【インプレッション・リポート】
BMW「1シリーズ」

Text by 日下部保雄


 

 BMWが「1シリーズ」を投入したのは、代替わりごとに大きくなる「3シリーズ」の下のモデルへの要求が高まっていたからで、もともとこのカテゴリーには3シリーズから派生したハッチバック「TIシリーズ」があった。ところが中途半端な性格が災いしてそれほどメジャープレーヤーにはなれなかった。

 そこでBMWでは2002年に1シリーズを投入し、以来全世界で100万台以上を販売するヒット作となった。その1シリーズが9年ぶりにフルモデルチェンジされて、フランクフルトモータショーで正式デビューとなる。

 その正式デビューを待たずに、国際試乗会がベルリン郊外で開催されたので、さっそく新しくなった1に触れてみた。

大きくなって安定感が増した外観
 新1シリーズは好評だった現行1シリーズのデザインを踏襲している。すなわち、ロングノーズのハッチバックタイプの5ドアで、パッセンジャールームが後方に配置された特有のデザインポリシーが受け継がれている。すでに多くのスクープ写真が出回っていて、新しい1シリーズのデザインには賛否両論だったが(それだけで現行型とは違って見えることが分かる)、実物を見るとはるかにエレガントでスマートだ。

 ただしボディーサイズはひと回り大きくなり、見た目にも安定感が増している。ボディーサイズは全長で85mmも伸びた4323mm、全幅も17mm広げられて1765mmに拡大された。ちなみにホイールベースは30mmも長い2690mmとなっている。つまりプラットフォームもこれまでのキャリーオーバーではなく、すべてが一新されたフルチェンジであることがわかる。全高は1421mmになっているので、こちらは21mm背が高くなっている。

 さらに言えば、新1シリーズのデザインに安定感があるのは、トレッドの大幅な拡大が挙げられる。特にリアは72mmも広げられて、安定感が格段に増している。ちなみにフロントも51mm広げられており、タイヤがさらにボディーの四隅に配された格好になっている。

 キドニーグリルはやや前傾しており、これに続くLEDのアクセントライト付きの釣り目のヘッドランプと連続してシャープな顔つきとなっている。

 サイドビューはBMW車特有の「ホフマイスター・キンク」と呼ばれるウインドー後端の曲線を活かしつつ、ウインドーをCピラーに食い込ませて実質的なドアの開口部を広げている。

 またリアエンドに連なる曲面はデザイナーが最も強調していたところで、リアフェンダーの盛り上がりがこの車の力強さを強調するとしている。確かにリアホイールハウスからリアエンドのつながりはダイナミックで、後輪駆動であることを強調している。

新型1シリーズには「Sport」(左)と「Urban」のトリムラインが用意される

華やかになったインテリア
 インテリアも大きくイメージチェンジした。これまでの1シリーズはスポーティーと言えば確かにそうだが、むしろ素っ気ないほどだったのに、プレミアムクラスらしいちょっと華やかなもの仕上がっている。

 BMWらしくすべてがドライバーに向けられたコントロール類などはもちろんだが、1シリーズが持っていたタイト感を受け継ぎながら、やや余裕を持たせたキャビンになっている。特にカップルディスタンスを重視して、2つの前席は内側に寄せられているのでサイドウィンドー側の余裕が広がったように見える。

 BMWのメーター類は華やかさがないが、一部にナビゲーションのカラーディスプレイを取り入れるなど一新された。またセンターコンソールトレイには2個の大きなカップホルダーが付くなど、これまでちょっと苦労していた身の回りの収納に大幅な利便性が持たされた。

 リアシートはこれまでの1シリーズではお世辞にも広いとは言い難かったが、新1シリーズでは、レッグルームが20mm広げられたので、170cmのドライバーがドライビングポジションを合わせても、後席のレッグルームには余裕が生まれた。チャイルドシートを装着する場合も、助手席側を圧迫しないだろう。

 ラッゲージルームも拡大された。通常リアシートを起こした状態では360Lの容積があるが、6:4で倒れるリアバックシートをすべて倒すと1200Lまで容積が拡大する。またフロントシートまで含めたフラットな荷室が誕生するので、ボードなどの長いものも積める。日本ではゴルフバッグが1つの基準になるが、こちらはリアシートを倒さないと積めないだろう。実際に現行型よりも30L大きいとされるが、感覚的にはそれ以上のサイズを感じるラゲッジコンパートメントだ。

Sport

 

Urban

 

5シリーズのようにフラットな乗り心地
 搭載されるエンジンも一新された。試乗に供されたのは「118i」で、1.6Lのボア×ストロークが77×85.8mmという超ロングストロークエンジンで、直噴ツイン・スクロール・ターボ、吸排気可変バルブ・タイミング・コントロール機構「ダブルVANOS」に加えて、コンパクトな可変バルブ・リフト機構「バルブトロニック」とBMWらしい技術を満載する。この4気筒エンジンは最高出力170PS/4800rpm、最大トルクは250Nmを1500-4500rpmの広い回転域で発生する。

 ツイン・スクロール・ターボについてちょっとだけ解説しておくと、4気筒を2気筒ずつに分けて、ターボの経路が2つに分かれている。これにより自然吸気エンジンと変わらないレスポンスを得ている。

 このエンジンは本体そのものもアルミのクランクケースを持ち、補機類のコンパクト化などで軽量化を図り、かつダブルVANOSやスロットルバルブを廃したバルブトロニック、200barの高圧インジェクターを使った直噴、大量のクールドEGRで高効率を実現した最新のエンジンになる。

 そして搭載されるトランスミッションは、6速MTか8速(!)のトルコンATになる。6速MTは今やフツウだが、8速ATは上級車でも珍しく、もちろんこのクラスでは初めてだ。BMWによると素早い変速は感動的とさえいえるという。日本仕様は当然この8速ATとなる。

