【インプレッション・リポート】
日産「GT-R」2013年モデル

Text by 岡本幸一郎



 GT-Rの2013年モデルを、11月2日の発表と同時に宮城県のスポーツランドSUGOでドライブすることができた。仕事柄、日ごろから多くの各社のニューモデルに触れる機会に恵まれているのはもちろんだが、最新のGT-Rを全開でドライブできるというのは、いつもにも増して楽しみ。そして、こうした機会に声をかけていただけることを本当にありがたく思う。

 2007年12月のデビューなので、登場からほぼ5年が経過したGT-Rは、かねてから毎年変わり続けることを公言し、これまでもさまざまなアプローチで進化を遂げてきた。

 同試乗会を控え、1つ前の2012年モデルを拝借して改めて乗った際にも、5年前に登場した頃のGT-Rと比べて別物と言えるほど洗練されていることをヒシヒシと感じた。そして2011年モデルから外観が変わり、3年目となる今回の2013年モデルについて、外観やエンジンスペックはまったく変わらないという、どこからともなく事前に得られた情報のとおり、実際にも変わらなかった。

 また、2011年モデルから2012年モデルにかけて、内容的にもかなり大がかりに変更されたこともあり、今回はあまり変わらないのではと予想していたのだが、まったくそんなことはなく、中身は大きく進化していたことをまずお伝えしておきたい。

 用意されたプログラムに従い、はじめにレーシングコースでプレミアムエディションとピュアエディションのトラックパック(ともに2013年モデル)をドライブし、続いてサーキット周辺の構内で、プレミアムディションの2011年モデルと2013年モデルを乗り比べた。

2013年モデルのGT-R。0-100km/h加速は2.74秒、ニュルブルクリンクのタイム計測では7分18秒6をマークした

エンジン出力は2012年モデルと変わらず、404kW(550PS)/6400rpm、632Nm(64.5kgm)/3200-5800rpmを発生

中回転域のレスポンスがより俊敏に
 コースインして、まず驚いたのはエンジンの速さだ。

 これまで485PSから530PSまで一気に上がった2011年モデルや、そこからさらに20PS増しの550PSとなった2012年モデルに乗った際にも、数値が示すとおり速くなったことを実感したものだが、今回の2013年モデルは、2012年モデルに対して数値が変わっていないことが信じられないほど格段に速くなっている。

 リリースによると、「ターボチャージャーの過給バイパスにオリフィスを追加してことで、過給圧の低下を抑制するとともに、高回転域での加速を持続」と記載されているが、まさにそのとおり。中回転域のレスポンスがより俊敏になるとともに、トルクの厚みが増し、加えて高回転域で加速の伸びる感覚が、これまでよりもさらに伸びやかになっているのが印象的だった。

 もちろんこれまでも速さに関して文句などなかったわけだが、さらなる高みに到達していたのだ。それでも開発責任者の水野和敏氏は、まだ上を目指していることを匂わせていた。いったいどこまで行ってしまうのだろうか? 恐るべし、GT-Rである……。

 フットワークの印象も大きく変わっていた。

 試乗当日のSUGOは一部ウェットという状態。しかし、そういう難しい状況であっても安定した走りを披露し、真価を発揮するのもGT-Rの側面の1つだ。

 今回のポイントは、タイヤやサスペンションのブッシュなどのたわみを考慮し、実際に走行している状態での実動ロールセンターを下げたことだ。サスペンションジオメトリーに変更があったわけではなく、停止状態でのロールセンターは変わっていない。ロールセンターが下がると、ロールが車体の低い位置で起こるようになる。

 すると、クルマの動きは分かりやすくなるものの、ジオメトリー的にはロールモーメントは増える傾向となるのだが、今回の2013年モデルではスプリングとショックアブソーバー、フロントスタビライザーの仕様を変更して最適化した。これらによって、車両の挙動がよりつかみやすくなり、ターンインでの回頭性が上がっている。サスペンションセッティングの変更が功を奏してか、ロールもより抑えられている。

 とても重量が1700kg以上あるクルマとは思えないようなステアリングレスポンス。回頭性が上がったおかげで、思った以上にコーナーの奥まで入っていける。開発責任者の水野氏は常々、「重いから曲がらないということなどない」と強調するが、それでも筆者にとっての率直な気持ちとして、これほど重い(特にフロント)クルマがこれほどよく曲がることに驚かずにいられない。

 ボディー剛性も高まったおかげで走りの一体感も増しているし、ロールは減っているがサスペンションを固めて車体を動かないようにしたわけではなく、むしろよく動くように味付けされているので、コーナリング中にクルマがどのような状態にあるのか、より把握しやすくなっている。

