インプレッション

レクサス「LX570」

 レクサスのSUVのラインアップは2014年の「NX」、10月にフルモデルチェンジされた「RX」、そして日本初登場の「LX」で、エントリーモデルから本格的なクロカンまで一気に3機種となりラインアップが揃った。

 LXは米国や中近東ではメジャーな存在で、タフネスさとラグジュアリーさを兼ね備えた、ある意味ではレクサスを代表するSUVモデルだった。おそらく世界最大のグリル高となるLXは、威風堂々たる貫禄でSUVの王者というタフネスさを感じる。ご想像のとおりベースは「ランドクルーザー」だが、搭載エンジンや装備の違いなどレスサスならではのオリジナリティを備える。レクサスの最高級SUVだけに装備は充実しており、至れりつくせりだ。

実質的な実用性を求めたV8 5.7リッター

 では、その装備も見ながら5mを超える全長と、2mになろうとする全幅を持つレクサスのフラグシップSUVをドライブしてみよう。

1グレード展開の「LX570」(ソニックチタニウム)。ボディーサイズは5065×1980×1910mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2850mm。重量は2720kgとなっている。価格は1100万円。3列シートを採用して乗車定員はブランド初の8名となっている
撮影車はオプションとなる切削光輝の21×8 1/2Jアルミホイール(タイヤサイズ:275/50 R21 110H)を装備

 アシストグリップを掴み、LXの運転席に乗り込むが、4輪アクティブ・ハイト・コントロール機能(AHC)の設定を乗降モードにすると、アクセス性は格段に向上する。エンジンを停止させるとフロントは60mm、リアは40mm下がるので、あたかもパッセンジャーを出迎えるようにLXがうずくまる。AHCは油圧による車高調整で、乗降モードでは自動的にLoモードを選択するのだ。ノーマルモードでは最低地上高は225mm確保されており、これだけでも大抵の路面でフロア干渉はない。また、Hiモードではフロントがさらに50mm、リアが60mmも上昇し、クルマの行けるところであれば路面干渉は激減する。このハイトコントロールは自動で行われ、高速ではLoを、L4ではHiモードを選択してドライバーは特に気を使わなくてもよい。

 AHCはアダプティブ・バリアブル・サスペンション(AVS)とセットになっており、こちらは乗り心地に大きく貢献している。AVSはダンパーの減衰力自動制御で、路面の凹凸に応じてピッチングやロールなどをコントロールして乗員の快適性に寄与する。こちらも基本的には自動的に制御するが、ドライブモードセレクトで任意にコントロールもできる。他のレクサス車のようにECO(燃費優先)、CONFORT(乗り心地優先)、NORMAL、SPORT S(エンジンレスポンス優先)、SPORT S+(サスペンションとエンジンレスポンスが変更)が選択でき、通常はNORMALでほとんど満足できる。さらにNORMALモードではカスタマイズ機能が備わっており、燃費を意識しつつサスペンションを硬めたりすることなどもできる。

3眼フルLEDヘッドランプの点灯パターン。ターンシグナルが流れるように点灯し、右左折時の注意喚起を高めるとともに先進性を演出する「LEDシーケンシャルターンシグナルランプ」をレクサス初採用
LEDリアコンビネーションランプの点灯パターン
V型8気筒DOHC 5.7リッター「3UR-FE」エンジンは最高出力277kW(377PS)/5600rpm、最大トルク534Nm(54.5kgm)/3200rpmを発生。JC08モード燃費は6.5km/Lとアナウンスされている

 さて、エンジンはV型8気筒DOHC 5.7リッター「3UR-FE」で、8速ATと組み合わされる。最高出力は277kW(377PS)/5600rpm、最大トルクは534Nm(54.5kgm)/3200rpmと大出力だが、自重が2.7tもあるので馬力荷重は7.2㎏/PS、トルク荷重は約5.1㎏/Nmとなり、それほど大きな値ではない。

 特にこのクラスの競合は過給器を持っているケースがほとんどなので、加速力などは驚くようなパフォーマンスではない。しかし、自然吸気エンジンのよさは伸びやかで扱いやすい動力性能だ。2000rpmから最大トルクの90%以上を発揮するというパワーユニットは、市街地からオフロードまで扱いやすく、絶対的な加速力よりも実質的な実用性を求めたパワーユニットだ。

