試乗レポート

ランボルギーニ「ウラカンSTO」にサーキット試乗 ここまで走りを極めたマシンなどそうそうない

レーシングカー由来のロードゴーイングカー

 思えば2014年の日本上陸からもう7年あまりが経ったわけだが、振り返ると幸いなことに筆者はいろいろな仕様の「ウラカン」をドライブする機会に恵まれてきた。日本国内でも公道はもちろん、今回の富士スピードウェイや大雨の鈴鹿サーキットでドライブしたこともあり、初めて2WDモデルが出た2015年末には国際試乗会の開催されたドーハまで飛んだこともある。そんなウラカンは、筆者にとってずっと「もし宝クジが高額当選したらまっさきに買いたいクルマ」であり続けている。

 今回ドライブした「ウラカンSTO」は、これまでドライブしたウラカンの中でもかなり特別な位置付けだ。車名の「STO」は、ランボルギーニによるワンメイクレース「スーパートロフェオ」のためのホモロゲモデルを意味する「Super Trofeo Omologata」の頭文字で、内容的には同レースのための「ウラカン スーパートロフェオ EVO」と、デイトナ24時間やセブリング12時間レースで連覇を飾った「ウラカンGT3 EVO」の伝統を受け継いだ、レーシングカー由来のロードゴーイングカーとなる。市販車をベースにレース仕様に改造するのとはアプローチが逆というわけだ。フロントカウルを開けるとヘルメットを収めるためのスペースがあるあたりにも、もともとレーシングカーとして設計された名残が見て取れる。

 実車を見ると、本当にこのまま公道を走っても大丈夫というのが信じられないほどの、ほぼレーシングカーそのもののようなルックスに圧倒される。いかに空力に力を注いだかをうかがわせる調整可能な巨大なリアウイングや、フロントまわりやタイヤハウス周辺の随所に配されたダクトの数々が目を引く。実際、空力効率は実に37%も向上したというから相当なものだ。さらには、ボディの75%以上にカーボンファイバーを用いていて、車両重量は「ウラカン ペルフォルマンテ」に対して43kgも軽量化している。

今回試乗したのは2020年11月に日本初公開された「ウラカンSTO」(3750万円)。ボディサイズは4547×1945×1220mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2620mm。後輪駆動モデルでありながら、0-100km/h加速3.0秒、最高速310km/hというパフォーマンス性能を持つ
ウラカンSTOではボンネットフードのエアダクトやフロントバンパー内のスプリッター、リアフェンダー部のNACAダクト、中央部分が可変式のリアウイングなど、レース仕様のエアロダイナミクスがふんだんに用いられる。また、ボディは徹底的に軽量化され、外装パネルの75%以上にカーボンファイバーを使用するという

 エンジンパフォーマンスも公道向けにデチューンされた気配もなく、2WDながら4WDのウラカンと遜色ない、640HPを発揮するV10を搭載するあたりも容赦ない。マグネシウム製らしからぬ攻めたデザインのホイールの奥には、見るからにキャパシティの高そうなレーシングカーそのもののブレンボキャリパーが鎮座する。

パワートレーンは最高出力470kW(640HP)/8000rpm、最大トルク565Nm/6500rpmを発生する自然吸気のV型10気筒 5.2リッターエンジンを搭載し、トランスミッションにはデュアルクラッチの7速LDF(ランボルギーニ・ドッピア・フリッツィオーネ)を組み合わせる

次元の違う一体感

 レーシングドライバーの先導により、1周4.5kmあまりの本コースを4周+4周+2周走行し、ラストにはほぼ全開の走りも許されたのだが、とにかくあらゆるものに圧倒されっぱなしの、夢のようなひとときだった。

 640HPの自然吸気V10エンジンは音も加速もインパクト満点! 踏めばどこからでも本当にシートに身体が押しつけられるように強烈な加速Gだ。それでいて心なしかエンジンフィールも緻密になり、エキゾーストサウンドも荒々しさの中に洗練された印象を受けた。

 ストレートエンドでの車速の表示は、一瞬だけ290km/h(!)に達したのだが、そのときのまさに地を這うようなスタビリティは驚異的というほかない。スリリングな速度感はありながらも、クルマ自体はいたって安定している。

 ハンドリングも目が覚めるように鮮烈だ。極めて俊敏な回頭性のもと、よくいう一体感という言葉とは次元が違うほどの超越した一体感がある。これだけのパワーをリア2輪では受け止めきれず、アクセルを踏みすぎるとそのとおり即座にスライドし出すのだが、そこをコントロールするのもこのクルマを操る楽しみのうちだ。ちょっとだけESC OFFも試してみたところ、さらに過激さを増す。なにかあったら大変なのでほどほどにしておいたが……(笑)。

 ブレンボ製の新CCM-Rブレーキシステムもかなりのものだ。ディスクローターを爪先で挟んでいるかのごとくダイレクトにコントロールできて、どれだけ走ってもフィーリングが変わらないことにも感心した。ブレーキもまたレーシングカーそのものだ。

恐るべきコーナリングパフォーマンス

 走りの肝は完成度の高い4WSと空力にありそうだ。リアステアの動作状況を車内のディスプレイで確認すると、よく量販車で回頭性を演出するために進入で逆相にするのではなく、コーナリング途中から立ち上がりで舵をまっすぐにするまで効かせているであろうことが見て取れた。たしかにそのほうが踏んでいけて、アンダーステアも出にくいだろうし、もともと回頭性が抜群によいので、ターンインでは逆相にするまでもないということだろう。それをやるとむしろ危なっかしくなりそうだ。

 富士スピードウェイは性格の異なる高速コーナーがいくつかあるが、そこでもこれまで味わったことのないほどの旋回速度と高い横Gを感じた。スタビリティは高く、空気の力で車体を押さえつけている感覚が伝わってくる。とくに100Rあたり、こんなにハイスピードでコーナリングしても大丈夫なのかというくらいの車速で曲がれて、それでもまだ限界はさらにずっと上にあるほどの余裕を感じた。

 もう1つ、ちょっと驚いたのがタイヤだ。てっきりピレリ「P ZERO」あたりを履いているものと思ったら、なんとブリヂストン「POTENZA」だったからだ。日本製の高性能タイヤが世界有数のスーパースポーツ、しかも走りを極めたモデルにOEM装着されたとは、なんとも喜ばしく、誇らしく思える。実際、これほど縦にも横にも高いGがかかるにもかかわらず、剛性感が十分すぎるほど確保されていることと、滑り出しというより滑ってからの挙動が掴みやすいことが印象的だった。

ホイールサイズはフロント8.5J×20、リア11J×20で、タイヤはブリヂストン「POTENZA SPORT」を装備。タイヤサイズはフロントが245/30R20、リアが305/30R20

 いままで乗ったウラカンの中でもっとも高性能で、獰猛でありながら洗練された研ぎ澄まされたものを感じた。世にあるスーパースポーツの中でも、ここまで走りを極めたマシンなどそうそうない。レーシングカーのパフォーマンスを手軽に(?)最高の形で味わわせてくれる市販車に違いない、3750万円さえ用意できれば……(笑)。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。