試乗レポート

九州 長崎で感じたボルボ「XC60 B6」(48Vマイルドハイブリッド)の魅力

福岡を起点に長崎県平戸市までドライブ

 前回の仙台に続き、ボルボでの次の旅の行き先は九州。福岡を起点としてどこへ行くかは自由な旅だ。幸い長かった梅雨も明けた。われわれが選んだのは長崎県平戸市。フランシスコ・ザビエルが上陸したのが戦国時代の平戸だった、と言うことぐらいしか知識がなく、地図を見ると平戸は福岡から西、佐賀県を越えた長崎の北に位置していた。ザビエルはここに上陸したのかと歴史の教科書を思い出してみるが、ザビエルの肖像画しか思い浮かばない。自分の知らない土地に行くのは期待が膨らむ。

 今回われわれを運んでくれたのは「XC60 B6 AWD R-Design」。ボルボの各シリーズの中でも人気のSUVである。博多駅近くの狭い駐車場ではさすがに1915mmの幅を感じたが、街中に乗り出すとむしろフットワークよく走る。全長は4690mmで、同じエンジンを積むステーションワゴンのV60よりも短いことが機動性にもつながっている。

 最小回転半径は5.7m。ホイールベース2865mmにR-Designは255/40ZR21という大径タイヤを装着している。思っていたよりも小まわりは効いたので、狭いところでも最後のハンドルのひと操作でクルリと回転できた。

今回試乗したのはプレミアム・ミッドサイズSUV「XC60」の「XC60 B6 AWD R-Design」(799万円)。ボルボは2020年8月に「XC40」「XC60」「XC90」のパワートレーンを一新しており、プラグインハイブリッドモデル以外の全車両を48Vハイブリッドモデルとすることで内燃機関のみを搭載するモデルを廃止。撮影車のボディサイズは4690×1915×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2865mm

 パワートレーンは大きく変わっている。マイルドハイブリッド化される前のXC60には今回のB6に相当するT6と呼称されるグレードがあり、過給機はスーパーチャージャーとターボの2つを組み合せて低回転からのアクセルの反応にも優れた出力特性を誇っていた。48VマイルドハイブリッドのB6では、スーパーチャージャーの代わりに電動コンプレッサーを持ち低回転での出力をサポートする。

 こちらのモーター出力は10kW/40Nmで、リチウムイオンバッテリーは10Ahの容量を持つ。ストロングハイブリッドのような出力はないが、内燃機の苦手な低回転での出力を援護し、燃費向上だけでなく滑らかな加速にも貢献する。AWDのリア駆動はPHEVのような電動モーターによるものではなく、エンジンからのトルクをクラッチでコントロールして後輪に伝える電子制御AWDとなっている。

B6は常用域での燃費向上と上質なドライビングフィールを実現する48Vハイブリッドテクノロジーを搭載し、ターボチャージャーに加えて低回転域でのレスポンスに優れる電動スーパーチャージャーを装着。最高出力は220kW(300PS)/5400rpm、最大トルクは420Nm(42.8kgfm)/2100-4800rpmを発生。モーター出力は10kW/3000rpm、40Nm/2250rpmとなっている

 ボルボとの旅でいつも思うのは、ゆとりのある大きなシートとクリーンに行き届いたデザインでロングドライブでもキャビンに飽きがこないことだ。ドライバーもパイロットアシストのおかげで退屈しがちな高速道路も気持ちに余裕をもって走れる。

 今回の旅では後席にも同乗したが、明るく視界もよく驚くほど開放感がある。オプションになるが、パノラマ・ガラス・サンルーフのシェードを開くと一気に明るくなり、上に広がる雲を眺めながらのドライブには特等席になる。

上質でクリーンなデザインのインテリア。ドライブモードは「Eco」「Comfort」「Individual」「Dynamic」「Off Road」の5モードが用意される

