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アウディ、“EV時代のquattro”こと高性能4ドアクーペのEV「e-tron GT」ワールドプレミア

F1世界王者ニコ・ロズベルグ氏が操縦し、フォーミュラEカーと加速競争

2021年2月9日(現地時間) 発表

アウディが正式発表した「RS e-tron GT」。0-100km/h加速は3.3秒を実現し、1回の充電で487kmの航続距離を実現

 ドイツの自動車メーカーであるアウディAGは、4ドアクーペの新型「e-tron GT」のワールドプレミアを2月9日(欧州中央時間、日本時間2月10日未明)にオンラインで開催した。

 2025年にカーボンニュートラル(CO2の排出と吸収が同等になること)を目指しているアウディは、2025年までに30台の電動化車両(うち20台はEV)を投入する計画を明らかにしており、e-tron GTはすでに発表しているSUVクーペの「e-tron Sportback」、SUVスタイルの「e-tron quattro」に次ぐ4ドアクーペスタイルのEV。「e-tron GT quattro」とAudi Sportsが開発したスポーツバージョンとなる「RS e-tron GT」という2つのバージョンがラインアップされた。

 いずれのモデルもフロントおよびリアに電気モーターを配置し、リアモーターは2速トランスミッションを介してトルクをホイールに伝達。e-tron GT quattroは350kW(476PS)、RS e-tron GTは440kW(598PS)で、ブーストモードでは2.5秒の間、それぞれ390kW(530PS)、475kW(646PS)まで最高出力が引き上げられる。0-100km/h加速はe-tron GT quattroが4.1秒、RS e-tron GTが3.3秒とのこと。また、85kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載しており、1回の充電で最大487km(WLTP基準、quattroモデル)の走行が可能になっている。

 ワールドプレミアでは、2016年のF1世界チャンピオンであるニコ・ロズベルグ氏や、イギリスのファッション・デザイナーであるステラ・マッカートニー氏などがゲストとして呼ばれ、同車のサステナビリティ(持続的成長性)などについてアピールが行なわれたほか、ニコ・ロズベルグ氏がRS e-tron GTのステアリングを握り、アウディのフォーミュラE車両(Audi e-tron FE07)との加速競争などが披露された。

Audi e-tron GT world premiere: Celebration of Progress(1時間5分57秒)

EV時代のquattroになるe-tron GT

アウディAG CEO マルクス・ドゥスマン氏

 ワールドプレミアイベントで、アウディAG CEOのマルクス・ドゥスマン氏は「アウディは2025年にカーボンニュートラルを実現する計画だ。それに向けて、2025年までに30車種の電動化車両(筆者注:EV、HV、PHEVなど何らかの電動の動力を搭載した車両のこと)を投入する。そのうち20車種はEVになる計画だ。今回発表するe-tron GTもその中の1つとなる。このe-tron GTは新しいアーキテクチャを採用しており、優れたパワートレーン、そしてインターネットへの常時接続といった新しい自動車の基準を確立する製品」と述べ、アウディが地球環境変動やパリ協定など環境や欧州の各国政府の環境政策に対応するために、カーボンニュートラルの実現に向けて努力を続けており、投入する車両に関しても電動化車両のラインアップを増やしていると強調。e-tron GTがそうした環境への配慮を実現しながら、自動車の新しい基準となるような製品になると述べた。

RS e-tron GT

 技術的な特徴としてはモーターを前後に搭載しており、4輪駆動車であることだ。このため、標準グレードにはアウディ 4WDの象徴的なブランド名である「quattro」が冠されており、同社ではワールドプレミアの中でe-tron GTを「EV時代のquattro」と表現した。また、こうした仕組みを採用することで、前後が50:50の理想的な重量バランスを実現しているという。オプションで4輪操舵を選択することも可能になっている。

RS e-tron GTの0-100km/hの加速は3.3秒

 また、車線逸脱警告システムとクルーズコントロールシステムという2つのドライバー支援機能が標準で搭載されており、「Tour」「City」「Park」という追加パッケージを選択することができる。例えば、Tourにはアダプティブ・クルーズアシスト機能が搭載され、Parkには自動駐車機能が含まれており、購入時に選択することが可能だ。

バッテリーをキャビン下にフラットに搭載する「フラットフロア・アーキテクチャ」

完全にEV化されたRS e-tron GT

 e-tron GTでは、バッテリーをキャビンの下部に搭載する「フラットフロア・アーキテクチャ」というデザインを採用しており、重量物をできるだけ下部に搭載することで、レース車両のような高性能を発揮することができるという。また、ルーフに関してはオプションでCFRP(Carbon Fiber-Reinforced Polymer)を素材として選ぶことが可能になっており、従来のルーフと比較して大幅に重量を削減することが可能になっているという。

 バッテリーは800V/396ポーチセル/33モジュールとなっており、合計容量は85kWh(グロスでは93kWh)。WLTP基準で最大487kmの航続距離を実現している(quattroモデル)。充電は11kWのAC充電が標準だが、発売後には22kWのAC充電にも対応する予定。DC充電は最大270kWに対応可能で、5分間の充電で100km走行できる量の急速充電が可能になっている。

