試乗レポート

フォルクスワーゲン「アルテオン」に追加された新モデル「シューティングブレーク」 個性も走りも“想像以上”の1台

マイナーチェンジでバリエーションが増えたアルテオン

 2017年春に開催されたジュネーブ・モーターショーで、フォルクスワーゲンの新たなフラグシップとして発表されたのがブランニュー・モデルの「アルテオン」。日本でも同年秋から販売されてきたこのモデルが、ライフ半ばと思われるタイミングでのマイナーチェンジを実施し再度の発売。ここにお伝えするのはフロントマスクやダッシュパネル部分のデザイン小変更、ADAS機能のアップデートなどをメインメニューとするマイナーチェンジを機に、ファストバックスタイルの5ドアのみのラインアップだった構成に新たに加えられた、“シューティングブレーク”を名乗る新ボディのモデルである。

「ワゴンとしての機能性とスポーツカーを想起させるアグレッシブなデザイン」と謳われる新しいボディは、なるほど何ともスタイリッシュでインパクトの強いスタイリングが特徴。ボディサイズやホイールベースは、いずれもベースの5ドアモデルと共通。一見ではリアのオーバーハングが延長されたようにも思えるものの、実はこれも5ドアモデルのそれと同データということになる。

 最高272PSを発するターボ付きの直噴ガソリンエンジンを7速DCTと組み合わせ、さらにフォルクスワーゲンが“4モーション”と呼ぶ電子制御式の4WDシャシーへと駆動力を伝達するというパワートレーンの構成も同様。

 ちなみに、欧州ではガソリンやディーゼル、さらにはプラグインハイブリッドなどさまざまなパワーユニットを搭載したFWD仕様が主流になるが、日本導入モデルでは欧州ではフラグシップに位置付けられる前述の仕様一択だ。

「アルテオン シューティングブレーク TSI 4MOTION R-Line Advanve」(644万6000円)。ボディカラーは新色のキングスレッドメタリック
ボディサイズは4870×1875×1445mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2835mm。足下には245/35R20サイズのピレリ「P ZERO」を装着する
フロントグリルのクロームバーに、LEDヘッドライトにつながるLEDデイタイムランニングライトを新設定し、長くワイドなボンネットなどと相まって特徴的なフロントフェイスを創出。シューティングブレークはBピラー以降が専用デザインとなる
最高出力200kW(272PS)/5500-6500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgfm)/2000-5400rpmを発生する直列4気筒DOHC 2.0リッターターボエンジンを搭載。トランスミッションには7速DSGを組み合わせ、4輪を駆動する。WLTCモード燃費は11.5km/L

 試乗を行なったのは、スポーティさが強調されたデザインの前後バンパーなどを採用し、設定3グレード中で唯一となるスポーツシートも標準装備するなどした「R-Line Advance」。有償オプションの「キングズレッドメタリック」というビビッドなボディカラーを纏っていたこともあり、見た目の斬新さ、鮮烈さという点ではいわゆる“4ドアクーペ”調プロポーションの既存の5ドアモデルを大きく凌ぐことは間違いない。

 同時にそんな個性的なルックスが、思いのほか高い実用性としっかり両立されている点にも感心をさせられることになった。

 きっと5ドアボディには見劣りをするだろうと予想をしていた後席での居住性は、むしろ同等もしくはそれ以上の使い勝手という印象。4.9m近い全長からニースペースにそれなりのゆとりがあろうことは想像できていたが、後方に向かってのルーフラインの落ち込みが少ないゆえに、ヘッドスペースも十分。同様の理由から乗降時の頭部の運びにも余裕があって、「期待と予想以上に使える」というのがこのモデルの後席空間なのだ。

インフォテイメントシステム“Discover Pro”、デジタルメータークラスター“Digital Cockpit Pro”などを標準装備。なお、アルテオンとアルテオン シューティングブレークで装備差はない
総出力700W、16チャンネル11スピーカーのプレミアムサウンドシステム“Harman Kardon”、電動パノラマスライディングルーフはセットのパッケージオプション
R-Lineは専用のナパレザーシートとなり、R-Line Advanceではさらに運転席/助手席がスポーツシートとなる