 さて、48Vマイルドハイブリッドは発進時のスタートも滑らかでさりげなく速度に乗る。発進時にガソリンエンジンでは不可避的に伴う振動もほぼない。T6のエンジン振動も小さかったが、B6では一層小さくなった。加速力が必要な場面、例えば高速道路の合流などでアクセルを深く踏むと、220kW/420Nmの実力は数字どおり2t近いボディを軽々と制限速度まで運んでしまう。柔軟性と硬派な加速を併せ持つパワーユニットになっている。急激なアクセルワークでも強大なグリップを持つタイヤと巧妙なAWDシステムのおかげで、大トルクをしっかりと受け止め安定感は抜群だ。

 静粛性ではタイヤサイズが大きいこともあってロードノイズを少し伝えるが、遮音性は高く前後席の会話は自然と弾む。乗り心地はR-Designは硬めの設定で、タイヤの縦バネも強い。前席に比べて後席では突き上げ感があるが、ボルボのシートはクッションストロークもあり前後席とも身体を巧く支えてくれるのがありがたい。

 一方、ハンドリングは背の高いSUVではロールが大きく、動きも鈍いのが通例だが、B6 AWD R-Designではハンドルを切ればスーっと曲がってレスポンスも早い。また、ハンドルを切り返すような場面でも追従性は高くSUVとしてはキビキビ感がある。それも過敏にならないのがボルボらしい。

多くのユーザーの共感を得ている理由

 さて、平戸までは高速道が主体で少し荒れた郊外路も走行した。広い室内はどのシートにもかかわらず快適だ。目的地の平戸島は松浦市から平戸大橋で連結されており、橋を渡ると雰囲気も変わる。やがて平戸城の天守閣を右手に見ながら昔の風情を残した城下町に入る。平戸の道は狭い。写真撮影のためにUターンするのも躊躇されるが、小まわりと視界のよさで何とかクリア。残念ながら時間の関係で市街をゆっくり見てまわることはできなかったが、名所旧跡がコンパクトにまとまっており、歩いてまわるにはちょうどいい広さだと感じた。

平戸大橋を渡り平戸島に入ると、平戸城や城下町がある一方で平戸オランダ商館や平戸ザビエル記念教会など、異国情緒を感じられるスポットが点在する

 クルマならではの旅は平戸島の北西にある生月島まで足を伸ばせることで、美しい橋を渡ると平戸牛がノンビリと草を食む丘が広がっていた。道は相変わらず狭いが、島の西側を走る海を下に見るルートは爽快だ。ウネリやギャップのあるルートだったがシャシーはしっかりと路面を捉え、ハンドルに伝わる感触もしっくりしてリラックスして手を添えているだけでよい。

 AWDはボルボにとって第5世代のアクティブ・オン・デマンドで、乾燥路面でのクルージングではトルクはほぼ前輪に伝わる。また必要に応じてリアには最大50%のトルクが分配されるが、後輪が滑りやすい状況に陥った時に限られる。これらの動きは連続的に行なわれるのでドライバーがそれと気づくことはない。

 ブレーキはバイ・ワイヤ。ペダルに足を乗せた時にブレーキペダルのコントロールに幅があり扱いやすかった。制動力は下り坂の反復制動ではフェードも心配になるが、2tの重量に対しては妥当なところだと思う。

 どこでも行けそうな頼もしいXC60に気をよくして棚田の脇まで行ってみた。残念ながら水を張った季節は過ぎてしまったが、美しい曲線が織りなす棚田の片鱗を見ることができたのはちょっと嬉しかった。アクセル開度の小さい微低速からジワリとした発進もコントロールしやすく、ジワジワと登れて山の上にも行けそうだが路は軽4輪サイズ。怖気づいて諦めた。

 帰路でも通過する松浦は鯵フライの生産量で日本一と言われ、心惹かれたが帰りの飛行機が気になって急ぎ高速道路に乗る。またもやパイロットアシストに頼ってクルージングするが、加減速のないこんな場面では気筒休止も行なっているはず。しかしいくら注意しても全く分からない。粛々と巡行するだけである。

 燃費はWLTCモードで11.1km/Lとなっている。実際の今回のツーリングでは燃費計は10.5km/Lを指していた。大きなSUVとしてはわるくない数字ではなかろうか。楽しい旅はあっという間に終わってしまった。

 ボルボの中核モデルとなったXC60。ちょっとしたロングドライブに同行して多くのユーザーの共感を得ている理由にさらに深く触れることができた。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