試乗レポート

正統派クーペ×ディーゼルのアウディ「A5 スポーツバック」の乗り味とは?

今回試乗したのは2020年1月にビッグマイナーチェンジが行なわれたアウディ A5 スポーツバック 40 TDI クワトロ アドバンスド

実用性が高い正統派クーペのA5

 最初にA5を見たのはもう何年も前、ニュルブルクリンクのホテルでテストカーが駐車しており、車内からエンジニアらしき人が降りてきた時だった。美しいクーペのスタイルに思わず「How beatuiful!」と呼びかけてみたが「妙な東洋人が何か言ってるぞ」と不信に思ったのか、まだ発売前のクルマに触れられたくなかったのか、スタスタと去ってしまった。全高の低い気品のあるクーペがその後正式にデビューしたことは言うまでもない。

 A5は後席も実用性のある2ドアクーペで、クーペ本来の上品さを求めるユーザーに支持され現在に至っている。2017年にフルチェンジされて2代目になったが、Dセグメントらしい正統派クーペは、デザインコンセプトはそのままに独特な美しさは変わらない。そしてA5のラインアップには4ドアクーペのスポーツバックが加わり、主流はこちらに移っていく。

A5 スポーツバックには今回試乗した「40 TDI クワトロ アドバンスド」の他に「35 TDI アドバンスド」「35 TDI S line」「40 TDI クワトロ S line」「45 TFSI クワトロ S line」の全5グレードが設定されている
ボディサイズは4755×1845×1390mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2825mm、車両重量は1680kg。ベース価格は643万円で、ボディカラーやサスペンション、スタイリングパッケージ、3Dアドバンスとサウンドシステムなど145万円のオプション品を装備している
ボディカラーのディストリクトグリーンメタリックはメーカーオプションで9万円高となる。オプションのブラックスタイリングパッケージでサイドミラーはボディ同色ではなくグロスブラックになっている
オプションのレーザーライトパッケージ装着によりマトリクスLEDヘッドライトにレーザーハイビームも装備。車速が約70km/hからLEDハイビームを補完させ、照射距離がおよそ2倍まで伸びる
LEDリアコンビネーションライトと流れるように動くダイナミックターンインディケーターも標準装備
マフラーエンドはリアバンパーにビルトインされている

 2020年10月にビッグマイナーチェンジが行なわれたA4シリーズに準じて、2021年1月にA5シリーズも変更され、エクステリアではハニカムメッシュグリルやマトリクスLEDヘッドライトなどですぐに判別できる。試乗車は今回のビッグマイナーチェンジ車のテーマカラーである深いモスグリーン、自然をテーマとしたディストリクトグリーンメタリックで、注目度は抜群だ。心が和むカラーである。

 また、インテリアは10.1インチにサイズアップされたセンタースクリーンが今風のタッチパネル式となっており、操作系はシンプルになったがスイッチがないと心配なロートルには少ししんどい。とはいえ、メーターまわりはシンプルになりスッキリとデザインされている。

10.1インチカラーディスプレイは、車両のセッティングやインフォテインメントを直感的に操作可能なMMIナビゲーションを搭載
運転席のメーターには高解像度12.3インチカラー液晶フルデジタルディスプレイに、さまざまな情報を表示するバーチャルコクピットプラスを搭載。「VIEW」ボタンを押すことでメーター表示を小さくし、MMIナビゲーションのコンテンツや3D地形図などを大きく表示させることも可能
ドライブセレクト、アイドリングストップ、トラクションコントロール、パークアシストなどの操作スイッチはエアコンの下に並ぶ
電動パーキングブレーキには、ホールドアシスト機能も搭載
フロントシートはシートヒーターを標準装備。また運転席はメモリー機能も完備する
トランク容量は465Lを確保している
内装はオプションのラグジュアリーパッケージが装備されシートやドア内装がパーシャルレザーに。また、フロントシートはスポーツシートとなっている

 試乗したのはA5 スポーツバック 40 TDI クワトロ アドバンスド。アドバンスドはこれまでの“S line”よりもさらにスポーティなデザインで、グンとスポーティなエクステリアになっている。ちなみに従来のS lineはさらにスポーツ寄りのRSモデルに近いデザインテイストが盛り込まれる。

