試乗レポート

ヒュンダイ改めヒョンデの新型バッテリEV「アイオニック 5」

駆動用リチウムイオンバッテリの種類は58kWhと72.6kWh

 ヒョンデのFCEV(燃料電池車)「NEXO(ネッソ)」と同時にデビューしたのがBEV(バッテリEV)「IONIQ 5(アイオニック ファイブ)」となる。

 アイオニック 5のボディサイズは4635×1890×1645mm(全長×全幅×全高)で、第一印象よりも大きいハッチバックタイプだ。小さい四角をピクセルになぞらえて、幾何学的なデザインをいたるところに散りばめている。アイオニック 5のデザインはユーザーにとっての爽快なエクステリア、ライフスタイルに添ったインテリアで独特の個性を与えている。

 プラットフォームはBEV用に新規開発したE-GMP(E-Global-Module-Platform)で、今後のBEVの展開を見据えて柔軟に対応できるように開発されている。ホイールベースはBEVの特徴を活かして3000mmに達しており、ミニバン並みの長さを4635mmという全長で実現しており、前後オーバーハングが切り詰められていることが分かる。

今回試乗したのは、ヒョンデ(Hyundai Motor Company)の新型BEV「IONIQ 5(アイオニック ファイブ)」。2WD(RR)仕様の「IONIQ 5」(479万円)、「IONIQ 5 Voyage」(519万円)、「IONIQ 5 Lounge」(549万円)に加え前後にモーターを搭載する4WD仕様の「IONIQ 5 Lounge AWD」(589万円)をラインアップ。ヒョンデの公式サイトなどで5月よりオーダーの受付を開始し、7月からデリバリーを開始する予定
試乗車は「IONIQ 5 Lounge AWD」。ボディサイズは4635×1890×1645mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3000mm。乗車定員は5名で車両重量は2100kg
アイオニック 5の外観には「パラメトリックピクセル」と呼ばれるデザイン言語を用い、デジタル画像の最小単位であるピクセルにアナログの感性を加えるという考え方によって独創的なビジュアルを生み出した。足下は20インチホイールにミシュラン「パイロットスポーツ EV」(255/45R20)をセット
アイオニック 5で搭載されるリチウムイオン電池について、ベースグレードの「IONIQ 5」のみ58kWhで、その他のモデルは全て72.6kWh。4WD仕様は前後にモーターを搭載し、システム全体で最高出力225kW(305PS)/2800-8600rpm、最大トルク605Nm(61.7kgfm)/0-4000rpmを発生

 キャビンは広々としており、どの席も足を伸ばして座れる。フロア下にはバッテリを引き詰めている関係でフロアは高くなっているが、ドライビングポジションに窮屈さは感じられない。E-GMP効果だ。BEVならではでエアコンユニットを前方に押しやった結果、足が延ばせるようにレイアウトできたという。

 各シートは独特の感触で、「スリムシート」とネーミングされた身体を柔らかくホールドする感触で、前後シートとも共通した座り心地だ。また前席から後席をパワースライドできるのも新しい。チャイルドシートを装着した場合の子供の乗降などの利便性を考慮して考えられたという。

 フロントシートにも工夫が凝らされている。オットマンを装備して、大きくリクライニングさせるとまるでハンモックのような状態になり休憩中には気持ちよさそうだ。さらにセンターコンソールは前後に140mmスライド可能で、後席からもスマートフォンのワイヤレス充電などが利用できるほか、前席ではそれを後方にスライドさせれば平らなフロアのおかげで左右どちらのドアからも容易に乗降できる。

 2本スポークのハンドルの奥に広がるのは12.3インチのカラーディスプレイ。クルマの主要情報を伝え、同じく隣に広がる12.3インチのモニターにはナビ情報などが表示される。ディスプレイは直感的に操作できるタッチパネルになっているが、その下にマップ、メディア、オーディオなどの独立スイッチがレイアウトされるので迷うことはない。スライド式の大きなグローブボックスも非常に使いやすい。

快適な居住空間(Living Space)をテーマに、フラットで広々とした空間が特徴のアイオニック 5のインテリア。インフォテイメントシステムではコネクテッドカーサービスである「Bluelink」が5年間無償で提供され、カーナビの地図データを通信を使ったOTA(Over The Air)でアップデート可能
「スライドコンソール」「リラクセーションコンフォートシート」「後部座席まで含めた電動スライドシート」により、フラットフロアに自由な空間を作ることを可能にしたという
ラゲッジルーム容量は527L。フラットなスペースを作り出すこともできる

 このようにキャビンもBEVの特性を生かした斬新なレイアウトで、ヒョンデのデザイン力に圧倒される。ラゲッジルームは527Lの容積がありゴルフバッグなら3つ収納でき、フロントにはRR仕様で57L、4WD仕様で24L分の有効な収納スペースがありスペースには困らない。

