試乗レポート

日下部保雄の歴代ホンダ「シビック」探訪記【前編】

貴重なCVCCエンジン搭載の初代シビックに乗った!

世界をアッと言わせたCVCCエンジン

 初代「シビック」(SB1型)が誕生したのは1972年。それまでフロントエンジン/リアドライブが常識だったコンパクトカーにホンダらしい横置きエンジン/前輪駆動で新鮮なパッケージを提案した。てらいのないシンプルだが味のあるデザインは、49年が経過した今見ても合理的だ。新進気鋭のホンダの意気込みを見ることができる。

 このSB1型シビックは大学生を中心とした若い層に支持され、「N360」で培ったホンダの先進的なイメージを小型車でも定着させることができた。今に生きるMM思想(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)がすでに始まっていたことが分かる。

 世界戦略を念頭に置いて作られたシビックだったが、世界をアッと言わせたのはCVCCエンジンだ。これをクリアするのは絶望的と言われた排気ガス浄化法、マスキー法を高価な触媒なしに見事に解決して世界から賞賛された。エンジンのホンダの面目躍如だ。

 今回はそのCVCCエンジンのシビックに乗れるという幸運に恵まれた。車両はCVCCを搭載した最初のモデルで、1973年の1.5リッター。北米ではレギュラーガソリンが使える低燃費のコンパクトカーとして人気が広がったが、他のメーカーも元気づけたのは大きな功績だった。

 当時を思い出してみると、シビックデビュー時に搭載されていた元気がいい1.2リッターのEB型エンジンのイメージが強く、1.5リッターのCVCCはレスポンスが鈍くてトルクも薄かったのであまりいい印象は持てなかった。しかし他社はマスキー法に苦しんで、メーカーの存在まで脅かされるほど追いつめられ既存のエンジンに高価な触媒を装着し、ガスを極限まで絞って出力はガタ落ち。世界のクルマが生気を失っていた時代に、CVCCは燃焼を考えさせた偉大な発明だったのだ。

FF+2ボックスという新しい乗用車の形として生まれた初代シビック。1972年~1979年に生産された
初代シビックの開発の志
初代シビックのコンセプト
初代シビックのエクステリアデザイン
エクステリアのスケッチ
エクステリア 1/1 クレイモデル
初代シビックのインテリアデザイン
インテリアのスケッチ
インテリア 1/1 クレイモデル
初代シビックのパッケージ

 久しぶりに乗るシビック、それもCVCCシビックはホンダの手で完全にレストアされており、ディーラーに並んでいてもおかしくないほどの完成度だ。濃いグリーンも当時のシビックのテーマカラーだったのもいい。

初代シビックのボディサイズは3405×1505×1325mm(全長×全幅×全高)。台形のゲンコツフォルムが特徴的。当時の販売価格は42万5000円~97万1000円(税別)
4ドアセダンが主流の時代に、世界各地の人々のためのベーシックカーとしてFF/2ボックスという新しい市場を開拓。ボディタイプはハッチバック(2ドア、3ドア、4ドア、5ドア)とバン(商用車)がラインアップされた
直列4気筒1.5リッターのCVCCエンジンは最高出力63PS/5500rpm、最大トルク10.2kgm/3000rpmを発生。なお、デビュー当時に搭載していた直列4気筒1.2リッターは最高出力69PS/5500rpm、最大トルク10.2kgm/4000rpmというスペックだった
インパネ上部を視認系、下部を操作系とし、機能を明快に分けたシンプルデザインが特徴。人の居住空間を最大にしたほか、視界に優れるキャビンデザインを用いた

今に続くホンダの思想の原点

大人4名でフル乗車してみました

 ホンダコレクションホールの裏庭にある短いコースでの試乗が始まる。どの角度から見ても台形のボディは3405×1505×1325mm(全長×全幅×全高)と、コンパクトでズングリしているけど愛嬌がある。薄いドアを開けて乗り込むと2点式のシートベルトが備わっていた。

 イグニッションキーをひねる。直ぐにエンジンはブルンとかかった。小さなABCペダルは時代を感じさせるがいずれも軽い。特にクラッチペダルはストロークがあってミート幅も広いのでスムーズにクラッチミートができる。

 このシビックはCVCCの初号機なのでトランスミッションは4速。シフトゲートは年式相応に緩くなっているが、どのポジションにもしっかり入り、次第にシフトするのが楽しくなる。スポーツカーのカチリとしたそれとは違い、シフトストロークも長いが、その時代の実用車らしい味が懐かしい。

初代シビック試乗(7分5秒)

 エンジンは予想したよりもはるかに好調。軽い振動を伴いながら加速していく。コースが狭い&短いために3速まで入れられる程度だ。歴史の証人でもある大事なクルマを高回転域まで回すことは到底はばかられるが、以前の記憶はいい意味で裏切られた。楽しいぞ。

 CVCCエンジンはレスポンスが鈍く、特にアクセルオフにした時の回転落ちがわるかった想い出があるが、今回乗ったCVCCエンジンは回転落ちのわるさは感じるが、それほど苦にならなくなっていた。正規の設定がこのレベルだったのかもしれない。この時代、どのメーカーもマスキー法をクリアするのに必死でエンジンの「味」まで追求する余裕はなかったが、CVCCは上出来の部類だった。

 重量はわずかに765kgと軽く、シビックに見合った中速トルクで軽快に速度が伸びていく。アクセルオフでエンジンシェークはあるけれど、そんなこと気にならないほどウキウキする。

 ハンドルの操舵力は軽い。もちろんパワーステアリングなどない時代だが、クルマが動いていれば重さを意識することはない。タイヤはクロスプライで600-12という細いバイアスタイヤだが、その影響も大きい。ラジアルだと155SR13に相当すると思うが、ラジアルタイヤはハンドルが重かったのを思い出した。パワーステアリングなどない時代である。新品のタイヤは横浜ゴムが復刻したものだと聞いた。ダンロップも旧車に優しいが、バイアスタイヤの用意ができるという旧車を大切にする文化が日本にも芽生えていることは嬉しい。

 緩いS字などはユッタリとロールしながら姿勢を変える。ノンビリしたその姿勢変化はほのぼのとして、走りも自然と無理をかけないような運転になる。

 ブレーキは効くのだろうかとちょっと不安になったが、小さいペダルに呼応するように軽い踏力でスーと速度が落ちる。速度はせいぜい50km/h程度だが、ブレーキバランスがキチンと取れており、安定して減速するのに安心した。ブレーキはフロントディスク、リアは倍力装置付きのドラムである。

 シフトダウンでは敬意を表してダブルクラッチを使ったが、そんなことしなくてもシンクロはしっかりして軽くシフトできる。

 懐かしい初代シビックとの久しぶりの出会いは瞬く間に終わってしまったが、今に続くホンダの思想の原点を知るいい機会だった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