試乗レポート

新技術をふんだんに採用した新型「Sクラス」、ロングツーリングで魅力を探る

リア・アクスルステアリングによる取りまわし性能のよさは大きな美点

ロングボディのS 500に試乗

 メルセデス・ベンツのフラグシップセダン「Sクラス」が新型となった。日本では2021年1月(本国ドイツでは2020年9月)に発表された新型は、Sクラスとして通算7代目を数える。すでに車両概要を紹介する記事が各方面で公開されている中で、本稿では一般道路/高速道路含めた約400kmの試乗に集中してレポートを行ないたい。

 標準ボディとロングボディ、2タイプある新型Sクラスのうち試乗したのはロングボディ。ボディ概要を簡単におさらいすると、全長×全幅×全高は5320(5210)×1930(同)×1505mm(同)、ホイールベースは3215mm(3105)。いずれも「AMGライン」の値で、カッコ内は標準ボディ。

 先代「S 450」が5255(5125)×1900(同)×1495mm(同)、ホイールベースが3165mm(3035)。試乗車の車両重量は2250kgと重量級だが、先代との比較では装備関連を整えた概算値で50kgの微増に留まっている。

 スペックで見る限り、先代比で若干長く、幅広で、高くなっているにも関わらず、見た目は低く、少しだけスマートになった印象を受ける。これは切れ長形状のヘッドライトや偏平グリル、ボンネットフードデザインやフロントウィンドウの形状、ボディサイドのアクセントラインの影響が大きい。

今回は8年ぶりにフルモデルチェンジして1月に発売された、メルセデス・ベンツの新型「Sクラス」に試乗。試乗車は「S 500 4MATIC ロング(ISG搭載モデル)」で、価格は1724万円。ボディサイズは5320×1930×1505mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3215mm
エクステリアでは伝統の「スリーポインテッドスター」が輝くボンネットマスコットを採用し、緩やかな多角形のラジエーターグリルとフロントバンパー下部にクローム仕上げが施された。サイドビューではラインやエッジを大幅に減らし、美しい面の張りや陰影でラグジュアリーを表現。リアエンドには三角形で横に長い特徴的なデザインの2分割型のリアコンビネーションランプを採用した

 搭載エンジンは直列6気筒3.0リッターの48V系ISG付ガソリンエンジンだ。このほか新型導入のタイミングでは、直列6気筒3.0リッター直噴ディーゼルターボ(330PS/700Nm)をラインアップする。駆動方式は全車4MATICを名乗る4輪駆動で、トランスミッションはトルクコンバーター方式の9速ATのみ。

 S 500が搭載するM256型エンジンは、2018年3月に追加された従来型Sクラス「S 450」(367PS/500Nm)が搭載していたエンジンと同系列だ(型式末尾が違う)。

 排出ガスエネルギーを使うターボチャージャー(シングルターボのツインスクロール方式)と、そのターボの過給圧が不足する低回転領域や、アクセルの踏み直した時点でのトルクを補完する電動補助コンプレッサー(Electric Auxiliary Charger以下、eAC)によるダブル過給システムで構成する。このeACは「電動スーパーチャージャー」と呼ばれることもある。

S 500 4MATIC ロングが搭載する直列6気筒DOHC 3.0リッターターボ「M256」型エンジンは、最高出力320kW(435PS)/6100rpm、最大トルク520Nm(53.0kgfm)/1800-5800rpmを発生。WLTCモード燃費は11.0km/L

 新型Sクラスへの搭載にあたっては、同型エンジンを搭載する「メルセデス-AMG E 53 4MATIC+」や「メルセデス-AMG GT E 53 4MATIC+」などと同じく高出力版(435PS/520Nm)に換装され、グレードもS 500に改められた。なお、出力特性の違いはターボチャージャーの大型化と燃料マップマッチングなどECUの変更によるもの。

出だしで分かる滑らかで力強い走り

 地下駐車場から一般道路へ。早くもここで新型の滑らかで力強い走りを体感する。新設計のシート形状、ステアリングに伝わる振動特性の変更、アクセルペダルに対する出力特性の変更、より正確なコントロールができるようになった強力なブレーキシステムなど。これらの変更は新型Sクラスを身体にスッと馴染ませるために採られた策だ。

