試乗レポート

フォルクスワーゲン新型「ゴルフ GTI」(第8世代)は安全、確実、しかも速い!

新型ゴルフ GTIの進化点

 フォルクスワーゲンの新型「ゴルフ」シリーズに、新たにスポーツモデルの「GTI」が加わる。振り返ること46年前の1975年、初代のGTIがフランクフルトショーで参考出品されたが、市場からの要望が多く、はじめは限定5000台で販売を開始。だが、人気は留まるところを知らず、最終的には初代だけで46万台以上が生産されたというから驚くばかり。その後ゴルフ7まで、GTIは世界累計販売台数230万台以上、日本国内でも6万4000台以上が売れたというから、絶大な支持を得ているカリスマ的といっていい。

 その絶対的な存在を守り進化させるべく、新型ゴルフ8をベースに開発されたGTIは高い開発ターゲットを掲げた。それは、優れたドライビングプレジャー、高いコーナリングスピード、正確で安定したドライビング、思いのままに操れるレスポンス、そして最後に日常的な使い勝手のよさである。聞けば聞くほど欲張りであり、けれども最後に使い勝手を忘れないあたりはGTIらしさ。あくまでも5人が快適に移動でき、いざとなればリアシートを畳んで大容量の積載性も確保しているあたりは抜かりナシ。ベースモデルを解約することなく、けれどもスポーツ性を持たせているところは相変わらずだ。

 エクステリアはGTIのエッセンスを引き継いだイメージで、グリルの上には赤いストライプが、バンパー下部にはハニカムメッシュを配置。目を引くのはLEDフォグランプで、ハニカムメッシュに溶け込むように片側5つのLEDが与えられている。一方のテールまわりにはディフューザーとスポイラーが与えられ、他のベースモデルとは違うクルマであることがひと目で理解できるようになっている。こうした違いがありながらも、Cd値はゴルフ8のベースモデルと変わらない0.275を達成。ちなみにゴルフ7のGTIは0.30だった。新型GTIではリアのリフトを減らして前後のリフトバランスを最適化。ハイスピードレンジでのスタビリティを向上させたという。

試乗したのは2022年1月7日に発売する新型ゴルフシリーズのスポーツモデル「ゴルフ GTI」(466万円)。ボディサイズは4295×1790×1465mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2620mm。車両重量は1430kg
エクステリアではフロントグリルからヘッドライトへとつながる赤いストライプが施され、フォグランプをX字型に配置。リアディフューザーの左右に配置されたテールパイプもGTI専用装備となる。標準装備は18インチアルミホイールとなるが、試乗車はアダプティブシャシーコントロール“DCC”と5ダブルスポークの19インチアルミホイール(タイヤサイズは235/35R19)をセットにした「DCCパッケージ」を装着

 インテリアも伝統のタータンチェック柄のスポーツシート(オプションでレザーを選択することも可能になった)、GTI専用の赤基調のメーターが与えられている。このメーターは大型のタコメーターを中心に与えることが可能となっており、出力や過給圧を表示することも可能だ。

インテリアではダッシュパネルとドアトリムにハニカムパターンを採用するとともに、パーフォレーテッドレザーを採用した専用ステアリングホイールを装着。また、標準装備のデジタルメータークラスター“Digital Cockpit Pro”にはタコメーターを中央に配置したGTI専用のグラフィックが施される
走行モードはエコ、コンフォート、スポーツ、カスタムから選択可能。カスタムではステアリング特性やエンジン音など各項目ごとに変更することができる
ヘッドレスト一体型のトップスポーツシートを装着。デザインはもちろんGTI伝統のタータンチェック柄

 エンジンはゴルフ7のGTI Performance(パフォーマンス)が搭載していた2.0TSI EA888 evo3をベースに、インジェクターの改良(最大350bar[従来は200bar])、フリクションの低減、そしてノイズの改善を行なったEA888 evo4を搭載。最大出力180kW(245PS)/5000-6500rpm、最大トルク370Nm(37.7kgfm)/1600-4300rpmを発生する。組み合わされるトランスミッションは旧型のGTIは6速DSG(湿式)だったが(GTI Performanceは7速DSG[湿式])、7速DSG(湿式)となっている。

直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは最高出力180kW(245PS)/5000-6500rpm、最大トルク370Nm(37.7kgfm)/1600-4300rpmを発生。WLTCモード燃費は12.8km/L

