試乗レポート

“アウディの王道”A4ディーゼル「A4 アバント 40 TDI」、峠道でのフィーリングは?

王道であるA4に初のディーゼルエンジン搭載モデル

 アウディの豊富なラインアップの中にあって王道を歩むのがA4だ。2020年の10月にビッグマイナーチェンジを受けて、モデルサイクルとして熟成の域に入ったが、2021年の1月にA4として初のクリーンディーゼルを搭載したモデルがシリーズに加わった。

 エンジンは直列4気筒2.0リッターの直噴ターボディーゼルだが、選択肢は2種類用意されている。「40 TDI」に搭載される140kW/400Nmと、もう1つは「35 TDI」用の120kW/380kWだ。世代的には35 TDIの方が新しく、ベルトドライブ・オルタネータースターター(BAS)とリチウムイオンバッテリーを組み合わせる12Vマイルドハイブリッド(MHEV)を採用している。

 駆動方式は35 TDIはFFだが、今回試乗した40 TDIは伝統のクワトロシステムとなる。こちらは12Vマイルドハイブリッドの設定はない。クワトロはセンターデフ式のAWDで、リアの駆動力分配も積極的に行なう。最近発売された「Q5 TDI」に搭載されている新世代のAWDはFFを基本とするオンデマンドタイプで、少しハードなドライビングでもほぼ7割はFF走行で燃費を稼ぐ。A4クワトロもいずれQ5と同じオンデマンドタイプ+マイルドハイブリッドになるので、前後トルク配分50:50を基準としたクワトロはA4では今回が最後になるかもしれない。

A4 アヴァントのボディサイズは4770×1845×1435mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2825mm。車両重量はパノラマサンルーフを装着しているため30kg増の1730kg
今回の試乗車はオプション設定のアルミホイール「5Vスポーク スターデザイン(カラー:マットチタン ルック ポリッシュト)に、タイヤは「ピレリP-ZERO(サイズ245/35ZR19)」を履いていたが、標準設定では245/40R18のタイヤになる
専用のS lineバンパー
カメラが対向車や先行車を検知すると、LEDのON/OFFを個別に切り替えハイビームをカットしてくれるマトリクスLEDヘッドライト。A4はオプション設定
LEDが次々と光り、流れるように動くLEDリアダイナミックターンインディケーターを採用
パワートレーンは最高出力140kW(190PS)/3800-4200rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/1750-3000rpmを発生する直列4気筒2.0リッターターボエンジンに、7速Sトロニックトランスミッションが組み合わされる。燃費はWLTCモードで14.6km/L

 試乗車はタンゴレッドと呼ばれる目も覚めるような赤で、オプションの245/35ZR19(ピレリ「P-ZERO」)を履き、低く構えて精悍だ。S Lineはブラックのハニカムメッシュシングルフレームグリルや専用バンパーによりRSモデルを彷彿させるデザインで、試乗車に一層のインパクトを与えている。Q5のような背の高いSUVは着座ポイントが高くて乗りやすい。しかし、お尻を落としこむように座る馴れ親しんだドライビングポジションはやはり落ち着く。

 インテリアは「Hey Audi」と呼びかければ応える最新のインフォテインメントシステムとなり、センタースクリーンもタッチパネル式になっている。表に出ているスイッチは少ないので、走り出す前に少し学習しておく必要があるが、オーナーになればきっと便利に違いない。ただ試乗中、ボイスレコーダーに「アウディ……」と吹き込むたびにインフォティテイメントシステムが反応するのに閉口した。

