試乗レポート

ボルボ「XC60」「XC90」、一新したプラグインハイブリッドパワートレーンを試す

2016年から導入が開始されたボルボのプラグインハイブリッドが初の大幅刷新

パワートレーンを一新したプラグインハイブリッドシリーズ

 最近、街でボルボをよく見る。ワゴンはワゴンらしく、SUVはSUVらしいシンプルで清楚な北欧らしいデザインが受け入れられている。ジワジワと販売台数を伸ばし、日本の輸入車ランキングにおいてブランド別では“御三家”に肉薄するほどの人気だ。

 現在の「XC60」は48VマイルドハイブリッドのB5とハイパワー版のB6、それにプラグインハイブリッドがラインアップされる。そのプラグインハイブリッドは2022年の初めにバッテリの容量アップなどでEVとして走れる距離が大幅に伸びた。

 発表以来時間が経過したが、新しいプラグインハイブリッドを改めてレポートする。システムはフロントにエンジンと駆動用モーターを組み合わせたハイブリッドで、リア駆動は独立したモーター駆動のAWDとなる。

 リニューアルされた駆動用バッテリは、96セル11.6kWhから102セル18.8kWhとセルの技術革新もあり60%もの大幅な容量アップがされたが、サイズは従来通りで車内スペースは変わりがない。また、駆動用モーターもフロントは34KWから52kW、リアは65kWから107kWと出力がアップされた。

 エンジンは従来のXC60プラグインハイブリッドはT8仕様で233kWの出力を発生する2.0リッター直噴ターボ+スーパーチャージャーのユニットだったが、新しいプラグインハイブリッドはT6仕様となりスーパーチャージャーを外した2.0リッター直噴ターボとなった。出力は186kW(253PS)/350Nmだが、駆動用モーターが出力アップされており、遜色ない加速力と発進時の高いレスポンスを誇る。両モデルともスタータージェネレーター(CISG)を組み合わせたハイブリッド構造をとる。また、バッテリの容量アップによりEVでの航続距離は41kmから81kmと倍になっており、近隣の移動ではバッテリ走行だけでカバーできる。

撮影車は「XC60 Recharge Plug-in hybrid T6 AWD Inscription」(934万円)。ボディサイズは4710×1900×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2865mm。足下は20インチアルミホイールにミシュラン「プライマシー4」(255/45R20)をセット
T6仕様の直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは最高出力186kW(253PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/2500-5000rpmを発生。モーター出力はフロントが52kW/165Nm、リアが107kW/309Nm
XC60 Recharge Plug-in hybrid T6 AWD Inscriptionのインテリア
XC60ではGoogleを搭載したAndroidベースの新しいインフォテイメント・システムを採用。Googleアシスタントによる自然で直感的な音声操作、緊急通報サービスや故障通報サービスなどと連携する「Volvo Cars app(テレマティクス・サービス/ボルボ・カーズ・アプリ)」などが利用可能

 XC60にはドライブモードが5つあり、①エンジンとモーターを効率よく使うHybrid、②ハンドルの操舵力とサスペンションの硬さを変えてアクセルレスポンスも向上させるPower、③バッテリを主体とした走行とするPure、④トルク配分を悪路でも適正化して走行するOff-road、⑤滑りやすい悪路で強力な駆動力を得られるConstantAWDとなる。

 通常はHybridモードを選べば走行状態に応じた最適な動力を選択してくれるので、日常ではあえて他のモードを選択する必要はない。基本的にはEV走行主体で高速域までエンジンが始動するチャンスは少ないが、強くアクセルを踏むとエンジンが始動して加速する。そのエンジン始動は振動も音もキャビンにはかすかに伝わってくるに過ぎない。

 EV走行はWLTCモードで81kmと長いが、高速域主体では電力消費が大きくなり、50kmほどでバッテリ残量がエンプティに近くなった。PHEVは家庭電源をうまく使えばEV走行を主体としてガソリン消費を抑えられる。

 インフォテイメントはGoogleを使っており、ナビなどの呼び出しも簡単で早い。音声認識が素晴らしく向上しており、使い勝手は抜群だった。ボルボのインフォテイメントも着実に進化している。

こちらは「XC90 Recharge Plug-in hybrid T8 AWD Inscription」(1169万円)。ボディサイズは4950×1960×1775mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2985mm
T8仕様の直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンは最高出力233kW(317PS)/6000rpm、最大トルク400Nm(40.8kgfm)/3000-5400rpmを発生。モーター出力は先のT6仕様と同じくフロントが52kW/165Nm、リアが107kW/309Nm
XC90は3列シートレイアウトを採用

