試乗レポート

ポルシェ「911 カレラ GTS」(7速MT)、圧倒的なパフォーマンスと得も言われぬ心地よさ

パワーウェイトレシオは3.37kg/PS

 ポルシェのコアモデル「911」のスパルタンなスポーツモデルがGTS。リアエンドに搭載する伝統の水平対向6気筒エンジンは91×76.4mm(ボア×ストローク)の3.0リッターターボ。353kW(480PS)/570Nmの出力を発生する。車両重量は1620kgにすぎない。パワーウェイトレシオは3.37kg/PSとなり、圧倒的なパフォーマンスが期待される。また最大トルクの570Nmは2300-5000rpmという幅広いトルクバンドを持ち、スパルタンなGTSだが日常的な使用にも使いやすいエンジン特性だ。

 組み合わされるトランスミッションは8速PDKか7速MTになるが、試乗したのは7速MT。3ペダルのポルシェは久々でそのキレのよさを満喫する。クラッチペダルの踏力はビッグトルクに合わせて重いがミートポイントは分かりやすく、そしてスパンとつながるのもポルシェらしいところだ。マニュアルシフトは節度のあるタイプでシフトミスすることはない。乗り始めた時には7つのゲートが入りにくいのではないかと思ったが、何の抵抗もなくガシリと入った。遠い昔、バターを熱いナイフで切るようなと言われたポルシェシンクロが懐かしい。

 ボディサイズは4520×1850×1303mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mmで、上から見るとスクエアなボディが素晴らしくまとまりがよく、美しい。GTSはライトウェイトデザインパッケージが組み込まれており、CFRPのフルバケットシートやサイド/リアの薄板ガラス、それにリアシートを外してラゲッジスペースとしたことなどで25kgの軽量化が図られている。

今回試乗したのは2021年6月に予約受注を開始したタイプ992の「911 カレラ GTS」(1868万円)。ボディサイズは4520×1850×1303mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2450mm。搭載する水平対向6気筒3.0リッターツインターボエンジンは現行911 カレラ Sと先代911 GTSを22kW(30PS)/20Nm上まわる最高出力353kW(480PS)/6500rpm、最大トルク570Nm/2300-5000rpmを発生
911 GTSはフロント、リア、サイドシルに特徴的なトリムを備えたスポーツデザインパッケージを備え、ヘッドライトのリムとデイタイムランニングライトの周囲はダークカラーで、ポルシェダイナミックライトシステムプラス(PDLS Plus)を組み込んだLEDヘッドライトが標準装備される。足下では911 ターボから採用されるブラックのフロント20インチ/リア21インチのセンターロック式軽合金製ホイールを装備し、ピレリ「P ZERO」(フロント:245/35 ZR20、リア:305/30 ZR21)を組み合わせる
試乗車は軽量な炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製フルバケットシート、サイドウィンドウとリアウィンドウの軽量ガラス、軽量バッテリによって最大25kgの軽量化を実現するGTSで初採用の「ライトウエイトデザインパッケージ」(リアシートも取り外される)を装着。また、GTスポーツステアリングホイール、モードスイッチ付スポーツクロノパッケージ、ポルシェトラックプレシジョンアプリ、タイヤ温度表示が標準装備されるとともに、7速MTのシフトレバーを10mm短縮したことで迅速なギヤシフトが可能になっている

乗り心地は望外のよさ

 そのバケットシートにまたぐように乗り込むと、スッポリと身体が落としこまれる。ドライビングポジションは無理なく収まり、バックスキンのやや細身のハンドルを握り、楕円形のメータークラスターを見るとポルシェのコクピットにいることを実感する。

 柔軟性のあるエンジンは街中を低回転で走るときは従順に、ランプウェイの合流では俊敏にまわる。レスポンスが鋭いのがポルシェエンジン。しかもアクセルOFFでの回転落ちが早いのもポルシェならでは。走らせて爽快な気分にさせてくれるのもこの俊敏なエンジンがあればこそだ。ターボエンジンの分厚いトルクと相まってGTS用にチューニングされたパフォーマンスは高回転まで発揮され、パワーの急激な落ち込みは全くない。

 シートにダイレクトに伝わるクルマの姿勢は一体感を感じ、GTSがドライバーのためにあることがよく分かる。サスペンションは標準モデルから10mm低くされており、ロールもピッチングも少なく、常に安定した姿勢が感じられる。

 乗り心地は望外のよさだった。レーシングカー的なゴツゴツした突き上げを感じるかと思っていたが、目線の位置がずれることはなくハンドルに伝わるキックバックも小さい。このGTSならロングドライブもいとわずにできそうだ。後席を取り払ったスペースには荷物もタップリ詰め込むことができる。

 またドライブモードはSPORTとSPORT+ではシフトダウンでブリッピングをしてくれる。排気音も湿った凄味のある音に変わった。1つ仕事を奪われたようでちょっと残念な気もするが、ハイパワーのMT車にはアリだと思う。

 570Nmのハイトルクにはブレーキとハンドル操作に集中できる2ペダルのPDKは合理的だ。速いクルマになるほどミスもなくコンマ秒を削るため必然的に2ペダルになる。それでもMTはドライビングの楽しみには余分だが、大きな要素となると思う。実際に短い試乗だったが、7速MTで走らせるのは得も言われぬ心地よさだった。やはりポルシェのソリッド感は素晴らしい。改めて惚れ込んでしまった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