試乗記

限定版「スープラA90ファイナルエディション」と改良モデル「RZ」初試乗 集大成に込められた本気のチューニングを感じた

2025年3月21日 発売/抽選受注開始
RZ:800万円
A90 Final Edition:1500万円(世界限定300台/日本は150台限定)
現行スープラの特別仕様車「A90ファイナルエディション」に試乗する機会を得た

乗り心地と限界性能のバランスがさらに高次元へと進化

 トヨタのスポーツカー群の頂点に立つスープラ。誕生以来多くのモータースポーツファンに愛され、国内でもSUPER GT、スーパー耐久などのモータースポーツで活躍し続けている。

 スープラの名前はセリカXXの時代に北米でスープラと併記されたのが最初。1978年のことだ。日本でスープラと名乗ったのは3代目のA70型からで、当時グループAで行なわれた全日本ツーリングカー選手権にブルーのミノルタカラーで活躍したのが強く印象に残る。

スープラの歴史

 そして後継のA80スープラは卓越した運動性能を武器にGTレースで大活躍した。

 しかしスープラの生産は2002年で終了し、トヨタにはスポーツカーが不在の時期が続く。久々に登場した86はスポーツカーの裾野を広げることに大いに貢献したが、ハイパワースポーツカーを望む声は大きかった。

スープラ(GA70/JZA70)
スープラ(JZA80)

 余談だがトヨタ自動車の会長 兼 マスタードライバーでもある豊田章男氏ことモリゾウさんが、当時ドイツの世界で最も過酷とされるサーキットのニュルブルクリンクで、存分に走れるトレーニングカーを自社で持っていない悔しさが、今のA90スープラの誕生に影響を与えたという。

当時、多くの海外メーカーが新型スポーツカーを走らせる中、生産を終了している80スープラでドライビングテクニックを磨いていたという豊田章男会長。それが悔しくて90スープラの誕生へとつながったそうだ
今では国内外のモータースポーツで大活躍しているのは周知のとおり

 さて待望のA90スープラは2019年、BMWとのコラボレーションでオーストリアで生産される本格的なスポーツカーとして迎えられた。

 スープラは年々ブラッシュアップされ多くの愛好者に支えられているが、今年RZに大きなマイナーチェンジが行なわれ、さらにファイナルエディションも発表された。

RZグレードの一部改良では、ボディ、サスペンション、シャシー剛性の向上およびチューニングの最適化、空力性能の改善が実施された
新しいシャシーセッティングに伴いアクティブディファレンシャルの制御を最適化。旋回中のアンダーステアを抑制し、ハンドリングを改善している
制動力と熱容量のアップが図られフロントブレーキがブレンボ製18インチへと大口径化された。また、フロントまわりのダウンフォースを増すために、フロントバンパー下部にあるタイヤスパッツの長さを10mmほど延長したほか、ホイールアーチ前側にフラップを追加している。ホイールはマットブラック塗装となる
リアはフロントのダウンフォース増に合わせてダックテールタイプのスポイラーを追加することで前後バランスを最適化させ、低速から高速までリニアなハンドリング特性に寄与している
内装ではヘッドレストにGRロゴの刺繍が追加されたほか、シートベルトもレッドに変更された
6速MTのみシフトノブとシフトブーツにレッドアクセントとが施された

 サーキットで試乗したのは、現行型RZと改良されたRZ、さらにファイナルエディションにも試乗できた。各モデル計10周の試乗機会があり、速いクルマだけにあっという間に終ってしまったが、その進化に心躍り、同時にファイナルエディションの造り込みには感銘を受けた。

カーボンフロントスポイラー、カーボンフロントカナード、フロントセンターフラップを装着したほか、スワンネック構造のカーボンリアウイングも装備
ブレーキやボディ剛性を強化し、レーシングカーに多く採用されるKWのサスペンションシステムやハイグリップタイヤを採用した

 デビュー時のスープラは高いパフォーマンスにスープラらしさを感じたが、RZのショートホイールベース&ワイドトレッドのディメンションに、ウェット路面で手こずった覚えがあり少々苦手意識もあった。

 最近久しぶりに乗ったスープラは雪上だった。予想以上の熟成が進んでおり後車軸の直前に座るためにリアタイヤの動きがよく伝わり、シャープなエンジンと共にスライドコントロールが自在で望外の面白さだった。

