試乗レポート
トヨタの新型「ランドクルーザー」(300系)、オンロードでのフィーリングやいかに?(日下部保雄)
2021年9月7日 05:30
新型ランドクルーザー(300系)がデビュー
ランクルの生命線は究極の信頼性と耐久性だ。世界中のどのようなところでもランクルが活躍しているのが証明だろう。
今から70年前の1951年、「ランドクルーザー」のルーツとなるBJシリーズが誕生し、以来、ヘビーデューティなジープ型だけでなく、ステーションワゴン型も発展させて世界での評価は年々高まった。特にステーションワゴンの100系からはオンロードでの快適性も重視した高級4WDとしてのポジションを確立した点は大きな変換点だ。
今回モデルチェンジしたのは14年の長きに渡って生産され続けていた200系の後継。300シリーズとなったランクルはすべてを刷新してデビューした。久々に国内販売されるディーゼルも注目されるが、ガソリンエンジンも新開発の3.5リッターのV6ターボを搭載してトルクを大幅にアップしている。トランスミッションも6速から10速ATへ変わった。ランクルの快適なオンロード性能を向上させるとともに、極悪路で威力を発揮するクロールコントロールや小まわりを可能とするターンアシスト機能などオフロード性能は改良されて継承されている。
ボディサイズは4985×1980×1925mm(全長×全幅×全高)とLクラスミニバンのアルファード/ヴェルファイアよりも大きいが、ホイールベースは2850mmと200系と変わらない。しかしフルモデルチェンジらしくプラットフォームはガラリと変わり、新開発のGA-Fプラットフォームとなった。ランクル伝統のラダーフレームにハイテンションスチールを適材適所で配置するとともに、形状変更で軽量化と剛性アップを実現し、オンロード走行時のラダーフレーム特有のヨーイングを減らしている。
重量では2690kgだったZXは2550kg(ガソリンのZXは2500kg)まで抑えられており、装備の変更を考えるとかなりの軽量化だ。ボディ、プラットフォーム合わせて約200kgの軽量化に成功したとしている。ボディ外板ではボンネット、フロントフェンダー、前後ドア、リアゲート、そしてルーフもアルミニウムを使って軽量化が図られた。
モードごとによる走りの違い
試乗を開始すると改めてボディサイズを実感する。ドアミラーを入れるとゆうに2mを超える全幅だ。しかしボンネットは水平基調でセンターに凹みがあるため、それを目安にすると自車の位置を掴みやすい。それにしてもキャビンの静粛性が高い。新しいガソリンのV6ターボはV8かと思うほど振動も少なく滑らかだ。
滑りやすい路面も守備範囲とするランクルにはジワリとしたアクセルワークで動かすのは必須科目。狭いところでジワジワとアクセルを操作しても精密に動き楽に走れる。
液晶メーターには最近見ることがなくなった油圧計と電圧計がデンと構える。プレミアムセダンのような快適な車内だが、改めてランクルがクロカン車であること思い出す。
最小回転半径は5.9mで200系と変わらないが、センサーとカメラによって狭い場所を曲がる場面でも結構自在に走れる。これもオフロードヴィークルからくるノウハウだ。
ZXのドライブモードはH4を選択時には①エコ②コンフォート③ノーマル④スポーツ S⑤スポーツ S+⑥カスタムの6モードから選べる。
最初に選んだのはコンフォート。ショックアブソーバーの減衰力を緩めてフワリとした乗り心地になる。ただ、ソフトだが凹凸路面が連続すると上下収束が収まるまで時間がかかる。コーナーでの荒れた路面での収束も落ちるので万能のモードではなく、ノンビリ走る際に選択するとよいモードと感じた。
ノーマルモードでは収まりが改善されるが、重心高の高いクルマだけに上下動を感じやすいのは変わりがない。ではとスポーツ Sにするとアクセルのゲインが少しシャープになるためかピッチングが小さくなるように感じられるものの、20インチタイヤとの相性もありもう少し早く収束させたい。
さすがにスポーツ S+ではピタリを収まるものの、路面からの突き上げは大きくなる。結果的に試乗中はスポーツ Sを選択していることが多かった。
