試乗レポート

2.4リッター化大歓迎! スバルの新型「BRZ」をワインディングでチェック

スキのないデザイン

 クローズドコースで兄弟車とともにプロトタイプを乗り比べて約2か月、ひと足先に登場した「BRZ」の市販車両を、いよいよ公道でドライブする機会がやってきた。

 ブルーのイメージの強いBRZとはいえ、見てのとおりレッドだってよく似合う。上級のSグレードは18インチの高性能タイヤが標準で付くほか、黒地に赤いラインとステッチが印象的なウルトラスエードと本革を組み合わせたシートをはじめ、こまごまとRグレードと差別化されている。おそらく「GR86」ではもっと違った雰囲気のインテリアが用意されることだろうが、このたたずまいがBRZらしい。

 スタインリングについて、よく初代でもどちらが好きかという話になった際に、筆者は開口部が大きくて迫力のある86の方が好みと答えていたものだが、バンパーの両サイドにエアスクープの付いた2代目はBRZもスキのないデザインになり、どちらが好きと即答できない印象になった。

今回試乗したのは7月に発表された新型BRZ。「S」グレードの6速MT車は326万7000円で、ボディサイズは4265×1775×1310mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2575mm。トヨタ自動車とスバルによる共同開発で生み出されたモデルだが、クルマのベースを共有しながらそれぞれの個性を際立たせた異なる走りの味を持たせたことが特徴で、新型BRZは「誰もが愉しめる究極のFRピュアスポーツカー」を実現したという
新型BRZではルーフ、フード、フロントフェンダーに軽量なアルミを採用。エンジン出力や安全性の向上に伴う重量増を抑制すると同時に、前後左右重量の適正化やさらなる低重心化を実現し、運動性能を向上。また、フロントまわりではバンパー前面に当たる空気を後方へ流し、空気抵抗を低減するフロントバンパーダクトを採用しており、ダクト表面には空気の剥離を抑え、大きな渦の発生を防ぐ空力テクスチャー(鮫肌パターン)を用いているのも特徴の1つ。加えてフロントフェンダーのエアアウトレット、空気を整流するフィン形状のサイドシルスポイラー、ダックテールトランクリッドなどによって空力性能を高めている
Sグレードは18インチアルミホイールを標準装備。タイヤはミシュラン「パイロットスポーツ4」(215/40R18)をセット

 着座位置の低いシートに収まると、コクピットの質感が初代に比べて格段に高まっていることを実感する。初代では軽すぎたクラッチペダルの踏力もちょうどよくなった。軽いと一見扱いやすそうに感じるものの、実際は半クラッチのミートポイントをさぐりさぐり踏むため加減が難しいところ、ある程度重い方が反力だけでコントロールできるので、実は扱いやすいと思っていて、BRZも初代よりこちらのほうがずっとよい。

インテリアはシンプルな水平基調のインパネや低く設置したメーターバイザーにより、広い視界を確保。高いホールド性とフィット感を実現したスポーツシートは、疲れにくく運転に集中できる環境を作り出すアイテムの1つ。なお、新型BRZでは専用スピーカーからエンジン回転数に応じた電子サウンドを再生する「アクティブサウンドコントロール」が装備される
7インチカラー液晶とLCD液晶を組み合わせたデジタルメーター(BOXERメーター)を採用し、必要な情報を分かりやすく表示。写真左は標準的なメーター表示で、右はトラックモード選択時の表示
6速MTはクラッチ容量の拡大やギヤ強度の向上などによりエンジンの高出力化に対応。従来からシフトゲートやアーム形状の見直しなどが図られ、2速から3速、4速から5速といった斜め方向のシフトチェンジの際にクイックかつ滑らかな操作が可能

