試乗レポート

フォルクスワーゲン新型「ゴルフ R」、“究極のスポーツハッチバック”はどう進化した?

新型ゴルフ R

「Rパフォーマンスベクタリング」へと進化したAWDシステムに注目

 これを買っておけば安心というCセグメントの定番ハッチバックがフォルクスワーゲン「ゴルフ」。そのスポーツラインのトップに位置するのがRだ。ゴルフのスポーツモデルとしてはGTIがよく知られているが、Rは“究極のスポーツハッチバック”を目指してさらに動力性能を上げ、AWD化したパフォーマンスモデルになる。2022年10月に発表されたRは3代目になる。歴代のRは素晴らしいパフォーマンスのスポーツゴルフに仕上がって舌を巻いたが、3代目はさらに洗練されていた。

 まずエンジンは直列4気筒2.0リッターターボで最高出力235kW(320PS)/5350-6500rpm、最大トルク420Nm/2100-5350rpmの出力を持ち、従来のR用エンジンからは10PS/20Nm強化された。同時にこのエンジンは燃費や排出ガスのクリーン化も進めている。

 さらに新型Rのハイライトは従来の4MOTIONから「Rパフォーマンスベクタリング」に進化したAWDシステムだ。4MOTIONでは前後輪のトルク配分を変えて最良の駆動力を得ていたが、新型ではリアアクスルに湿式多板クラッチを2個加えて後輪左右のトルク配分を変える。外側のタイヤの駆動力を増すことでコーナリング性能を上げることに成功した。

 外観はいつもの落ち着きのあるゴルフスタイル。しかしボクシーな中にも角の取れた曲面を巧みに使ったデザイン、そして傾斜したAピラーなど空力的なアップデートがされているのを改めて感じた。前後バンパーはR専用。リアのディフュザーと4本のテールパイプでRであることがすぐに分かる。それでなくとも15mmほど低い車高と19インチホイールの間から覗くブルーのブレーキキャリパーはGTIとは違うことが知れる。装着タイヤはブリヂストン「POTENZA S005」でサイズは235/35R19を履く。

今回試乗したのは2022年10月に発売となった新型「ゴルフ R」(639万8000円)。ゴルフ史上最もパワフルな2.0TSIエンジンを採用したハイパフォーマンスモデルとなり、ボディサイズは4295×1790×1460mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2620mm。なお、同時発売となった「ゴルフ R ヴァリアント」の価格は652万5000円
エクステリアはR専用デザインのバンパーを採用するとともに、サイドシルは専用のボディカラー同色となっており、リアに採用されているグロスブラックのリヤディフューザーと4本出しのエクゾーストパイプでスポーティな雰囲気を演出。撮影車はアダプティブシャシーコントロール“DCC”と5ダブルスポークの19インチアルミホイール(235/35R19)をセットにした「DCCパッケージ」を装備(22万円)。また、フロントアクスルには18インチのブレーキシステムを採用し、先代から1インチ拡大されたことでストッピングパワーが強化され、高速度域からのブレーキング性能を向上。ブレーキポッドなどにアルミニウムを採用することにより大幅な軽量化も実現したという
新型ゴルフ Rに採用されている直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンでは従来から10PS/20Nm高められるとともに、排出ガスの低減や燃費性能の向上、エンジン特性の最適化を目的とした改良が施された。最高出力は235kW(320PS)/5350-6500rpm、最大トルクは420Nm(42.8kgfm)/2100-5350rpmを発生する。WLTCモード燃費は12.3km/L
インテリアではカーボン調のデコラティブパネルのほか、鮮やかなブルーの“R”ロゴをあしらったR専用のヘッドレスト一体型トップスポーツシートを採用。また、デジタルメータークラスター“Digital Cockpit Pro”には、ドライビングプロファイルでスポーツもしくはレースモード(R専用)を選択するとデジタルメータークラスターにR専用のものを表示する

DCCパッケージ装着がおすすめ

 ブルーのアクセントをあしらったバケットシートに身体を沈み込ませると、スッキリしたドライビングポジションに落ち着く。液晶ディスプレイは必要なものを呼び出すのにちょっとした慣れが必要だが、呼び出してしまえばRに必要なものはそう多くない。

 7速DSGは世代を重ねるごとに洗練されており、市街地での走行ではシフトアップでのタイムラグをほとんど感じることはなく、滑らかに変速しつつ低回転をキープしながら走ることができる。低速からトルクバンドが広いエンジンはよくできたファミリーカーのような柔軟性をもっている。そして乗り心地もスーパーハッチバックとは思えないほど快適だ。凹凸でも角の取れたショックしか伝わってこず、オプションの可変ショックアブソーバー(DCC)の効果がよく表れている。これも「Rパフォーマンストルクベクタリング」によるコーナリング制御が硬いアシを必要としなくなった結果かもしれない。先代のRは豪快で、かつフラットな姿勢でのコーナリングが印象的だったが、市街地では突き上げを感じることがあった。

 ひとたびアクセルを踏み込むとR本来の本能が目覚める。レスポンスのよいエンジンは、3000rpmに近づいてから上昇がさらに早くなる。カタログデータの0-100km/h加速はわずかに4.7秒というのも頷ける。このエンジンの素晴らしいところは爽快な回転フィールと柔軟なパワーバンドで、市街地では余裕を、サーキットなどでは有り余るパワーを存分に使え、特に精密にまわっている感触が強いことだ。

 定評のある高剛性ボディが支えるサスペンションと、Rパフォーマンストルクベクタリングで4輪に配分されるトルクは高い旋回力をもたらす。しなやかな足はコーナリング中の凹凸でも接地力が高く、跳ね上げられることなく通過していく。

 コーナリングで印象的なのはロール速度がよくコントロールされ、コーナーの1つひとつがとても気持ちよいことだった。Rパフォーマンストルクベクタリングは多様な働きをして、さらに電子制御LSDも備えて、滑りやすい路面で効果的なのは想像に難くない。

 その電子制御LSDと電子制御ショックアブソーバー(DCC)は「ビークルダイナミクスマネージャー」のコンロトール下にあり、Rパフォーマンストルクベクタリングと連携してすべてのクルマの動きが流れるように動く。いつの間にかコーナーでの速度が上がっているかもしれず、ドライバーはご用心、ご用心。

 このパフォーマンスに見合うのがペダルストロークと踏力がバランスしたブレーキフィールだ。キャリパーの大きさが強大なストッピングパワーを予想させるが、感心したのはそのペダルコントロールが優しく、ドライバーの感覚によくマッチしていることだ。市街地でのストップ&ゴー、ワインディングロードでの微妙なブレーキワークに忠実に反応する。

 ドライブモードの「レース」を選択するとディスプレイがR専用に画面になり、アクセルレスポンスやギヤリングは常にドライバーのペダルワークのスタンバイ状態になり、アクセルOFF時には「ボン」とレブシンクロを行なう。

 それでなくてもコンフォート、スポーツと十分に力強くスポーツカーらしさ満載で、レースモードはサーキットでこそ真価を発揮する。もちろんアクセルやサスペンション、操舵力などをカスタマイズできるので、自分専用の「R」を作ることもできる。

 Rは1グレード設定で、価格はゴルフではハイプライスの639万円、これにDCCパッケージの22万円を加えると661万円になる。このパッケージには19インチホイールも含まれおすすめだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学