【インプレッション・リポート】
ボルボ「V60」「V70」

1.6リッターターボモデルを乗り比べ
Text by 日下部保雄


 

 ボルボの社是は、“安全に裏付けられたクルマ作り”にある。確実に安全を確保するために、“ぶつからないクルマ作り”を目標として、様々な安全デバイスを取り込んでいる。1959年に量産車として初の3点式シートベルトを採用し、安全に垣根はないとの考え方から特許を無償で公開したことでも、ボルボの安全へのこだわりが分かる。

 その後もボルボはこれに満足することなく、乗員を守る安全ボディーなど多くの安全デバイスを手掛け、実用化してきた。また最近は、「2020年までにボルボ車がかかわる事故や死傷者をゼロにする」という目標を掲げて、新しい技術に挑戦している。

あくなき事故低減の追求
 そのため、安全な車間距離を保つ「車間警告機能」、ドライバーの眠気など異常を感知して警告する「ドライバー・アラート・コントロール」、車線を不用意にまたぐと警告する「レーン・デパーチャー・ワーニング」、車線変更時の後続車を知らせる「BLIS」(ブラインド・スポット・インフォメーション・システム)、全車速追従機能付のクルーズコントロール「アダプティブ・クルーズコントロール」、そして低速時追突回避ブレーキの「シティ・セーフティ」とたて続けにデバイスを発表し、搭載している。

 さらに「V60」からは、歩行者検知機能とブレーキを組み合わせた「ヒューンマン・セーフティ」と呼ばれる新しいシステムを搭載し、安全に一層磨きがかかった。これらの考え方は今後、他メーカーにも波及することは間違いない。すでにスバルがぶつからないクルマをアピールするEye Sightを前面に打ち出して高い評価を受けている。

安全装備のためのセンサー類

 ボルボの衝突回避技術の1つであるシティ・セーフティは、30km/hまでカバーしており、レーザーで前方のクルマのナンバープレートなどを監視し、追突事故の軽減を図っている。特に15km/h以下であれば自動ブレーキでクルマを完全停止することができる。渋滞時に発生しがちな追突事故を防げ、実際にかなりの効果がある。

 ではそれ以上の速度は何でカバーするかと言えば、車間警告機能や、弱い自動ブレーキによる追突警告機能で事故を軽減する。

 ヒューマン・セーフティはシティ・セーフティの機能を進化させたもので、身長80cm以上の人をミリ波レーダーと単眼カメラで認識して、35km/h以下であれば停止することができ、これ以上の速度でもブレーキをかけているので衝突エネルギーは軽減されるので障害程度を減じることができる。速度のカバー範囲は80km/hまでとなっている。

 整理するとシティ・セーフティでは車両を、ヒューマン・セーフティでは人との事故を減らそうという思想の下に開発が進められている。この2つの機能で事故は大幅に減らすことができ、ボルボのあくなき事故低減追求には拍車がかかったと言えるだろう。

共通のパワートレーン
 さてボルボには様々なモデルラインアップが揃っており、ワゴンを表すVシリーズも多彩だ。もともとボルボと言えば“ワゴン”を思い浮かべるほど、ボルボにとっては定番だが、それだけにVシリーズのイメージがオーバーラップすることも少なくない。

 例えば「V70」と「V60」である。この2車種は異なるプラットフォームを持ちながら、同じエンジンを搭載している。

 ただしボディーサイズはV70は4850×1890mm(全長×全幅)とかなり大柄なのに対して、V60は4630×1845mmとひと回り小柄なサイズになっている(と言ってもミドルクラスとして立派なサイズだが)。重量はサイズの割にはV70で1660㎏、V60では1560㎏と軽量に仕上がっている。

 今回ドライブしたV60とV70はいずれもベースグレードの「DRIVe」。1.6リッターターボエンジンに、6速デュアルクラッチATを組み合わせたもので、パワートレインは共通になる。

 エンジンはB4164T型直列4気筒DOHC直噴ターボで、ボア×ストロークは79×81.4mm。現代流のロングストロークタイプだ。また、リーンバーンではないものの最近のエンジンらしく直噴で、出力と燃費の両立を図っている。思えば世界初の量産乗用車用の電子制御直噴エンジンが三菱から登場して夢のエンジンと言われていたが、今や直噴はそれほど特異なエンジンではなくなった。

V70(左)とV60V70V60

 このエンジンは、同クラスの競合エンジンに比べると高出力型なのが特徴で、最高出力は132kW(180PS)/5700rpm、最大トルク240Nm(24.5kgm)/1600-5000rpmを出している。自然吸気エンジンなら2.5リッタークラスに相当し、エンジンの特性も高回転まで伸びるのが特徴となる。

