めるGR SPORTと、多様なニーズに応えてドッシリとした味を求めるZXとの違いとなって表れている。

 サイズ、重量の割に軽快感のあるGR SPORTにはE-KDSS(Electronic-Kinetic Dynamic Suspension System)が専用装備される。200系からの継承だが、極端なオフロード走行時にスタビライザーの作動範囲をフリーにして4輪の接地力を有効に活かせるというもの。前後のスタビライザーを路面状況に応じてフリーにでき、従来比では後輪のホイール上下動は30mm伸びるとされている。新E-KDSSは電子制御によって前後のスタビライザーのロックとフリーを自在に行なえることが進化だ。

 オフロードではスタビライザーの作動制約なしにアシが伸び、オンロードでは最適なスタビライザー径を選べて効果的だ。確かにGR SPORTはコーナーでのロール変化が素直で安定感がある。また、オンロードでの直進時にはフリーとなるのでスタビライザーのバネ成分が入らずフラット感のある落ち着きがあり、高速道路での直進性も高くなる。レーンチェンジでのハンドルのスワリも好ましい。

 タイヤのサイド剛性とAVS(Adaptive Variable Suspension System)との相性はGR SPORTとのマッチングがよいと感じた。路面からの入力はダイレクト感があり、減衰がシッカリしているので上下動の不快感は少ない。新しいランクルの方向の中でもGR SPORTはユニークなキャラクターを持っていた。

 ドライブモードのスポーツ S+を選択すると、さらに引き締まったアシになりオンロードでの安定性が増す。ハンドル応答性も少しシャープになるが、路面からの突き上げも大きくなる。リアシートでは乗り心地が硬く感じるので、やはり日常走行ではスポーツ Sかノーマルがよさそうだ。

 スポーツ Sのアクセルレスポンスにも触れておくと重量級のクロカン車なので、敏感に反応することはないがギヤの選択やアクセルの開きなど、適度にスポーティに変化する。いずれにしても日常でも使いやすい設定だった。

 オンロードでは体験できないが、GR SPORTにはリアとフロントデフをロックできるシステムを持っており、タイヤが浮くような極悪路でも高い駆動力を発揮できる。

 GR SPORTは、豪華でどこにでも行けるというランクルにクロカンスポーツの新しいキャラクターを与えた。ランクルの源流を思い出させてくれる存在だ。

橋本洋平「走りを大切にしたその仕上がりにはかなり納得できるものがあった」

 TOYOTAロゴとブラックアウトされたメッシュグリルによって、かなり引き締められた感覚が増したランドクルーザーのGR SPORTグレードは、ロングドライブしてきたZXグレードとはまるで違うテイスト。ランクルと言えばコチラかな、なんていう意見も聞こえてきそうなオフロードテイストと、シンプルが故の本気度が伝わってくる。

 それもそのはず、このGR SPORTはTeam Land Cruiser TOYOTA AUTO BODYが2023年以降のダカールラリーに出場を予定しているという。若干先の話ではあるが、もうそんな想定をするほどなのだ。実践投入し、さらに市販車にそこで得た知見をフィードバックしようという計画が、このグレードから始まる。1995年から25年以上にわたって市販車部門へランクルが参戦を続け、そこからのフィードバックがいま新型のランクルに展開されているのだから、その計画は自然な流れなのかもしれない。

 オフロードへ向けた本気度は装備からも伝わってくる。GR SPORTのみで標準装備となる前後の電動デフロックがそれだ。他のグレードではリアのみにオプション装着可能となっている。前後独立してロック可能なことから、あらゆるシーンに対応できるということなのだろう。残念ながら今回の試乗ではオフロード走行ができないため、その実力を知ることはできないが、いざという時のボタンが室内に存在するだけでも気分が上がるというもの。プロ仕様って、どこか惹かれちゃいますね(笑)。

 さらにツボを突くのが、あえて選んだであろう18インチのアルミホイールだ。豪華装備満載のZXは20インチとなっていて55偏平のタイヤだったが、GR SPORTは65偏平を採用。エアボリュームたっぷりのムッチリとしたテイストは、これまたオフロードを意識した結果なのだろうと、かえってワクワクさせられてしまう。GRブランドを掲げるクルマたちは、インチアップが当たり前なのだろうと思いきや、ランクルではまるで逆となる法則崩しも新鮮。走りを第一に考えれば当然なのかもしれないが、インチダウンがこれほど共感できるとは思いもしなかった。

 専用の本革巻きステアリングと専用のブラックインテリア(内装色はGR専用のブラック&ダークレッドもあり)は、エンジンをかけた瞬間にナビ画面からGRのエンブレムが浮かび上がってくる。メーカーチューンドであることを感じさせてくれるすべての演出が好感触。オフロードを意識しているとはいっても、変にチープに造っておらず、上質さも備わっているから、これならパーソナルカーとしても十分に受け入れられるだろう。

 今回は同行した日下部保雄さんが運転する後席からインプレ開始。トヨタ東京本社の地下駐車場からのスタートだ。スロープを駆け上がり狭い駐車場をスイスイとこなして行く日下部さん。だが、そこでお互いに気が付いた。「このクルマ、さっきまでのZXとは違って動きがかなり落ち着いていますよね?」と。リアシートは微振動や突き上げが若干大きくなっている傾向だと感じていたが、確かに前後左右に揺さぶられる感覚は少ない。一般道や高速道路を走っている状況で、後席から日下部さんのハンドル操作を見ていても、修正操舵が少なく落ち着いて運転しているようだった。引き締められた足まわりと18インチ化による恩恵がそこにあるのではないだろうか?

 運転を代わってもらい走ってみると、ライントレース性も良好で車線内に収めやすくまとまっていることが感じられた。今回試乗したモデルがガソリン仕様であり、フロントが軽く仕上がっているということもあるのだろうが、無駄な動きが少なく、落ち着いて走れるところが気に入った。これならハイスピードラリーでもイケる!? それくらいに走っていて気持ちよくなれるクルマ。派手さや豪華さには目もくれず、走りを大切にしたその仕上がりにはかなり納得できるものがあった。コンセプトや見た目からはオフロード方向にガッツリかと思いきや、意外にも最もオンロードに適したグレード、それがGR SPORTだと感じた。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