試乗レポート
ランボルギーニ「ウラカンSTO」は公道も普通に走れてしまう究極のレーシングカーだった
2022年2月22日 05:00
家のガレージからサーキットまで自走で行けてしまうすごさ
あと数年で大規模な電動化シフトへの波が来ると予測されるいま、内燃機関を謳歌してきた欧州スポーツカーたちの動きが激しい。サイクル末期のモデルは集大成と呼べるエボリューション仕様をローンチし、フルモデルチェンジ勢も熟成を待たずして、最初からできる限りのスペックを盛り込んでユーザーを煽っている。ランボルギーニ「ウラカン(HURACAN)」も、まさにその渦中にある1台だ。
2014年のジュネーヴ・モーターショーでデビューしたこの“ベビー・ランボ”は、直線基調だった先代モデル「ガヤルド(Gallardo)」に比べ、よりエレガントなデザインを与えられて登場した。全体的には丸みを帯びつつも、要所要所で緊張感をもたらすそのキャラクターラインは、チーフデザイナーであるフィリッポ・ペリーニ(Filippo Perini)氏が日本の折り紙から着想を得たという。
こうした美しさと、いまや貴重な存在となった自然吸気のV型10気筒5.2リッターエンジンの激しさを、近代的な4WDのドライバビリティによってまとめあげたウラカンは、登場から8年の歳月を経た2021年に、過去最高の2586台という販売台数を記録した。そんなウラカンの最終兵器といえるモデルが、今回試乗した「ウラカンSTO」だ。
そしてこのSTOを見てひと目で分かるのは、ウラカンが持っていた美しくも緊張感のあるデザインバランスを崩してまで、一気にレーシングモンスターへとエボリューションしたことである。STOとは「スーパー・トロフェオ・オモロガータ」の頭文字であり、すなわちワンメイクレース車両である「スーパートロフェオEVO」と、FIA-GTマシンである「ウラカンGT3 EVO」のエッセンスを取り入れ、これを公道用モデルとして公認(ホモロゲート)したロードカーであることを意味している。
レーシングカーの血を引くロードカーだけに、その乗り味は過激かと思いきや、予想以上に普通に運転できてしまうのが、ウラカンSTOの面白いところだ。
スターターボタンを押すと5.2リッターV10エンジンは、12.7の高圧縮をもって目覚める。その初爆こそ空気を切り裂くようで、アイドリング時の迫力だけで圧倒されてしまうが、パドルを引いてアクセルを踏み出せば、ギクシャクした動きなど一切なくスムーズに走り出す。
乗り心地は少し固めだが、通常モードはダンパーがしなやかに制御されているおかげであまり気にならない。むしろレーシングトリムされた戦闘機のようなコクピットに収まり、後ろから響くサウンドにせき立てられている状況では、その剛性感が頼もしく感じるくらいである。
ステアリングレスポンスは、ミドシップのレーシングスポーツとして考えるとかなり穏やかだ。しかしながら一般道でもよく曲がり、2m近い横幅でも取り回しに過大な緊張感を覚えないのは、後輪操舵がその回転半径を小さくしてくれるからだろうか。「だろうか」などというのは、その制御が極めて自然だからである。
外装パネルの75%以上をカーボン化し、さらに通常より20%軽量なフロントガラスや、マグネシウムホイールを採用したその車重は1339kgと、この手のスーパースポーツとしてはかなり軽量。
しかし、アクセルを踏み込んでもそこに薄氷を踏むような不安さはなく、むしろそのどっしりとしたボディの剛性感や、低温時から路面を捉えるタイヤのグリップ感の方が、ドライブフィールでは支配的だ。
となれば8000回転までV10エンジンを回しきり、V8エンジンでは味わえない野太くも、精密で澄んだ音色を聞きたくなる。640HPの最高出力を解放して0-100km/h加速3秒の迫力を味わいたくなるところだが、それはいくらこのSTOが公道を走れるレーシングカーだとしても、やるべきことではない。
試乗会場から小一時間足を伸ばした富士スピードウェイに行けば300km/h近いストレート加速をはるかに安全に堪能できるし、高速コーナーではそのダウンフォースをグリップ力の高さとしてたっぷりと体感できる。
つまりウラカンSTOを手に入れたのであれば、走る場所にも責任を持つことがオーナーの務めである。ランボルギーニがわざわざその最大トルクをスタンダードなウラカンEVOから35Nm引き下げ、565Nm/6500rpmとしたのは、後輪駆動となったSTOのアクセルコントロールに柔軟性を与えるため。取り外しができる一体成形のフロントカウル「コファンゴ」を採用したのも整備性と軽量化を両立し、ダウンフォースを高めるため。ウラカンのハイライトとなるエンジンフードの開閉を困難にしてまでシャークフィン付きの軽量パネルに換えたのも、全てはその性能を全開で楽しんでもらうためである。
つまり公道を走れるレーシングカーのメリットは、ガレージからサーキットまでを結ぶ道を、快適に走れることなのだ。思い立ったときにサーキットへ走りに行ける柔軟性とポテンシャルを持っているからこそ、ウラカンSTOは魅力的なのである。