ドライバーとのリズム感がよく合うXC60

 さて、試乗した「XC60 Recharge Plug-in hybrid T6 AWD Inscription」の発進はジワリとしたアクセルで微速走行をしたいようなケースでも正確に反応する。そして発進からの加速力は高く、2180kgの重量を自在に、そして粛々と運んでくれる。その後の加速力も滑らかに伸びてゆく。また、高速道路の合流などアクセルを踏み込んだ時の瞬発力はなかなか鋭い。このパワーユニットは登坂のきつい箱根の山道で力不足を感じることは一度もなかった。

 トランスミッションは8速AT。Powerモードでエンジン主体の走行をした場合、低回転で変速を繰り返し、ショックなく流れるように速度を上げていく。

 T6 PHEVはエアサス仕様で車高は30mmほど上げられる。低速走行での悪路や積雪でのフロア干渉をかなり低減することができるが、ノーマル状態でも最低地上高は210mmあり、通常の悪路走行にも干渉は少ない。高速巡航性は全高が1660mmのSUVだけに地を這うように、というわけにはいかないがドッシリとしており横風でも安定感は高い。

 またハンドルを握ると操舵力の適切さ、ハンドル切り始めの素直さ、コーナーでの姿勢安定性など、どのシーンでも手になじむしっとりとした手応えは安心感を呼ぶ。ツイスティな箱根の山道もリズムよく走れ、そのあたりは「V60」よりも上かもしれない。前後荷重はフロント1170kg、リア1010kgと53:47という比較的良好な荷重配分も効果的に働いている。ドライバーとのリズム感がよく合うSUVだ。

 また最小回転半径は5.7mで決して小さくないが、ヒップポイントが高いこともあり、小まわりが効くように感じられる。実際にハンドルの切れ角も大きく、4710×1900×1660mm(全長×全幅×全高)というサイズのわりには意外なほど取りまわしはいい。

 乗り心地は路面から衝撃をよく吸収するが、完全にフラットな姿勢ではなく路面タッチを把握しやすい感触だ。大きなシートは微小な突き上げをカットしてくれ、不快感のない乗り心地に仕上がっている。

 静粛性の高さにも触れておこう。ロードノイズは伝わってくるが、ラゲッジルームからのノイズ、共振伝は小さく音圧はかなり低い。オプションのBowers&Wilkinsオーディオはかなり深度のある音で、クリアできれいな音を楽しめる。

 ちなみにPureモードはよほどアクセルを強く踏み込まない限りエンジンが始動しないEVモードなので、市街地走行に向いている。もっともHybridモードも基本的にEV走行主体なので、今回の試乗ではPureモードの必要性はあまり感じなかった。

威風堂々とした高速巡航がふさわしいXC90

 一方の「XC90 Recharge Plug-in hybrid T8 AWD Inscription」も同じくロングレンジ・プラグインハイブリッドAWDだが、駆動モーターの出力が上がっており、スタート時には電気の特性を生かした高いトルクでアクセルの応答性が優れている。これまでT8には2.0リッターターボ+スーパーチャージャーが装着されていたが、大きくなったモーター出力でスーパーチャージャーが取り外された、それでもアクセルを強く踏んだ時の加速の鋭さはこれまでのスーパーチャジャー付きと変わらない。

 XC90のボディサイズは4950×1960×1775mm(全長×全幅×全高)と大柄だが、ハンドルを握るとそれほどの大きさは感じないのはXC60と同じだ。むしろビッグなサイズによるドッシリとした走りがXC90の持ち味だ。

 スタートからバッテリだけで粛々と走るが、エンジン始動の際も音、振動はほとんど感じないのはさすがプレミアムSUV。アクセルを強く踏むとバッテリマークからガソリンマークに変わり、パワフルな加速力を示す。さすがにボルボの旗艦モデルだけあって重量感のある加速は頼もしい。ハンドリングもサイズのわりには追従性に優れている。

 ただ、軽快さにおいてはワンサイズ小さいXC60に分がある。XC90は山道を軽快に、というよりも威風堂々とした高速巡航がふさわしい。EVでの航続距離は73kmとされているので、自宅から隣の街まで電気だけで走れそうだ。

 特筆すべきは2985mmのロングホイールべースを生かして輸入車には珍しい有効なサードシートを備えることもXC90の強みだ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:高橋 学