試乗レポート

スズキらしい軽自動車の新型「アルト」 街中から高速道路まで走りをじっくり体感

フルモデルチェンジにより日々の使い勝手・安全性能を向上

 スズキのアルトは手の届きやすい価格で使いやすさを目指したベーシックモデル。42年前に初代は衝撃的な47万円という価格でデビューして多くの人にクルマを持つという夢を実現した。8代にわたって累計526万台という販売台数は、いかに多くのドライバーにアルトが愛されてきたかが分かる。

 新型アルトの商品コンセプトは「気軽に乗れる、すごく使える、安心・安全な軽セダン」。デザインも飽きのこない親しみやすい2ボックスでAピラーを立ててキャビンを広くとったことが特徴だ。グリルやリアバンパー、インテリアではダッシュボードに楕円がモチーフとして使われておりアルトのデザインイメージを統一している。

 ラインアップはエネチャージとマイルドハイブリッドの2種類のパワートレーンに、それぞれ2つのグレードがある。

「アルト HYBRID X」(2WD)。価格は125万9500円。ボディカラーはダスクブルーメタリック ホワイト2トーンルーフ。ボディサイズは3395×1475×1525mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2460mm。従来モデルに比べて全長・全幅は変わらず、全高が50mm高くなった

 従来のアルトに比べてひとまわり大きく感じるが、ホイールベースは2460mm、全長/全幅は軽自動車枠いっぱいなのは従来のアルトと共通で3395mm/1475mm。ただ、全高は50mm高くなった1525mmなのでサイズ的にも大きい。実際運転席に座ると視界が開けて解放感がある。フロントガラスとの距離もあり圧迫感がない。斜め前方の視界もピラーで邪魔される部分が少なく、明るくて安心感がある。大きめのサイドミラーも見やすい位置にあり後方も視界の中にとらえやすい。ただドライバーによっては、サイドミラーとその支点が少し邪魔になる。ハイトコントロールの調整幅も広く、女性も含めた日本人のほとんどが視界のいいポジションをとれる。

HYBRID Xでは、ヘッドライトがLEDとなるほか、ドアミラーがカラードタイプの電動格納式(リモート格納)となり、足下には14インチのアルミホイールを装着する。アルミホイールに組み合わせるタイヤはダンロップ「エナセーブ EC300+」で、サイズは155/65R14

 メーターはシンプルで必要なものだけが配置されている。試乗車はマイルドハイブリッドだったが、目玉のディプレイオーディオ設定車は間に合わず、ガランとしており、寂しい。短距離で見知った道を走ることが多いアルトユーザーにとって、価格の高いナビゲーションよりもディスプレイオーディオの方が現実的なニーズに合っているようだ。

立体的な造形で質感を高めた内装は、楕円形をモチーフにしたデザインによって親しみやすさを表現し、毎日使っても飽きのこないデザインを目指した。また、ドライバーから手の届く位置に容量や形状を追求した10種類の収納スペースを設定している。撮影車両はオーディオレスとなるが、オプションで7インチのディスプレイオーディオを設定している
シートはデニム調の表皮を採用することで、親しみやすさを演出。全高が高くなった分、室内高も45mm拡大し、前席・後席ともに広いヘッドクリアランスを確保するとともに、室内幅も+25mm拡大され、快適な室内空間を実現。後席のレッグスペースも広々としている
リアシートは一体可倒式。大きな荷物を積む際はリアシートを倒してラゲッジを広く使うこともできる

 スズキ初となるバックモニター用カメラを備えたディスプレイオーディオは、全方位モニターも用意されたオプションがあり、スマホ連携(Android Autoの場合)をすると、ヘッドアップディスプレイに交差点表示などが行なえる。なかなか便利で機能的。アルトにふさわしい装備に違いない。全方位モニター付きディスプレイオーディオをメーカーオプションで購入すると11万2200円となっており、ほかにもバックアイカメラ付きディスプレイオーディオでは5万5000円のオプションもあり、いろいろなオプションの選択肢がある。

高い基本性能を実感する走り

 走ってみると確かに運転しやすい。ハイブリッド用のR06D型の3気筒エンジンは36kW(49PS)/58Nmの出力で1.9kWのモーターを持っている。軽やかな3気筒の音で結構俊敏に走る。車両重量はわずかに710kg(HYBRID X/2WD)なので50PSに満たない出力でも軽快だ。さらに出力特性が中低速で厚みを増した設定で、より軽快に感じる。

ハイブリッドモデルは最高出力36kW(49PS)/6500rpm、最大トルク58Nm(5.9kgfm)/5000rpmを発生する直列3気筒DOHC 0.66リッター「R06D」型エンジンに、最高出力1.9kW(2.6PS)/1500rpm、最大トルク40Nm(4.1kgfm)/100rpmを発生する「WA04C」モーターを組み合わせる。トランスミッションはCVTを採用し、HYBRID XのWLTCモード燃費は2WDで27.7km/L、4WDで25.7km/L

 軽量プラットフォームは軽量高剛性で、スズキらしい地道な努力の積み重ねでアルトの基本性能の走行性能や、居住性を作っている。

 メカノイズはそれほど小さくないが妥協レベルだ。CVTのラバーバンドフィールが少なく、市街地での発進加速では軽く走るので全開加速のシーン以外では許容できるノイズだ。振動は小さくこの点でも印象はよい。タイヤなどから発するロードノイズは必要な音源に対して遮音材で対処されており、よく抑えられている。街中でもあまり気にならない。

 高速道路での合流シーンでは一瞬の瞬発力があり、流れに乗ることは容易だ。マイルドハイブリッドのわずかだが確かなエンジンサポートが効果的だった。

 乗り心地は荒れた舗装路面では小さな突き上げがある。特にリアからは大きく感じられた。先代アルトに比べると振幅は小さく、かなり改良されているが、贅沢かもしれないが長距離を走る場面ではストロークのあるシートとともに、もう少し滑らかさがほしい。

 装着タイヤは155/65R14で転がり抵抗の少なそうなタイヤだったが、制動時の路面変化に対しては変化幅が大きく、もう少し安定したグリップがあるとよい。サイド剛性と周剛性のバランスもとれたいいタイヤで、大きな横Gをかけても徐々にタイヤがしなっていくいく感じでわるくないのだが。

 マイルドハイブリッドもスズキらしく、小さなリチウムイオンバッテリを搭載して駆動用モーターを付けたもので、エネチャージから発展した考え方だ。エネチャージはエネルギーをためて補器類に供給することで燃費の改善を図っていたが、マイルドハイブリッドではこれにモーターを加えたことで発進、加速時などで電気エネルギーのサポートを受けられることになった。モーター、バッテリともに小さいのでモーターのみの駆動はできないが、スズキらしい合理的な燃費向上システムで実用性も高い。エンジンは常に回っている。

 WLTCモード燃費はエネチャージ(エンジンは46PSのR06A型を搭載)では25.2km/L、マイルドハイブリッドでは27.7km/L(ともに2WD)と軽自動車トップの燃費を達成している。街中走行が多いアルトにとってマイルドハイブリッドはかなり効果的で合理的なシステムだ。

 さて、これで価格はHYBRID Sグレードで109万7800円。エネチャージ搭載グレードのAは94万3800円で最廉価グレード。ちなみに今回試乗したHYBRID XはFFで125万9500円。なかなか頑張った価格設定なのもスズキらしい。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