運転席のメーターには高解像度12.3インチカラー液晶フルデジタルディスプレイに、さまざまな情報を表示するバーチャルコクピットプラスを搭載。「VIEW」ボタンを押すことでメーター表示を小さくし、MMIナビゲーションのコンテンツや3D地形図などを大きく表示させることも可能
電動パーキングブレーキには、ホールドアシスト機能も搭載する
エアコンユニットの下には、「スポーツ」「ダイナミック」「Sパフォーマンス」と走行特性を切り替えられるドライブセレクト、アイドリングストップOFF、トラクションコントロールOFF、駐車をサポートしてくれるパークアシストなどの操作スイッチが並ぶ
新たなユーザーインターフェースとなるMMIナビゲーション。10.1インチカラーディスプレイで車両のセッティングやインフォテインメントを直感的に操作可能。手書き文字入力も可能としている。ドラッグ操作でホーム画面のアイコンを自分好みに並べ替えることもできる
S lineの内装は「S」ロゴが刻印されたアルカンターラ/レザー仕立てのスポーツシートを採用。センターコンソールパネルやダッシュボードの一部にブラックグラスルックコンソールパネルを装備し全体をシックに引き締めている
トランク容量は5人乗りの状態で505Lを確保。後席を倒すことで最大1510Lまで拡張できる(VDA値)
ラゲッジスペースの下にはバッテリーが収められている

路面に吸い付くような感覚のスポーティでスッキリした乗り味

 イグニッションボタンを押すと、ディーゼルらしい振動と少し甲高い音でディーゼルターボが目覚める。アクセルは少し早開き傾向があるが、デュアルクラッチの7速Sトロニックは上手なドライバーがクラッチミートするようにつながる。もう少し粘り気のあるミート感があると更に好ましいが、絶対的な低速トルクが大きいため、エンジン回転を上げなくてもグイとスタートできるのは美点で素早く力強い加速をする。

 走り始めるとステップ感のある変速が繰り返されながらエンジン回転を抑えて走る。ガソリンの伸びやかな加速とは異なるが、分厚いトルクは力強くて気分的にも余裕が生まれる。ちなみにマニュアルモードにし、ギヤを固定して回してみると4500rpmぐらいまでスーと回る。70km/hでは1250rpmぐらいでユルユルとクルージングしており、振動は感じない。

 乗り心地は幅広の大径タイヤということもあって路面の凹凸に正直に反応する。低中速だと荒れた路面では硬い乗り心地だ。ロードノイズも路面によって大きく変化する。しかし、高速になると乗り心地はメリハリが効き、フラットな姿勢を保ちつつ安定感がぐんと増す。ゴツゴツしているが車体の揺れは小さく、スポーティでスッキリした乗り味だ。また、ロードノイズも気にならなくなる。

 試乗コースはクルマ専用道路と大きなRと急勾配で構成される箱根ターンパイクを選んだ。まず高速での直進性は高く、ハンドルの保舵力も適度な重さをもって矢のように直進する。ニュートラル付近の締まった動きでレーンチェンジも手首の微妙な動きに対しての反応が早い。

 コーナーでハンドルを切った時も手応えあるリアクションで、グリップ力の高さを予感させる。ピレリらしくタイヤの性格にメリハリがあってグリップのピークは高そうだ。タイトなコーナーでの操舵力は少し重いが、旋回姿勢に入ってからの旋回力は高く、舵角に応じて素直にグイグイと曲がっていく。

 また、ハンドルを切り返すタイトなS字では、一瞬間をおいてからグイッと次の旋回に入り、あまりロールを感じさせずクイックに反応する。ハンドルに伝わる感触は、滑らかと言うよりもガツンと手応えがある。

 さらに、アウディを象徴するクワトロは、常に4WDとして大きな駆動力と安定性を維持する。伝統的なクワトロならではの骨太なシステムは一癖ありそうだが、手なずけると信頼の塊のようで頼もしい。オンデマンドタイプとまた違った個性がある。タイトコーナーでは後ろから押すようにして4輪が路面に吸い付くような感覚がある。

 ちなみに数か月前に試乗したA4 TSFIセダンは高いボディ剛性と路面によく追従するサスペンション、そして225/50R17のタイヤで硬めのアシながら舐めるように路面を走り、また正確に反応するステアリングが醸し出す爽快なフットワークで、まさに完熟のセダンだった。

 RSの血統を受けついだ今回のS Line+オプションタイヤを装着したアヴァントとは性格が異なり、さまざまなバリエーションにも対応できるA4の懐の深さを見ることができた。さすがアウディのど真ん中に位置するA4である。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