2.4リッター化を大歓迎

 まず大いに歓迎したいのは2.4リッターになったエンジンだ。市街地を普通に走るにも、高速道路を巡行するにも、ワインディングを駆け上がる際にも、あらゆるシチュエーションにおいてこれまで感じていた線の細さがほぼ解消している。低回転域も太いというほどトルクがあるわけではないにせよ、やはり自然吸気で2割も排気量が増えた恩恵は小さくない。ごく初期だけ微妙に応答遅れが見受けられるものの、アクセル特性がリニアで扱いやすいところがBRZの持ち味だ。

 アクセルを踏み込むとレッドの少し手前の7300rpmまで伸びやかに加速する。トップエンドが近づくとさすがに多少は振動が出てくるものの、最後まであまり勢いを衰えさせることもなくスムーズに吹け上がる。自然吸気のボクサーエンジンで、できる限りのことはやったといえそうだ。

初代モデルから排気量を拡大した新型の水平対向4気筒2.4リッター「FA24」型エンジンでは、徹底した吸排気性能の強化とフリクション低減によりトルクを向上。レスポンスも早く、滑らかに高回転まで吹け上がるスポーツカーらしいフィーリングと力強い加速を両立した。最高出力は173kW(235PS)/7000rpm、最大トルクは250Nm(25.5kgfm)/3700rpmで、Sグレード(6速MT)のWLTCモード燃費は11.9km/L

 アップダウンの多い芦ノ湖スカイラインでは、よりエンジンの性格を顕著に感じ取ることができるのだが、だいぶ力強くなったなと感じるときもあれば、もう一歩と感じるときもある。その境界が3000rpm付近にありそう。それなりに回さないとトルクとパワーの美味しいところは出てこないので、市街地は問題ないが、ワインディングでは本領を発揮する3000rpm以上をキープして走るよう心がけた方がより楽しめる。

 少々気になったのはエンジン音。初代にも増して鼓動感や低音が強調されているのはよしとして、もう少し耳ざわりのよい音質だとなおよかったのにと感じたのが正直なところだ。また、シフトフィールもまだ新しい個体でアタリがついていないのかもしれないが、軽い中にも妙なシブさが見受けられたのと、シフトアップはよいものの、シフトダウンでは横方向の位置が掴みにくく感じられた。むろんシフトミスすればエンジンブローしかねない。メーター内に選択したギヤが表示されるが、少し遅れて表示されるのでシフトミス防止にはあまり役に立たない。シフトフィールももう少しガシッとした剛性感があるとなおよかったように思う。

スバル流ピュアスポーツ

 ハンドリングはなかなか楽しい。クルマが軽く、動きが素直でカドがない。操作したとおりに応えてくれて、コーナリング中にクルマがどういう状態にあるか分かりやすい。この手の内で操れる感覚こそBRZの真骨頂だ。クローズドコースで乗った際にはGR86に比べてターンインでの動きがマイルドに感じたものだが、回頭性そのものは十分に俊敏で、イナーシャをあまり感じさせず、アンダーステアも出にくい。

 アクセルのON/OFFに対しても挙動が乱れにくく、かといって初代の初期型のようにベタっとして動かないわけでもなく、操作に対して適切に反応し、そのあたりのさじ加減もちょうどよい。先の動きが読みやすく、ごく普通に走っても誰しもがコーナリングを楽しめる味付けなので、ワインディングでもなんら気負うことなく走れる。おそらくそこは刺激的な走りがウリのGR86との大きな違いになるはずで、同じ「楽しい」という言葉で表現する中でも、だいぶ質の違ったものになることだろう。

 あとは中立から微舵での動きとヨーの収束の仕方がもう少しよくなるとなおよいと感じたのだが、そのあたりはやがて出てくるであろう付加価値を高めたモデルで、またひと味違ったものを見せてくれることに期待したい。素のベースモデルとしては、十分すぎるほど楽しめて満足できる仕上がりだと思う。

 OEMタイヤのグリップレベルが引き上げられたことで初代より接地感が高まっていて、前後バランスもよく、狙ったラインをピタッとトレースしていけるのが気持ちよい。グランドツーリング的と評する向きもあるようだが、個人的にはやっぱりBRZはスバル流のピュアスポーツだと思った次第である。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:高橋 学