インプレッション
日産「エクストレイル」
Text by 岡本幸一郎(2014/3/5 13:03)
コンセプトは「アドバンスドタフギア」
こういうフォルムになるという情報は早い段階から明らかになっていたが、いざ新型「エクストレイルの姿を目にして驚いた人も大勢いるだろう。これまでの四角いフォルムに魅力を感じてい」たファンは少なくない。筆者もその1人で、最初は否定的な気持ちのほうが強かった。
なぜ支持される路線から変える必要があったのか? 背景には世界的なマーケットの変化がある。もちろん、従来の雰囲気を好むユーザーもまだ大勢いるが、世の中の流れとしては従来のままでいけば右肩下がりになることが明白になってきた。そこで日産自動車は、もともとエクストレイルが持っている価値を維持しながら、従来モデルにはなかった、そして競合車が持っている価値を与えることで、限られたファンに向けたクルマではなく、より幅広い層に訴求できるクルマとすることを目指した。そうした考えから、よりクロスオーバー色を強めた新型エクストレイルのコンセプトには、従来の「タフギア」からの前進を意味する「アドバンスドタフギア」と名付けられた。
これだけ外観の雰囲気が変わるので、「車名をどうするのか」という議論もあったようだが、最終的にはエクストレイルを継承した。これは見た目が大きく変わっても、クルマとしての本質の部分を従来モデルから踏襲しているからだ。
いかにも“タフギア然”としていた従来型から雰囲気が一変したのはインテリアも同様で、いたって乗用車的になった。これに合わせて、シートポジションも従来型ほどアップライトではなくなった。メーターパネル中央には、最大13種類もの情報を表示可能という5インチのカラーディスプレイが新たに設置されたのも特徴だ。また、かつては少々難のあった防水シートの質感が上がっていることも歓迎したい。
2列目シートに座ると、ニースペースが2列シート車で先代比+80mm、新たに設定された3列シート車で同+90mm拡大されたことで、かなり広くなったことがすぐに分かる。サイドウインドーは角度がつけられたが、室内の横幅が大きいので狭く感じることはない。
シートのサイズはたっぷりとしている。前席より後席の座点を高めた「シアターレイアウト」になっているので見晴らしもよい。ところで、このクラスとしては珍しく従来型は後席にもシートヒーターの設定があり、競合車に対する優位点だと思っていたのだが、新型では前席だけの設定になったのがちょっと残念だ。
3列目の空間はさすがにミニマムで、居住性をどうこういう感じではない。まさしく“いざとなれば”という装備だ。また、3列シート車の2列目はリクライニングと前後スライド機構があるのに対し、なぜか2列シート車はシートバックの角度を調節する機能を持っていない。
ラゲッジスペースは従来型のほうが広いとの話だったが、これで十分。2列シート車はもちろん、3列シート車でも3列目を畳めばかなり広い。手をかざすと開く「ハンズフリーリモコンオートバックドア」も設定されている。2列シート車の「防水フレキシブルラゲッジ」は、2枚のボードを駆使して自由度の高いアレンジができるのも特徴だ。ただし、硬い荷物を積んで出し入れするとボード表面に擦り跡が残るのが気になる。キズではないのでウエスなどで拭くとほぼ消えるのだが、あまり気持ちのよいものではない。
走行性能を高める新しいデバイスの効果
今回のオンロード試乗会に先立って、横浜にある日産グローバル本社前の空き地に一時的に築かれた特設コースで行なわれたオフロード試乗会では、従来型と変わらぬ悪路走破性を持っていることが確認できた。やはりこの部分はエクストレイルの本質をそのまま受け継いでいる。
加えて新型はオンロードの走りに注力していることが、新たに与えられた「アクティブライドコントロール」「アクティブエンジンブレーキ」「コーナリングスタビリティアシスト」といったデバイスからもうかがえる。新型エクストレイルは、これらがいい仕事をしている。
まず、乗り心地がとても快適であることが印象深かった。サスペンションがしなやかにストロークするとともにフラットな姿勢が保たれる。荒れた路面でも、エンジンブレーキやブレーキを駆使して上下動を抑えるアクティブライドコントロールの効果が出ているのだろう。加えて、このデバイスがあることでサスペンションのセッティングにも余裕が生まれ、ベースの乗り心地をよくすることができているようだ。どこまでが素で、どこからがデバイスの効果なのか判別できないが、いずれにせよ高価な電子制御技術に頼ることなくこれだけの味が出せているのはたいしたものだ。
