試乗レポート

円熟のボルボ「XC90」、今が“旬”のモデルと言える理由とは?

上級グレードに位置するUltimateに試乗

 昨今、自動車業界は「100年に一度の変革期」と言われるが、その中での必須課題となるのがCO2問題、つまりカーボンニュートラルである。その実現のためにはパワートレーンの改革が必須となっている。

 その中でスウェーデンのボルボは「2030年に電気自動車(BEV)だけのブランドになる」と宣言。それに先駆けて、日本市場では2020年にすべてのモデルが電動パワートレーンを搭載したモデルに変更。つまり、いち早く「電動化100%」を完了したわけだ。

 すでにBEV専用車「C40」の発売が日本でも開始されているが、直近のビジネスの中心はやはりハイブリッドだ。そのシステムはISGM(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター・モジュール)とリチウムイオンバッテリを搭載した「48Vマイルドハイブリッドシステム(MHEV)」、そして高出力なモーターと大容量バッテリを搭載し、外部からの充電が可能な「リチャージ・プラグインハイブリッド(PHEV)」の2種類を用意するが、今回はボルボのPHEVラインアップの中でフラグシップとなる「XC90 Recharge Ultimate T8 AWD plug-in hybrid」に試乗してきたので報告したい。

 XC90は2016年に新世代ボルボ第1弾として登場したモデルで、日本市場では他のボルボと比べると地味な存在だが、実は導入以降1000台/年をコンスタントに販売している隠れ人気モデルなのだ。これまでパワートレーン変更などを含めた改良を何度か行なってきたが、2022年7月にラインアップ/仕様が一新された。最大の変更はグレード体系で、従来のモメンタム/インスクリプション/RデザインからPlus/Ultimateとシンプルな構成になった。今回試乗したUltimateは上級に位置するモデルで、エクステリアは従来のスポーティ仕様「Rデザイン」に近い意匠、インテリアは従来の豪華仕様「インスクリプション」に近い意匠になっている。

 ちなみにボルボは11月に電気自動車の7人乗りSUV「EX90」を発表。ボディサイズやパッケージなどからXC90の後継と言われているが、ボルボ自身はXC90とは別のモデルラインと考えているようで、それが今回のラインアップ/仕様の変更……と言うわけだ。

 エクステリアはヒカリモノが抑えられたディテールに加えて275/35R22インチという大径タイヤと5本スポークアルミの組み合わせにより、従来モデルに対してスポーティ方向にシフトしているものの、インパクトや押し出しを強くアピールしているライバルの高級SUVたちと比べるとエレガントで上品なスタイルだ。デビュー時は流麗なデザインだと感じたが、全モデルが新世代ボルボへの移行が完了した今改めて見ると、スクエアなボディ形状はかつての四角いボルボの流れを汲んでいたことが分かる。

今回試乗したのはXC90のフラグシップモデル「XC90 Recharge Ultimate T8 AWD plug-in hybrid」(1244万円)。ボディサイズは4950×1960×1775mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2985mm。同社は2022年7月にXC40、60シリーズ、90シリーズのラインアップおよび仕様を変更しており、プラグインハイブリッドモデルのUltimateはよりモダンな造形と精悍なグロッシーブラック仕上げのディテールを組み合わせた新しいエクステリアデザインテーマが与えられた

 インテリアはシンプルでクリーンだけどどこか温かみのある空間とデビュー時から不変だが、メーターまわりのデザイン変更とセンターの縦型スクリーンに搭載されるインフォテイメントをGoogleへと刷新。音声操作でナビゲーションの設定や音楽の選曲はもちろん、エアコンの温度設定まで可能だ。他社でも似たような機能を持つが、操作方法は普段スマホで使い慣れたGoogleなので使い勝手は車載用としてはトップレベルだろう。

