試乗記

マセラティのSUV「グレカーレエッセンツァ」は、エレガントさを残しつつ妥協のないエントリーモデルだった

マセラティのSUV「グレカーレ」のエントリーモデル「エッセンツァ」に試乗する機会を得た

“本質・真髄”を意味する新たなエントリーモデル

 2022年に誕生したマセラティにとって2番目のSUVであるグレカーレは、日本でも高い人気を誇っている。そんなグレカーレに、2025年9月に受注が開始された「エッセンツァ」という新たなエントリーモデルが加わった。日本専用の特別仕様車だ。

 エッセンツァ(=Essenza)とはイタリア語で“本質・真髄”を意味し、まさしくグレカーレの本質・真髄を損なうことなく、このご時世にこの車格で990万円という価格を実現したのが最大の特徴だ。ただし、標準カラーであるソリッドペイント「ビアンコ」以外は21万円のオプションとなっているので、今回試乗したネロ テンペスタやグリージョ ラヴァ、ビアンコ アストロを選べば1000万円をやや超えることになるのはあしからず。

試乗したグレカーレ エッセンツァのボディカラー「Nero Tempesta(ネロ テンペスタ)」は21万円プラスのオプションカラー
ボディサイズは4845×1950×1670mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2900mm、車両重量は1890kg

 エントリーモデルだからといってもどこかが安っぽくされた印象はなく、タイヤ&ホイールのサイズが19インチにされた点で判別はつくが、フルプレミアムレザー、シートヒーター、アンビエントライトといった装備は、既存の標準モデルであるグレカーレと変わらない。くだんの19インチホイール自体もなかなか凝ったスポーティなデザインでスタイリッシュだ。

フロントグリルにはマセラティ伝統の「トライデント(三叉の槍)」があしらわれる
フロントフェンダーにはマセラティのDNAともいえる「トリプルサイドエアベント」を備える
ウィンドウフレームはメッキ加飾とすることで高級感とアクセントを付与している
テールに見えるオーバル形状のマフラーは、左右2本ずつの計4本出しを採用

 あらためてグレカーレと久しぶりに対面すると、もう見慣れたスタイリングだが、その他のマセラティ車にも通じるエレガントでスポーティな、いかにもマセラティらしい容姿に目を奪われる。

 インテリアは奇をてらうことはないながらも、デザインは変化に富んでいて色気を感じさせるように仕立てられているあたりも、いつもながらマセラティらしい。そこに先進的な機能がふんだんに盛り込まれている。

試乗したグレカーレ エッセンツァの内装色は「Nero(ネロ)」
前席は電動パワーシートで、シートヒーター、ベンチレーションも備える
後席もシートヒーターを内蔵
ラゲッジスペースは535L。後席を倒せば1625Lまで拡張できる

 シフトセレクターはセンタークラスターに配されたタブレット状のパネルに並ぶ物理ボタンとなっており、ステアリングホイールには大きな金属製のパドルシフトがコラムから生えているのも印象的だ。

ステアリングの左側にある青色のボタンがスターター。右側の黒色のボタンは回すとドライブモードを切り替えられる。ドライブモードは「コンフォート」「GT」「スポーツ」の3種類
コンフォートモード
GTモード
スポーツモード
上段のセンターディスプレイは大きくて見やすく、ナビのほかにも油温やバッテリの状態など車両情報の表示も可能
下段のセンターディスプレイは、エアコンなどの操作や時計の表示切替ができる
ダッシュボード中央に設置されている時計は、これまではアナログタイプだったが、現行モデルではデジタルディスプレイになっている。表示は3パターンから選べるほか、コンパス(方位磁針)やアクセルとブレーキの開度、Gセンサー表示など、遊び心が加えられている

19インチタイヤとのマッチングに感心

 エッセンツァには19インチタイヤが与えられたことで、20インチや21インチを履く既存モデルとは乗り味の印象がかなり変わっていた。

 乗り心地がよく、動きが素直で軽快になっていたのだ。前後のバランス感もよく、持ち前のハンドリングの正確さも損なわれていない。これにはシャシーの素性のよさももちろん効いていそうだが、いずれにしてもコンベンショナルなサスペンションと19インチタイヤとのマッチングが、ことのほかよいことには感心させられた次第である。

装着タイヤはコンチネンタルの「クロスコンタクトLXスポーツ」で、サイズは前後235/55R19。ホイールは「セティス」でグロッシーペイント仕様

 おかげで一般道や高速道路は快適に走れて、ワインディングでもスイスイとリズミカルに駆け抜けられるので、コーナーを走るのが楽しみになる。20インチタイヤもそれはそれでよかったが、これほどフィーリングが変わるとは思いもよらなかった。

 見た目は20インチや21インチのほうがいいという人は少なくないだろうが、この走りを味わえるよう、あえてエッセンツァを選ぶというのも大いにありだと思う。

わずか2.0リッターとは思えない乗り味

 パワートレーンは、既存モデルと同じ直列4気筒2.0リッターターボエンジンに、BSG(ベルト・スターター・ジェネレーター)と、独自の「eBooster(=電気式スーパーチャージャー)」を組み合わせた48Vマイルドハイブリッドという構成。最高出力は300PS、最大トルクは450Nmを発生し、トランスミッションは8速ATとなる。

パワートレーンは直列4気筒2.0リッターeBooster+48V BSGマイルドハイブリッド+モノスクロール・ターボチャージャーエンジンに8速ATの組み合わせで、最高出力221kW(300PS)/5750rpm、最大トルク450Nm/2000-4000rpmを発生

 BSGが駆動のアシストをしつつ、減速時にはバッテリを充電し、その電力でeBoosterを作動させ、ターボのコンプレッサーに組み込まれたモーターを回転させるというもので、排気エネルギーが少ない低回転域でもブースト圧を確保できることから、ターボのレスポンス向上に寄与している。

コーナリングを楽しめる乗り味

 その効果は大きく、ドライブフィールとしては、わずか2.0リッターのエンジンとは思えないほどで、もっと排気量の大きなエンジンのように太いトルクが得られる。レスポンシブで扱いやすく、吹け上がりもなかなか力強い。

 エンジンサウンドは、外で聞くのと車内で聞くのとでは印象が意外と違い、車内ではどちらかというと調律され上品にしつけられたサウンドであるのに対し、車外では迫力のある快音を響かせる印象だ。このあたりも計算づくなのかもしれない。

ターボのレスポンスもとてもいい
アクセルを踏み込めばマフラーから迫力のあるサウンドを奏でるので、ドライバーのテンションも上がる

 新たなエントリーモデルといっても、そのために何か省かれた印象もまったくなく、マセラティらしいエレガントさを残したまま、逆に19インチ化によるメリットまで得ていたことに感心させられた。

 思えば2022年5月に日本でグレカーレの受注が始まったときには、下限の価格が862万円だったのと比べると、そう長くない時間で世の中は為替レートをはじめ、ずいぶん状況が変わってしまったものだ。エッセンツァだって本来はもっとずっと高くなっていてもおかしくないところ、今回990万円の価格を実現したというのは素晴らしい。それはひとえにインポーターの努力のたまものに違いなく、敬意を表したいと思う。

19インチの乗り味をぜひ体感してみてほしい
岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

Photo:堤晋一