 メルセデス・ベンツはクラスを問わずシートの調整幅が大きく、調整機構も数多い。新型Sクラスも同様で、いつものように位置調整スイッチは運転席ドア上部にあるので、正しい運転姿勢を保ったまま最適な運転位置の調整が行なえる。ステアリング位置調整スイッチも同じくステアリングコラム左側にあるが、ステアリングヒータースイッチと一体型になった。

ステアリングの位置調整スイッチとともにステアリングヒータースイッチがステアリングコラム左側に用意される

 出力特性の変更。10km/h以下の微速域から50km/h程度までの市街地で多用するスピード領域で本当に扱いやすくなった。タイヤひと転がり目からのトルクが大きく、ゆったりとした走りが堪能できる。

 試乗したロングボディはショーファー利用も多いと予想されるが、そうしたシーンで求められる丁寧な運転操作にもしっかりと応えてくれる。V型8気筒4.0リッターを搭載していた従来型「S 560」からすれば、直列6気筒3.0リッターの新型S 500は心許ないかもしれないが、この速度域での運転感覚はS 560にとても近い。

 これにはeACの効果が大きい。eACは水冷式の電動駆動コンプレッサーで、特徴の1つに反応時間の早さが挙げられる。状況にもよるが、平均して300ミリ秒(0.3秒)以内にタービンは7万回転まで上昇し、その際の過給圧は1.45kPaに達する。これにより、発進加速時に求められる高い過給を生み出している。

 十分な低速域でのトルク特性に合わせて、アクセルペダルのストローク量は新型となって多少増えているようだ。さらにペダルの重さそのものもわずかに軽く(バネ定数が小さく)なっている。新型Sクラスでは、スッとアクセルを踏み込めるものの、ストローク量が増えているので急な加減速にはなりづらく、むしろ右足でのコントロール幅が拡がっているため大パワーながらとても扱いやすい特性として感じられた。

リア・アクスルステアリングによる取りまわし性能のよさは大きな美点

新型Sクラスでは後輪操舵システム「リア・アクスルステアリング」を採用

 取りまわし性能のよさは新型Sクラスの大きな美点。「リア・アクスルステアリング」と名付けられた後輪操舵システムによって、最大で4.5度までの範囲で前輪と逆位相(逆向き)で後輪が操舵する。また、状況によって前輪と同位相(同じ向き)にも最大で3度操舵する。後輪操舵の様子はYouTubeチャンネル「西村直人の乗り物見聞録」を併せてご確認頂きたい。

 具体的には次のモードで操舵方向/操舵角度が異なる。


①「駐車モード」では逆位相/最大4.5度。
②「シティモード」では約60km/h以下で逆位相/最大4.5度。
③「高速モード」では120km/h以上で同位相/2.5度。
④「ドライビングダイナミクスモード」では約60~120km/h以下で同位相または逆位相/3度。


 後輪操舵システムといえば、日産「スカイライン」が7代目で採用した「HICAS/ハイキャス」が世界初の量産型システムとして有名で、その後、国内メーカーではホンダ、マツダ、三菱自動車なども追従した。

 メルセデス・ベンツでは大型なボディの新型Sクラスに、駐車場や狭い路地での取りまわし性能を大きく向上させることを第1の目的として、早められたステアリングのギヤレシオと共にリア・アクスルステアリングを搭載した。

 新型は最小回転半径を左右するホイールベースがロングボディで50mm(標準ボディで70mm)延びているにも関わらず、従来型ロングの5.7mから、新型ロングでは5.5mへと0.2m短縮させた。ちなみに標準ボディでは、従来型5.5mに対して新型は5.4m。値にすればわずか0.2m(標準ボディ0.1m)だが、新型Sクラスの停止時~低速域におけるステアリングのロック・トゥ・ロックは約2回転とクラスの平均から30%以上も小さい。

 よって、狭い道での取りまわしでも落ち着いてステアリング操作ができる。つまり、日常走行時に多用するコブシ1つ分のステアリング操作であっても、リア・アクスルステアリングの効果は十分に体感できるため、ロングボディであっても取りまわしは従来型の標準ボディと同等なのだ。

