試乗レポート

新型PHEV「ベンテイガ ハイブリッド」、新時代の到来を予感させる最もベントレーらしい1台

電動化シナリオの重要な1台

 自称他称を問わず今や世にあまた存在するのがプレミアム・ブランドの手による作品。一方、それらとはさらに一線を画すかのように、微に入り細をうがつように手を加えられたエクステリアや選び抜かれた調度品のごとく上質な作り込みのインテリアを身にまとい、そこに至れり尽くせりの装備群を採用。さらにはもちろん走りのポテンシャルを磨き上げることも怠りなく、特に動力性能面では常識的には一生フルパワーを引き出す必要に迫られることなどないだろうと思えるほどの余裕を備えることで、ラグジュアリー・モデルここに極まれりという独自の立ち位置を確立させているのがベントレーの各モデルだ。

 2015年にローンチされた「ベンテイガ」は、そんなベントレーらしいSUVと紹介できる内容の持ち主。もはや「乱立」とも言えるほどにさまざまなSUVが居並ぶ中にあっても、このモデルが放つ存在感の高さはまさに群を抜いている。

 現在発売されているベンテイガは、2020年になって大幅なリファインを受けたもの。大型の4ドアセダン「フライングスパー」や2ドアのクーペ/コンバーチブルから成る「コンチネンタルGT」と共通するデザイン言語を用いたフロントマスクや、ワイド化された開口部にコンチネンタルGTのそれを想起させる新たな造形のテールランプを組み合わせたテールエンドの採用など、まずエクステリア・デザインの変更が多岐に渡っている。

今回試乗したのはラグジュアリーSUV「ベンテイガ」のPHEV(プラグインハイブリッド)モデル「ベンテイガ ハイブリッド」(2280万円)。V8モデルの「ベンテイガ」、W12モデルの「ベンテイガ スピード」に続く3番目のモデルとなる。ボディサイズは5125×1995×1740mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2995mm
V8モデルとハイブリッドの外観上での違いはほぼなく、ハイブリッドでは手書き風の「Hybrid」バッヂをフロントドアに2つ配置し、車両左側に充電リッドが用意される

 さらにインテリアも、元来の上質さが際立つ仕上げぶりはそのままに、ダッシュボードやステアリング・ホイールなどに新たな意匠を採用し、ADASやコネクティビティ機能のアップデートなどにも抜かりはない。

 早くも丸5年が経過したモデルではあるものの、これらさまざまなてこ入れによって、再び最新のモデルらしい新鮮さをアピールしているのだ。

2020年6月に発表された新型ベンテイガでは、シートとトリムを完全新設計するなどしてリアの足まわりスペースを拡大。次世代インフォテインメントシステムは10.9インチスクリーンを搭載する超高解像度グラフィックスを採用するとともに、コネクティビティの向上も図られた。走行モードは「EVドライブモード」「ハイブリッドモード」「ホールドモード」の3種類を設定。ラゲッジスペース容量はV8モデルの484Lからわずかに少ない479Lとした

 ところで、ヨーロッパの最新モデルといえばこのところ急速にパワーユニットの電動化が進んでいることが大きな話題。それはイギリス・ロンドンでの創業が1919年という長い歴史を持ち、現在でも6.0リッターのターボ付きW型12気筒という世にも稀有な多気筒大排気量エンジンをフラグシップ・ユニットとして自らのラインアップに載せるベントレーとて例外ではない。

 それどころか、2021年の総販売台数が1万4659台と2020年の記録を3割以上増加させたという状況下にあって、すでにその5台に1台がハイブリッド・モデルで占められるというのだから、実は多くの人が想像するよりも現実ははるかに電動化が進んでいると言ってよいだろう。

 実際、このブランドは2020年11月に、「12気筒エンジンの世界ナンバー1メーカーが、これからの10年で内燃エンジンを搭載しないクルマを生産するメーカーへと進化し、持続可能なラグジュアリーモビリティのリーダーとして生まれ変わる」というフレーズと共に、「ビヨンド100」と銘打った20年にわたる長期計画を発表済み。それは「2026年までに全ラインアップをプラグインハイブリッドとBEV(バッテリ電気自動車)に切り替え、2030年までにBEVのみをラインアップする計画」とすこぶる野心的。そんなベントレーの電動化シナリオの重要なる序章の1つとも受け取れるのが、ここに紹介する「ベンテイガ ハイブリッド」ということになる。

