試乗レポート

フォルクスワーゲンの新型「ゴルフ TDI」、Cセグメントのベンチマークに置かれる理由とは

2.0ディーゼルエンジン搭載の「TDI」

 コンパクトハッチバックの定番と言えば「ゴルフ」の名前が浮かぶほど。歴代ゴルフが作り上げてきた実績は大きい。そのゴルフが8代目になったのは2021年。マイルドハイブリット搭載の1.0リッター/1.5リッターのガソリンでスタートしたが、実はディーゼルを待っていたユーザーファンは多い。

 遅れてやってきたディーゼルは2.0リッターの4気筒ターボ。出力は110kW(150PS)/360Nmと1460kgの車両重量には十分。低速からの強いトルクでグイグイと粘り強く加速し、高速道路のランプウェイでも巡航速度にすぐに到達する。スポーツモデルに通じるパワーの脈動を感じるほど。

 しかしゴルフ TDIの本筋は移動手段としての使いやすさにある。先代では傍にいるとすぐにディーゼルとすぐに分かったノイズが抑え込まれ、ディーゼルには不可避の振動収束にも気が配られている。それを感じるのはエンジン始動直後ぐらいだが、煩わしさはない。

試乗車は2022年1月に発売となった「ゴルフ TDI」。グレードは「TDI Active Advance」(398万9000円)で、ボディサイズは4295×1790×1475mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2620mm。ボディカラーはムーンストーングレー
TDI Active Advanceが装着する17インチアルミホイール。タイヤはブリヂストン「TURANZA T005」(225/45R17)をセット
直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボのTDIエンジンは最新のテクノロジーとなるツインドージング(デュアルAdBlue噴射)システムを採用し、窒素酸化物(NOx)の排出量を抑制しつつ、従来よりも最大トルクを強化した最新世代のエンジン。従来のTDIエンジンよりも低い回転数から最高出力・最大トルクを発揮するためレスポンスが大幅に向上するとともに、燃料消費率20.0km/L(WLTCモード燃費)を達成した。最高出力は110kW(150PS)/3000-4200rpm、最大トルクは360Nm(36.7kgfm)/1600-2750rpmを発生

 ハンドリングは定番ゴルフの持ち味を存分に発揮し、素直で安定性の高さはドライバーに何とも言えない安心感を与えてくれる。225/45R17のブリヂストン「TURANZA T005」はゴルフとのマッチングがよく、ハンドル操作時の追従性、そして過敏でないのが好ましい。

 さらにガソリン車では制動時に条件によってはエンジンが揺動する癖があったが、ディーゼルではスッキリと収まっており、ピッチングが少なくて安心感がある。

 またリアのサスペンションは1.5リッターのガソリンモデルと同じく4リンクの独立懸架で、斜めに凹凸を横切る場面でもアシがバタつくような動きがない。スッキリと姿勢はフラットだ。一方、路面からの情報を完全にカットすることはなく、ドライバーが正確なフィードバックを得られるのもゴルフのよいところだ。

Cセグメントのベンチマークに置かれる理由

 静粛性もかなりレベルアップした。巡航時に発生するロードノイズや風切り音なども適度にカットされ、ディーゼルのカラカラ音も伝わってこない。ファミリーカーとして満足できるレベルにある。

 ハンドルの操舵力は巧みな重さで、高速の直進時ではハンドルのスワリがよく、ビシと走ってくれる。一方で市街地では操舵力は軽くまわせ、ベーシックカーとしての心得を弁えている。それに4295×1790mm(全長×全幅)のボディサイズは日本の道でも使いやすくありがたい。実際、狭い道ですれ違う時も幅がつかみやすかった。

 トランスミッションは7速のDSG。フォルクスワーゲン得意のデュアルクラッチである。滑らかな変速には磨きがかけられて、選択するギヤに迷うこともほとんどない。苦手なのはスタート時の段差乗り越しなどの場面だが、低回転でトルクの大きなディーゼルとの相性もよい。

 キャビンはデジタルディスプレイの採用もあり、デザイン的にも横への広がりがゆったりした雰囲気を出している。その操作性には少し習熟が必要だが新しいトライだ。後席は実用車らしい自然と腰の落ち着けるクッション構造と適度なレッグルームがあって、大人2人がちょうどよく座れる。そしてラゲッジルームはかなり大きく、かさ張る荷物も大抵は詰めてしまう収納力の大きさを誇る。

ゴルフ TDIでは同一車線内全車速運転支援システム「Travel Assist(トラベル アシスト)」やデジタルメータークラスター「Digital Cockpit Pro(デジタル コクピット プロ)」を全グレードに標準装備するとともに、TDI Active Advanceではヘッドアップディスプレイ、純正インフォテイメントシステム「Discover Pro(ディスカバー プロ)」といった通常オプション設定の装備を標準設定した

 ゴルフのハンドルを握ると安心する。飛び道具のような新技術を振りまわさないところがゴルフらしく、ベースをキチンと作って誰もが安心できるのが真骨頂だ。いつもCセグメントのベンチマークに置かれるのはこの姿勢に対する安心感があるからだ。多彩なシリーズの中でもTDIは実直なゴルフを感じさせてくれる。きっと満足感が高いに違いない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