【インプレッション・リポート】
三菱自動車工業「パジェロ」オフロード編

Text by 岡本幸一郎


 今の時代、パジェロのような高価で大型のクルマが月販販売台数のナンバーワンに輝くなど想像もできないが、かつてそれが現実として起こった。バブル末期に到来したオフロード四駆ブーム。その立役者となったのがパジェロだ。パジェロはバカ売れして一世を風靡。初代RVRやデリカもヒットし、三菱自動車工業は「RV王国」と呼ばれるにいたった。

 しかし、時は流れ世の中は変わった。ディーゼルは悪者扱いされ、かつては8割以上を誇ったパジェロのディーゼル比率は激減したし、パジェロのような大型SUVは、存在自体があまり歓迎されなくなった。それでも、むろんパイは大きくはないものの、一定の層の支持を得ているのは、パジェロを必要としている人は確実に存在するから。また、中国や中近東など海外のマーケットは依然として相当に大きな規模だと言う。だからパジェロは進化し続けるのだ。

 「オールラウンドSUV」を謳う現行パジェロが2006年に登場。そして、2004年の規制強化を受け途絶えていたディーゼルが、2008年秋に新長期規制に対応して復活した。さらに2年後の今、同エンジンはポスト新長期規制に適合し、「クリーンディーゼル」となった。国内では、エクストレイルに次ぐ2モデル目だ。

撮影車はロングのEXCEED。エクステリアはリアアンダーカバーを追加した以外、基本的に従来のまま。ガソリンモデルにおいては、ハイマウントストップランプをLEDにしている
タイヤサイズは265/65R17。SUPER EXCEEDとVR-IIでは18インチとなる直列4気筒DOHC 16バルブ3200ccインタークーラー付きディーゼルターボエンジン
インテリア
音楽サーバーの容量を15GBに増量したカーナビ。USBやBluetoothで接続した携帯電話や音楽プレーヤーを、カーナビや、ステアリングのスイッチ、ボイスコマンドで操作可能センターインフォメーションディスプレイにはカレンダーや燃費などを表示トランスミッションは、低燃費かつ高トルク容量の新型に変更
ロングボディーでは3列シートになる運転席、助手席2列目は3人乗りで、全席3点シートベルトが付く
3列目は2人掛け。床下に収納するほか、取り外すこともできるロングボディー用のオーディオとして、ロックフォードアコースティックデザイン プレミアムサウンドシステムを用意直線基調のエンジンフードは見切りもよい

 ディーゼルエンジンは「4M41」型と型式名は従来と同じ。このエンジン、もともとPM(粒子状物質)排出量はポスト新長期規制値を下回っていたのだが、今回の改良でNOx排出量も低減され、晴れてポスト新長期規制に適合することができたわけだ。その他も微細にわたり変更を受けているので、詳しい内容を知りたい方は、ぜひ関連記事をご覧いただきたい。

 環境性能だけでなく、エンジンスペックについても大幅に向上したのもお伝えしたとおり。2008年に新長期規制に対応した4M41型ユニットのスペックは、従来よりも若干ダウンしていたのだが、今回のエンジンは2008年のものに対して、最高出力が12%UPとなる140kW(190PS)/3500rpm、最大トルクは19%UPとなる441Nm(45.0kgm)/2000rpmと、それぞれ大きく向上している。

 また、エンジン改良とともに、トランスミッションのサプライヤーも変更されキャパシティが向上したことも、今回のスペックの大幅な向上と無関係ではないだろう。

 そして今回、その新しいパジェロに伊豆の修善寺モビリティパークのオフロードコースで試乗する機会を得た。新エンジンのドラバビリティをうかがい、また今回とくに変更があったわけではないが、もともとパジェロが持つ悪路走破性の高さをあらためて知るというのが主旨である。

 まず試乗してすぐに、従来モデルに比べ、アイドリング状態ですでに静粛性が微妙に上がっているように感じられた。そして、4つのモードから選べる「スーパーセレクト4WDⅡ」を、パジェロのポテンシャルからすると、今回程度の路面状況であれば、通常の高速4WDモードでも十分に走りきれるとのことだったのだが、まずはセオリーどおり低速4WDモードを選んだ。

