試乗レポート

ホンダ、初代シビックの“Road Sailing”性能を味わってみた

初代シビック

 1972年に記念すべき初代シビック「SB1」が誕生した。コンパクトカーにもFRが当たり前だった時代にホンダは居住空間を広くとれ、パワートレーンを最少に収めるマン・マキシマム/メカニズム・ミニマムの思想を見ることができ、ホンダならではのクルマづくりは都市圏の若い世代から人気が広がっていった。

 折からのクリーンな排出ガスを求めた厳しい北米のマスキー法。そして中東戦争による燃料の高騰とそれに伴う低燃費化がシビックの時代だった。

 トピックスは副燃焼室を持ったCVCCエンジンを開発し、無理と思われていた排出ガスのクリーン化に世界で初めて成功して世界に旋風を巻き起こしたことだった。実際にシビックにCVCCが搭載されたのは1973年の暮れからで、1.5リッターにCVCC仕様があった。

 一方、ホンダと言えばF1やスポーツカーといった高性能車のイメージが強く、シビックにもスポーツモデルを待望する声が高かった。

 その声に応えるようにRSの呼称がつけられ、軽くチューニングされたスポーティモデルモデルが追加されたのは1974年のことだった。

 当時、ホンダからのリリースにあったRSの文字が真っ先に頭に飛び込んできて、すわRacing Sportsかと意気込んだものの、Road Sailingの略だと言われて肩透かしを食った覚えがある。まだレーシングの単語を使うのは社会的に抵抗があった時代だったのだ。それでもRSはホンダの走りへのこだわりが滲み出たモデルでもあった。

初代シビック。1972年9月に発表され、1979年6月に終了となった。1979年6月現在のRSのボディサイズは3650×1505×1320mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2200mm。車両重量は2ドアモデルは695kg、3ドアモデルは10kg重い705kg

 今回久々のRSとの邂逅だった。ホンダ広報が用意してくれた9代目までの一連のシビックの初代シビックを代表してスタンバイしたのがRSだったのだ。

 当時の鮮烈だったオレンジのカラーは曇天の中でも新車の如く輝いており、まるで今ラインオフしたようだった。見事にレストアされたRSは外装もちろん、内装も完璧で古いクルマにありがちなガタピシャと開閉するドアではなく、しっかりとした立て付けに感心する。

 室内もシンプルで広々としたデザイン。ドライバー正面にはインパネに乗せられたメーターボックスがあり、6500rpmからレッドゾーンの回転計と180km/hまでの速度計が収まっている。ダッシュパネルには燃料計と水温計。少し離れて時計が配置され、当時のスタンダードだが見やすい。時代を感じさせるのは蓋つきの大きな灰皿があることだ。タバコ飲みがいかに多かったことか。横レバー式のヒーターやプッシュボタンのラジオも懐かしい。さらにチョークを見るのも久しぶりだ。

インパネ
シート

 RSに搭載された1.2リッターSOHCエンジンはオートバイメーカーならではのCV型ツインキャブレター装備で、出力は69PSから76PSにパワーアップされた。そして重量はなんと695㎏と今となっては驚きの軽量ぶりだ。

最高出力76PS/6000rpm、最大トルク10.3kgfm/4000rpmを発生する直列4気筒1.2リッターエンジンを搭載

 チョークを引くまでもなく、すでに暖気は終わっておりいつでも走り出せる。アイドリングはキャブらしい鼓動を保ちつつ安定して回り、調子はすこぶるよい。

 トランスミッションはシビック初の5速MTでフロアから長いレバーで操作するが、リンケージのガタもなくスムーズに入る。クラッチの踏力も軽くてミートタイミングも適度に広い。

 ハンドルはパワーアシストがない時代だが、155SR13のタイヤで操舵力は少し重い程度。2本スポークのウッドハンドル径も適度だ。そしてニュートラル付近のガタもほとんどなく、このダイレクト感がシビックの持ち味だった。

 走り出すとRSが体になじんでいくのが分かる。発売当時のRSを見事に再現しており、エンジンは軽くそして粘り強く回転を上げていき、中間回転域のレスポンスも素直にアクセルについてくる。現在のエンジンのようなパワフルで硬質な回り方ではないが、キャブレター時代のどこかノスタルジックな軽快さが心地よい。アクセルのON/OFFでのピッチングも適度にあって、コーナーもリズムよく走れる。

 4輪ストラットのサスペンションはRSでは少し固められていることもあり、ハンドル応答性とロールのバランスがとれて、コーナーも気持ちよくトレースしていく。スポーティモデルらしいフットワークのよさだ。

 それでいて、スポーツカーのようなある種の緊張感を伴うシャープなハンドル応答性や鋭いエンジンのピックアップとは違った、ほのぼのとした味を持っている。

 RSをRoad Sailingとネーミングしたのは確かに絶妙だ。サーキットで楽しいというよりも適度のペースで走るのにちょうどいい心地よさを持ち味としており、サスペンションとエンジンのチューニングがジャストバランスだ。当時RSを選んだドライバーはきっとドライブが楽しかったに違いない。そして素晴らしいコンディションを維持し、試乗に供してくれたホンダに心から感謝したい。

 一方でモアパワーを欲したドライバーにはもう少し後の3代目ワンダーシビックSiに搭載されたツインカム、ZC型まで待つことになる。初代からのロングストロークを受け継ぎながら高回転まで切れ目なく回ったエンジンも思い出深かった。

3代目の“ワンダーシビック”
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。