 加えて、VDA計測法によれば後席使用時で565L、後席アレンジ時で1632Lというラゲッジスペースのボリュームも、それぞれが563L/1557Lという5ドアモデルを上まわる数字を達成。さらに、シール剤入りタイヤの採用によりスペアタイヤが廃止されているので、ラゲッジボード下もサブトランクとしての使用が可能。確かにこれほどの収納力が実現されていると「ワゴンとしての機能性」と謳いたくなるのも無理はないという印象で、ユーティリティ性は思った以上に高いのである。

ラゲッジはVDA法で565~1632Lという容量を誇る

個性的なスタイリングでも走りは堅実

 そんな特徴的デザインの持ち主であるシューティングブレークも、ひとたびドライバーズ・シートへと腰を下ろせば、目前に広がるのは“普通のアルテオン”と変わらない風景。正確に記せば遠い位置で強く前傾したリアウィンドウを通す関係から、ルームミラー越しの後方視界は特に天地方向にタイトな映像となるが、それ以外では「シューティングブレークだから」という特徴点は皆無。バーチャルメーターのグラフィックや物理スイッチ数が削減された最新フォルクスワーゲン流儀によるセンターパネルの光景も、「もうおなじみのもの」という印象。ステアリングスイッチのワンタッチで動作をスタートさせる同一車線内の全車速運転支援システム“トラベルアシスト”を筆頭に、多くの最新ADAS機能を標準装備とするのも、昨今のフォルクスワーゲン車ではもはや“お約束”と言える内容だ。

 大柄サイズのボディや4WDシステムを備え、フラグシップモデルにふさわしい充実の装備群に加えて、試乗車にはパノラマスライディングルーフと総出力700Wのプレミアムサウンドシステムから成る“ラグジュアリーパッケージ”をオプション装着していたこともあり、車両重量は1750kgというなかなかの重量級。

 しかし、いざスタートをすればなかなか軽快に速度を高めてくれるのは、2.0リッターと決して大排気量とは言えない一方で、わずかに2000rpmから最大トルクを発揮するエンジンと、微低速でも滑らかな変速を実現させながらダイレクトな駆動力の伝達感が気分の良いパワーパックの実力によるところが大きそう。

 飛び切りの静けさ……と言うと少々ほめ過ぎになってしまいそうだが、それでも静粛性は納得の水準。大きなルーフ面積にこちらも大きなテールゲートという組み合わせで、音圧の変化が耳に不快なドラミングノイズを心配したものの、幸いにもそれは杞憂に終わってくれることとなった。

 アルテオン シューティングブレークの足下に用意をされるのは、Rラインが245/40R19、EleganceとR-Line Advanceが245/35R20といういずれも大径で薄いシューズ。特に、試乗車も履いていた20インチのアイテムは抜群にスタイリッシュであることは間違いのない一方、「いささか粗っぽい乗り味を強要されてしまうのではないか?」と、ここでも多少の心配を感じたことは事実だった。

 ところが、こちらの項目でもそんな杞憂は走り始めると同時に霧散をすることに。さすがに路面への当たり感をやや硬質に感じる場面はあるものの、その先のサスペンションの動きはしなやかで、同時に大径ゆえにそのシューズにはかなりの重量があるはずなのに、特段のばね下の重さを意識させられることもなかったからだ。

 そんな好ましい乗り味の実現に関しては、日本に導入されるアルテオン/アルテオン シューティングブレークには全てのモデルに標準装備される電子制御式の減衰力可変ダンパー“アダプティブシャシーコントロール”の貢献度が大きそう。「コンフォート」のモードもわるくないが、時にボディの動き量がやや大き目に感じられるシーンもあったので、個人的には「ノーマル」のポジションでの走り味が気に入った。

 個性的なスタイリングの持ち主ゆえに、数あるフォルクスワーゲンラインアップの中にあっても、その分少々“好み”が明確に分かれる可能性は低くはなさそう。一方で、「これは気に入った!」という人にはとことん好きになってもらえそうなルックスの持ち主であるのも、このモデルならではと言えそうな独特の個性。

 実はステーションワゴンの使い勝手に惹かれつつも、「もう流行ではないし……」とためらいの気持ちを抱く人に対して、購入への“最後のひと押し”をしてもくれそうな、ちょっと気になる存在感の持ち主である。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:中野英幸