試乗レポート

トヨタの新型「ランドクルーザー」(300系)、オンロードでのフィーリングやいかに?(橋本洋平)

旧型比で最大約200kgの軽量化

 生誕70周年を迎えた今年8月、「ランドクルーザー」が14年ぶりにフルモデルチェンジした。プロユースから乗用までをこなすステーションワゴンタイプ・200シリーズの後継モデルである300シリーズがそれだ。トヨタ自動車いわく「どこへでも行き、生きて帰ってこられるクルマ」というランクルが持つそもそものコンセプトをさらに引き伸ばすべく、新型は「世界中のどんな道でも運転しやすく、疲れにくい走り」を実現しようとしている。信頼性、耐久性、悪路走破性を継承・進化させつつである。どこまで欲張りなのか? どこまで行くつもりなのか? クルマに乗っていれば、もう冒険で死ぬことなんてないのか? 日本にいると舗装が行き届きピンとこないが、世界を見据えるランクルはとにかく貪欲だ。

 だが、黄金比は変えていない。悪路走破性確保のため、80系から続くホイールベース2850mmを踏襲。全長も4950mmと変わっていない。アプローチアングル32度、デパーチャーアングル26度、ランプブレークオーバーアングル25度と、対置障害角は200系同等以上を維持している。新型になると豪華に大きくというのが定番だが、ランクルは悪路に対してブレることなく信念を貫いている。

新型「ランドクルーザー」の試乗車は「ZX」のガソリン車(7人乗り/730万円・左)、ディーゼル車(5人乗り/760万円・右)。ボディサイズは4985×1980×1925mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2850mm。300系へのフルモデルチェンジにあたって「信頼性・耐久性・悪路走破性は進化させつつ継承」「世界中のどんな道でも運転しやすく、疲れにくい走りを実現」の2点にスポットをあてて開発を進めたという
ガソリン車の内装色はニュートラルベージュ。インパネ上部のデザインを水平基調とすることで、過酷な路面変化の中でも車両姿勢を把握しやすい形状に仕上げた。12.3インチのワイドタッチディスプレイではナビ、オーディオ、空調に加えてオフロード機能の表示も可能
シフトまわりにマルチテレインセレクトのスイッチなどをレイアウト。パーキングブレーキは電動
スタートスイッチはトヨタ初採用となる指紋認証付き。スマートキーを携帯し、ブレーキを踏みながらスタートスイッチ上の指紋センサーにタッチすると、車両に登録された指紋情報と照合を行ない、指紋情報が一致しなければエンジンが始動しない仕組みになっている
ドライブモードは「エコ」「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ S」「スポーツ S+」「カスタム」の6モードを設定
マルチテレインセレクトでは「AUTO」「DIRT」「SAND」「MUD」「DEEP SNOW」「ROCK」を選択できる
7人乗りは3列シートレイアウト
ディーゼル車は2列シートレイアウトの5人乗り仕様のみの設定(カラーはブラック)

 変化したのは中身だ。新開発のGA-Fプットフォームは、オフロード車には最適なラダーフレーム構造を変わらずに採用。部分的に5mmもの鋼板を使用しながら、世界初の曲線レーザー結合となる「曲線テーラードウェルドブランク」という手法もフレームに行なっている。また、超ハイテンションスチール材を採用することで、高剛性と軽量化を達成。ねじり剛性は20%アップとなる。一方、ボディ自体もホットスタンプ材や超ハイテンションスチール材を採用している。さらにはボンネット、フロントフェンダー、ドアパネル、バックパネルをアルミ化するなどの対策、加えて後述するパワートレーンの変更などによって、旧型比で最大約200kgもの軽量化を実現したという。

 パワートレーンもまた、信頼性、耐久性、悪路走破性を主眼に置いたもので、オイルパンの形状やオイルストレーナの吸い口を最適化するなどの対策によって、45°登坂性能を実現。オイルシールや電装部品の防水処理によって水位700mmの渡河を実現することがすべてのエンジンのベースとなっている。変化したのはV8ガソリンモデルが消滅したこと。一方で、日本国内仕様でいえばディーゼルエンジンが復活となったことがトピックの1つだ。ガソリンエンジンは3.5リッターのV6ツインターボで、最高出力305kW(415PS)、最大トルク650Nmを達成。ディーゼルエンジンは3.3リッターのV6ツインターボで、最高出力227kW(309PS)、最大トルク700Nmを実現。共に組み合わされるのは10速ATである。

V型6気筒3.5リッターツインターボ「V35A-FTS」型エンジンは最高出力305kW(415PS)/5200rpm、最大トルク650Nm(66.3kgfm)/2000-3600rpmを発生。ZXのWLTCモード燃費は7.9km/L
V型6気筒3.3リッターディーゼルツインターボ「F33A-FTV」型エンジンは最高出力227kW(309PS)/4000rpm、最大トルク700Nm(71.4kgfm)/1600-2600rpmを発生。ZXのWLTCモード燃費は9.7km/L

美点と気になる点

 今回はそんなガソリン仕様のZX 7人乗りとディーゼル仕様のZX 5人乗りを共に連れ出し、トヨタの東京本社から河口湖までの一般道と高速道路を走る。ランクルの見せ場となる悪路を走ることは許されなかったが、日本で最も使われるであろう舗装路をどう走るのかが興味深い。ちなみに、ディーゼル仕様になぜ7人乗りが設定されないのかを開発陣に聞くと「技術的に達成できないわけではありません。ディーゼルは100系時代の設定にならったため。ガソリンはワゴンとして7人を設定した」とのことだった。