 駆動用リチウムイオンバッテリは58kWhと72.6kWhの2種類が用意される。いずれもAC200Vの普通充電とCHAdeMO仕様の急速充電に対応する。ヒョンデによれば欧州で準備している800Vへの対応もあり短時間充電も可能だが、日本でのインフラ整備はまだ先だ。CHAdeMOの急速充電(90kW)では80%充電まで32分で可能となる。

AC200Vの普通充電とCHAdeMO仕様の急速充電に対応

 アイオニック 5は2600Wまでの電気製品が使用でき、後席にも100Vソケットがあるのでコーヒーメーカーも使える。広くフラットなフロアをもつアイオニック 5ならではの芸当だ。さらにV2Hの機器があれば数日間分の家庭電力を賄うことができる。

 モーター出力は58kWhバッテリ仕様では125kW/350Nmを、72.6kWh仕様では160kW/350Nmを発生、いずれもリアエンドに搭載して後輪を駆動する。4WDモデルではフロントに70kWのモーターを搭載して、トータル出力が225kW/605Nmとなる。

 重量はグレードによって異なるが、58kWh仕様は1870kg、72.6kWh仕様は1950kgから、4WDは2100kgになる。BEVは重量の多くをバッテリによって占められており航続距離にも反映されるが、航続可能距離(WLTCモード)は58kWh仕様で498km、72.6kWh仕様で618km、72.6kWh仕様の4WDで577kmとなる。

意外なほど軽快に走る

 試乗は4WDで行なった。装着タイヤはRR仕様の235/55R19からサイズアップされ255/45R20のミシュラン「パイロットスポーツ EV」を履く。

 システム起動のスイッチを押し、ステアリングコラムから出たシフトダイヤルをまわしてDに入れる。アクセルに対する反応は過敏でなく違和感はない。アクセルのツキもよくスーっと伸びていく。電気特有の速度が自然に乗って加速していくのはガソリン車とは別の気持ちよさがある。

 ウィンドウスクリーンにはヘッドアップディスプレイがかなり前方に映し出されるので目線の移動が少なく、さらにナビに目的地を入れておけばARディスプレイで行き先を案内してくれる。

 減速時にパドルシフトを使うと回生ブレーキで減速する。3段階での減速ができ、4段階目でワンペダルモードも選択できるがアクセルOFF時の減速度はそれほど強い設定ではなく自然に減速できる。

 ちなみにウィンカーレバーはネッソ同様に右に移されており、ウィンカーを出すと正面のディプレイにはミラーに付いたカメラによる後方の映像が映し出される。右ウィンカーなら右、左ウィンカーなら左の映像で、意外と死角になっている部分なのできめ細かい配慮に改めて驚くばかりだ。

 BEVらしく静粛性は高い。多くのBEVがそうであるようにメカニカルノイズがないためにロードノイズが気になるものの、前後から入ってくる音の絶対値は低い。ドアミラーから発しやすい風切り音もよくカットされており、高速道路でもざわつかないのも素晴らしい。

 ハンドリングも低重心を活かした姿勢安定性が気持ちよく、ダイヤゴナル方向へのピッチングも少ない気持ちのいいものだ。最低地上高160mmのSUV的なポジションにあるアイオニック 5は意外なほど軽快に走る。

 仔細に見ればハンドル応答性はわるくないのだが操舵フィールはもう少し粘り感が欲しい。今後パワーステアイリングのチューニングにも期待したいところだ。

 乗り心地にも同じく路面からの細かい突き上げがあり、必ずしもフラットではない。フロア振動は感じないが、路面からの入力を正直に伝えてしまう。良路では気にならないが、少し路面が荒れてくると細かいショックを伝える。もう少ししなやかさが欲しいところだ。

 BEVらしい加速力は強力で十二分に速く、アクセルレスポンスも申し分ない。テスラのような爆発的なところはないが、電気の分厚いトルクによる加速は魅力的だ。前述のようにワンペダルも使いやすいし、電気のコントロール性は抜群だ。

 セーフティは最新のドライバー支援システムが備わり、高速道路では車線中央を維持して走る能力が高い。全車速追従システムも完成度が高く信頼に足りるものだ。またネッソには装備されていなかったドライバーへの注意喚起も新装備になっている。さらに高精度地図をデータを活用してナビを入れておけばコーナーでの自動減速も行なう。またドラレコも標準装備になっているのも新しい。

全車速追従システムを使用する際、目的地をナビにセットしておけばコーナーでの自動減速も行なう

 RRモデルの価格は479万円~549万円、4WDは589万円。今後80万円の補助金が受けられる可能性が高く、価格上での制約はあまりない。

 アイオニック 5の革新的なパッケージングと先進性には圧倒された。またキメ細かい仕様設定もビックリするほどだ。まだ熟成の余地の部分もあるが、それにしても驚くばかりで見習う部分は多い。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