動力性能は2.5tの重量に対してガソリン車の出力は305kW(415PS)/650Nm。エンジンは力強く200系の4.6リッターV8エンジンを完全に上まわっており、グイグイと加速していく。ランドクルーザーの名前どおりの悠々たる加速の伸びと巡航性の高さを見せる。特に低速回転からの出力の出方が頼もしい。しかも静かで巡航時のキャビンはプレミアムSUVにふさわしい。このエンジンはレクサス「LS」にも搭載されているV6の延長線上にあるが、300系に搭載するにあたって60%以上の部品が再設計され、トルクアップを図っている。
同じZXでも3.3リッターのV6ディーゼルターボ搭載車は227kW(309PS)/700Nmの出力があり、加速に関してはさらに力強い。ツインステージターボは低速回転ではレスポンスのよい小型のシングルターボ、高速域ではツインターボを使っていて出力特性は好ましい。加速時では4000rpmを超えたあたりから頭打ちになるが、伸びやかで気持ちよい加速はガソリン車と変わらなかった。
また、アドブルーと共にDPF(デーゼル微粒子フィルター)を使い排出ガスのクリーン化に務めている。ただ巡航中はカラカラした軽いノイズがある。リズミカルなので嫌な音ではないのだが、もう少し抑えられるべきだと思う。
トランスミッションは従来の6速から10速になり、マメな変速を行なって燃費と滑らかな加速につながっている。変速ショックは皆無だ。ガソリンもディーゼルもタコメーターの針は左側の下の方を行き来しているに過ぎない。重量のあるSUVなので燃費はガソリン車で7km/L前後、ディーゼルで8km/L台を示していたが、かなりの改善だ。ちなみにWLTCモード燃費ではZXのガソリンが7.9km/L、ディーゼルが9.7km/Lと表示されている。
フレームボディはオンロードではハンドル応答性が鈍く、特に切り返した時の反応遅れもあって1つ先読みした運転となるのが常だが、新型では従来モデルよりフレームのねじれ剛性が20%アップした上にボディ剛性も向上しているので、同じビルトインフレーム構造の200系に比べるとオンロードでのハンドリングもかなり向上していた。高速時の直進安定性はドッシリしたものだ。
サスペンションはフロントはハイマウントのダブルウィッシュボーン、リアはトレーリンクリンクのリジットで200系と形式は共通だが、新しいプラットフォームに合わせて新開発されている。リアのショックアブソーバーは角度が立てられてフリクションが小さくなり、作動が滑らかになる。この効果は大きく乗り心地はスッキリとしたものになり、コーナリング時のロール特性もかなりよい。
コーナーでのロール自体は大きいものの、前後姿勢はバランスが取れているので乗員の安心感は高い。ワインディングロードでも安定して走れた。ステアリング系は油圧に電動アクチュエーターを組み合わせたもので、操舵力も軽くスッキリとした操舵感だ。低速でハンドル大きく切る場面での取り回しもハンドル戻り動作も含めて好感が持てる。ただ、全車速クルーズコントロールでの追従時は車間距離が安定せず、また車線維持がしにくいなどの改善されるべき点もあった。
居住性では後席もレッグルーム、ヘッドクリアランスともにユッタリとしており、長距離でもくつろげる空間だ。さすがにドライブモードをスポーツ S+にすると細かい突き上げを感じるようになる。
ガソリンのZXに設定されているサードシートへのアクセスはセカンドシートを大きく倒し、よじ登るようにして乗り込むが、開口部が大きくそれほど窮屈な姿勢にはならない。レッグルームは広いが、さすがにつま先はセカンドシートの下に入らないのとシート自体は薄いので近距離用と割り切った方がいい。
今回はオンロードでの実力を確認し、その動力性能、姿勢安定性、快適性を実感したが、ランクルの真価を発揮するオフロードでもぜひ試乗したいと思ったのは、マルチテレインセレクト(MTS)の存在だ。
これはモードセレクトダイヤルの下にあるスイッチを入れると、通常使われるH4でも「オート」「ダート」「サンド」「マッド」そして「ディープ スノー」の5つのモードから選ぶことができ、さらにローギヤのL4では「オート」「サンド」「マッド」「ロック」の4モードから情況にあった駆動力配分を選ぶことができる。ドライバーは特別なスキルを必要とせずにランドクルーザーが最適な駆動力と制動力、そしてサスペンションの減衰力調整を提供してくれる。L4時にはモーグルを走破する際の姿勢安定制御も取り入れられたという。
その実力を試すのは魅力的だ。もし機会があればレポートしたいと思う。