【インプレッション・リポート】 ベントレー「コンチネンタル スーパースポーツ」 |
■復活した「スーパースポーツ」の称号
実に80余年の沈黙を破って、ベントレーに「スーパースポーツ」の称号が復活した。
1919年に自らの会社を興した開祖、ウォルター・オーウェン(W.O.)ベントレーが初めての作品として製作した「3リッター」は、ル・マン24時間でも活躍した生粋のスポーツカーだったが、さらにそのエクスクルーシブな高性能バージョンとして、1924年からわずか16台のみ製作されたとされるのが「3リッター・スーパースポーツ」であった。
そして、その伝説を受け継ぐモデルが、現行「コンチネンタルGT」と、そのハイグレード版「GTスピード」をベースとした、軽量・ハイパワー版として復活を果たすことになったのだ。
2003年のデビュー以来、「4WDシステムを持つ全天候型超高級グランドツアラー」という新たなジャンルを開拓し、素晴らしい成果を上げてきたコンチネンタルGT/GTスピード。それをベースとして、スパルタンなスーパーカーへの変貌を期したコンチネンタル・スーパースポーツの最大の特徴は、なんと言っても大胆な軽量化だろう。
もともとコンチネンタルGT/GTスピードは、実に2.4tにも及ぶ超ヘビー級の体躯の持ち主だったのだが、スーパースポーツは2シーター化やインテリア各部にカーボンファイバー部材を贅沢に投入したことなどによって、GTスピード比で110kgもの軽量化達成に成功したのだ。
一方、6リッターのW型12気筒ツインターボユニットは、ターボチャージャーのブースト圧アップによりGTスピード比で20PSと5.1kgmものパワーアップを達成。実に630PSもの恐るべき最高出力と81.6kgmの最大トルクを得た。
かくしてコンチネンタル・スーパースポーツは、0-100km/h加速3.9秒、最高速329km/hという圧倒的な高性能を手に入れたのだ。ちなみに、往年の3リッター・スーパースポーツは自動車史上初めて時速100マイル(約160km/h)を超えた市販車の1つと称されるが、現代のスーパースポーツは、その2倍以上のスピードを達成したのである。
■軽さが身上
ベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツを間近に見て、まず惹かれるのはレーシーなエクステリア。クロームメッキの大部分はスモーク仕上げのスティールに置き換えられるほか、テールレンズのケースもブラック仕上げとなるなど、スパルタン極まりないアピアランスを得ている。
一方、インテリアもカーボンファイバー製パネルとアルカンターラを多用することでスパルタンな雰囲気に仕立ててはいるものの、そのフィニッシュレベルはベントレーのクォリティ水準に相応しい、上質極まるもの。例えば、カーボンパネルの切削面はきれいに面取りがされているほか、軽量化のため手動とされたシートスライドの作動が、恐ろしくスムーズなことなどにも驚かされてしまう。
しかし「スーパースポーツ」の真価を感ずるには、やはりW12ツインターボユニットに火を入れて、走り出してみないことには始まらない。
コンチネンタルGT/GTスピードとの違いは、ブレーキをリリースしてスロットルを踏み込んだ瞬間からハッキリと判る。端的に言ってしまえば、挙動が格段に軽いのだ。ウェイト差は110kg。しかも依然として2240kg(メーカー発表値)という、お世辞にも軽いとは言えない車重であるはずなのだが、その数値以上に軽く感じられてしまうのである。
コンチネンタルGT/GTスピードは、2t半にも達する頑強な甲冑のごとき超ヘビー級ボディーを、560PSないしは610PSという強大なパワーと極太のタイヤでねじ伏せるようにして走らせる車。それがまた、独特の魅力を醸し出してもいたのだが、スーパースポーツはまったく異なるフットワークを見せてくれる。
