試乗レポート

ランドローバー「ディフェンダー 90」がちょっとしたオフロードをワクワクする冒険に変える!

愛らしいルックスと高い走破性を兼ね備え、抜群の“コスパ”を誇るモデル

 ランドローバー「ディフェンダー」は、いま最もいいタイミングで登場したクルマのひとつだ。

 この数年間でピープルムーバーの流行はミニバンからSUVへと移行し、人々の目も都会から広々とした郊外へと向いて、キャンプやワーケーション、さらには移住の需要までもが急速に高まった。

 日本経済の行方やCOVID-19の収束が未だ不透明なことは喜べないが、これらの閉塞感を打破するという点でも、クロスカントリー4WDは“強さ”をイメージさせるルックスと、実際の高い走破性を持っている。その性能を実際に使う場面などたとえなくても、毎年何らかの形で起こる自然災害へのそこはかとない不安を考えると、こうした強さを傍らに置きたいと欲する人は少なくないと思うのだ。なおかつ現代のクロカン4WDは、デイユースに我慢がいらない。総合的に見て、時代のニーズと多様性にいま最もフィットしたジャンルだと感じるのである。

 こうした状況の中ディフェンダーは、最もベーシックなモデルで551万円~(3ドアモデルの90)と、ランドローバーとしては抜群のコストパフォーマンスで現れた。

 価格だけで言えばイヴォーク(495万円~)やディスカバリー・スポーツ(473万円~)もアフォーダブルだが、ディフェンダーは何よりその愛らしいルックスが魅力的である。さらに広い室内空間と、本物のオフロード性能を備える、バランスのよさがある。

 そして今回は、そのショートホイールベース版となるディフェンダー 90(グレードは「S」)を、オフロードコースで試乗する機会を得た。

 とは言いながらも残念ながら今回の試乗では、その肝心なオフロード性能が満足には試せなかった。折しも試乗会場となった静岡県は記録的な豪雨に見舞われ、山の傾斜を利用した専用コースの走行と、渡河水深性能を試すステージがキャンセルされてしまったのだ。おまけに外は、カメラマン泣かせな土砂降りの雨だった。

 しかしそんな状態でさえ、ディフェンダー 90の走りは魅力的だった。それはまるで雨の日に、おろしたての長靴を履いたような試乗だったのである。

ランドローバー「ディフェンダー」。試乗車は3ドアショートホイールベースの「ディフェンダー 90 S」(632万円)
ボディサイズは4510×1995×1970mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2585mm、車両重量は2100kg。足下はディーラーオプションの18インチ スタイル5093(グロスホワイトフィニッシュ)スチールホイールを装着し、255/70R18サイズのグッドイヤー「ラングラー オールテレーン アドベンチャー」を組み合わせる
ディフェンダー 90 Sのインパネ
ジャガー・ランドローバーとして初採用となった最新インフォテインメント・システム「Pivi Pro」のほか、ClearSightインテリアリアビューミラーや10インチタッチスクリーンなどの最新装備も搭載。エアコンまわりのスイッチはグローブをしていても操作しやすいような大型のタイプ
エボニーDinamicaスエードクロス&スチールカットプレミアムテキスタイルシート(エボニーインテリア)
スライディングパノラミックルーフはオプション装備
ラゲッジ

個性的な乗り味と頼もしさを感じる内装で心が躍るドライビング体験

 さてディフェンダー 90で一番の特徴といえば、それは2585mmのホイールベースを持つ3ドアのボディである。ちなみにその値は5ドアであるディフェンダー 110(3020mm)と比べて、435mmも短い。

 ここから得られる恩恵は、端的に言ってまず価格だろう。同じグレードで比べると3ドアは、5ドアより大体60~68万円も安くなる。

 そして運動性能においては、ブレイクオーバーアングルが5ドアモデルの27.8度に比べ31度(エアサス装着車)となることで、オフロードの走破性がさらに高まった。ちなみに前後バンパーと路面や障害物の接触に関わるアプローチアングルは37.5度、デパーチャーアングルは40度で5ドアと同一だ。

