試乗レポート

テスラ「モデル3」、ミッドシップスポーツカーのような鼻先の軽さと力強い加速が魅力

テスラ「モデル3」のロングレンジを試乗してみた

特徴的なシンプル極まりないインテリアとクリーンなデザイン

“2万5000$カー(約290万円)”と呼ばれる「モデル2」の動向が少し話題となっているが、ともあれ現在もっとも買いやすいテスラのモデルとして存在するのは「モデル3」である。その日本仕様は3種類存在し、もっともベーシックな「スタンダードレンジ プラス(シングルモーター、RWD)」「ロングレンジ(デュアルモーター、AWD)」「パフォーマンス(デュアルモーター、AWD)」がラインナップされている。そして今回は、その中間グレードとなるロングレンジを試乗してみた。

 モデル3といえばそのシンプル極まりないインテリアと、クリーンなデザインが特徴的なセダンタイプのBEV(バッテリEV)だが、試乗したロングレンジはその名のごとく689km(WLTCモード)の航続距離が、最大のセリングポイントとなっている。ちなみに上級グレードであるパフォーマンスの航続距離は547km(WLTPモード)だ。

試乗したモデル3のボディカラーはパールホワイトマルチコート。ボディサイズは4695×1850×1445mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2875mm、車両重量1850kg。重量配分は前932kg、後918kg
19インチホイールとプレミアム系スポーツタイヤ(サイズは前後とも235/40R19)の組み合わせ
ハニカム構造で軽量化しつつも剛性が確保されているボンネット
充電ポートは左後部に配置
複数のカメラと12個の超音波センサーを搭載する
鍵はカードタイプでBピラーにかざすと開錠されるほか、Bluetoothで車両と接続すれば自分のスマホも鍵として使用できる

 ロングレンジを走らせてまず感じるのは、そのやや引き締まった乗り味だ。足下には19インチのプレミアム系スポーツタイヤ(試乗車はハンコック ventus S1 evo3)を装着しているせいもあり、平坦な路面だとスムーズに走るが、荒れた路面を低速で走ると、ロードノイズと共にちょっとした突き上げを感じる。ただそれも、我慢ができないほどではない……と筆者は思っていたが、同乗者によれば「後席の乗り心地は、はっきり硬めに感じる」とのことだった。

 テスラがロングレンジにこうしたサスペンション剛性を与えている理由は、まず床下に敷いた重たいバッテリを、限られたストロークできちんと支えるため。そして当然、デュアルモーターAWDのポテンシャルを見越してのことだ。ロングレンジはフロントモーターの最高出力が158kW(215PS)/最大トルクが240Nm、リアモーターの最高出力が208kW(283PS)/最大トルクが350Nmで、0-100km/h加速は4.4秒とかなり速い。それはガソリンエンジンでいえば2.0リッターターボの4WD車や、3.0リッタークラスのミドル級スポーツカーと同等の加速力である。

シンプルなコクピット
15インチのタッチスクリーンでは、エアコンのルーバーの向きやサイドミラーの角度などの調整、ボンネットやトランクのオープナーなどいろいろな操作が行なえるほか、車両のさまざまな情報を確認できる
エアコンなど一部の機能は音声でも操作可能
車内にペットを残してクルマから離れる際。エアコンで車内の温度管理を行なえる「ペットモード」も搭載。海外ではペットを車内に放置していると熱中症などを危惧して窓を割って助け出すことが多々あるため追加された機能だという

 スポーツモードでフラットアウトすると、頭がヘッドトスされるほどではないが、力強い加速が楽しい。モーター駆動ならではのトルクレスポンスを、4輪でもらさずアウトプットする走りには、確かにこのくらいの足まわりは必要だというのも頷ける。

 ただ個人的にはこのプレーンなデザインと、超シンプルなインテリアを持つセダンには、もう少し柔和な乗り心地が似合うと思う。見た目に反する加速力やコーナリングパフォーマンスにギャップ萌えするというマニアックな愛し方もあるが、現状はただの色気のないスポーツセダンである。それよりも出力を適度に絞って、さらにマイレージを稼ぎ、穏やかなキャラ作りをしてほしいところ。

前席
後席
ルーフには大きな窓が広がる
フロントトランクの容量は88L
リアトランクの容量は561L

 ちなみに最上級グレードのパフォーマンスだと、4輪の駆動はフロント/リア/AWDに振り分けることも可能だという。かたやこのロングレンジは常時4輪駆動とのことだったが、試乗に際してそのトルク配分に独特なクセや違和感を感じることはなかった。普通に走る限りはそのアクセル操作に過敏さもなく、踏めばリニアに加速する。その間を置かないレスポンスは、なんとも心地いい。

モーター駆動ならではのリニアな加速が気持ちいい

 ハンドリングもBEVならでは低重心さを活かし、操舵に対して素直に曲がる。フロントにエンジンを積まない分だけ回頭性が高く、ロールも少ないから、ガソリンエンジンのセダンから乗り換えると曲がり過ぎると思うかもしれない。まるでミッドシップスポーツカーのような鼻先の軽さだが、慣れてしまえばこの気持ちよさが体になじむ。

 そして、レバーを2クリックするだけで起動するアダプティブ・クルーズ・コントロールの手軽さは、確かに魅力。だが、北米で取り沙汰される「オートパイロット」のニュースを考えても、これがレベル2の範疇を超えていないことだけは、きちんと意識しなければならない。

走行中はカメラと超音波で周囲を監視していて、障害物や並走する車両なども正確に表示される

 テスラは2021年にモデル3の価格を改定しており、このロングレンジで価格は499万円と大台を切った(スタンダードレンジ プラスは429万円、パフォーマンスは717万3000円)。あとはこの魅力的な価格に見合う、ユーザーケアとさらなる充電インフラの充実が課題だ。具体的にはスーパーチャージャーが各主要高速道路SAに等間隔設置されるだけで、行動範囲が一気に広がると思う。

 また、その操作系を全てセンターディスプレイで行ない、ゲームアプリをコンテンツ化してまでデジタル化をアピールする割には、肝心なホームページの情報やエンタメ性がやや薄く感じる。疑問や心配に対するユーザーケアの手厚さでも、オンライン販売では後発のボルボが一枚上手である。

 モデル3の出来映えは素直に素晴らしいと思う。しかし、これからは性能だけでクルマを買う時代ではなくなるだろう。

通信により新しい機能やパフォーマンスが常に追加されていくし、最新ゲームも楽しめるなどデジタルコンテンツも魅力的
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してSUPER GTなどのレースレポートや、ドライビングスクールでの講師活動も行なう。

Photo:高橋 学