 サスペンションも旧型から改良が行なわれた。フロントはウイッシュボーンブッシュ、スプリング&バンプストップ、油圧ダンパー最適化、DCC(アダプティブシャシーコントロール)搭載車は新ソフトウェアを搭載。アルミ製サブフレームは3kgの軽量化を実現。スプリングレートは旧型比で5%ハードになったという。リアはスプリング、新開発ホイールマウント、ウイッシュボーンブッシュ、油圧ダンパー最適化、新ダンパーベアリングの採用、DCC搭載車は新ソフトウェアを搭載。スプリングレートは旧型比で15%ハードになっている。ちなみに車高はベースモデルに対して15mmダウン、全高は10mmダウンとなる。

 シャシー側でもう1つポイントとなるのはVehicle Dynamics Management systemだ。これはブレーキをつまむ電子制御ディファレンシャルロックと、左右輪のトラクションに応じてトルクを配分(0~100%)する電子制御油圧式フロントディファレンシャルロック(先代ではGTI PerformanceとTCRにのみ搭載)とを統合制御するもの。これは従来、ハルデックスと伝えられていたが、ハルデックスがボッシュの傘下に入ったため、同じ内容のものだがハルデックスの名称は出さなくなったとのこと。オプションのDCC装着車両の場合はさらに4輪それぞれのショックアブソーバーを毎秒200回の調整をすることで車両の姿勢を制御するという。

高い人気とカリスマ性はまだまだ続いていく

 駆け足でご紹介するだけでもかなり盛りだくさんな内容の新型GTI。今回試乗するのはアダプティブシャシーコントロール“DCC”と19インチタイヤ&ホイールが装着された走りの最上級グレード。果たしてどんな走りを示すのか?

 パーキングから動き始めると、その時点でこのクルマがタダのハッチバックではないことが伝わってくる。可変ステアリングラックを採用するプログレッシブステアリングにより、ロック・トゥ・ロックがわずか2.1回転に仕上げられたGTIは、軽々とクルマの向きを変えて狭いクランクをクリアしていくのだ。取り回しのしやすさがありつつ、けれども走ってナーバスにはならない絶妙なバランスの仕立てはさすがだ。

 おかげで走り始めたタイトなワインディングでは大きな操作量を必要とせず、スイスイとコーナーをクリアしていく。試乗当日はウエット路面で、周囲には落ち葉がある状況だから、できるだけそこに乗らないようにと気を使っていたのだが、それがたやすく行なえる。狙ったところにいける感覚はなかなか。タイトターンで意地悪にスロットルを入れると、ややフロントが暴れ出すのだが、Vehicle Dynamics Management systemが見事なまでに狙ったラインに乗せていく。安全、確実、しかも速い! 無駄な動きを一切出さずに駆け抜けたのだ。

 DCCはモード別に足まわりの硬さが変化するのだが、そのさじ加減もまた絶妙。コンフォートを選択すればしなやかに、スポーツを選べばシャキッとピッチングもロールも減らしてくれる。カスタムモードにすると、さらに柔らかくも硬くもできるところが面白い。色々と試してみたが、メーカー推奨モードがやはり絶妙に感じた。だが、荷物の量や乗員の数などで選択してみても面白そう。全てを希望通りに仕立てられることが楽しい。

 エンジンは滑らかさと爽快感が際立っている。特に4000rpmあたりからの伸び感はなかなかで、これはディーゼルでは得られないもの。かといって低速トルクが劣っているわけではない。全域でリニアに応答するが、それで終わらず高回転へ向けた吹け上がりが見どころといえるだろう。

 最後に高速巡行もしてみたが、スピードを高めてみてもリアの接地感が十分にあり、安心して駆け抜けることを可能にしているところに感心した。空力バランスとシャシーの煮詰めは、これもまた安全性と爽快感が見事に両立しており、これならロングドライブでも疲れ知らずで走りを楽しめるだろう。

 実用性を損なうことなく、決して無理のない乗り心地を実現し、さらにスポーツカーも顔負けしない走りも手にしていた新型GTI。旧型よりもさらに高い次元でそれらを達成していたことは間違いない。高い人気とカリスマ性はまだまだ続いていくのではないだろうか?

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はスバル新型レヴォーグ(2020年11月納車)、メルセデスベンツVクラス、ユーノスロードスター。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:安田 剛