 ワイドレシオの8速ATはスタートから高速クルージングまで幅広くカバーしてくれ、加速に際しても段付き感のない自然な伸び感が好ましい。重量級の大型SUVが思いもよらない動力性能で圧倒するのもびっくりさせられるが、LXにはそのようなサプライズはない代わりに、どのような場面でもドライバーの手の内に収まる安心感がある。発進と低速からの立ち上がりなど、滑らかでしずしずと走る様と相まってレクサスらしい。

 車体はLXの重要な要素。フレーム付ボディーはタフな路面でもへこたれない強靭さを持っており、世界から愛され信頼されているのもこのボディーのおかげだ。フレームとボディーを分けたことで路面からのショックがある程度遮断され、キャビンに伝わる振動は少ない。ただ、誤解されるといけないが、ショックが完全にカットされているわけでなく、多少のゴツゴツ感は残る。重量を支えるボディーと悪路の走破性を考えると納得できる落ち着きどころだ。

想像よりも取りまわしはラク

 市街地だけでは使うことのない機能だが、LXの魅力はタフネスさにあり、そのための途方もない余力がオーナーの信頼につながっている。それが一瞬でも体験できればLXへの愛着は深いものになるに違いない。

 例えばマルチテレイン・レスポンスは路面に応じてトラクションやブレーキを制御しながら4WDを効率的に働かせる5つのモードが選べる。滑りやすい路面でも4輪で個別の駆動力を確保しており、また低速ではアクセルやブレーキを操作することなくハンドルだけで走行できるモード「クロールコントロール機能」を持っている。

 さらにクロールコントロール機能が働いている際、タイトターンが現れた時に後輪にブレーキを掛けて旋回しやすくする「ターンアシスト」もある。そのほかにも低μ路でスリップした駆動輪にブレーキを掛け、安定した姿勢を確保する「アクティブコントロール機能」も備える。普段は使うことがないオフロードを意識した装備だが、LXがSUVのプレミアムモデルである大きな要素になっている。当然アプローチアングル/デパーチャーアングルもそれぞれ25°/20°と大きくとられているが、兄弟車であるランドクルーザーはそれぞれ32°/25°と大きくなっている。この差はほぼスポイラーなどのボディー形状に寄るものだ。

 オンロードでのハンドリングは機敏ではないが、ゆったりした動きの中にも正確性があり、高速道路では路面からの余計なインフォメーションはカットされており、リラックスしたドライビングができ、直進性も優れている。素早い操舵にはちょっと遅れて反応するが、ステアリングの操舵力は重くされており、余計に切り増すこともあまりないだろう。最小回転半径は5.9m。ハンドルのロック・トゥ・ロックは2.4回転。前述のように操舵力は重いので小回りは楽ではないが、前後のオーバーハングは小さいので、想像するよりもサイズの割には取りまわしは容易に感じた。視界のよさも大きく影響しているのだろう。

撮影車のインテリアカラーはサンフレアブラウン

 LXには立派な3列目シートがあり、実はレクサス初の8人乗りなのだ。3列目はさすがにユッタリというわけにはいかないが、大人がキチンと座れるシートになっているのも見逃せない。この3列目シートはラゲッジルームからスイッチでヘッドレストも含めて折りたたむことができ、また組み立てることもできる。

 キャビンはレクサスらしい贅沢な作りだ。トラディショナルなデザインで幅広い層から支持されそうなキャビンは、どのシートも座っているだけで気持ちにゆとりができる。

3列目と2列目に座ったところ
インテリアは金属、革、本木目と異なる素材を使って上質感を演出。オートエアコン、ステアリングヒーター、運転席・助手席・セカンドシートのシートヒーター・シートベンチレーションの各機能を一括して連動・作動させるクライメイトコンシェルジュスイッチを世界初搭載している
4.2インチTFTカラーマルチインフォメーションディスプレイの表示例
シートレイアウトのアレンジ。3列目シートはラゲッジルームの脇にあるスイッチで折りたたんだり組み立てたりできる

 また、もう1つの安心は「レクサス・セーフティ・システム・プラス」の導入。「Toyota Safety Sense P」に相当するが、レーンディパチャーアラートは車線逸脱時のステアリング振動も加わり、LEDヘッドランプはハイビーム時に対向車が来ても幻惑せず、かつ必要なところだけを照射する機能を持つ。全車速レーダークルーズコントロール、人も検知できるプリクラシュセーフティも備えている。

 LXはレクサスらしいキャビンのゴージャスさと、満載の機能で満足を与えるクロスカントリーの王者だ。プライスリストには1100万円の1グレードだけが載っている。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一