ブレーキはブレンボ製の19インチを装着。前後ともフローティング構造のドリルド(穴開き)ディスクを採用。タイヤはミシュランのパイロットスポーツ カップ2を履く
ボンネットにはエンジンルームの熱を排出するためのダクトが設けられている。簡単に外せるカバーも内側に付属する
レーシングカー「GRスープラGT4」を彷彿させるスワンネック構造のカーボンリアウイング
シートパッドにアルカンターラを採用したレカロ製カーボンフルバケットシート「RECARO Podium CF」を採用。運転席はレッド、助手席はブラックとゾーン分けを行なっている
ステアリングホイール、ドアトリム、センターコンソールニーパッド、センターアームレスト、シフトノブ、ソフトブーツ、インストルメントパネル中央部の表皮にアルカンターラを採用。シートベルトも赤色となる
助手席前にあしらわれる専用インストルメントパネルカーボンオーナメント
専用のカーボンスカッフプレート
ボディ剛性を高める「強化ラゲッジクロスバー」を装着

現行モデルと比較試乗することで進化の内容をしっかりと確認できた

 さてその経験を思い出しながら現行スープラに乗り込む。トランスミッションは8速ATだ。タイヤはミシュランのパイロットスポーツで、サイズはフロントが225/35ZR19、リアが275/35ZR19で、ドライバーが座ると前後重量配分は51:49ぐらいの理想的なFRスポーツカーのバランスとなる。

 タイヤを温めながら徐々にペースを上げる。とは言ってもレーシングタイヤのように温度依存が狭くないので、最初から高いグリップ力を示す。空気圧モニターはすぐ適正な250khaになり安定する。

試乗会場は千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイ

 路面は一般舗装でドライだ。ペースを上げるとステアリングに伝わるキックバックが大きくなる。さらにステアリングからのインフォメーションが薄くなるケースもあり、グリップ力はともかく安心感ではもう少し接地して欲しいところ。

 それでも初期モデルに比べるとポイントさえ押さえればコントロールに幅が広がっており、速いスポーツカーをサーキットで走らせるのは楽しいと改めて思った。

改良されたRZから試乗。一体感のある走りを実現していた

 次に試乗したのは一部改良されたRZ。装着タイヤおよびパワートレインは共通。一体感のある走りを重視してボディ、サスペンションに注力したチューニングが行なわれ、それもかなり手の入ったものだ。実際にコースに乗り入れると、これまで探りながらだったコースも自信を持って走れるほどの違いがあった。

 まずコーナーのターンインでのこと。ステアリングを切りながらの進入でリアの挙動が不安定になることがあったが現行型だが、驚くほど上下を含めて動きが一定となり、安定性が向上している。特にクルマの対角線方向に入力が加わるとリアがバタバタと接地が安定しなかったものがリアサスがよく路面を捉えて姿勢が一定する。

コーナリング中もリアサスがよく路面を捉えてくれる

 リアの床下ブレースやサブフレームに強化マウントを加えたこと、スタビライザーブラケットのアルミ強化品にしたことが大きい。この変更に伴いフロントのスタビライザー特性も変えて前後のロールバランスが向上した。

 アクティブデフも従来のアクセルのオン・オフで忠実に作動制限が入っていたものが少しルーズになったことで減速時の姿勢安定性が高くなっている。さらに電動パワーステアリングチューニングが進みキックバックなどで生じる強いブレが抑えられたことの効果も大きい。

改良されたRZグレードは圧倒的に乗りやすくなっていた

 サスペンションは電制ショックアブソーバーの減衰力特性が変えられ、前後マイナスキャンバーも大きくなっている。

 つまり圧倒的に乗りやすくなったのだ。さすがに285kW(387PS)/500Nmのトルクはどこからでもアクセルのひと踏みでリアがスライドし自制心が必要だが、こちらもVSCにスポーツカーの要素がさらに反映されたことで段付き感のないアクセルワークが出来るのも大きな進化だ。

 改良されたRZも素晴らしかったが、さらに上を行くのがファイナルエディションだ。世界限定で発売されるが、こちらはレース仕様のGT4をロードバージョンにしたようなスーパースープラだった。