 エンジンは2.0リッターのディーゼルターボで、同時に試乗したA4と同じエンジンになる。出力は140kW/400Nmでレッドゾーンは5000rpmに設定されているが、そこまでまわさなくとも十分にパワフルなのは言うまでもない。

パワートレーンは最高出力140kW(190PS)/3800-4200rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/1750-3000rpmを発生する直列4気筒2.0リッターターボエンジンに、7速Sトロニックトランスミッションが組み合わされる。燃費はWLTCモードで14.6km/L

乗り心地やハンドリングがマイルドで優しい印象のA5

試乗車はオプションのダンピングコントロール スポーツサスペンションを装備。アウディドライブセレクトを介して2種類のダンピング特性を選択できる

 ドライブモードは「コンフォート」からスタートしたが、タイヤとボディ形状の違いからか乗り心地がコツコツすることもなく、滑らかでユッタリとしている。特に「コンフォート」では収束が少し緩い代わりに、伸びやかな車体の動きだ。ロードノイズも低く抑えられていた。こちらの装着タイヤはブリヂストン「ポテンザS001」で、タイヤサイズが235/35R19のオプションの大径タイヤを履く。

試乗車はオプションのマルチスポークデザインコントラストグレーのアルミホイール(8.5J×19+255)を履いていたが、標準装着されるのは245/40R18のタイヤと5VスポークYデザインのアルミホイール(サイズ8.5J×18)となる

 ドライブモードを「ダイナミック」に変更する。突如、乗り心地が引き締められる。ショックアブソーバー制御が前後とも特に伸び側の減衰力が上がるために、コーナーでの安定性は高くなり、タイヤのグリップ力をよく活かせる設定になる。当然路面からのショックには素直に反応してゴツゴツとした印象だ。中低速では路面からの突き上げが大きく感じられる。

 操舵力も重くなるが、それに応じてハンドルが元に戻ろうとする力も大きくなるが、操舵の滑らかさはどのドライブモードを選んでも変わらない。街中が主体となる乗り方なら「オート」を選択しておけば、必要に応じてショックアブソーバーの減衰力を選択してくれるので、広い路面速度領域をカバーできる。キックバックも小さくなり「コンフォート」モードに近くなる。メリハリ感は乏しくなってしまうが楽なモードだ。A5ともっと深く付き合いたいと思えばドライブモードを変えればA5 スポーツバックのいろんな面も知ることができる。

 ちなみにドライブモードをエコに相当する「エフィシェンシー」にすると、操舵力も軽くなってアクセルのツキも鈍くなるが、季節のいい時に窓を開けて走るとしっくりくるモードだった。

 トランスミッションはデュアルクラッチの7速S-Tronic。発進時など路面傾斜や段差などがある場面などではトルコンATに比較するとS-tronic特有のモタツキを感じることがあるが、ほとんどの場面でスムーズ。多くのユーザーはデュアルクラッチと気づかない。変速時のマナーがよくステップを細かく刻める7速は小気味よい。郊外を流す時、この滑らかさと節度感がいい意味で「自動車」を認識させてくれる。

 ディーゼルターボは低速からのトルクがあり、街中でも少しのアクセルワークで済み、燃費とドライバビリティに優れている。ディーゼルエンジンのメリットは高速道路の燃費だけではない。低速トルクの大きさは実用域でメリットが大きい。

 ちなみに今回の試乗車はクワトロで出力の大きなエンジンを搭載しているが、FFはさらに世代が進化した12Vマイルドハイブリッドで燃費がさらに向上している120kW/380Nmのエンジンを搭載する。近い将来はこのユニットがクワトロにも搭載されることになるだろう。

 A5 スポーツバックは同時試乗した同じエンジンを積んだA4 アバント クワトロに比べるとボディの剛性バランスと装着タイヤの性格の違いか、A4 アバント クワトロで感じ取った骨太のクワトロ感は薄れるが、乗り心地やハンドリングがマイルドでドライバーやパッセンジャーに寄り添うような優しい印象だった。

 もし意識的に作り上げているとしたら片やデザインに優れた4ドアクーペ、片やユーティリティに優れるツーリングワゴンと性格付けするなど、アウディの深謀遠慮、なかなかやりますな。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:中野英幸