インプレッション
トヨタ「エスクァイア」
Text by Photo:高橋 学(2014/12/17 15:11)
ヴォクシー/ノアとは異なる上質さ
ちょっと上質なミニバンという位置づけでトヨタ自動車から登場した、5ナンバーサイズの新型上級コンパクトキャブワゴン「エスクァイア」。ベースとなったのはミニバン初のフルハイブリッドモデルをラインアップに持つ「ヴォクシー/ノア」だ。エスクァイアはその兄弟車となるのだが、その違いはエクステリアとインテリアにある。
まず目を惹くのが、大胆な縦スリットの入ったフロントグリルだ。ちょうど上下関係にある「クラウン」と「クラウン マジェスタ」のフロントグリルの違いに見られるように、こうして“顔”に特徴を持たせることで、より上質なミニバンを目指すというエスクァイアの成り立ちを明確にした。また、メッキドアハンドルやメッキ化されたサイドウインドー下部のトリム、兄弟車とは違ってラギット感を強めたテールゲートのメッキトリムなど、高級感の演出に一役買うセオリー通りの手法も随所に採り入れた。
インテリアにも専用装備が光る。上級グレードの「Gi」には、インストルメントパネルからドアトリム、そして全席シートにかけて合成皮革を採用した。一般的に合成皮革が持つ全体の雰囲気は立派なのだが、手触りはどことなく冷たく、間近で見ると本革の“しぼ”とは違っていかにも人工的なテクスチャーにがっかりすることが多いが、「ハリアー」にも採用された合成皮革は手触りからして本革に近い。また、本革/合成皮革問わず、こうしたシート表皮の弱点だった「夏場熱くて、冬場冷たい」という特性を、エスクァイアでは昇温降温抑制機能を合成皮革表皮に組み込むことで抑え込んでいる。加えて、各部にメタル調の加飾やワンポイントとなるステッチを用いるなど、徹底してヴォクシー/ノアとの差別化が図られた。
このように見た目、そして乗り込んだ印象はヴォクシー/ノアが目指した路線とは明らかに違う上質さの演出がなされているが、パワートレーンにはじまり、走行性能を左右する部分はまったく共通だ。故に車両重量やカタログ燃費数値も同一。ということで、今回は改めてガソリン/ハイブリッド両モデルに対する乗り味の違いに的を絞ってリポートしてみたい。
おすすめはガソリンモデル!?
最初に結論。エスクァイアらしい上質な乗り味を望むなら、ガソリンモデルをおすすめしたい。その理由は、市街地走行から高速道路での巡航に至るまで一貫して滑らかで、ハイブリッドモデルよりもワンランク上であると感じるシーンが多いからだ。エスクァイアをはじめ、ヴォクシー/ノアの走行性能を担当されたトヨタ自動車 第2シャシー設計部の子林誠氏は、「ガソリンとハイブリッドでは共通の乗り味となることを目標に開発を進めてきましたが、ハイブリッドは50kg車両重量が重いため違いを感じられたのかもしれません」と語る。
違いを意識するのは、それこそ速度にして10km/hを過ぎたあたりからで、後輪が段差を乗り越えた瞬間の衝撃吸収力(≒体感衝撃値)に大きな違いがある。たとえば、道路から歩道に設けられた10cm程度の段差を乗り越えてガソリンスタンドやコンビニ駐車場に入ろうとする際、ガソリンモデルでは後輪が乗り上げた際に角の丸い「ゴン」という衝撃に留まるところ、ハイブリッドモデルでは同じ速度で通過しても「ガツン」とした衝撃として身体に伝わる。これは運転席、2列目シート、3列目シートのいずれでも感じ取れた。
ハンドリングは、ガソリン/ハイブリッドともしっとりとしていて上質感はあるのだが、同じ道を乗り比べるとやはりガソリンモデルが上をいく。全車、電動パワーステアリングを採用するエスクァイアだが、ハイブリッドモデルはより反応速度の速いブラシレスモーターを採用しているため、本来であればガソリンモデルよりも素直なステアリング特性となるはずだ。先ほどの子林氏も「電動パワーステアリングの特性はハイブリットとガソリンに違いが出ないようにチューニングしています」と語るが、実際に比較試乗をしてみると、ハイブリッドモデルは40km/h程度までの低速域でアシストが強い傾向で、ハンドル操作に対して比較的クイックな反応を示すのだ。
この結果には、比較試乗を上級グレードの「Gi」同士で行ったことも影響している。「Gi」に標準装備となる本革ステアリングの上部には黒木目調加飾(素材は硬質な樹脂)があしらわれ、この部分を握ってハンドル操作を行うことになるのだが、本革と黒木目加飾部分の触感が大きく違うことが操作フィールの違いをより明確にしている。
