試乗レポート
フォルクスワーゲン新型「ゴルフ R」、“究極のスポーツハッチバック”はどう進化した?
2023年1月20日 09:10
「Rパフォーマンスベクタリング」へと進化したAWDシステムに注目
これを買っておけば安心というCセグメントの定番ハッチバックがフォルクスワーゲン「ゴルフ」。そのスポーツラインのトップに位置するのがRだ。ゴルフのスポーツモデルとしてはGTIがよく知られているが、Rは“究極のスポーツハッチバック”を目指してさらに動力性能を上げ、AWD化したパフォーマンスモデルになる。2022年10月に発表されたRは3代目になる。歴代のRは素晴らしいパフォーマンスのスポーツゴルフに仕上がって舌を巻いたが、3代目はさらに洗練されていた。
まずエンジンは直列4気筒2.0リッターターボで最高出力235kW(320PS)/5350-6500rpm、最大トルク420Nm/2100-5350rpmの出力を持ち、従来のR用エンジンからは10PS/20Nm強化された。同時にこのエンジンは燃費や排出ガスのクリーン化も進めている。
さらに新型Rのハイライトは従来の4MOTIONから「Rパフォーマンスベクタリング」に進化したAWDシステムだ。4MOTIONでは前後輪のトルク配分を変えて最良の駆動力を得ていたが、新型ではリアアクスルに湿式多板クラッチを2個加えて後輪左右のトルク配分を変える。外側のタイヤの駆動力を増すことでコーナリング性能を上げることに成功した。
外観はいつもの落ち着きのあるゴルフスタイル。しかしボクシーな中にも角の取れた曲面を巧みに使ったデザイン、そして傾斜したAピラーなど空力的なアップデートがされているのを改めて感じた。前後バンパーはR専用。リアのディフュザーと4本のテールパイプでRであることがすぐに分かる。それでなくとも15mmほど低い車高と19インチホイールの間から覗くブルーのブレーキキャリパーはGTIとは違うことが知れる。装着タイヤはブリヂストン「POTENZA S005」でサイズは235/35R19を履く。
DCCパッケージ装着がおすすめ
ブルーのアクセントをあしらったバケットシートに身体を沈み込ませると、スッキリしたドライビングポジションに落ち着く。液晶ディスプレイは必要なものを呼び出すのにちょっとした慣れが必要だが、呼び出してしまえばRに必要なものはそう多くない。
7速DSGは世代を重ねるごとに洗練されており、市街地での走行ではシフトアップでのタイムラグをほとんど感じることはなく、滑らかに変速しつつ低回転をキープしながら走ることができる。低速からトルクバンドが広いエンジンはよくできたファミリーカーのような柔軟性をもっている。そして乗り心地もスーパーハッチバックとは思えないほど快適だ。凹凸でも角の取れたショックしか伝わってこず、オプションの可変ショックアブソーバー(DCC)の効果がよく表れている。これも「Rパフォーマンストルクベクタリング」によるコーナリング制御が硬いアシを必要としなくなった結果かもしれない。先代のRは豪快で、かつフラットな姿勢でのコーナリングが印象的だったが、市街地では突き上げを感じることがあった。
ひとたびアクセルを踏み込むとR本来の本能が目覚める。レスポンスのよいエンジンは、3000rpmに近づいてから上昇がさらに早くなる。カタログデータの0-100km/h加速はわずかに4.7秒というのも頷ける。このエンジンの素晴らしいところは爽快な回転フィールと柔軟なパワーバンドで、市街地では余裕を、サーキットなどでは有り余るパワーを存分に使え、特に精密にまわっている感触が強いことだ。
定評のある高剛性ボディが支えるサスペンションと、Rパフォーマンストルクベクタリングで4輪に配分されるトルクは高い旋回力をもたらす。しなやかな足はコーナリング中の凹凸でも接地力が高く、跳ね上げられることなく通過していく。
コーナリングで印象的なのはロール速度がよくコントロールされ、コーナーの1つひとつがとても気持ちよいことだった。Rパフォーマンストルクベクタリングは多様な働きをして、さらに電子制御LSDも備えて、滑りやすい路面で効果的なのは想像に難くない。
その電子制御LSDと電子制御ショックアブソーバー(DCC)は「ビークルダイナミクスマネージャー」のコンロトール下にあり、Rパフォーマンストルクベクタリングと連携してすべてのクルマの動きが流れるように動く。いつの間にかコーナーでの速度が上がっているかもしれず、ドライバーはご用心、ご用心。
このパフォーマンスに見合うのがペダルストロークと踏力がバランスしたブレーキフィールだ。キャリパーの大きさが強大なストッピングパワーを予想させるが、感心したのはそのペダルコントロールが優しく、ドライバーの感覚によくマッチしていることだ。市街地でのストップ&ゴー、ワインディングロードでの微妙なブレーキワークに忠実に反応する。
ドライブモードの「レース」を選択するとディスプレイがR専用に画面になり、アクセルレスポンスやギヤリングは常にドライバーのペダルワークのスタンバイ状態になり、アクセルOFF時には「ボン」とレブシンクロを行なう。
それでなくてもコンフォート、スポーツと十分に力強くスポーツカーらしさ満載で、レースモードはサーキットでこそ真価を発揮する。もちろんアクセルやサスペンション、操舵力などをカスタマイズできるので、自分専用の「R」を作ることもできる。
Rは1グレード設定で、価格はゴルフではハイプライスの639万円、これにDCCパッケージの22万円を加えると661万円になる。このパッケージには19インチホイールも含まれおすすめだ。