ヘッドライトのデザインも新しい意匠になっている
フロントからリアへのデザイン
右側面
テールランプ
ホイール

 外装デザインもEVを意識したものになっており、EV時代を見据えたアウディの「新しいデザイン哲学」(New Design Language)を反映したデザインとなっている。ボディ全体としては0.24というドラッグの抗力係数(drag coefficient)を実現した空力に配慮したデザインが採用されており、燃費や航続距離の改善によい影響を与えているという。また、ヘッドライトやテールランプも新しいデザインが採用されているほか、19インチ~21インチのホイールを選択することが可能になっている。ボディサイズは4990×1960×1410mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは2900mm。ラゲッジスペースはquattroモデルが405L、RSモデルが366Lとなる。

内装、シートファブリックにはDinamicaを採用
RSモデルでは赤のアクセントが

 内装には再利用可能な素材が使われており、シートには旭化成の「Dinamica」という合成皮革を採用。Dinamicaは、高級車でよく使われているアルカンターラに似たような合成皮革で、一部にリサイクル原料を使用した超極細繊維を選び、石油使用量を減らし二酸化炭素の排出量を抑えた素材になっている。ほかにも、リサイクル可能な素材ができるだけ選ばれており、2025年のカーボンニュートラル実現という同社の目標に対応した設計になっている。

コクピットまわり
MMI navigation plus

 メーターは「アウディ ヴァーチャル コクピット」が採用されており、12.3型の大型ディスプレイを採用したレーシーな雰囲気のメーターパネルになっている。また、IVI(車載情報システム)には「MMI navigation plus」を採用してLTEモデムが内蔵されており、携帯電話回線を介して常時インターネットに接続することができるようになっているほか、内蔵の回線を利用してテザリングすることも可能になっており、乗客が持ち込んだWi-Fiによる通信が可能なデバイスを車両側の回線を利用してインターネットにつなげることもできる。

 アウディの発表によれば、e-tron GTは2月から欧州で先行販売が開始され、価格はe-tron GT quattroは9万9800ユーロ(1ユーロ=127円換算で1267万4600円)から、RS e-tron GTは13万8200ユーロ(同、1755万1400円)からとなっている。日本など欧州以外の地域での販売計画は現時点では明らかにされていない。

F1王者とフォーミュラE王者がRS e-tron GTとレーシングカーで対決

ニコ・ロズベルグ氏

 ワールドプレミアでは2016年のF1世界王者のニコ・ロズベルグ氏、元ビートルズ/ポール・マッカートニー氏の次女でファッションブランド「ステラ・マッカートニー」をグローバルに展開する英国の実業家、ステラ・マッカートニー氏など多数のゲストが招かれ、e-tron GTの性能や持続成長性などに関してのアピールが行なわれた。

 ロズベルグ氏は、アウディがファウンディングパートナーとしても参画している「GREENTECH FESTIVAL」の創始者として参加した。このGREENTECH FESTIVALでは、環境問題を解決するテクノロジーを開発している起業家を支援したり、ベルリンでイベントを開催したりしているが、今回優れた技術を開発しているスタートアップ企業などに賞金を出す「GREEN AWARDS」というコンテストをアウディと共催した。今回の会見の中では、イスラエルのスマートシティの技術を開発している「Zencity」がアワードに選出されたことがロズベルグ氏により明らかにされた。

RS e-tron GTに乗って登場するニコ・ロズベルグ氏
GREEN AWARDSにはイスラエルの「Zencity」が選出された

 また、ロズベルグ氏は同イベント内で流されたビデオにも出演しており、アウディのモータースポーツ部門であるAudi Sportsの本拠地であるノイブルグのテストコースで、2017年のフォーミュラE王者のルーカス・ディ・グラッシ選手とストレートでの加速競争に臨んだ。

 ディ・グラッシ選手はAudi e-tron FE07をドライブし、ロズベルグ氏がRS e-tron GTのプロトタイプをドライブする形で競争が行なわれた。スタートしてすぐはロズベルグ氏のRS e-tron GTがややリードするが、ゴール時にはディ・グラッシ選手のAudi e-tron FE07がわずかにリードしてゴールした。しかし、その差は本当にわずかで、市販車で空力的にも不利なRS e-tron GTがかなり健闘しているという結果になった。なお、その模様は動画として公開されているので、以下を参照していただきたい。

ルーカス・ディ・グラッシ選手(左)とニコ・ロズベルグ氏(右)
2人が乗り込む
スタート
RS e-tron GTがリード
e-tron FE07がわずかにリードだが、ほぼ同着でゴール
Audi e-tron GT world premiere: Sprint of Progress(21分2秒)

 ファッションブランド「ステラ・マッカートニー」をグローバルに展開するステラ・マッカートニー氏は、e-tron GTで使われている再生可能な素材を同氏のファッションブランドでも利用しているなどと説明し、カーボンニュートラルの実現へ向けたアウディの取り組みに共感するなどと説明した。

ステラ・マッカートニー氏