アクティブエンジンブレーキは、車速やステアリングの切り方に合わせて自動的にCVTのギヤ比を制御してエンジンブレーキの効き方を調整するというもの。これにより、ドライバーがアクセルからブレーキにペダルを踏みかえる頻度が減る。
コーナリングスタビリティアシストはVDC(横滑り防止装置)の機構を応用し、旋回中にコーナー内輪にブレーキを効かせることで、よりスムーズで安定したコーナリングを実現するというものだ。VDCが限界を超えて危険な領域に陥らないよう制御することを目的としているのに対し、こちらはもっと低い横Gの領域から作動する。
この2つの装備も、どこまでが前者でどこから後者の効果なのかはっきりとは分からないが、よりスムーズなライントレースを実現している。
試乗後に開発関係者に確認したところ、アクティブエンジンブレーキ作動時は、微妙にタコメーターの針が上がるとのこと。今回は見ていなかったが、次回はぜひチェックしたい。なお、最初のアクティブライドコントロールは常時作動する設定だが、残る2つは任意でON/OFFを変更できる。開発関係者によると、OFFにもできるようにした理由はアシスト不要と考えるスキルを持つドライバーのためだという。
たしかに、制御感をなくすようにしたことは分かるものの、若干人工的に感じられた部分もあった。しかし、大多数の人とってはONのほうが恩恵は大きいはず。コーナー途中でステアリングを切り増すシーンも減るだろうし、運転が上手くなったように感じられることだろう。
ハンドリングはクイックで、ボディー形状がクロスオーバー風になった影響か上屋の重い感覚も払拭されている。もっと車高が低いクルマのように、予想したよりもシャープに動く。加えて横風の影響も小さい。直進性は高く、コーナリング時のロール感も自然で全体としては上手くまとまっていると思う。
ただし、ステアリングの中立からごく微少な舵角を与えたところの反応は乏しい。実のところ、現状でその部分がしっかりできている国産車はかなり少ないのも事実だが、新型エクストレイルはせっかく投入した新しい試みが相応の効果を発揮しているだけに、なおのこと惜しいと感じてしまう。
充実した先進装備のアドバンテージ
同じ価格帯の競合車に対しては、乗り心地の快適さで一歩抜きん出た感がある。ガツンと来そうな段差を乗り越えても、しなやかな足まわりによりキャビンに伝わる衝撃が小さい。ダンピングが効いているので車両の上下動も瞬時にスッと収束する。操縦性に関して気になる部分を前で述べたものの、全体としては乗りやすく仕上がっている。
エンジンは直列4気筒DOHC 2.0リッターのガソリン直噴のみ。従来型に設定されていた2.5リッターは廃止され、ディーゼルについては従来型が継続販売で併売されている。また、いずれはハイブリッドモデルがラインアップに追加される見込みだ。
この2.0リッターエンジンは、JC08モード燃費でクラストップとなる16.4km/Lをマークしたのはたいしたものだが、動力性能は回転数を上げるとそれなりにパワフルになるものの、実用域ではやや非力な感があるのは否めず、CVTはダイレクト感に乏しい。燃費のために割り切った部分もあるようだ。せめてパドルシフトが用意されていれば、多少は印象も変わるかなと思う。一方で、実用域での静粛性は高く、この価格帯のクルマとしてはかなり頑張っていると感じる。
そして、新型エクストレイルが競合車に対してアドバンテージを持つのが、先進技術を駆使した安全装備と運転支援装置だ。この価格帯でよくぞここまでやったものだと思う。設定が充実しているだけでなく、「エマージェンシーブレーキ」は他社のものより作動領域が広く、約10~80km/hの範囲で働くなど機能的にも優れている。これでクルーズコントロールに追従機能が加わればパーフェクトだ。加えて、自動的にステアリングを操作してくれる「インテリジェントパーキングアシスト」もオプション設定されている。
筆者としては、過去2世代が持っていたあの雰囲気も好きだったので、大きく変わったことを残念に思う気持ちもある。たとえば競合車のフォレスターが旧来の雰囲気を残しながらも新しさを打ち出しているところを見ると、もう少しやりようはあったのではという気もする。しかし、スタイリングの話は好みの問題として、新型エクストレイルが1台のSUVとしてもっとも多才で、いろいろな部分に魅力のあるクルマに仕上がっていることは間違いない。