試乗レポート

大幅改良後のスバル「フォレスター」1.8リッター直噴ターボモデルでロングドライブ 足まわりの変更で進歩した走り

改良されたのは見た目だけじゃない。乗って分からる足まわりのよさ

 スバルの大黒柱である「フォレスター」が、この夏に大幅なマイナーチェンジを受け、10月に正式発売となった。ということで今回は、そのハイエンドモデルとなる「フォレスターSPORT」を借りだして、往復約600kmのロングドライブを敢行してみた。

 さて今回の大幅改良で最もスバルが推しているのは、フェイスリフトである。その表情をより精悍なものへと改めることで、フォレスターにSUVらしい力強さを与えたのだという。確かにフォレスターは、これまでちょっと大人しすぎる印象だった。

 具体的にはデザインの中心となるヘキサゴン(六角形)グリルを大型化し、そのフレームをブラックトリムへと変更。シンプルな水平基調のルーバーは、より立体的でスポーティな造形へと改められた。

 この大型化したグリルが起点となって、ヘッドライトも横長から縦長タイプへと変更された。一見コの字型デザインに変わりがないように見えるけれど、LEDウインカーがライトの下に配置されるなど、まったく別のライトに置き換えられている。

 またバンパーは前端が15mm延ばされ、ナンバー下部のバンパーガードがシルバーラインの入った立体的なデザインに。そして空力性能を意識したのだろうか、バンパーの“頬”にあたる部分には、GTカーのフリックボックスのような盛り上がりが着けられている。

 また装備品としてはルーフレールがオプションで加わり(X-BREAKは標準)、SPORTのホイールはダークメタリック塗装の専用タイプとなった。

 とはいえ全体的には初期型のイメージをきちんと受け継いでおり、ちょっとだけワイルドになった感じだ。実際の部品構成はガラリと変わっているため、作り手であるスバルにしてみれば大幅改造だろうが、実に渋好み。夏休み明けに同級生が、なんだか雰囲気が変わってカッコ良くなっていたような印象である。

8月19日に正式発表された「フォレスター」の大幅改良モデル。撮影車両はモデルラインアップの中で唯一1.8リッター直噴ターボエンジンを搭載する「SPORT」(333万円)で、ボディカラーはクリスタルホワイト・パール。ボディサイズは4640×1815×1715mm(全長×全幅×全高、ルーフレール装着車は全高+15mm)、ホイールベースは2670mm。バンパー形状の変更により全長が15mm伸長したが、最小回転半径は5.4mで変更はない
外観は、ピアノブラックとグレーを用いたダークトーンのコーディネートを採用。ヘッドランプの意匠が変更され、LED化されたターンランプがロービームライトの下側に配置される。アルミホイールはSPORT用ダークメタリック塗装の18インチで、225/55R18サイズのオールシーズンタイヤを組み合わせる
内装は随所にシルバーステッチや光輝シルバー加飾を用いた落ち着いた印象
シフトノブ下にはフロントビューモニター(オプション)、サイドビューモニターのスイッチと、X-MODEのスイッチを配置。X-MODEは滑りやすい道でのSNOW・DIRTと、タイヤが埋まってしまうような道でのDEEP SNOW・MUDの2モードを用意。ヒルディセントコントロールも付く
ナビゲーションはオプション設定となる8型のビルトインタイプを装着。アイサイトXの搭載はされなかったものの、ドライバーモニタリングシステムは継続して採用されている

 そんな新型フォレスター SPORTの走りは、1.8ターボの走りを支える足まわりにも磨きがかけられており、これも好印象であった。

 ちなみに試乗当日はカメラマン泣かせな悪天候から始まったが、冷え込んだ早朝の高速道路でもその足まわりがタイヤを路面に押しつけ、4輪駆動のトラクションで背の高いSUVボディを支えてくれるおかげで、乗り始めから緊張感がスーッとほぐれて行った。

 サスペンションはロールが少なめだが突き上げるほどではなく、乗り心地はフラット。路面からの入力を一発で減衰する様子は、2.5リッターNAエンジン時代のソフトなクッションライドとは大きく異なっていた。デビュー当時はあの北米ライクな乗り味に疑問を抱いたが、このSPORTが最初からあれば、通好みな仕様として共存できたかもしれないとすら思える。

 その乗り心地のよさから筆者は助手席、後部座席と全てのシートでこれを味わったが、どこに座ってもこれが良好だった。試乗車はまだ1000kmと少しの新車状態だったことも加味すれば、その乗り味はどんどんよくなっていくだろう。

 ただし後部座席はDセグメントの割にタイヤハウスから音の侵入が大きく、前席の会話が遮断されてしまうのは少しもったいなかった。

シート表皮はウルトラスエード/本革を採用し、ステッチ色にシルバーを用いることで上質感を演出。電動スライド式の大型サンルーフはオプション
リアシートは6:4分割可倒式。左右それぞれのシートにワンタッチフォールディング機能を備える

 高速巡航で気になる部分をもう1つ述べるならば、微少舵角での操作感がやや曖昧であることが挙げられる。操舵に対して車体は反応しているのだが、そこに接地感が伴わない。

 これにはタイヤがM&S(マッド&スノー)であることや、フォレスターのステアリングがバリアブル・ギヤレシオ機構を採用し、初期操舵時の反応を穏やかにしていることが影響しているのかもしれない。路面のうねりに進路を修正するときなど、もう少し手のひらでグリップを感じたい。

