試乗インプレッション

EVならではのスペックと取りまわしのよさが光るテスラ「モデル 3」(イギリス仕様)に試乗

引っ張られるような“暴力的とも言える加速力”でも安定感のある走り

 テスラ「モデル 3」の納車が開始された。前回の5月に乗ることができたのは左ハンドルでしかも助手席からのインプレッションだったが、今回は短時間ながら右ハンドルのイギリス仕様車のステアリングを握ることができたので、その第一印象をレポートする。関係者によると、イギリス仕様と日本仕様の差はインテリアカラーが日本仕様はブラックで統一されるのに対し、イギリス仕様は白も選べる(試乗車も白)ことくらいだという。

室内は解放感に溢れている

 今回試乗できたのは最も出力の高い「パフォーマンス」で、前回の「ロングレンジ AWD」よりもハイパワーモデルと言える。従ってWLTCモードでの航続距離は530km(ロングレンジは560km。以下カッコ内はすべてロングレンジ)、最高速は261km/h(233km/h)、0-100km/h加速は3.4秒(4.6秒)となる。価格は703万2000円(655万2000円)だ。

テスラ「モデル 3 ハイパフォーマンス」(703万2000円)
ボディサイズは4695mm×1850mm×1445mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2875mm。最高速は261km/h、0-100km/h加速は3.4秒というパフォーマンスを誇りつつ、航続距離はWLTCモードで530kmとなる
試乗車は20インチパフォーマンスホイールとミシュラン「パイロットスポーツ 4S」(235/35ZR20)の組み合わせ
充電ポート

 まずはじめにお断りしておかなければならないのは、前回助手席にて試乗したロングレンジモデルは本来の18インチではなく、パフォーマンスと同様に20インチのタイヤを履いていたため、乗り心地に大きな差が感じられなかったことと、出力に関しても自分で操作をしていないため、どの程度の違いがあるのかが分からなかったことを告白しておく。

 さて、さっそくクルマに乗り込んで走り出してみよう。若干低いルーフでありながらも、ガラスルーフが採用されているので解放感のある空間が演出されている。シートに座りドライビングポジションを合わせる。シートはサイドにある電動のスイッチで調整するが、ステアリングのチルトとテレスコピック機能は中央にあるスクリーンから設定画面を呼び出し、その後ステアリングスイッチで操作するため、少々手間である。このくらいはステアリングコラムあたりにスイッチを設けて操作をしたいものだ。

 そういった操作は面倒だったが、ドライビングポジションは違和感なくしっくりとくるもの。シートも柔らかすぎず、硬すぎずちょうどいい感じなので、今回の30分程度の試乗では不満はなかった。このあたりはいずれ長距離で試してみたい。

モデル 3のインパネ
今回の試乗車はイギリス仕様のため、シートカラーが日本仕様では設定のないホワイトとなる
ガラスルーフが採用され、開放感のある室内
まるでタブレットのような15インチディスプレイを装着
エアコンやステアリングのチルトとテレスコピックといった車両の設定はすべてこのディスプレイで行なう
542Lの容量を持つトランク&サブトランク。リアシートを倒すこともできる

ベストなサイズ感

 メルセデス・ベンツのパーツを使ったと思しき、ステアリングコラムから生えたシフトレバーを下に動かしてゆっくりとスタートすると、そのあたりはまさにEV。途切れることのないスムーズな加速が開始された。街中を抜け、いくつかの交差点を曲がりながら気づいたのは、まずボディサイズが「モデル S」などと比べてはるかにコンパクトであるため、非常に扱いやすいことだ。4695mm×1850mm×1445mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2875mmであるため、取りまわしが楽なのである。その証に現在モデル 3のユーザーの多くはセカンドカーとして購入しており、ファーストカーは大型のSUV、あるいはモデル Sや「モデル X」も併有車として挙げられていることからも、このサイズによる取りまわし性の高さが評価されていると言えよう。

シフトレバーはステアリングコラムの右側に設定される
EVならではのスムーズな加速を味わえる
コンパクトなサイズ感で取りまわしがしやすい

 もう1つ、交差点を曲がりながら気づいたのは、ドアミラーがピラーにマウントされているにも関わらず、若干足が生えて外側に出ていることから、ドアにマウントされているものと同じくらいのわずかな空間がピラーとミラーの間にでき、右前方の視界が確保されていることだ。この点も大いに評価でき、取りまわしのしやすさにつながっている。

 乗り心地は20インチタイヤ(試乗車はミシュラン「パイロットスポーツ 4S」の235/35ZR20サイズ)を履いていたこともあり、硬めではあるが、不快になるまでには至らないスポーティなもの。段差を超えるとそれなりにショックは伝わるが、ボディはミシリともいわないのはボディ剛性の高さの表れだ。

 床面にバッテリーがあるためより低重心となることから、ちょっと不思議な感覚のコーナリングが味わえる。これは助手席でも感じたのだが、いかにも路面に張り付くような感覚で、セダンでこのような印象を得られることはほとんどなく、まるでより背の低いスポーツカーあたりに乗っている感覚と言えば伝わるだろうか。ただし、ステアリングに関しては路面からのフィードバックが弱く、もう少し手応えが欲しいと感じた。

豪快な加速と安定感のある走り

 さて、テスラ車の加速性能はEVならではのもの。アクセルを踏み込んだ瞬間にトルクを100%発揮するので、かなり暴力的とも言っていいものである。それはこのモデル 3も同様で、周囲の安全を確認して一度フルスロットルを与えてみたのだが、身構えていても、ヘッドレストに頭をぶつけてしまうくらい強いものだった。その時に驚いたのは、多少路面が荒れていてもきちんと駆動力が4つのタイヤを通して路面に伝わることだった。下手をすると、どちらかにステアリングを取られたり、あるいはクルマ自身が蛇行しそうになることも予想しながらの走行だったのだが、一切そういうことはなく、まるで見えない手で前方に引っ張られるように安定感を持って真っ直ぐに突き進んでいく様子は類を見ないものであった。

 本来であれば高速道路でオートパイロットを試したり、ワインディングでのハンドリングも試したいところだったのだが、今回は残念ながらそこまでの試乗時間がなかったのでお預けとなってしまった。このあたりも近いうちに長距離を走らせながら試してみたい。

 今回、やっとステアリングを握ることができて分かったことは、何よりも取りまわしのよさとともに、他のテスラ車と同様にハイパフォーマンスが感じられることだった。これであればモデル Sではなくモデル 3を選んでも後悔はしないだろう。価格もモデル Sと比較してかなり安いことも大きな魅力につながっている。

 一方で、運転に関わる操作性や質感についてはもう1歩というところだ。前述したとおり、ステアリングのチルトやテレスコピックの操作もいちいち画面を呼び出す必要があり、これはエアコンやその他の操作系も同様だ。確かにスマートフォンのように取扱説明書などを見ずとも、直感的に操作はできるのはいいことだが、それはあくまでも停止して画面を見ながらという前提のもとである。多くの人は走行しながら、少し暑いからエアコンの温度を下げたいとか、音楽やラジオを選曲したいと思うのではないだろうか。そういった時にブラインドタッチで操作できることが必要だ。ゆくゆくは音声にて操作が可能になるのだろうが、このあたりはもう少し気にしてもらいたいと感じた。もちろん、これはテスラ車に限ったことではないのは言うまでもないが。

内田俊一

AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしてデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー 25 バカラと同じくルノー 10。