試乗レポート

日産「キャラバン」ディーゼルが新エンジン×7速ATで走りを刷新 リニアでダイレクトな加速が特徴的

「キャラバン」ディーゼルもついにマイチェンされた

三菱自動車が開発した新型ディーゼルエンジンを先行搭載

 2021年10月のガソリン車につづいてマイナーチェンジした日産「キャラバン」のディーゼル車の試乗会が、横須賀のグランドライブで開催されたので、走りをメインにその進化ぶりをお伝えしたい。

 イチから開発したという新しいディーゼルエンジンは、提携関係にある三菱自動車工業が生産を担当するが、三菱車を含め最初にキャラバンに搭載されるはこびとなった。世界中のメーカーがディーゼルの新規開発の凍結を宣言する中、既存のものをベースにするのではなく、まったく新たに開発されたディーゼルというのは珍しい。

試乗車は最上級グレードのGRAND プレミアムGX
ボディサイズはロングボディの標準幅、標準ルーフで4695×1695×1990mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2555mm

 新型ディーゼルエンジンは、従来とは異なり「尿素SCRシステム」を採用したのが特徴で、JC08モード燃費は12.4km/Lから13.9km/Lへと12%も向上しており、最大トルクは356Nmから370Nmに増加している。組み合わされる日産製の7速ATは、マイチェンしたガソリン車に搭載されたものと同じで、新しいディーゼルエンジンの低中速での厚いトルクをしっかり伝えることを念頭に開発されている。

新型ディーゼルエンジンは、最高出力97kW(132PS)/3250rpm、最大トルク370Nm/2000rpmと、2.4リッターでありながら3.0リッター同等のエンジントルクを発生。走り出しのスムーズさと加速性能、優れた静粛性を両立させた
尿素SCRシステム用のアドブルー(高品位尿素水)の補充口は、助手席側のスライドドアを開けた後方下に配置されている
フロントカメラの性能を向上させて、LDW(車線逸脱警報)や対歩行者向けのインテリジェントエマージェンシーブレーキが採用された
タイヤは横浜ゴムの「BluEarth-Van RY55」で、装着サイズは195/80R15 107/105N LT

 新旧を乗り比べるとやはり違いは歴然としていた。旧型はよくもわるくも昔ながらのディーゼルらしい。絶対的な加速は力強いが、音や振動が大きく、エンジンとATがともにルーズで踏んでも音だけ増えてあとから加速がついてくる。もともとディーゼルとはそういうもの。それでも持ち前の力強さは十分に味わえる。

インテリアはより普段使いがしやすいようにと、電子式ルームミラー(インテリジェントルームミラー)、ステアリング、ATシフトノブ、メーター、シート表皮などが乗用車っぽく仕上げられている
後方や周囲を確認しやすいインテリジェントルームミラーを採用
乗用車から乗り替えても違和感のないメーターに変更された
細部にピアノブラックを採用して高級感を演出

リニアでダイレクト感のある走りが特徴

 ところが新型は、圧倒的に静かで振動も小さい。吹け上がりがスムーズで、燃焼の粒が揃っている感じがする。加速の仕方も大違い。トルクの立ち上がりがリニアで、欲しいと思ったトルクをそのように生み出すのを走り出した瞬間から感じる。

新型ディーゼルエンジンは静かでパワフルになった

 じわっとアクセルを踏む足に力込めたときでも、旧型は反応が希薄なのに対し、新型は操作したとおりに加速してくれる。ダイレクト感のあるATとあいまって、コントロール性も高い。応答の鋭さは現状でも不満はないが、おそらくやろうと思えばもっと出せるところ、キャラバンにふさわしく積んだ荷物などに影響しないよう、あえて少し落としているようにも見受けられたほどだ。

マイチェン前のキャラバン
マイチェン後のキャラバン

 ATが多段化したおかげで、シフトチェンジ後のエンジン回転の変動が小さく、テンポよく加速するのも大きな違い。せっかく設定されたマニュアルモードがより活きている。シフトダウンして高回転まで回しても振動がそんな大きくならないのも大きな違いで、ディーゼルながら、走りに気持ちよさを感じるほどだ。といっても、ディーゼル特有のガラガラ感がないわけではなく、ディーゼルとしては静かでスムーズというニュアンスであることは念を押しておきたい。

 車速を上げて、80km/h程度からさらに加速させたいときでもちゃんとついてくる。100km/h巡行時のエンジン回転数についても、旧型が約2350rpmのところ新型は約1850rpmまで下がり、むしろ風切り音が気になるぐらいだ。微低速から高速まで全域にわたって圧倒的にドライバビリティが高い。資料に記されていた「8%の向上」どころではない大きな違いを感じる。

実は足まわりにも手が加えられていた

 このマイチェンでは、ガソリン車と同じくスパイナルサポート機能付きシートが装備されたのもポイントで、これまた乗り比べると違いは明白だ。従来のシートは身体のどこかが局部的にシートと接している感じがして、面でのサポート感が薄いのに対し、新しいシートは肩から脇腹、さらに大腿にかけて身体全体がやんわりと包み込まれ、オシリも面で支えてくれている感覚がある。

 Gのかかるコーナリングでも、従来のシートではとくに肩のあたりが横にぶれるのに対し、新しいシートはあまり身体がもっていかれる感覚がない。背中の後ろからランバーサポートを仕込んだかのように適度な力で押してくれる感覚があるのも心地よい。シート形状の見た目の違いはそれほど大きくないが、実際に座って運転してみると別物だ。短時間の試乗でもこれだけ違ったのだから、長時間ドライブするとより大きな差になって感じられるに違いない。

運転席は長時間運転でも疲れにくいスパイナルサポート機能付きシートを採用
後席も前席に合わせてデザイン性の高い柄を採用し乗用車ライクを演出している

 さらには、シートがよくなったせいか、足まわりの印象まで新旧でずいぶん違って感じられた。全体的にピッチングが減っていて、路面の継ぎ目を通過したときの衝撃も、継ぎ目が小さくなったように感じるほどで、通過後の振動の収束も早い。乗り心地がよくなっただけでなく、ハンドリングもより応答遅れが小さくなりダイレクト感が増している。

 調べるとタイヤ銘柄も変わっていたので、その影響もあるはず。とはいえタイヤとシートの変更で、ここまで変わるものかと思うぐらい違っていたので、さらに確認したところ、公式には伝えられていないが、実はガソリン車のマイチェン時にダンパーの減衰特性を見直したらしく、それをディーゼル車にも採用したとのことで、納得した次第である。

 現行キャラバンに移行した当初、このカテゴリーで販売比率を3割にしたいと当時の開発関係者が述べていたのを思い出す。今回聞いたところ、これまでよいときで3割弱まで増えたことはあったというが、全体を通しては水をあけられている感は否めない。

 そんな中で、内外装をリフレッシュし、装備を充実させ、魅力的なパワートレーンが用意できた今こそ、もっとも戦闘力の高い時期が訪れたのではと考えていると現在の開発関係者は語る。はたしてどこまで宿命のライバルであり目標でもある相手の牙城に迫ることができるのか、興味を持って動向を見守りたいと思う。

 なお、発売は4月下旬発売で、内外装デザインはガソリン車と同様だが、グレード体系および装備には一部に違いがあるので、購入検討の際は注意されたし。

グレード価格一覧

【お詫びと訂正】記事初出時、エンジン出力に誤記がありました。お詫びして訂正させていただきます。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