アルミホイールも走行性能に対して影響を及ぼしていることが分かった。ガソリン/ハイブリッドのホイールサイズはともに15インチでデザインも似ているが、ハイブリッド用はバネ下重量低減のために軽量化が図られた専用タイプとなる。この軽量ホイールは転がり抵抗の低減に大きく寄与するが、まれに乗り心地に関してマイナス面も生み出してしまう。耐衝撃性などの安全性能は十分に確保しながらも、軽量化によるホイール剛性が変化したことで乗員へ伝わる振動周期が微妙に変化し、車内空間の大きなミニバンではそれが増幅され、結果的に乗り味に滑らかさを欠いてしまうのだ。この現象は、同じホイールを採用するヴォクシー/ノアでも確認できた。
このように車両重量の違い、電動パワステ/ハンドルの相違、専用ホイールの特性はあるが、動力性能そのものはハイブリッドモデルが強みを持つシーンもある。エスクァイアが搭載する1.8リッターのハイブリッドシステムは「プリウスα」と同じ設定で、減速比も同一。THS IIのパワー特性を変化させるパワーモード/通常走行モード/エコドライブモードの切り替えスイッチに加え、EVドライブモードも搭載する。特筆すべきはパワーモードでの走りだ。加速力が試される高速道路の本線への合流だが、大人5名+20kg程度の積載状態であっても十分に流れをリードし、余裕を持って本線へと合流するだけのパワーを瞬時に、そして継続的に生み出してくれる。
それを助けるHMIも秀逸だ。ステアリング左側には十字方向に操作可能なステアリングスイッチが装着されるとともに、その操作状況を示す4.2インチのTFTカラー液晶画面は解像度が高く色味も適正で、画面を注視できない運転中であっても瞬時に必要な情報(燃費数値やエアコン操作パネルなど)を読み取ることができる。
また、容積型ミニバンの評価軸として重要な3列目シートの格納方法も、ヴォクシー/ノア同様にすばらしい。シート脚部のレバーを引くだけで、内蔵されたスプリングの反力を利用して一気にたたまれ、同時に跳ね上げられる。あとはボディー後部左右に跳ね上げたシートをワンタッチで固定させるだけ。戻す場合もワンタッチと便利だ。
12月1日時点で約2万2000台の受注を記録したエスクァイア。そのうち約40%がガソリンモデルだ。当初の目論見よりもガソリンモデルの動きが活発だというが、4WDが選べることもそれを後押ししているのだろう。
“普通のクルマ化”が促進されたウェルキャブ「車いす仕様車」
ところで今回の試乗会場ではウェルキャブ「車いす仕様車」にも試乗した。このモデルの特徴は、2列目シート部分に車いすのまま乗車できることなのだが、トヨタが開発した専用車いす「ウェルチェア」はご覧のように座面がチルトする。
座面がチルトしない通常の車いすと乗り比べると違いは歴然だ。座面をチルトさせると、標準車の2列目シートの着座位置に近くなり、体感ロール量も同等となることから(個人差はあるが)クルマ酔いしにくく、座面だけでなくバックレストでも路面からの衝撃を受け止めることができるので乗り心地も大きく向上する。これには、ウェルキャブ仕様の後輪がエアサスペンションに変更されたことも貢献しているようだ。また、前席との会話明瞭度も向上し、エアコンの吹き出し口に対する頭の位置が適正化されるため、車いすに乗車する際のストレスが大幅に軽減される点もいい。
また、開発にあたってはトヨタのマーケティング部門から「普通に使えるクルマにしてほしい」との要望もあったという。これに対して開発部門は、筆者が乗車している車いすのスペース(写真の位置)に、標準車と同じ2列目シートの装着ができるように配慮し、2列目シートそのものもディーラーオプションとして購入できるようにしたのだ。これは、そのクルマの用途が変わったとき、つまり車いすが必要なくなった場合への対応策で、これにより「“普通のクルマ化”が促進された」と製品企画本部の田原定利氏は語る。
さらに、これまで車いすへのシートベルト脱着は介護する人にとって労力を要する作業の1つだったが、ずいぶんと楽に装着できるようになっていることも美点の1つだろう。これまで15年間、一般的なセダンとステーションワゴンを使いながら親族の介護を経験してきた筆者にとって、ウェルキャブ仕様の試乗は驚きと感心の連続だった。