 実際にハンドルを握ってみよう。まず走り出して驚いたのは乗り心地だ。1シリーズと言えばクイックで小気味よく走るが、乗心地面では、リアからの突き上げが強めで跳ね上げられることが多かった。しかし新しい1シリーズでは、オーバーに言えば5シリーズのようにフラットな乗り心地だったのだ。

 試乗に供されたのは「Sport」グレードで、オプションのMスポーツ・サスペンション+ピレリP-ZEROの225/40 R18のランフラットタイヤを履いていたから驚きだ。ちなみに標準仕様は195/55 R16のランフラットで、車高も異なる。このスポーツサスペンションは標準仕様からスプリング、ダンパーが固められている。

 118iはバネ下がしなやかに動き、バネ上はフラットに保たれているので、腰のある乗り心地となっている。サスペンション、ボディーの見直しは当然乗り心地向上の大きな要素だが、バンプラバーへの入力を2点から3点に増やしたことで、当たりが滑らかになったとされる。

 それに遮音も優れている。ボディー剛性の向上と遮音材の適切配置でコモリ音がかなりカットされている。ちょっと乗っただけでも、1シリーズはプレミアムモデルらしいコンフォート性能を手にしたことが理解できる。実際、試乗会のロングドライブでも快適にリラックスして1シリーズを堪能できた。

スポイルされていないドライビングの面白さ
 新エンジンはとても滑らかで、かつての自然吸気エンジンのようなトルクの山によるパンチ力はないが、ターボらしくどの回転からでもグイグイと引っ張っていく力強さがある。最大出力発生回転が4800rpmであることからも分かるように、高回転まで回して面白いタイプではないが、滑らかさでリラックスできるエンジンだ。

 118iにはアイドリングストップが装着されており、かなり積極的にエンジンを止めに行く。クラッチを踏んだ直後の再始動性も問題ない。少なくとも欧州のドライブモードでは全く気にならなず、むしろアイドリングストップしない方が不思議な気がした。なんだか罪悪感が伴うのだ。日本に入るATではアイドリングストップが装着されるか聞きそびれたが、日本の渋滞モードでも試してみたいところだ。

 さらに最新のBMWらしくエネルギー回生も行っており、アクセルOFFではバッテリーにエネルギーを溜め込み、必要以上にオルタネーターを働かせず負荷を軽減している。

 ちなみにMTの場合、6速で100km/hクルージングでエンジンの回転数は2100rpmにすぎなかった。8速ATではさらに低くなり、高速燃費もかなり向上するはずだ。ギヤレシオはかなりのワイドレシオを設定しており、燃費の向上を目指したセッティングであることが分かるが、さすがにBMW、ドライビングの面白さをスポイルする設定にはしていない。

 操作性は、MTの場合は高くなっているセンターコンソールに肘が当たってシフトに邪魔だったが、ATの場合は問題にならず、アームレストとして使える。

 乗り心地が向上した分、ハンドリングが鈍くなっていないか心配する向きもあるかと思うが、それは杞憂だった。これまでのような一種のカート感覚ではないが、ロールはよく抑えられ、ワインディングロードでもステアリングの追従性は優れている。場面によっては人工的な味付けも顔を出すが、電動パワーステアリングのフィーリングもBMWらしい素直ですっきりした味付けにチューニングされていた。

 リアトレッドの拡大などでリアのグリップが高くなったので、ハンドリングは基本的にアンダーステアが強まった傾向にある。試乗コースとして供されたADAC(ドイツ自動車連盟)のコンパクトなテストコースではウェット路面も用意されていたが、フロントタイヤから流れそうになるのをDSCがコントロールしてコーナリングラインを元に戻そうとしているのがわかる。DSCをカットして無理に滑らそうとすると急激にグリップを失うので、素早い修正舵が必要だ。それ以外の高い限界グリップ内でのスポーツドライビングでは安定した挙動を示し、ステアリングの追従性も高い。

 このテストコースで試乗したのは、オプションのMスポーツ・アダプティブサスペンションで、こちらは可変ダンパーになる。またバリアブル・スポーツ・ステアリングは速度に応じて少ない切れ角で済み、スポーツドライビングにはもってこいのシステムだ。

 BMWが標榜する50:50の前後重量配分のよさはブレーキングや、コーナリングでも十分に楽しめ、FRドライビングの醍醐味を味わうことができた。

日本には東京モーターショー前に
 さて118iは「ECO PRO」「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」の4つのドライビングモードが選択できる。ECO PROはアクセルに対する反応が鈍くされ、エアコンなども制御されて、“燃費スペシャル”的な設定になっている。このモードは極端に変わるので分かりやすいが、高速走行時は物足りないので、コンフォートかスポーツにセットした方が無難だ。ECO PROが真価を発揮するのは市街地だろう。

 スポーツモードでは、ハンドルの重さは変わるがダンパーまでは変わらない。操舵力が重くなるが、人工的な味付けではないので、重めが好みもドライバーはこちらよいだろう。アクセルのレスポンスも向上して、クイックな性格になる。サスペンションのダンパー制御が入るのはMスポーツ・アダプティブサスペンションからになり、日本には当初入る予定はない。

 ビー・エム・ダブリュー株式会社が新しい1シリーズを日本に導入するのは、9月のフランクフルトショーからそれほど間をおかず、東京モーターショーの前にはオーナーの手に渡ることになりそうだ。

 余談だが、BMWが開発中の次期「MINI」とプラットフォームを共用するBMWも真剣に検討されているという。BMWブランド初のFFが登場するのもそう遠くない将来かもしれない。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 8月 29日