試乗レポート

新型「ゴルフ GTI」、その走りは内燃機関モデルの集大成といえる仕上がりだった

第8世代へと進化したゴルフ GTIが2022年1月7日に発売された。価格は466万円

内燃機関モデルで登場したGTIにはフォルクスワーゲンの意地を感じた

 第8世代となった新型「ゴルフ」は電動化の未来をにらみ、そのパワーユニットを48Vマイルドハイブリッド化させた。しかし、フォルクスワーゲンはそのハイパフォーマンスバージョンである「GTI」を“ピュアICE”(純粋な内燃機関)として継続。これにはフォルクスワーゲンの、最後の意地を見せられたような気がした。

 実際この新型ゴルフ GTIは、「ガソリン仕様のGTIの集大成」と言える仕上がりだ。搭載される直列4気筒 2.0リッターターボエンジン「EA888」は、直噴インジェクターの制御を大きく進化させるなどして第4世代へと進化。現代の厳しい排ガス規制をクリアしながらも、先代モデルの特別仕様だった「GTI パフォーマンス」と同等の、245PS/370Nmを発揮するに至っている。

ボディサイズは4295×1790×1465mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2620mm。車両重量は1430kg(オプションの電動パノラマスライディングルーフを装備すると1450Kg)
テールランプは標準でLED仕様となるが、流れるウィンカーとなるダイナミックインジケーター付きはオプション設定となっている。マフラーの出口のクロームツインエキゾーストパイプが迫力を演出
GTI伝統のハニカムグリル、レッドライン、大型フロントスポイラーなど専用エクステリアをまとう
フォグランプはハニカムグリルの形状を活かし、LEDライトをX字に並べた専用デザインを採用する
試乗車はDCC(アダプティブシャシーコントロール)パッケージ装着車なので8J×19インチ5ダブルスポークアルミホイールに235/35R19サイズのブリヂストン「ポテンザS005」が組み合わされていた。DCC非装着車は7.5J×18インチの5スポークアルミホイールに255/40R18サイズのタイヤが組み合わされる
電動化へのスイッチが急速に進む中でも内燃機関モデルで登場したGTIは素直に嬉しい

 そしてこのパワー&トルクは、7速となったDSGを介して前輪へと伝えられるわけだが、新型GTIはその高出力を効率よく路面へと伝えるべく、内輪ブレーキによる電子制御式ディファレンシャル“XDS”だけでなく、電子制油圧式フロントディファレンシャルロック機能をも付け加えた。そしてヴィークル・ダイナミクス・マネージャーと呼ばれる新システムによって、2つの機能を統合制御してきたのである。

 こうしたアウトプットの最適化と、GTI専用に鍛え上げられたサスペンション、そしてプログレッシヴステアリングの組み合わせによって、GTIは歴代随一とも言える鋭いハンドリングを得ている。

 特に19インチタイヤを履いた走りはステアフィールが明確で、フロント荷重を高めるほどにターンインが力強くなっていく。対してリアタイヤはきちんと路面を捉えており、基本的な旋回性姿勢は安定志向。しかしながら、前述したLSD効果から、アクセルを開けていくことができる。

高解像度ディスプレイのフルデジタルメータークラスターを標準装備。スピードとエンジン回転に加え、中央に地図を表示させることも可能とし、少ない視線移動を可能としている
ステアリングのスイッチなどには物理ボタンではなく触れることで反応するタッチコントロールを採用
ステアリングにパドルシフトを備えていることもあり、シフトレバーは最小限のサイズになっている
エンジン回転計を中心部に表示させれば、一気にスポーティな雰囲気に仕上がる
内装はブラック&レッドのファブリック&マイクロフリース。前席はヘッドレスト一体型のトップスポーツシートを採用する
このカラーとは別にブラック&レッドのレザーも用意されている。
パンク修理キットやパンクしてもある程度走れるランフラットタイヤなどが増え、収納スペースにもなることから、すっかり見る機会の減ったテンパータイヤを標準装備としている

 踏み込めばターボながらに粒の揃った心地良いエキゾーストノートが響き、歯切れよいDSGの変速が心地いい。内燃機関の肩身が狭くなるほどにこうしたピュアな走りができなくなっていくのかと思うと、やっぱり残念である。

 その分乗り味はハッキリと硬めで、乗り心地と速さを極めた先代GTIと比べると、ちょっと驚くほどのスパルタンさである。

直列4気筒DOHC 2.0リッターインタークーラー付きターボエンジンは最高出力180kW(245PS)/5000-6500rpm、最大トルク370Nm(37.7kgfm)/1600-4300rpmを発生。WLTCモード燃費は12.8km/L。燃料タンク容量は51L
デジタルメータークラスターでは「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「カスタム」と4つの走行モードを選択できる。カスタムではさらに細かく自分好みの設定を行なえる

 もっともそのソリッドな乗り心地は現代のハイパフォーマンスカーが背負う宿命でもある。特に高速巡航を重視するドイツ勢にとっては、環境性能を重視して極力変形を抑える硬めのタイヤを選ぶ傾向が強く、現状ではどうしても日常領域での乗り心地が犠牲になっている。

 こうした背景があるせいかは定かでないが、新型GTIはカスタムメニューから、可変ダンパーの減衰力を任意に調整できるようにしてきた。ちなみに筆者の好みは、スポーツモードから2段ほど緩めた位置であった。

 果たしてフォルクスワーゲンは、これまでに培った技術をさらに磨き上げ、この8代目GTIに、ぎゅっと凝縮してきたと筆者は感じた。正直その手法は極めてオーソドックス。電子制御を用いたとはいえ目新しいことは何ひとつもないのだが、飛び道具的な走りのエボリューションは、リアアクスルにトルクスプリット機構を備えた「R」に任せることになるのだろう。

 高純度な洗練で着実に進化する姿こそが、ゴルフ GTIらしいと言えるのだと思う。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してSUPER GTなどのレースレポートや、ドライビングスクールでの講師活動も行なう。

Photo:高橋 学