 不意にアクセルを開けると、低中速トルクの向上もあって、これまでよりも立ち上がりでアンダーステアが顔を出しやすくなったと感じた部分もあるのだが、これもむしろドライビング操作に対する反応がより忠実になったと受け取るべきだろう。

 標準セッティングのプレミアムエディションでも十分にパフォーマンスの向上は感じられたが、トラックパックではさらに一体感のある走りを楽しませてくれる。一段上の運動神経の高さを感じさせる。一般道での乗り心地は標準サスペンションより硬いだろうが、スポーツ走行派にはやはりトラックパックをオススメしたい。

構内路でも感じられるしなやかな足まわり
 そして構内路の走行については、まず2011年モデルをドライブし、次いで2013年モデルをドライブ。2011年モデルは、「そういえばこうだったよな」と思い出す、荒い乗り味。足を固めることで動きを抑えようとしたがために、乗り味がドタバタしている印象だ。

 ところが2013年モデルは、路面とタイヤが接地する感覚がまるで違う。また、レーシングコースで感じたステアリングレスポンスのよさは、構内路を走っても感じられる。ごく普通の一般道に比べても、構内路の路面にはけっこうな凹凸があるのだが、ずいぶんしなやかな乗り味になっている。「COMFORT」にセットすれば、ゴツゴツした感じはかなり薄れる。

 2011年モデルに比べ、2012年モデルもそうだったが、2013年モデルはさらにサスペンションが動きやすくできているようだ。むろん「しなやか」といっても、乗用車のような乗り味ではないが、これまでのGT-Rに比べると格段にしなやかとご理解いただければと思う。


 例えばBMWのM3や、メルセデス・ベンツのAMGモデル、アウディのS/RSモデルあたりは、性能が非常に高い上、快適性もそこそこ高い。GT-Rはパフォーマンスにおいては彼らをゆうに上回るが、快適性の部分では決定的に及んでいなように感じていた。

 ところが、2012年モデルでその差が一気に縮まり、今回の2013年モデルでは、まだ「上回る」とまでは言えないものの、さらに大幅に改善されたように感じられた。これも大きな「進化」だと思う。

 もう1つ進化を感じさせたのが、駆動系の洗練だ。

 かつて2011年モデルあたりまでのGT-Rは、それまでも徐々に洗練されていたとは言え、スムーズさに欠けるクラッチのつながりや、センタートンネルの中に収められたデファレンシャルなどの音がかなり気になったものだ。ところが、2012年モデルで大幅に洗練され、2013年モデルではさらによくなり、緻密さを増したように感じられた。

 うわさどおりエクステリアに変更はなかったのだが、オプションの選択肢が少し増えた。例えば、ピュアエディションでチタン合金製マフラーが装着できるようになったほか、ブラックエディションでもトラックパックに設定のあったドライカーボン製リアスポイラーとレイズ製アルミ軽量鍛造ホイールが選べるようになった。これからオーナーになる人にとっては朗報だろう。また、エンジンでは組んだ人物のネームプレートが付くようになった。

好印象の「ファッショナブルインテリア」
 インテリアでは、今回の目玉であるプレミアムエディションの「ファッショナブルインテリア」がとても好印象だった。これは、50代以上のユーザーや女性ユーザーを視野に入れ、従来の白系に替えて設定されたものだ。シートだけでなく、ダッシュやドアトリムなどがほどよいバランスでコーディネートされているところが好ましく、アンバーレッドの色味も赤がきつすぎて派手すぎることもなく、地味でつまらない印象もなく、ちょうどよいと思う。

 同シートは、快適性に配慮して助手席の方が全体的に従来よりも柔らかく設定されており、実際に座ってみても運転席とは沈み込み量が違った。こうした心配りも「進化」しているということだ。

プレミアムエディションにオプション設定された「ファッショナブルインテリア」

 価格については、ピュアエディションを除いて16万8000円ほど上がっているが、その内訳は、概ね10万円がバックビューモニターの装備分(ピュアエディションはオプション)で、残りの約6万円が性能向上分という認識と言う。

 ちなみにGT-Rの昨年の販売台数は、日本が約500台、北米が約1100台、欧州で1000台強。なかでもロシアで伸びているとのことだ。いずれにしても、登場から5年が経過したこの価格帯のクルマとしては、大健闘と言えると思う。

 R35型GT-Rは、2017年まで生産されるらしきことが伝えられているが、それまで毎年進化し続けることになる。素晴らしい仕上がりだった2013年モデルに試乗し、これで十分と思いながらも、いったいこの先にどんな世界が待っているのか、より期待心を強く持った次第である。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 11月 7日