 走り出すと、エンジンのピックアップが従来よりも向上していることが体感できる。低回転から大きなトルクを発生させるディーゼルは、そもそもパジェロのように重いクルマとの相性がよいのだが、同ユニットも1000rpmあまりで、すでに大きなトルクを発生しているので、重たいパジェロのボディーもものともしない。ちょっとアクセルペダルに足を乗せているだけで、けっこうな上り坂もグイグイと登っていく。

 ピックアップのよさは、低回転域で微妙なコントロールが求められるシチュエーションでもとても好都合だ。オフロードではとくに、出足の最初のひと転がりが大事なのだが、あまり回転を上げなくても、クルマが動き出してくれるので、とてもラクに走ることができる。

 2008年のモデルでは、その領域のレスポンスがちょっと曖昧な印象で、エンジン自体に力があっても、実際に駆動力として得られるようにするまで、もう少しエンジン回転を上げる必要があったのだが、そのような印象はなくなっていた。

 モビリティパークには「林道コース」という、かなり激しいコースも設定されていて、他社も含めふだんの試乗会では、そちらはあまり走らせてもらえることはないのだが、今回はお許しをもらうことができた。これもパジェロの走破性に対する三菱の自信の表れだろう。

普段は開放していない狭く険しい「林道コース」でも試乗させてもらうことができた

 以下、今回の改良点ではなく、もともとパジェロが持ち合わせた美点を述べたい。“足が長い”今のパジェロは、前後リジッドではなく、フロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンクという、形式だけ見ると乗用車のような文字が書かれているわけだが、実際にこうしたシーンでは、よく伸び、よく縮む印象。

 リジッドアクスルだと、反対側の動きに制約されることが少なくないのだが、パジェロは4輪独立懸架を持つ。4輪が自由に伸び縮みでき、ストロークが長いことの重要性をあらためて思い知らされる。ノソノソとガレ場を走るときも、トラクションが抜けるシーンなどほぼ存在しないのだ。仮に内輪が浮いても、アクティブトラクションコントロールが作動して、クルマを着実に前に進ませてくれる。また、「駆動系の強度を非常に高くしているので、制御を大胆にかけることができる」(開発者談)というのも強みだろう。

 ちなみに、アプローチアングルは36.5度、ディパーチャーアングルはロングで25度、ショートで35度という数値は大したもの。大きな突起を乗り越えて通過する性能の目安となるランプオーバーブレークアングルも、ロングで22.5度、ショートで25度と高い数字をマークしている。

 極悪路を走っても快適性は高く保たれているし、ステアリングへのキックバックの小ささなども特筆できる。普通は路面の状況に合わせて、ステアリングがあっちこっちへと揺さぶられたり、ガツンという衝撃が伝わったりするものだが、パジェロはそれがとても小さく抑えられている。だからいたってリラックスして乗れるし、コースを走り終えた際の疲労感も小さいのだ。

とにかく長いサスペンションストローク。1輪が浮くような状態になっても全く問題なく走ることができた
立っているのもやっとの急勾配も問題なく走破
ランプブレークオーバーアングルも十分で、山を越えるときもアンダーフロアを擦るようなことはなかった
運転席から前輪が見えるため丸太橋も楽勝V字溝も問題なくクリアーダート路を高速で走ってもまったく問題なしだ

 次いで、パリダカ覇者の増岡浩選手のデモ走行に同乗させてもらったのだが、予想を超える激しい走りにひさびさにたまげた! ミューの低い路面にもかかわらず、本当にこんなスピードで止まったり曲がったりできるのか?というハイペースで、コースを自由自在に駆け抜けてくれた。

 聞いたところでは、アクセルは減速時も含め完全にOFFにはしないで、一定のトラクションを維持し、左足ブレーキを駆使して速度や前後荷重をコントロールしているとのこと(改良後モデルには、ブレーキオーバーライドが搭載されたため、デモ走行は改良前のモデルで実施)。路面ミューが低くても、巧みにブレーキングオーバーステアの姿勢をつくりだすワザには、まさに目からウロコである。そして、増岡選手のテクニックが卓越したものであることはいうまでもないが、そんな走りができてしまうのもパジェロの優れた実力があってのことに違いない。

増岡浩選手によるデモランに同乗させてもらった。先ほどまでの試乗とは異次元のスピードレンジでコースを駆け抜けるパジェロの姿に圧巻

 こうして、新しいパワートレーンの実力の片鱗を垣間見るとともに、パジェロの底力をあらためて知った次第。オンロードでの試乗する機会もいただける予定なので、大いに期待して待ちたいと思う。

2010年 11月 5日