コンチネンタルGT/GTスピードでは顕著であったアンダーステアが大幅に低減され、かなり曲率の小さなタイトコーナーでも、ノーズが実に気持ちよくターンインしてくれるのだ。さすがに軽量なスポーツカーのごとく「ヒラリヒラリ」というわけにはいかないものの、このクラスのスーパーカーに求められるレベルには充分達していると言えよう。
これは、電子制御4WDの「リアルタイムAWD」システムの前後トルク配分を、従来のコンチネンタル系に共通する50:50から40:60に変更したことが、軽量化に次ぐ大きな要因だと思われる。これにより、スロットルコントロールが容易になったうえに、コーナー立ち上がりのトラクションも確実に増大したことが明確に感じられたのだ。
また、サスペンションがソフトにセットされているがゆえに、加速時にテールを深々と沈める特有のフォームは、「クーペ」「フライングスパー(サルーン)」を問わず、コンチネンタルGTシリーズに共通するものだったが、今回のスーパースポーツでは、サスペンションをGTスピードと同じくフロント10mm/リア15mmローダウン。さらに、軽量アルミニウム製サスペンションアームや強化ハイドロリックブッシュ、専用チューンのスタビライザーを採用するなど、これまでのコンチネンタル系から大幅に締め上げた効果で、これまで全開加速時には浮きがちだった前輪にも、しっかりトラクションがかけられるようになった。
一方、カーボンセラミック製のディスクを標準装備とするブレーキは、カーボンの特質として冷間時にこそ若干心もとない感もあるが、ひとたび温まってしまえば2t以上の車重にも充分以上の制動力を示してくれる。またこれもカーボンゆえに、特に低速時には盛大なノイズを発生してしまうのだが、それも絶対的な制動力と引き換えと思えば我慢できる領域。むしろ、レーシーな雰囲気を盛り上げる“スパイス”とも言えるかもしれない。
■高貴なるバーバリアン
エンジンのフィールは、同じ12気筒でも、フェラーリやランボルギーニのような「カーン」と一気呵成に吹け上がるような陽性のものでなく、暗い地の底から巨大な力が湧いて出るようなダークな感触。あくまでシルキーかつエキサイティングなV12に比べ、ハスキーなビート感を感じさせるW12サウンドも相まって、その世界観は独特の底深さを感じるものとなっている。
しかもこのエンジンは、ベントレー初のバイオフューエル対応ユニットで、ガソリンとE85(ガソリン85%、バイオエタノール15%)を、いかなる割合でも混合しても使用可能になっているとのことだが、日本国内ではバイオフューエルの購入はまだ不可能であり、今回もその実力を試すには至らなかったのは何とも残念に思われた。
そして、この空恐ろしいようなパワーユニットに組み合わされるトランスミッションは、従来のZF製6速ATをベースに専用開発したもの。このATは、変速スピードをGT/GTスピードから半減化した「クイックシフト」システムを備えるほか、シフトダウン時に自動的にエンジン回転数を合わせるブリッピング機能も盛り込まれているのだが、これが実に気持ちよいのだ。
上質なタッチのパドルを操作することにより、シフトアップ&ダウンともによくできた2ペダルMTのごとき迅速な変速スピードを披露する一方、トルクコンバーターゆえのスムーズな変速マナーも兼ね備える。このできならば、トルクコンバーター式ATと言えども、ポルシェのPDKやフェラーリのF1スーパーファストなどに大きく遅れをとっているとは思えない。
つまりあらゆる点を考慮しても、上質なグランドツアラーとして、既に定評のあるベントレー・コンチネンタルGTシリーズをベースに、徹底的にシェイプアップを果たしたスーパースポーツは、例えばフェラーリ599やランボルギーニ・ムルシエラゴLP640-4にも匹敵する、生粋のスポーツカーとなっているのだ。
恐るべき洗練ぶりと、意図された蛮勇を見事なまでに兼ね備えたこの車は、創業以来のベントレーの血脈を現代に受け継ぐ。まさに、「高貴なるバーバリアン」なのである。
2010年 7月 30日