 アスファルトが所々えぐられた程度のでこぼこ道や、人の手が入った林道は、ディフェンダー 90にとっては肩慣らしにもならなかった。路面状況によって走行モードが選べる「テレインレスポンス」もオートにしたまま。副変速機をローギアードに入れることすらもなく、筆者は決められたコースを淡々と周回した。

 そんな状況でも、まったく退屈は感じなかった。

 なぜならその乗り味が、なかなかに個性的だったからだ。オプションのエアサスを装着する割に小刻みな横揺れが起こるのは、その足下にオールテレインタイヤを履いた影響だろう。後編で綴るがオンロード用のタイヤを履いた仕様は、その乗り心地も至って快適である。

 近代クロカン4WDとしてモノコック構造を採ったボディはやはり乗り心地がよく、荒れた路面でもステアリングはキックバックを上手に押さえ込んでいた。ゆったりとした操舵感ながらもタイヤは滑りやすい路面を確実に捉えており、ステアリングを切り込みながらアクセルを踏み込めばワイドなボディがグルリと曲がる。

 なかなかに、小回り感高し。これぞターニングサークルが5.3mとなる、ワイドトレッド&ショートホイールベースの威力だ。

 搭載されるエンジンは300PS/400Nmの出力を発揮する2.0リッター直列4気筒のガソリンターボ一択。5ドアに与えられた3.0リッターの直列6気筒ディーゼルターボがラインアップされないのは残念だが、この2.0リッターターボは3ドアボディだと実にマッチングがいい。

最高出力221kw(300PS)/5500rpm、最大トルク400Nm/2000rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンを搭載。トランスミッションには8速ATを組み合わせ4輪を駆動する

 正直5ドアとこのエンジンの組み合わせに初めて試乗したときは、物足りなさを感じた。しかし140kg軽いボディだと俄然、やる気を出してくれるのである。

 アクセル開度はやや深めながらも、これを踏み込めばゴロゴロと“らしい”サウンドを響かせながらトルクを立ち上げる。8速ATのギアリングと4輪駆動の連携も見事で、低速域ではゆっくりと確実に、トラクションを掛けながら進んでゆく。その頼もしい感触が、足裏に伝わってくるのである。

 オンロードではターボの加速もパンチが効いており、絶対的な速度はそれほどでもないのだが、体感速度としては十分に速さを感じられる。高回転まできちんとエンジンを回しながら、息の長い加速で気持ちよくこのボディを走らせてくれる。

 今回オフロードでの出番はなかったが、モニターをタッチするだけで8方向の状況が瞬時に確認できる「3Dサラウンドカメラ」は、街中でこそ有効だろう。この幅広で背の高いボディの死角をなくすためには、必要な装備だと感じられた。

 前輪が進むべき道筋をバーチャルで再現してくれる「ClearSightグラウンドビュー」はすでに確認済みのアイテムだったが、ディフェンダーで体験すると改めて心が躍った。これを使うような場所を走ってみたい! という冒険心が湧き上がった。

10インチタッチスクリーンではデフのロック状態を確認できるほか、ボンネットを“シースルー”したように映像で確認できる「ClearSightグラウンドビュー」、360度周囲の安全確認をサポートする「3Dサラウンドカメラ」、水深をリアルタイムにグラフィカル表示する「ウェイドセンシング」といったシステムで安心・安全な走行をサポート

 スタイリングの撮影もひと通り終わり、雨から逃げるように車内へと駆け込んだ。ずぶ濡れのまま座ってもへっちゃらなテキスタイルシートや、樹脂製コンソールの頼もしさに気分がアガる。

 普通ならシートバックを倒して乗り込む後部座席へ、ウォークスルーでアクセス。それがまた、ラフな感じでたまらない。リアシートの居住性はショートホイールベースでも十分広く採られており、ルーフ側面の小窓やサンルーフもあるから、閉塞感もない。これなら3ドアでも、ファミリーユースができそうだ。むしろ子供は喜ぶんじゃないだろうか?

 ランドローバーのデザインチーフであるジュリー・マクガヴァンは、このショートホイールベースこそディフェンダーのあるべき姿と語ったという。それも頷ける。この小さな(?)ボディに込められた走りと想いは、確かに乗り手をワクワクさせたのである。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してSUPER GTなどのレースレポートや、ドライビングスクールでの講師活動も行なう。

Photo:中野英幸