試乗レポート
フォルクスワーゲン新型「ゴルフ」に追加された2.0ディーゼル“TDI”、圧倒的な静粛性と滑らかさ
2021年12月21日 11:00
TDI搭載車をラインアップに追加
今年の6月より日本に導入された新型フォルクスワーゲン「ゴルフ」に、ディーゼルエンジンのTDI搭載車が加わることになった。2022年1月7日より発売開始となる。4グレード展開となり、価格は344万4000円~408万8000円となる。
今回のTDIは、先代が搭載していた2.0TDI EA288エンジンの進化版となり、名称はEA288evoとなる。圧縮比は16.2から16.0へ。最高出力は110kW(150PS)と変わらずだが、その発生回転は3000-4200rpm(先代は3500-4000rpm)となった。また最大トルクも20Nm引き上げられ、360Nm(36.7kgfm)/1600-2750rpm(先代は1750-3000rpm)となる。燃費はWLTCモードで20.0km/L(先代は18.9km/L)を達成している。
このTDIのポイントとなるのはツインドージング(デュアルAdBlue噴射)システムを初採用したところにある。これはディーゼルエンジンでネックになる窒素酸化物(NOx)の排出量を抑制するために、2つのSCR触媒コンバーター(以前は1つ)からAdBlueを噴射するというシステム。つまりは排出ガスにAdBlueを混ぜることでNOxを水と窒素に分解することが可能となる。
直列2系統としたツインドージングを採用した理由は、排気温度によってその変換効率がわるくなるからだ。排気温度220~350℃において90%以上のNOxを除去することが可能となるとのことだったが、1つのシステムではその温度域に入れ続けるのが難しいというのがツインドージングシステムの導入に至った経緯。コールドエンジンスタート直後や低負荷時はエンジン脇にある第1SCR用AdBlueインジェクターが始動。逆に高負荷時にはそこが排気温度500℃前後になることから、アンダーボディに備えられた第2SCR用AdBlueインジェクターが作動する。これは第1SCR用AdBlueインジェクターの位置に比べて約100~150℃排気温度が下がることから、システム作動温度域に入ることになるそうだ。これにより、従来とAdBlueの消費量は同等ながら、NOxの排出量を最大80%削減でき、EURO6d排気ガス規制に適合している。
さらに、低圧EGR用ラジエター効率を25%向上させてNOxの発生をさらに低減。最大2200barの高圧インジェクターは、1燃焼サイクルあたり9回の噴射をするなど、きめ細やかな制御が行なわれている。また、サイレンサーや消音材を改良するなど、ノイズやバイブレーション対策も進化している。
低回転から発生する圧倒的なトルクは見事
今回はそんなTDIを搭載した最上級のR-Lineを借り出した。試乗車には18インチのホイールがオプション装着されていた。これは6月の導入直後からユーザーより要望されていたもので、いち早く対応したとのこと。見た目の踏ん張り感も走りもこれは期待できそうだ。
走り始めてまず感じたことは、圧倒的な静粛性と滑らかさ。正直に言えばアイドリングストップが入らなかった交差点の完全停止などでは、ややディーゼルならではの振動や音は若干感じられてしまう。だが、一度動き始めるとディーゼルであることを忘れてしまうほど静けさと滑らかさがあったのだ。
そして低回転から発生する圧倒的なトルクは見事。箱根へ向けた登板路で、シフトダウンを繰り返すことなく、1200rpmあたりでグッと堪えながら一般道を駆け上がって行ったのには驚いた。エンジン回転が上がらず車速が上がっていくのだから、静かで振動も少ないと感じるのは、ある意味当然なのかもしれない。
タイトなワインディングでは、その低回転から湧き上がるトルクがキビキビと動かす原動力となってくれる。脱出加速はとにかく素早い。スポーツエンジンでは苦手になりそうな低回転の領域がとにかく好感触。試乗当日はかなりスリッピーな路面であり、ちょっとでもアクセルを深く踏み込むとスタビリティコントロールが即座に発動する状況。ドライで乗ればもっとそのよさが伝わってくるに違いない。一方でウイークポイントとなるのはフロントの重量がやや重く、他のモデルに比べれば軽快さが得られないこと。だが、それは高速巡行時には落ち着きにもなり、一概にわるいわけじゃない。
いずれにしても、あとは使い方や好みによって選ぶことが可能になったところは大歓迎。ディーゼルであることを意識することなく、環境にも優しくなったとなれば、ちょっと気になる1台になるのではないだろうか? ガソリン高騰が続くなら、ディーゼルを選択するのもこのゴルフTDIならアリかもしれない。