 居住性は大柄なボディサイズを活かしてどの席も十分なスペースが確保されているが、3列目は緊急用ではなく大人も座れる空間が確保されていることに加え、他の席と同じ衝突安全性能が備えられている(実はこれが実現できている3列シート車は少ない)。このあたりは安全にこだわるボルボらしい部分だ。

Ultimateは北欧の価値観で仕上げられたラグジュアリーな内装を継承しつつ、Google搭載インフォテイメントを全車標準装備するとともに、ドライバーディスプレイ(メーターパネル)のデザインを一新

 パワートレーンのPHEVシステムはフロントに2.0リッターターボ(317PS/400Nm)+モーター(70.7PS/165Nm)、リアにモーター(145PS/309Nm)、リチウムイオンバッテリ(18.8kWh)で構成されている(実はエンジン、モーター、バッテリは前回改良時に一新されている)。

直進安定性の高さとバネ上を常にフラットに保つ乗り心地でどこまでも走れそう

 バッテリの容量がある時はEV走行だ。モーターの特性を活かした応答性の高さは言うまでもないが、2370kgの重量を感じさせない力強さを実感。以前はアクセルを踏んだ時に「ヨイショ」と言ったくらいの間があったが、新型は即座に「スッ」とクルマが動き始めるのがいい。ちなみにEV航続距離は78kmで、一般的な家庭の走行パターンならば日常は“ほぼEV”として使える(200Vの普通充電のみ対応)。静粛性の高さは言うまでもないが、車載用としてはトップレベルと言っていいB&W製のオーディオもより活きている。

 バッテリ残量が減る、もしくはアクセルをさらに踏み込んでいくとエンジンは始動……つまりハイブリッドモードに切り替わるが、その時の繋がりも以前よりも確実に滑らかになっている。実際にパフォーマンスも十分以上で巨体を感じさせない瞬発力とパフォーマンスを備えるものの、モリモリと湧き出るようなパワー感ではなく、あくまでも余裕のある滑らかなフィーリングでXC90のキャラクターにマッチしていると感じた。実は従来モデルは高級SUVにしては雑味に感じるエンジンサウンドが少々気になっていたが、新型は遮音性の高さも相まって日常走行ではエンジンは黒子に徹しているが、まわすとスッキリしたサウンドと爽快なフィーリングで内燃機関の魅力も増している。

T8仕様の直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは最高出力233kW(317PS)/6000rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/3000-5400rpmを発生。モーター出力はフロントが52kW/165Nm、リアが107kW/309Nm。無鉛プレミアムガソリン(タンク容量は71L)仕様でWLTCモード燃費は13.3km/L

 フットワークは公式には変更のアナウンスはないが、気のせいレベルではなく間違いなくよくなっている。見切りのいいボディと視界のよさ、さらに心地よいダルさを持ちながら正確性の高いハンドリングなどにより、サイズを感じさせないフットワークの印象は従来モデルのRデザインに近いが、22インチを履いていることを忘れるくらい穏やかな操縦性とアタリの優しい乗り心地は従来のインスクリプションより上、つまりいいところ取りのセットアップになっているのだ。

 ワインディングでは重く大きなボディながらも、まるでひとクラス小さなクルマに乗っているかのような一体感ある走りも可能だが、やはりXC90が得意なのは長距離クルージングだろう。矢のようにビシーッと突き進むような直進安定性の高さとバネ上を常にフラットに保つ乗り心地、そして巧みな制御の運転支援システムの相乗効果によって、どこまでも走れてしまいそうだ。

 そろそろ結論にいこう。XC90はボディサイズを活かした優美なスタイル、ホッとするインテリア、最先端のパワートレーン&安全装備と、ボルボの「昔」と「今」が上手にバランスされた1台である。デビューから6年が経過してモデルライフ後半なのは間違いないが、進化の手は止まっていないこと、そしてそれに伴うクルマの完成度の高さなどから、今が“旬”のモデルと言えるだろう。

山本シンヤ
Photo:中島仁菜