ラグジュアリーなSUVにふさわしい乗り味

V型6気筒3.0リッターターボエンジンは最高出力340PS/5300-6400rpm、最大トルク450Nm/1340-5300rpmを発生。Eモーターは最高出力128PS、最大トルク350Nmとなり、システム全体で449PS/700Nmの出力を誇る。0-100km/h加速は5.5秒で、総航続距離は863kmを実現

 ベンテイガ ハイブリッドに搭載されるのは、94kW(≒128PS)と350Nmの最高出力/最大トルクを発するモーターを8速ステップATに組み込んだ後、外部充電機能付きの17.3kWh容量の駆動用バッテリを用いてプラグイン式のハイブリッド・システムを構成させ、そこにシングルターボ付きのV6 3.0リッターエンジンと組み合わせたものが基本。システムトータルでの出力とトルクは449PS/700Nmと発表されているから、2280万円と明らかに戦略上の理由からと思われる同一価格が設定されたツインターボ付きのV8 4.0リッターエンジンを搭載する同じベンテイガの「V8」の550PS/770Nmというスペックと比べると、現段階ではまだ販売の主流となるであろう“純エンジン車”の方がやや先行を許すことにはなっている。

 とはいえ、ハイブリッド・モデルとて0-100km/h加速はわずかに5.5秒でクリアするのだから、脚が遅いという印象は全くない。実際に乗ってみても、全長が5mをはるかに超え全幅も2mに迫ろうという迫力の巨体が、スルスルと音もなくまさに滑り出すように急速に速度を上げていくのだから、その身の振る舞いは意表をついて、むしろある種感動的ですらあるのというも確かだ。

 ちなみに、充電状態に余裕がある限りドライブモードがどの位置にあろうとも基本的にはピュアEVの状態で走り始める設定がデフォルトだから、よほど意識的にアクセルペダルを深く踏み込まない限り、そこでエンジンに火が入ることはない。EV状態での最高速も約135km/hと日本での合法域はすべて賄える計算。車両重量はおよそ2.7tとさすがに重量級だが、スタートの瞬間から即座に350Nmというトルクを発生する電気モーターにトランスミッションを組み合わせるゆえ、特に街乗りシーンでは意外なほど敏しょうな動きを示してくれるというのが実感だった。

 今回のテストドライブでは幹線道路から首都高速まで、東京都市部のさまざまな道を走りまわったが、加速力に不満を覚える場面はただの一度もなかった。また、EV走行時に圧倒的な静粛性を味わわせてくれるのは想定内だったが、たとえエンジンが始動しても外界の喧騒と隔絶されたまるで防弾シェルターの内側にいるかのような静かさがキープされ続けるのは、さすがベントレーの一員という印象で感心しごくだった。

 22インチと巨大でその重量も相当なものと思われるシューズを履くにもかかわらず、そうしたことを特に意識させることなく、時に望外の身軽さすら連想させるフットワークのテイストもこのモデルならではの走りの美点。路面のシャープな凹凸は巧みにマイルド化をさせながら、色濃い接地感をしっかり確保。もちろん、過大なロードノイズなどはカットすることで、ラグジュアリーなSUVにふさわしい乗り味を演出している点は、”純エンジン”のベンテイガと変わるところはない。

 クルージング時のフラット感の高さも一級品。絶対的なボディサイズは前述のように大きいものの、アイポイントが高いこともあってその感覚は意外にもつかみやすく、また思いのほか動きが機敏なので街乗りシーンでも扱いやすい一方、EV走行にハイブリッド・モードでの走行を加えれば1回の給油で恐らく800km超の走行が可能とされる脚の長さも、このモデルならではの走りの特徴と言えるだろう。

「RAV4 PHV」が18.1kWh、新型「アウトランダーPHEV」が20kWhといったバッテリ容量のスペックを知ってしまうと、17.3kWhというベンテイガのそれは大柄なボディの持ち主としてはやや心元なく感じるかもしれない。だが、実はこれは吟味の結果とも受け取れるもので、ベントレーによるサーベイでは「ユーザーの約半数は日常の走行距離が30マイル(≒48km)未満と判明している」とされ、不用意に大容量の駆動用バッテリの搭載は、スペース的にも重量的にもメリットがないと判断された結果のスペックとも解釈できそうだ。

 大排気量で多気筒のエンジンを搭載してこそベントレーらしい……と考える人にとっては、ハイブリッド・モデルは現時点では違和感が残る存在と言えるかもしれない。しかし、前述のようにすでに完全なる電動化への動きを明確にしているのがこのブランド。そうした流れからすると、新時代の到来を予感させる最もベントレーらしい1台と言えるのが、このベンテイガ ハイブリッドであるのかもしれない。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

http://blog.livedoor.jp/karmin2/

Photo:高橋 学