試乗レポート
フォルクスワーゲンの新型「ゴルフ ヴァリアント」 1.0 eTSIエンジンの走行性能は?
2021年9月2日 06:05
ボディサイズもデザインも一新
8代目となった新型ゴルフが、ようやく日本上陸を果たしたかと思ったら、今度はそのステーションワゴン版となる「ヴァリアント」が、インターバルを置かず日本のラインアップへと加わった。
そして今回は編集部のリクエストから、その一番ベーシックなモデルとなる「eTSI Active」に試乗した。ハッチバックではすこぶる評判のいい1.0リッター直列3気筒ターボが、このワゴンボディをきちんと引っ張れるのか? これを確認してほしいというわけである。
果たしてその第一印象はというと、これがハッチバック以上の出来映えだった。これまでどちらかというとゴルフの名脇役的な存在だったヴァリアントだが、最新型は主役を張れる存在にまでなった、と筆者は感じた。
そのカギを握ったのは、ハッチバック比で50mm延長された2670mmのホイールベースだ。
ヴァリアントとしては初となるこのロングホイールベース化が、新型ゴルフの乗り味にさらなる洗練を与えた。
これを詳しく述べる前に、まずは新型ヴァリアントのボディサイズとユーティリティの変遷を見てみよう。そのスリーサイズは4640×1790×1485mm(全長×全幅×全高)で、先代に対しては全長が65mm長く、全幅は逆に10mm狭く、全高は同等。ホイールベースは35mm増となっている。
ハッチバック比では全長が345mm長く、全幅は同等、全高は10mm高い。ホイールベースは前述の通りだ。
ハッチバックと共に1.8mを切る全幅は、日本の環境では嬉しいサイズダウンだ。またホイールベースが延長されながらも、先代モデルよりタイヤの切れ角が増したことで、ターニングサークルは先代の5.2mから5.1mへ縮小されており、なおかつこれはハッチバックと同等の数値となっている。
リアシートに座ってみると、ドライビングポジションをとったフロントシートの背もたれから、およそこぶし3個分は余裕で入るひざまわりのスペースが確保されており、ホイールベース延長の恩恵が十分に感じられた。天井は内張がラウンドしているが圧迫感はなく、横方向のスペースもとりわけ広くはないのだが、身長171cmの筆者にはその室内空間が十分なスペースに感じられた。
気になるラゲッジは、通常時が611L(先代+6L)で、シートを倒すと最大1642L(先代+22L)の容量が得られている。リアオーバーハングをほぼ延長せずに容量を拡大できたのは、やはり延長されたホイールベースのおかげだ。ちなみにトランクスペースは奥行き1062mmで、シートを倒すとこれが1845mmまで延長される。横幅は1000mmとなっており、場合によっては上級セグメントをも超える容量を実現しているという。加えてそのテールゲートには、オプションだがつま先をセンサーで感知する“Easy Open”機能が付くパワーテールゲートが用意された。
1.0リッターエンジンワゴンの魅力
そしてこのロングホイールベースを元に作られたボディは、新型ヴァリアントの走りをも変えた。もっと言えばハッチバックのゴルフと比べても、しっとり感が大きく高まった。
乗り心地が上質に感じられるのは、アクセルのON/OFFに対してピッチングが穏やかになったからだろう。
それでも走りが緩慢にならないのは、前述した切れ角アップと、ステアリングギヤ比が若干クイックにされた恩恵によるものだ。そしてこの制御が少なくとも街中やワインディングロードでは、ハッチバックよりもバランスしているように感じられた。ステアリングを切って狙ったラインに乗せやすく、まっすぐ走らせれば安定感が高い。実に自然で正確性のあるハンドリングである。
結果として気になったのは、タウンスピードで電動パワーステアリング(EPS)が軽すぎ、乗り味の質感を下げていたことくらいだ。もっともこのEPSは速度感応式なので、スピードを上げていくほどステアリングの座りは増す。女性も運転することを考えれば操舵時の軽さが必要なのも分かるので、上級グレードのようにモード選択がないActiveの場合、そこはいくつかのプログラムが用意されたらよいと思えた。
となると、気になるのは1.0リッターターボとワゴンボディの組み合わせだろう。
ハッチバックと直接比べてしまうと、50kg重たい分だけヴァリアントの加速力は鈍く感じる。しかし純粋なパワーユニットとして考えると過不足のないジャストなパワー感であり、非力過ぎるという印象はない。
アクセル開度の浅い状態でもジワーッとトルクが保たれ、エンジン回転が常用域に入ればスムーズに速度を乗せていく。48Vマイルドハイブリッドはストロングハイブリッドほど明確なモーターアシストの恩恵を感じさせないが、それでも可変ジオメトリータービンによる低速時のブースト圧確保や、7速DSGの連携が総合的にその粘りを補っている。
ちょっとしたダッシュが必要になときはアクセルを深めに踏み込まねばならないが、そうするだけで必要な加速が得られ、むしろよく走るなぁ……と、1.0リッターターボの優秀性を強く感じさせられる。全開加速時には3気筒エンジンの鼓動が丸出しとなるが、そこもヴァリアントらしい道具感があって、憎めない。
頻繁に繰り返されるコースティングに対しても、よりシャシーが安定しているせいか、ハッチバックほど空走感に対する違和感を感じなかった。
総じて1.0リッター直列3気筒マイルドハイブリッドを搭載するヴァリアント Activeは、「いいモノ感」あふれるゴルフワゴンに仕上がっていた。
もちろんよりパワフルでトルキーな1.5 eTSI(150PS/250Nm)を搭載した「Style」は、4リンク化されたリアサスペンションと共に一枚も二枚も上手な乗り味を示す。また走行状況に応じてギヤ比を可変する「プログレッシブ ステアリング システム」と可変ダンパーを備え、プレミアムスポーツタイヤ(グッドイヤー イーグルF1)で走らせる「R-Line」は、GTIをイメージさせるほどの仕上がりぶりだ。
しかしその質感が上がる分だけStyleで384万6000円、R-Lineでは389万5000円と、その価格も跳ね上がる。となるとActiveの326万5000円という設定が、俄然魅力的に思えてくる。
かつてのボクシーなスタイリングも、その積載能力を高めた上でよりスタイリッシュになった。これ以上のユーティリティが欲しいならティグアンやパサートの出番となるが、SUVに対する乗降性の良さや、Cセグメントボディの取り回しの良さを総合的に考えると、ヴァリアントのニーズは以前にも増して大きくなるのではないか。
そして何より新型ヴァリアントは、初めてゴルフを上回る、走りの質感を身につけた。これは1つの、嬉しいセンセーショナルである。