マッドブラックの車体が迫力満点のファイナルエディション

 マッドブラックの車体はただでさえ迫力満点のスープラをさらに引き立てる。空力パーツもエアダムやカナード、リアには大きな(と言っても節度ある)カーボン製ウィングが装備される。ブラックアウトされたインテリアは運転席と助手席で色分けされたレカロの専用カーボンバケットシートで特別なスープラをひと目で表現している。

 RZには8速ATと6速MTが用意されるが、ファイナルエディションは6速MTのみとなる。エンジンは吸排気効率の改善とECUの制御変更によって実に324kW(441PS)/571Nmの出力を得て、トップエンドの回転の伸びもよく(6000rpm)トルクカーブも山がはっきり感じ取れるメリハリのあるエンジンに性格を変えた。

トルクカーブも山がはっきり感じ取れるメリハリのあるエンジンに仕上がっていた

 手応え感のしっかりした6速MTを1速に入れピットロードを滑り出す。心に響くエキゾーストノートはファイナルエディションでしか得られない音だ。エンジン回転の上がりも早くなりシフトも忙しい。このパワーにマニュアルシフトは厄介かと思ったが、そうではなかった。逆に変速の楽しさが味わえるのはスープラとの一体感があってこそだろう。

 ブレーキは改良型のRZではブレンボの18インチに容量アップされ制動力と制動安定性が高くなったが、ファイナルエディションではさらに19インチと大きくなり、フローティング構造のドリルドディスクを採用している。ブレーキホースもステンレスメッシュになっており、よりブレーキタッチにソリッド感が得られている。ブレーキは制動力もさることながらコントロール性がよく、微妙なブレーキングにも反応する優れたものだ。

ブレーキは制動力もさることながらコントロール性もいい

 カナードや空力パーツで前後のダウンフォースも高く、改良型RZよりもさらにターンインがしっとりして安定感が高く、コーナーまで滑らかに姿勢を変える。

 高い安定性と正確なドライビングにはボディ剛性の追求も欠かせない。フロントシート後ろにはクロスに入った補強パーツが入っており、さらにフロア下はRZのリアブレースに加えて、さらにブレースが加わり、リアサブフレームもリジットマウントにして余分な動きを消している(RZは強化ゴム)。この他にもフロントコントロールアームにピロボールを使うなど徹底した一体感のある走りを追求している。

 また長時間のハードドライブに耐えるためにエンジン冷却は冷却ファンの大型化とサブラジエターも追加され、オイルパンにはバッフルプレートが装備される。さらにデフの油温を抑えるためにデフケースも冷却フィンの切ったカバーが追加された。

ターンインも安定感が高く、滑らかに姿勢を変える

 走りが楽しく徐々にペースが上がってくるが、スープラは大きな余力を持ってそれに応えてくれる。グリップ力の高さとコントロール性にはミシュランの「パイロットスポーツ カップ2」も貢献する。サイズは1サイズ大きくなりフロントが265/35ZR19 リアが285/30ZR20を鍛造アルミホイールに履く。トレッドとサイドの剛性バランスが絶妙で、走り込んだ後でもグリップ力の変化もミニマムだった。そしてコーナーの限界域でもジワリと路面とのコンタクトを知らせてくれるのは有難い。

 ショックアブソーバーはレーシングカーの「GRスープラGT4」と同じKW(カーヴェー)製を使用。伸び側16段、圧側14段でマニュアル調整も可能だが、GRからは最適セットでデリバリーされる。車高調整も同様だ。しなやかな動きは専用ショックアブソーバーの効果も大きい。

 気持よく走れ、弱いアンダーステアで旋回するスープラをアクセルコントロールでリアスライドさせる勇気はなかったが、安心感は計り知れない。

高いボディ剛性と自由なサスペンションの動き、保舵感の高いステアリングが生み出す安心感は計り知れない

 高いボディ剛性と自由なサスペンションの動き、保舵感の高いステアリング。1530kgに見合った強力なブレーキ。すべてがハーモナイズされたスポーツカーを感じることが出来た。まさにGT4のロードバージョンがファイナルエディションだ。

 そして走ることに特化したクルマはやっぱり面白い! 冒頭に記したように2470㎜のショートホイールベースに苦手意識を持っていたが、今回の試乗で払拭された。でも何でも許してくれるわけではなさそうで、幸運なオーナーは心してステアリングを握って欲しい。

ファイナルエディションはまさにGT4のロードバージョンだった
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。