試乗レポート
ホンダ「歴代シビック一気乗り」で5代目スポーツシビックに乗ってみた
2023年1月6日 23:26
ホンダの歴代シビック一気乗りという試乗会に参加した。モビリティリゾートもてぎ内にあるホンダコレクションホールに展示されているクルマを北ショートコースに出して行なわれたこのイベント。歴代一気乗りとはいえ、Car Watchでは僕と大先輩の日下部保雄氏という2名での参加だったため、実際には半分しかステアリングは握っていない(残りの半分は助手席)。今回はその中でも印象に残った一台を中心にインプレッションしながら、現行モデルにどう受け継がれたのかを考えてみたい。
個人的にストライクだったのは5代目の通称スポーツシビックだ。免許を取得した頃に現役だったということもあるが、実はすべてにおいてちょうどよいサイズと使い勝手、さらには走りの面で充実した内容があったからだと感じる。今回試乗した3ドアハッチバックのほかに、4ドアセダンのフェリオ、アメリカ生まれのクーペ、そして兄弟車にはCR-Xデルソルが存在したこの時代。フェリオとクーペはホイールベースが共通(2620mm)となるが、3ドア(2570mm)とデルソル(2370mm)はホイールベースが異なっている。
ちなみに6代目以降はあらゆる効率を考えた結果、こうした作り分けを行なうことがなくなった。コストのかけ方がハンパじゃなかったことがうかがえる。おまけに燃費スペシャルのVTEC-Eから、後のタイプRの礎ともなる出力でリッター100馬力超えを達成した170馬力のB16Aまでを幅広くラインアップしていることもまた、いま見るとかなり贅沢に感じる。
そんな5代目シビックの3ドアを目の当たりにすると、いまでもワクワクできるものがある。エクステリアデザインのコンセプトだった「躍動感SAMBA BODY」は、開発者自らがブラジルまで足を運んでその空気感を取り込んだというだけあって、明るく陽気な雰囲気がひしひしと伝わってくる。
後にも先にもこれだけだったツインゲートのおかげもあり、ガラス面が絞り込まれた立体的なルックスを実現しながらも、テールゲートの枠がなく後方視界をしっかりと確保。インテリアに目を移せば、足元がすっきりとしたコンソールレスの仕立てや、片持ちヘッドレストによる後席視界の拡大など、細部に渡りこだわりが改めて感じられた。このクルマに試乗する前でに初代~4代目までを連続して乗ってきたが、車室内の足元スペースの拡大が程よく得られていたことも好感触。初代はホイールハウスが足元に出ており、足をクルマの中心に向かって寄せるイメージがあったが、このころになるとそんな感覚はほぼなくなっている。
今回試乗したのはシリーズ最強モデルとなるSIRの5速MTだ。ドライバーズシートに収まればとにかく視界が開けていることに驚きを感じる。真下が見えるかと思えるほど下方向の視界がよく、横もまた肩が露出しているかと感じるほど上半身が飛び出ている感覚。かつてのF1かと錯覚するほどだ。走ればとにかく軽やかに吹け上がるB16Aエンジンがとにかく印象的。特に6000rpmあたりでカムが切り替わってからの吹け上がりが爽快であり、そのまま8000rpmあたりまでひとっ飛び。シャシーはショートホイールベースであることでキビキビとした身のこなし。けれども、それで終わらず、ダブルウイッシュボーンを前後に採用し、ストロークを十分に持たせたことで、しなやかな乗り味があるところが特徴的だ。いじればレースでも活躍。潜在能力がかなり高いマシンだったことを思い出す。
このオールマイティさは、どこか新型タイプRに通じているように感じる。
これ以降、まざまな世代のシビックにも乗り、かつてのタイプRの記憶と擦り合わせた後に思ったことがある。それはタイムも安全性も量産性もバランスするあまり、どこかに無理が出ていたということだ。大きく、重く、そして曲がりにくいものを、パワーやタイヤのグリップ、さらにはとにかくハードな足回りでねじ伏せてきた流れがどこかにある。だが、それを今ようやく打破し、原点回帰できる段階に来たのではないかと僕は感じたのだった。