 しかも、単に値が減っただけでなく、ボディサイズが小さくなったかのように思わせる扱いやすいさがある。新型Sクラスの試乗にはボディサイズの小さな「C 200」(最小回転半径5.2m/ロック・トゥ・ロック約2.7回転)を同行させたのだが、狭い路地を2台で乗り比べてみるとリア・アクスルステアリングの効果はとても大きく、Cクラスとほぼタイミングでステアリングを切り始め/切り戻すことができる。

 確かにボディは大きいがUターンが躊躇なくできるし、開始位置さえ適正であれば切り返しも不要。狭い場所での駐車は心理的にも楽だった。細かく見ると、新型ではタイヤも大径化(直径で8mm程度)されているが、オーバーハングは従来型とほぼ変わらない。また、運転席からの見切りがいいことも取りまわし性能を向上させている。

 ちなみに本国仕様では、自動化レベル4相当の自動駐車(バレーパーク)機能により最大で10度までの範囲で逆位相したり、駐車モードでは大きく同位相することで駐車/発進を大きくサポートしたりする。これらは日本仕様にはない機能だが、受容性の高まりとともに、ぜひとも導入して欲しい機能だ。

 第2の目的は走行性能の向上だ。②シティモードと④「ドライビングダイナミクスモード」によって曲率のきついカーブでもすんなり走れるし、4輪の接地能力が高められるので雨天の高速道路であっても安心してステアリングを握っていられた。

 ドライバーのウインカー操作をきっかけに車線変更をアシストする「アクティブレーンチェンジングアシスト」機能においても、リア・アクスルステアリングの効果は大きい。「西村直人の乗り物見聞録」では360度カメラを用い、60秒でアクティブレーンチェンジングアシストの作動を紹介している。ウィンカー操作後にステアリングが動き出すタイミングや、車線変更を開始する際のディスプレイ表示など併せてご確認いただきたい。

先進安全装備はどうか?

 それにしてもスゴいのは、まるでスポーツモデルのようにZ軸まわりの慣性モーメントが小さく感じられることだ。車両重量は2250kgもあるため、実際にはスポーツモデルほど限界性能は高くないが、車体と身体の一体感は天地、左右方向ともに高く、カーブ走行中の安心感は絶大だった。

 せっかくの機会なので後席で山道を体験してみたのだが、カーブへの進入から旋回、脱出に至るまでドライバーのステアリング操作に対して遅れなく横Gが発生し、消滅していく。分かりやすくいえば、後席にいるのに助手席にいる感覚に近いのだ。リラックスしたシートポジションなのに、身体は磁石で吸い寄せられるかのようにシートに終始密着する。なんとも不思議な感覚だ。

後席で山道を体験

 また、リア・アクスルステアリングと共に早められたステアリングのギヤレシオのコンビネーションは、先進安全技術の分野でも大きな機能向上が望める。これが採用した第3の目的だと筆者は考えている。

 たとえば、車両や横断歩行者をドライバーのステアリング操作をきっかけに回避を補助する「緊急回避補助システム」もその1つ。ドライバーのステアリング操作による回避と、その後のシステムによる回避後のサポート(例:回避した後にステアリングを戻して対向車線への飛び出しを抑制)の両面で素早い車両の反応が期待できる。

 単にタイヤの横方向グリップ任せの回避ではなく、摩擦円をはじめとしたタイヤの性能をまんべんなく使って車体を素早く回避させるという考え方は、この先の業界標準になるのではないか。すべりやすい路面での回避性能を1%でも上げるには、こうして持てる性能をフルに発揮させることが重要になってくる。

 高速道路ではACC機能である「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」と、車線中央維持(LK)機能である「アクティブステアリングアシスト」の改善も体感できた。

 資料の上では「停止している先行車の検知が100km/hまで可能になり、360度カメラシステムによる車線認識機能を追加し、対応が可能なカーブを増やして、高速道路上で今まで以上に精密に車線中央を維持」云々とあるが、筆者としてはシステムとの協調運転領域が格段に増えたことで、自車周囲の交通状況に一層気を配ることができ、結果的に安全で快適な移動ができることになったと感じた。

 中でもLK機能の向上は目覚ましく、明確なステアリングアシスト力による車線維持が行なわれる。試乗は雨天で夜間にも及んだが、目視では車線の白線や黄線が見えにくい状況でもしっかり認識していたようで、LK機能は途切れなかった。