 話題の1.8リッター直噴ターボは、よくできたユニットだと思う。185PSだった2.5NAユニットに対してパワーは177PSまでダウンしているものの、最大トルクは239Nmから300Nmへと向上し、実用域での走りはむしろよくなっている。

SPORTは、最高出力130kW(177PS)/5200-5600rpm、最大トルク300Nm(30.6kgfm)/1600-3600rpmを発生する水平対向4気筒DOHC 1.8リッター直噴ターボ“DIT”を搭載するフォレスターラインアップの中で唯一のガソリンエンジンモデル。WLTCモード燃費は13.6km/L

 実際、高速巡航では速度を乗せてしまえば1500rpm+αで静かにクルージングでき、そこからアクセルを少し踏み足すだけで、滑らかな加速が可能だ。リニアトロニックの有段フィールにはまだメリハリが足りない部分もあるが、ターボがもたらす瞬発的なトルクの後押しが、これをバランスしてくれる。極端なメリハリはないがパーシャルスロットルには追従性がよく、むしろその心地よさに任せていると、知らぬ間にスピードが出過ぎてしまう。

 そんなスピードの誘惑から逃れたければ、アイサイトの出番である。

 二眼式カメラはその視野角を拡大しながらも小型化され、前方視界はよりクリーンになった。なおかつスマートリヤビューカメラは大きくなっている。

アイサイトは、「レヴォーグ」に採用された「新世代アイサイト」を搭載。新型ステレオカメラを採用して画角を従来に比べて約2倍に拡大。プリクラッシュブレーキの作動領域を広げ、交差点での右左折時衝突回避をサポートするほか、全車速追従機能付クルーズコントロールや車線逸脱抑制機能はさらに自然なフィーリングになるようブラッシュアップされている

 GPSと3D地図データを組み合わせた運転支援であるアイサイトXが選べないのは少し残念だが、車間と速度を適正維持してくれるアダプティブ・クルーズ・コントロールは確実に高速巡航時の緊張を緩和して、速度を一定に保ってくれる。ただ操舵支援に関しては、やや急に舵を切ってしまう制御の荒さも時折見受けられた。

街中&ワインディングでも足まわりのよさを発揮

 長野の地に降り立つと、曇り空ながらも天候は回復していた。

 街中でもその適度に引き締まった乗り心地はすっきりと快適で、信号待ちからのスタートはアイドリングストップからの復帰も静かだ。ただしゼロ発進時の出足は、ストロングハイブリッドのリニアさが当たり前となった今、やや古典的であり鈍重だとも言える。

 最後はトータルなパッケージングの確認をするべく、ワインディングまで足を伸ばした。

 そしてきちんとハンドルを切り込んだときの走りは、1.8リッター直噴ターボに対する足まわりのマッチングのよさを、より鮮明なものとしてくれた。

 その操縦性は、ひとこと素直だ。ブレーキングのリリースから姿勢が作りやすく、ハンドルを切り込めば穏やで少ないロールを伴いながら、ノーズをきれいにコーナーの内側へと回し込んでくれる。高速巡航で感じた微少舵角を過ぎてからの操舵感は滑らかで、電動パワステの制御も自然。きちんと荷重がかかれば、接地感も出てくる。

 コンパクトかつ低重心な水平対向4気筒エンジンを搭載する効果は確実に出ており、このボディにして軽やかに曲がってくれるから、運転が楽しい。タイトなコーナーでもスムーズに旋回し、ロングコーナーではじわりと安定している。

 エンジンは2000rpmを超えるとあからさまに元気になるが、それも雰囲気だ。パドル操作時のレスポンスはSモードにしても鈍く、特にシフトアップ時の回転落ちは本当にスローだが、そこに目くじらを立てる気にはならなかった。

 つまりこの「SPORT」が意味するところは、スポーティである。そしてこうした緩さもフォレスターの個性の一部だと思えるまでに、そのバランスは整ってきた。

 もしそのトランスミッションがロックアップの明確なトルコンATであったり、さらに歯切れのよいDCTであれば、このしなやかな乗り味は失われ、燃費もさらにわるくなっただろう。ちなみに今回のロングドライブの燃費は高速巡航をメインにしながらも約11km/Lと、褒められたものではない。しかしこのボディサイズと走りのよさ、レギュラーガソリン仕様であることを総合すると、ギリギリ納得がいく。それくらい走りはまとまっていた。

 これだけポテンシャルの高いボディであれば、一気にイメージリーダーとなるSTIモデルを復活させてもいい。安定志向のアクティブトルクスプリットAWDをVTD式やドライバーコントロールセンターデフに置き換えて、よりパワフルなエンジンを搭載させても十分通用するだろうし、今の時代はむしろWRXシリーズよりもフォレスターのハイパフォーマンスモデルの方が求められるかもしれない。

 そんな妄想をつらつらと巡らせながら、復路はアイサイトで渋滞を乗り切り家路に着いた。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してSUPER GTなどのレースレポートや、ドライビングスクールでの講師活動も行なう。

Photo:安田 剛