試乗レポート

ランボルギーニ「ウラカンSTO」は公道も普通に走れてしまう究極のレーシングカーだった

家のガレージからサーキットまで自走で行けてしまうすごさ

 あと数年で大規模な電動化シフトへの波が来ると予測されるいま、内燃機関を謳歌してきた欧州スポーツカーたちの動きが激しい。サイクル末期のモデルは集大成と呼べるエボリューション仕様をローンチし、フルモデルチェンジ勢も熟成を待たずして、最初からできる限りのスペックを盛り込んでユーザーを煽っている。ランボルギーニ「ウラカン(HURACAN)」も、まさにその渦中にある1台だ。

 2014年のジュネーヴ・モーターショーでデビューしたこの“ベビー・ランボ”は、直線基調だった先代モデル「ガヤルド(Gallardo)」に比べ、よりエレガントなデザインを与えられて登場した。全体的には丸みを帯びつつも、要所要所で緊張感をもたらすそのキャラクターラインは、チーフデザイナーであるフィリッポ・ペリーニ(Filippo Perini)氏が日本の折り紙から着想を得たという。

 こうした美しさと、いまや貴重な存在となった自然吸気のV型10気筒5.2リッターエンジンの激しさを、近代的な4WDのドライバビリティによってまとめあげたウラカンは、登場から8年の歳月を経た2021年に、過去最高の2586台という販売台数を記録した。そんなウラカンの最終兵器といえるモデルが、今回試乗した「ウラカンSTO」だ。

ボディサイズは4547×1945×1220mm(全長×全幅[サイドミラーを除く]×全高)、ホイールベースは2620mm。乾燥重量1339kg。前後重量配分は41:59
主な性能数値は、最高速310km/h、0-100km/h加速3秒、0-200km/h加速9秒、100-0km/h制動30m、200-0km/h制動110m
フロントホイールは8.5J×20インチ、タイヤサイズは245/30R20、リアホイールは11J×20インチ、タイヤサイズは305/30R20。装着タイヤはブリヂストン「POTENZA SPORT」。ブレーキはCCM-Rカーボンセラミックディスク、ベンチレーテッド/クロスドリルド(フロントΦ390×34mm、リアΦ360×28mm)と、フロント6ピストン・アルミ製キャリパー、リア4ピストン・アルミ製キャリパーの組み合わせ

 そしてこのSTOを見てひと目で分かるのは、ウラカンが持っていた美しくも緊張感のあるデザインバランスを崩してまで、一気にレーシングモンスターへとエボリューションしたことである。STOとは「スーパー・トロフェオ・オモロガータ」の頭文字であり、すなわちワンメイクレース車両である「スーパートロフェオEVO」と、FIA-GTマシンである「ウラカンGT3 EVO」のエッセンスを取り入れ、これを公道用モデルとして公認(ホモロゲート)したロードカーであることを意味している。

フロントルーバーやフロントスプリッターによってダウンフォースとドラッグの最適化が行なわれ、一体成形のフロントカウル「Cofango(コファンゴ)」によってダウンフォースとクーリング性能も高められている。リアはセントラルシャークフィンによって、ヨー安定性を高める同時にリアウイングへの気流も整えている。リアウイングは中央部が可変式となっていて、サーキットの特性に合わせてドラッグの最適化を行なえる

 レーシングカーの血を引くロードカーだけに、その乗り味は過激かと思いきや、予想以上に普通に運転できてしまうのが、ウラカンSTOの面白いところだ。

 スターターボタンを押すと5.2リッターV10エンジンは、12.7の高圧縮をもって目覚める。その初爆こそ空気を切り裂くようで、アイドリング時の迫力だけで圧倒されてしまうが、パドルを引いてアクセルを踏み出せば、ギクシャクした動きなど一切なくスムーズに走り出す。

 乗り心地は少し固めだが、通常モードはダンパーがしなやかに制御されているおかげであまり気にならない。むしろレーシングトリムされた戦闘機のようなコクピットに収まり、後ろから響くサウンドにせき立てられている状況では、その剛性感が頼もしく感じるくらいである。

カーボンファイバー製のシートには、ボディと同色で「STO」と「ランボルギーニ」のロゴが入る。また、ボディの挿し色と同じオレンジ色でステッチが施されている
Dシェイプのステアリング
ステアリングの下側には走行モード切り替えスイッチが配置されている
走行モード「STO」は通常モード
走行モード「TROFEO」はサーキット(ドライ路面)用
走行モード「PIOGGIA」は濡れた路面用
ペダルはアクセルとブレーキのみ。7速DCTはパドルシフトで操作する
戦闘機を彷彿とさせるスイッチが並ぶ
駐車の「P」とマニュアルモードの「M」、後退の「R」はレバーを引く。通常の「D」レンジはなく、右側のパドルを引いてスタートとなる

 ステアリングレスポンスは、ミドシップのレーシングスポーツとして考えるとかなり穏やかだ。しかしながら一般道でもよく曲がり、2m近い横幅でも取り回しに過大な緊張感を覚えないのは、後輪操舵がその回転半径を小さくしてくれるからだろうか。「だろうか」などというのは、その制御が極めて自然だからである。

 外装パネルの75%以上をカーボン化し、さらに通常より20%軽量なフロントガラスや、マグネシウムホイールを採用したその車重は1339kgと、この手のスーパースポーツとしてはかなり軽量。

ウラカンSTOの価格は3750万円。レース用のGT3マシンで公道を走れると考えればそれなりの金額か

 しかし、アクセルを踏み込んでもそこに薄氷を踏むような不安さはなく、むしろそのどっしりとしたボディの剛性感や、低温時から路面を捉えるタイヤのグリップ感の方が、ドライブフィールでは支配的だ。

 となれば8000回転までV10エンジンを回しきり、V8エンジンでは味わえない野太くも、精密で澄んだ音色を聞きたくなる。640HPの最高出力を解放して0-100km/h加速3秒の迫力を味わいたくなるところだが、それはいくらこのSTOが公道を走れるレーシングカーだとしても、やるべきことではない。

 試乗会場から小一時間足を伸ばした富士スピードウェイに行けば300km/h近いストレート加速をはるかに安全に堪能できるし、高速コーナーではそのダウンフォースをグリップ力の高さとしてたっぷりと体感できる。

最高出力470kW(640HP)/8000rpm、最大トルク565Nm/6500rpmはサーキットでこそ発揮させる意義がある

 つまりウラカンSTOを手に入れたのであれば、走る場所にも責任を持つことがオーナーの務めである。ランボルギーニがわざわざその最大トルクをスタンダードなウラカンEVOから35Nm引き下げ、565Nm/6500rpmとしたのは、後輪駆動となったSTOのアクセルコントロールに柔軟性を与えるため。取り外しができる一体成形のフロントカウル「コファンゴ」を採用したのも整備性と軽量化を両立し、ダウンフォースを高めるため。ウラカンのハイライトとなるエンジンフードの開閉を困難にしてまでシャークフィン付きの軽量パネルに換えたのも、全てはその性能を全開で楽しんでもらうためである。

 つまり公道を走れるレーシングカーのメリットは、ガレージからサーキットまでを結ぶ道を、快適に走れることなのだ。思い立ったときにサーキットへ走りに行ける柔軟性とポテンシャルを持っているからこそ、ウラカンSTOは魅力的なのである。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してSUPER GTなどのレースレポートや、ドライビングスクールでの講師活動も行なう。

Photo:高橋 学