 ちなみに、白線や黄線を一時的に認識できずLK機能が途切れた段階は、ACC機能のみ残るので自動化レベル1での運転支援走行。そしてLK機能が復活した際に自動化レベル2に戻る。実際の運転環境ではこのように、自車周囲の状況に応じて、自動化レベルは行ったり来たりする。

 日本に導入された新型Sクラスは現時点で自動化レベル2の技術に留まるが、本国ではレベル3相当の技術を紹介するメルセデス・ベンツの公式動画が公開されているので、いずれ日本にもレベル3が導入されると予想できる。

 それだけに、ドライバーのシステムに対する過信のコントロール(抑制策)は万全で、ステアリング前の12.3インチディスプレイ上部に設けられた2つの赤外線方式ドライバーモニターカメラ(2個)でのモニタリングによって、正しい運転姿勢でない場合は、ディスプレイに「正しい位置で運転せよ」といった趣旨の表示が頻繁になされる。

 それでもシステムからの要請に従わない、もしくは体調に異変をきたして従えない状況が続くと、いわゆる緊急停止機能であるドライバー異常時対応システム「アクティブエマージェンシーストップアシスト」が働く。同機能は従来、ACC&LK機能が働いていることが作動条件だったが、新型Sクラスでは守備範囲を拡げ、これらの運転支援機能を使っていない状態であっても働くようになった。

MBUXも進化

新型Sクラスではセンターコンソール上部に12.8インチの有機ELメディアディスプレイを採用。このディスプレイに多くの機能を集約することでスイッチ類を減らし、シンプルでクリーンな仕上げとした

 車内環境も大きくも進化した。ユーザーインターフェイスとして新採用の12.8インチ縦型タッチ式センターディスプレイに、従来からの音声による対話型インフォテイメントシステム「MBUX」が組み合わされたことで、停車/運転中、いずれの環境でもドライバーや同乗者との意思疎通が図れる。じつに筆者好みだ。

「Hi, Mercedes」のコマンドで起動するMBUXの制御ロジックに変更はないものの、その後に受け付けてくれる語彙が増え、曖昧な言葉の認識率も向上して実用的になった。発話者の「目的地」「目的地設定」などの言葉から意図するコマンドを絞り込み、次の発話を聞き漏らさないようスタンバイしてくれる。筆者がボイスコントロールに慣れていることもあるが、目的地設定、シートヒーター(ステアリングヒーター)のON/OFF、温度調整など、頻繁に使う機能は100%正しく認識。マイケル・ナイトにちょっとだけ近づいた気分だ。

 また、発話者がどの位置に座っているかも認識し、たとえば助手席や後席で発話すれば、その発話者が聞き取りやすい音像定位に音声を調整するなど、あらゆる面でシステムとの意思疎通が図りやすかった。

新型Sクラスのシートは人間工学を考慮し、心地よく、疲労しにくいようにデザイン。後席の快適性はさらに磨きをかけ、新たに左右のシートにヒーター機能付きの調整可能な追加ヘッドレストクッションなどを採用
ロングにオプション装備となる「リアシートコンフォートパッケージ」を選択すると、助手席シートをショーファーポジションへ電動で移動させることができるとともに、助手席側後席のシートに最大43.5度リクライニングが可能なフットレスト付きエグゼクティブリアシートが装備される。大型化されたフットレストは位置調整範囲が10mm拡大したほか、レッグレストの調整範囲が先代比で約50mm拡大されている

 この縦型センターディスプレイには「Eクラス」から採用がはじまったARナビゲーションシステムが映し出される。さらに新型Sクラスでは、ヘッドアップディスプレイにもARとして表示可能。フロントウィンドウ越し約10m先に矢印が表われ、適宜、その大きさや向きが変わるため案内がとても分かりやすかった。

縦型センターディスプレイの表示例
新型Sクラスはドライバーの顔、指紋、声といった生態認証での認証が可能で、いずれか1種類の認証によりシート、ステアリング、サイドミラーのポジションやコクピットディスプレイの表示スタイル、ペアリングした携帯情報端末、ナビゲーションのお気に入り設定などを統合して読み込むことが可能