 一見してランクルヘリテージを継承していることが伺える新型を前に、トヨタの東京本社にある地下駐車場でその大きさにまず圧倒される。4985×1980×1925mm(全長×全幅×全高)というサイズは、周囲にある他のどの車両よりも大きく、存在感はハンパじゃない。乗り込んで動かし始めれば、まずそれを周囲の柱や壁にぶつけないかヒヤヒヤだ。けれども、ボンネット中央部の大きくえぐられたくぼみによって、左前方はかなり開けていたり、オプションのパノラミックビューモニターがあったりするおかげで周囲は意外と確認しやすく、昔ながらのサイズ感であるスロープを事もなくクリアしていく。慣れの問題も相当に大きいのだろうが、カメラやモニターはぜひとも装備しておきたいアイテムだと感じた。

 今回装備されていたT-Connectナビゲーションシステムでは、周囲を把握できるパノラミックビューモニターに加えて、オフロード走行時に役立つアンダーフロアビューを前後に装備(トヨタ初)。手前で撮影された過去のフロントカメラ映像に、現在の車両周辺の映像を合成することで、車両下の状態や前輪の位置を確認可能となっている。これなら岩場やぬかるみに遭遇しても、難なくクリアすることが可能だろう。

車両周囲の状況確認を4つのカメラでサポートするマルチテレインモニターでは、フロント画面表示中に車両を停止し、画面内のスイッチを押すことでアンダーフロアビューに切り替えることが可能

 街中を抜けて首都高速に乗り、中央自動車道を西へと進んでいく。いつもは見えなかった高速道路下が理解できたり、遠くの山々が障害物なくクリアに感じられたりと、やはりランクルからの視界はいつもと違う。いまやSUVブームで車両の高層化が進むから、生半可な車高のクルマに乗っていると周囲に埋もれることもしばしば。けれども、このランクルは違う。まるでペントハウスにいるかの如く、優雅な空間が広がっているのだ。iPhoneのPro Max縦2個分の幅がある横長のセンターコンソールに肘を置けば、そこはぜいたくなリビングのようである。

 そんなことを思わせてくれたのは、最初に試乗したディーゼル仕様がスムーズさと力強さがありつつ静粛性に優れていたからだろう。低回転から余裕のトルクを生み出し、ストレスなく10速ATが滑らかにシフト。気づけば巡行状態となっている感覚なのだ。もちろん、2600kgもある巨体であるから、キビキビというわけじゃないが、ランクルのディーゼルがここまでストレスフリーに走るとは、という感覚が動力性能に関しては存在する。エンジンだけでなく軽量化にも注力した結果があるのだろう。やや大きすぎで車線内に収めるのが難しいかと思えた車幅も、ボンネットの窪みの範囲内に左側の車線が通るようにして走れば、シッカリと車線内にいられることを発見。見た目だけでなく機能も感じられるデザインであるようにも感じられる。

 ただ、気になる点もあった。特にフロントのダンピング不足である。フロントの軸重は1450kgもあり、そこを抑えることが難しいのか、走行モードを変化させたとしても荒れた路面に差しかかるとバウンシングが収まらない感覚があったのだ。新型のポイントの1つである電子制御のスタビライザーは、オフロードではフリーとなりタイヤの接地性確保の方向に動くのは理解できるが、オンロードではロックされているはずなのに……。後に開発陣にそれを聞くと、日本仕様だけは通過騒音対策で柔らかいタイヤを使っているため、若干そういう傾向があるのだとか。色々と制約があるクルマで悪路も舗装路もディーゼルもというのは、こうした難しさがあるのかもしれない。

 後にガソリンモデルに乗れば、その傾向が若干落ち着いた印象があった。フロント軸重は1340kgとなり、それすなわち110kgも軽いことから、動きが収めやすいのかもしれない。滑らかさがさらに際立つガソリンエンジンは5800rpmからレッドゾーンとなるが、そこまで使わないにしてもスムーズさはやはり際立っている。最大トルクはディーセルに劣るものの、軽快に回してそこをカバーできている感覚だ。2台ともにラダーフレーム車特有のリニアリティのなさは残っているが、車両もまた軽快な感覚があって好感触。ランクルらしいドッシリ感が薄れたという意見があるかと開発陣は身構えていたようだが、手の内に収めやすい感覚が増えるガソリンモデルは、ワゴンとしての上質さをより一層増したと感じられる。

 その軽快な印象を後押ししているのが操舵アクチュエーター付きパワーステアリングだ。過酷な環境下での使用にも耐える油圧式パワーステアリングに、電気式の操舵アクチュエーターを組み合わせたそれは、操舵力をそれほど必要とせず、低速から高速域までスッキリとしたステアリングフィールを実現。よっこらしょ、という感覚が一切感じられないのだ。ただ、これを利用したレーントレーシングアシストは、車線中央を走るようにステアリング操作を支援するのだが、カメラとのマッチングなのか、操舵アクチュエーターの介入が大きすぎるのか、突如挙動を乱したかに思えるほど急激にステアリングをいじられるところが気になった。前述したディーゼルモデルでは、ダンピング不足とそれが合致した状況で、挙動不審なところを見せることがしばしば見られた。これは今後の改善に期待したい部分だ。

 このように、新たな船出となったランクルは、悪路走破性を主眼に置きながらも、実は新たなトライを開始していることが伺えた。絶対に曲げない信念をキープして独自の世界観を引き伸ばし、新しいものは積極的に取り入れていこうという姿勢はなかなか。次回は乗り心地も走破性も飛躍的に向上したという悪路走破性を体験したいものだ。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