試乗記
新型「ゴルフ ヴァリアント eTSI Style」試乗 快適な乗り心地と上質感を見事に取り戻した
2025年3月21日 08:05
- 2025年1月10日 発売
- 363万9000円~485万6000円
8.5型となって足まわりがさらにしなやかに
いわゆる「8.5型」へと進化した新型ゴルフ ヴァリアントを走らせて真っ先に感じたのは、「ゴルフが戻ってきた!」という感覚だ。あの足まわりから伝わる、ツンツンとした突き上げ感がない。そして車内に伝わる振動や、雑味が減っている。
これはTDIを試乗レポートしたときにもいったことだが、8型ゴルフはまずその乗り心地が硬かった。シャキッとした乗り味と片付けてしまえばそれまでだが、あの7型で熟成を極めた、Cセグメントらしからぬ上質感が薄れてしまったと、筆者はとても残念に感じていた。
その理由には、まず環境性能への対応がひとつあるだろう。変形しにくいタイヤを使い、硬い足まわりでそれを受け止めて転がすことで、エネルギーロスを減らす。
さらに急激な電動化やデジタル化、安全性能といった新時代への対応から、遮音性や見えない部分の作り込みにコストをまわせなくなったからだと個人的には判断している。
もっともステーションワゴンとなるヴァリアントは、そんな8型でもハッチバックに比べて乗り心地が随分よかった。増えた車重がバネ下からの突き上げを適度に抑え付け、50mm伸びたホイールベースが前後のピッチングを絶妙に和らげてくれていたからだ。
そして8.5型となって足まわりがさらにしなやかになり、クルマとしての質感がグッと上がった、と筆者は感じた。それに関してフォルクスワーゲンからのアナウンスはないようだが、弟分のポロがマイナーチェンジしたときも同様に感じたから、現行世代ではその質感を再び見つめ直すことにしたのだと思われる。
457万7000円の価格設定を維持しているのはとても魅力的
というわけで改めて、新型ゴルフ ヴァリアントだ。今回試乗したグレードは真ん中のレンジ「eTSI Style」である。
パワーユニットは、48Vのマイルドハイブリッド。ゴルフシリーズは8型で1.0リッターと1.5リッターの2種類のガソリンエンジンを用意していたが、8.5型となってからは、これが1.5リッターのみに統一された。
代わりにその出力を116PS/220Nmと150PS/250Nmに分けて、前者をアクティブ・ベーシック/アクティブ、後者をスタイル/R-Lineと設定するようになった。
また組み合わされる水冷式スターターオルタネーターもその定格出力が、12kW(16PS)から最大で14kW(19PS)にまで向上した。ちなみに燃費は、WLTC値で前者が18.4km/L、後者が18.3km/Lとなっている。
新型ゴルフ ヴァリアントがその乗り味に大きな進歩を得た影には、こうしたパワーユニットの磨き上げも少なからず影響していると思う。
また、直列4気筒1.5リッターターボの気筒休止制御は、「ACT+(アクティブシリンダーマネージメントプラス)」へと進化。具体的には気筒休止中に動いている1番および4番シリンダーのカムが、2気筒運転に最適なプロフィールへと可変する仕組みになった。
フォルクスワーゲンいわくその狙いは「ドライバビリティの向上」だというが、低負荷走行時のアクセル追従性が上がれば無駄踏みも減るから、燃費もよくなるはずだ。結果として燃費性能が向上した分だけ、足まわりのダンピングをソフトに取る余裕が生まれたのではないか。もっと単純に、「乗り心地が悪い!」という市場の声を反映しただけかもしれないけれど。
実際ヴァリアントeTSIは、低負荷走行時かなり積極的に気筒休止やコースティングをする。そしてここからアクセルを踏み足すとき、わずかな開度でもトルクがきちんと追従してくれる。
そこにはきっとACT+だけでなく、スターターオルタネーターからのアシストもあるのだろうが、感覚的にはこの電動アシストには、ストロングハイブリッドのようなモーターの存在感はない。また惰性のないゼロ発進加速時は、アクセルを踏み込んだときのレスポンスがやや鈍く、もう少しだけスーッと素早く走り出して欲しい。
とはいえいったん速度が乗ってしまえば、タイヤが恐ろしいほどによく転がる。そして全体としては、とてもスムーズな低負荷走行が可能で、日本の道路事情にこのシステムは結構合っていると思えた。
そんなヴァリアントで惜しいのは、その足下に割とスポーティなタイヤを履かせていたことだ。ネクセンの「N'FERA(エヌフィラ)」はエコ・プレミアムもカバーするタイヤだから、燃費性能とハンドリングの一挙両得を狙ったのかもしれないが、個人的にはこのしなやかな足まわりと「スタイル」のキャラクターには、もう少しグリップレスポンスが緩やかなタイヤの方がバランスしたと思う。つまり足はしなやかなのに、タイヤだけが少しツンツンする。そしてロードノイズも、高周波はカットされているが、割と低めのレンジが車内に入ってくる。
またゴルフに限らず現行フォルクスワーゲン車は電動パワステのアシストを割と効かせているから、常用域だと操舵感度が少し過敏になる。
ただそれだけに、きちんと荷重をかけて走らせると、動的質感は一気に高まる。高速コーナーへのアプローチ、切り始めの操舵フィールはねっとりと座りが増し、切り込めばリニアな手応えをもってノーズがインを捉えていく。きっとゴルフTDIと同じく、電子制御デフ「XDS」が黒子的にコーナリングパフォーマンスを上げているのだろう。
対してターンミドルではロングホイールベースの安定感も手伝ってロールは穏やかであり、最高にもっちりとしたダンパーの縮み感と共に、安全かつ気持ちよくコーナーをクリアできる。
走りのモデルといえば、足まわりを少し固めて18インチタイヤを履かせた「R Line」、もっといえば直列4気筒2.0リッターターボと4WDを組み合わせた「R」を思い浮かべるかもしれない。また8型ではヴァリアントに18インチタイヤとアダプティブシャシーコントロール(DCC=可変ダンパーシステム)を組み合わせた特別仕様車「プラチナム エディション」なども登場したが、パワーにこだわらなければこれで十分。現状でもリアが4リンクであれば十分過ぎるほど、ヴァリアントは高いシャシー性能をもっている(※eTSI Active BasicとeTSI Activeのリアはトレーリングアーム)。
なおかつヴァリアントは、ボディ全体のスタイルが美しい。積載性を重要視するユーザーが「T-Cross」や「ティグアン」といったSUVを選ぶことを見越した分だけ、テールハッチのデザインはクーペ的な処理が取られている。とはいえトランク容量は611Lもあり、倒せば1642Lにまで容量が広がる。
経済性としては、プレミアムガソリンが必要なことは惜しい。そして為替や原材料費の高騰から少し価格は上がってしまったけれど、未だに457万7000円の価格設定を維持しているのはとても魅力的だ。8.5型へとなってその質感を取り戻してくれたから今、ゴルフ ヴァリアントは自信をもって薦められる1台となった。