 ただ、新しいユーザーインターフェイスでは気になる点も……。その1つが、ステアリング前方に配置された12.3インチディスプレイ操作用に設けられたステアリング右側スイッチ(左右対称の左側スイッチは12.8インチ縦型タッチ式センターディスプレイの操作用)だ。右スイッチ上部は、左がホームボタン、中央がOK&十字ボタン、右が戻るボタンなのだが、中央の十字ボタンだけ反応がとても鈍い。

 このボタンはステアリングを握った状態で、右手親指上部の左側で操作することが多くなるのだが、その状態での操作は受け付けられないことが多い。試しに右手をステアリングから少しだけ放して指の腹でゆっくりなぞると、今度は100%しっかり反応する。

 どうやら筆者の掌や指の長さが操作要件に足りないため、指上部の左側だけの接触操作では反応が鈍ってしまう。また、「押す」と「なぞる」が1つのボタンであることも、認識率に影響を及ぼす要因だろう。

ステアリングの左右にレイアウトされるスイッチ類

 このほか、これまでシート型の物理スイッチを指で動かす方式だったシート調整機構は、新型Sクラスからタッチ方式になった。また、メモリーシート機構やドアミラーの調整機構にしても、1枚の樹脂パネルに対し角度を付けて押すタッチ方式へと変更を受けた。いずれも慣れの問題とはいえ、今回の試乗中、筆者は誤操作を繰り返しブラインドタッチでは最後まで一発で正しく操作することができなかった。

シート調整機構は新型Sクラスからタッチ方式に

 これらのスイッチは現存するパワーウィンドウのスイッチと同じく、やはり個別の物理スイッチが最適で押し間違いがない。同行させたCクラスは物理スイッチを数多く残すが、2021年3月に本国で発表となった新型Cクラスではセンサー方式の採用が随所に見られる。さて、この先はどうなるのか……。

人に寄り添う技術の数々を大切にするメルセデス・ベンツ

 ロングボディなので山道だけでなく、一般道路や高速道路でも後席試乗を行なった。リアコンフォートパッケージを装着していた右ハンドル仕様の試乗車では、後席左側がフットレスト付きエグゼクティブリアシートとなり、ショーファーポジションスイッチを機能させると43.5度バックレストが倒れ、フットレストが活用できる。従来型にも設定されていた同様のシートポジションだが、新型では空間が広がり、調整幅も拡がっている。全面合わせガラスと相まって静粛性も高かった。

 しかも、単なるリラックスモードではなく、ショーファーポジションであっても走行中の身体はシートに沈み込み、しっかりとホールドされてためクルマ酔いを誘発しにくい。さらに万が一の衝突時には世界初採用の「リアエアバッグ」と、従来型から採用されているシートベルト内蔵エアバッグ「ベルトバッグ」や、シート座面が持ち上がり身体が前のめりになることを抑える「クッションエアバッグ」などが安全性を高めてくれる。

 新型Sクラスは、新世代のフラグシップモデルにふさわしく、走行性能、安全性能、前/後席での快適性などいずれも高く、誇れるものだった。また、先進安全技術の領域では改めてメルセデス・ベンツの考えるドライバーとの協調機能に共感するところも多い。

 新しい技術をふんだんに採用した新型Sクラスだが、いずれも使い勝手を向上させるために導入されたものばかり。本国仕様ではLEDを多用したヘッドライト「DIGITAL ライト」を使って、進行方向の道路情報を路面に映し出すなどの新機能が織り込まれた。演出方法は変わったが、人に寄り添う技術の数々を大切にするあたり、じつにメルセデス・ベンツらしい。

 最後に燃費性能について。計測は都内から都市高速を経由して、東名高速道路と新東名高速道路で西へ移動。高速道路と一般道路の割合は約8:2で、標高はスタート地点が31.1mでゴール地点が276.2m。平均車速54km/hで175km走り、13.1km/L(176.2kg-CO2/km)だった。アップダウンの激しいルートにしては優秀な部類だ。ちなみに、高速道路における平均車速87km/hでの燃費数値は20.7km/L(112.1g-CO2/km)と計測区間に下り勾配が続いたことも重なり、WLTC-Hの13.7km/Lの151%を記録した。

平均車速54km/hで175km走り、平均燃費は13.1km/Lだった
高速道路における平均車速87km/hでの燃費数値は20.7km/L
西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:中野英幸