試乗レポート

フォルクスワーゲン「ゴルフ ヴァリアント」に追加された2.0リッターディーゼル仕様を試す

ゴルフ ヴァリアント

トップレベルのディーゼルクリーン化技術を採用

 フォルクスワーゲン「ゴルフ ヴァリアント」に新たなパワートレーンとしてディーゼルターボが加わった。従来は48Vマイルドハイブリットを組み合わせた1.0リッターと1.5リッターのガソリンエンジンだったが、2.0リッターディーゼルターボが加わったことでヴァリアントの幅は大きく広がった。

 ゴルフ ヴァリアントは大きなラゲッジルームと、ゴルフならではの実用性が底堅い魅力だ。SUVは気になるけどそのサイズ感はちょっと……というユーザーにはゴルフ ヴァリアントは恰好の1台になる。

 ゴルフ ヴァリアントなら全長4640mmの中に最大1642L(2列目シートを使った場合611L)の大きなラゲッジルームを備えていながら、全高は1485mmに抑えられ、全幅も1790mmと日本の狭い道でも使いやすいサイズになっている。またホイールベースは2670mmで最小回転半径は5.1mと小まわりが効く。

撮影車は「ゴルフ ヴァリアント TDI R-Line」(441万6000円)。同一車線内全車速運転支援システム“Travel Assist”やデジタルメータークラスター“Digital Cockpit Pro”といった新型ゴルフならではの先進装備をエントリーグレードから標準装備するほか、走行モードの切り替えが可能なドライビングプロファイルやシートヒーターなどの快適装備も全グレード標準。R-Lineではエクステリアをスポーティな仕様に仕上げ、ハッチバック同様に18インチアルミホイールもオプションで用意する

 搭載された2.0TDIはすでにハッチバックで導入されていた新世代ディーゼルエンジンで、1年遅れでヴァリアントにも加わることになった。新世代ディーゼルエンジンのハイライトはツインドージングシステム(デュアルAdBlue噴射)だ。排気ガスが流れる上流側で窒素酸化物を分解するAdBlueを噴射し、SCR(選択的触媒循環)システムで低負荷時の窒素酸化物を除く。さらに高負荷時には下流側に配置されたAdBlueを吹くSCRシステムでディーゼルの弱点である窒素酸化物をクリーン化する。その効果は厳しいことで知られる最新の「EURO 6」をクリアする。現在あるディーゼルではトップレベルのディーゼルクリーン化技術になる。

 4気筒2.0リッターターボのボア×ストロークは81×95.5mmのロングストローク。出力は110kW(150PS)/3000-4200rpm、最大トルク360Nm(36.7kgfm)/1600-2750rpmとなっており、いかに低速回転トルクが強く加速に粘りがあるかが分かる。

ゴルフ ヴァリアントが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッターディーゼルターボエンジンは、最新のテクノロジーとなるツインドージング(デュアルAdBlue噴射)システムを採用することで窒素酸化物(NOx)の排出量を大幅に削減。燃料消費率は先代より大幅に改善され、WLTCモードで19.0km/Lを達成した。最高出力110kW(150PS)/3000-4200rpm、最大トルク360Nm(36.7kgfm)/1600-2750rpmを発生

質実剛健のゴルフらしい味付け

 エンジンを始動するとディーゼル特有の音と振動がある。それでも以前のディーゼルターボよりもかなり抑えられていた。この音/振動は市街地の交通の流れに乗るころにはほとんど気にならなくなる。

 TDIのよさは低速回転からの高いトルクにあり、その粘り強く力強い加速はガソリンエンジンでは及ばない。7速DSGも低回転でステップを踏み変速を続け、ディーゼルならではの滑らかさだ。DSGは代を重ねるごとに熟成され、低中速トルクが大きいTDIとの相性もいいと感じた。

ゴルフ ヴァリアントのボディサイズは4640×1790×1485mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm

 この特性は市街地のストップ&ゴーでも軽快に反応してくれ扱いやすい。わずかなアクセルワークでスイと加速するのは最新ディーゼルのいいところ。さらに高速クルージングはディーゼルエンジンの真骨頂。エンジンは低回転でユルユルとまわり、しかもアクセルを踏めばすぐに力強く加速に移れるのが魅力。120km/hでのエンジン回転は約1900rpmに過ぎず、日本でディーゼルファンが増えている所以だ。定評ある燃費はWLTCの高速モードで22.2km/L(市街地モードは14.5km/L)となっており、これは長距離ドライブが多いユーザーにはたまらない魅力だろう。

 サスペンションはフロント:ストラット、リア:4リンク。試乗車のグレードであるTDI R-Lineではタイヤサイズは225/45R17を履くとともに、専用のスポーツサスペンションを装着する。積載が前提のヴァリアントでは少し硬めの設定になっており、乗り心地も硬めだが、その代わり凹凸路面を通過した際もピッチングの動きは少なく質実剛健のゴルフらしい味付けだ。

 ヴァリアントのハンドリングはハッチバックよりホイールベースが50mm長い分、応答性は少し鈍くなり、その分軽快さではハッチバックのようにヒラリと走れるイメージではない。ただハンドルに伝わるどっしりした安定感はゴルフらしい頼もしさがあり、まさしく“安定のゴルフ”だ。

 装備も充実している。同一車線内全車速運転支援システム「Travel Assist」や2面の液晶ディスプレイからなる「Digital Cockpit」、シートヒーターやステアリングヒーターも標準装備となる。

 Digital-Cockpitはすべてがディスプレイ内で操作するのではなく、エアコンなどはダッシュボード上のスイッチで操作できるので、すぐに温度コントロールができる。オーディオなどの操作は直観的に操作可能で、デジタルデバイスに慣れた人ならすぐに操作できるだろう。

 TDI ヴァリアントの価格はActive Basicの374万9000円からR-Lineの441万6000円まで幅広い。派手さはないが長い付き合いのできるクルマだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学