 トランスミッションはフォード/ゲトラグの6速デュアルクラッチATだが、フィーリングは限りなくトルコンATに似ており、デュアルクラッチATにある発進時のショックはなく、変速時のつながりなどは自然で、デュアルクラッチを意識することはない。

 別の見方をすれば、ダイレクト感ではボルボのデュアルクラッチATはちょっと乏しいということになるが、個人的には、発進時のクラッチミートがルーズなボルボタイプの方が好ましい。要はクルマの性格に合わせたチューニングが施されていればいいのだが、デュアルクラッチATの製造メーカーによって味付けが異なるので、ボルボにはこの設定がよくマッチしていると思う。

 このパワートレインのチューニングはV60もV70もほぼ共通で大きな差はない。ではドライブフィールも同じかと言えば、これが全く異なる。V60はデザインどおりにスポーティな味で、V70はドッシリとした持ち味が特徴になっている。

2台で異なるコンセプト
 では具体的な中身についてチェックしてみよう。

 V60はスポーティな性格に合った、215/50 R17タイヤを履くが、一方もう1サイズ大きなV70は205/60 R16と逆に小さなサイズを標準装備とする。

 新しいボルボらしいクリーンなインテリアは、よく言われるように北欧家具の雰囲気を漂わせており、特にセンタースタッグと呼ばれるコンソールの造形がボルボらしさの象徴している。分厚いドアや太い各ピラーは、“乗員は絶対守る”というボルボの意思表示のようだ。キャビンは頑丈な家にいるような安心感がある半面、開放感にはやや欠け、特に側面衝突のためにBピラーが非常に太くなっているので、この面での視界はやや落ちる。

 この点V70は、ひと回り大きいだけにキャビンサイズも大きく、ドライバーを中心にデザインされているV60とは雰囲気が異なっており、もう少し開放的だ。

V60V70

 V60のデザインは、塊感と流れるような面の構成がバランスした優れたものだが、これまでのボルボが重要視していたラッゲージルームについてはデザイン優先で容量を求めていない。前掲したDピラーや絞られたリアエンドのデザインなどは、ボルボ伝統のワゴンスタイルを取るV70とは一線を画するものだ。そうは言っても、ボルボのワゴンだけにかなり広いし、ネットなどを効果的に取り付けて使い勝手がよくなっている。

 一方のV70は、四角く切り取ったようなボルボ流の貨物室が、らしさを感じさせる。フロアは左右にレールが付けられ、こちらも支柱を付けると荷物を効率よく積める。またフロアは二重構造になっていて、ダンパーで開閉できる芸の細かさも見せている。

V60(左)とV70
V60V70

まったく違うドライブフィール
 ドライブフィールはスタイルどおり、かなりの違いがある。前述のようにパワートレインは共通なので、基本的な動力性能の違いはないが、ハンドルを握ってみると2つのモデルに共通項がほとんどないのに驚く。

 たとえば高速道路では、V70はこれまでのボルボらしい少しふわりとした持ち味を残しつつ、ゆったりと走るのを身上とする。極端に言えば多少ハンドルを振っても鈍い反応で直進時は気楽なものだ。一方のV60はステアリングセンターが締められており、レーンチェンジでも正確に反応する。過敏ではないが適度にシャープな味付けだ。

 これが高速のワインディングロードに持っていくと、さらに動きが異なる。V70はアクセルやハンドルの反応までもゆったりとされており、ハンドルを切ったときのロールもある程度は許容するタイプだ。また多少コーナーリング時にピッチングも伴うものの、動きは穏やかだ。大げさに言えば大きな客船に乗っているようなおおらかさと言えばよいだろうか。

 ただハンドル操作に対して不正確かと言えばそのようなことはなく、きっちりとドライバーの意思は伝わるので、不快感は全くない。そして乗り心地はソフトで、荒れた路面や路面の段差でもバネ上はマイルドな動きに留まる。

 V60は、走り出してすぐに分かるのは、ハンドルの応答性がカッチリしていることだ。市街地の角を曲がるだけで、V70との差は明快だ。乗り心地は基本的にはソフトだが、V70に比べると硬めの乗り心地ではあるものの、細かい路面から突き上げは拾う方だ。また遮音の違いか、エンジンノイズはV70よりも大きい。これは相対比較であって、V60だけを乗って絶対評価を行うとすれば、静粛性、乗り心地ともに高い評点を付けられるだろう。

 ハンドリングはさらに違いがある。コーナーでは最初からハンドル応答性がよく、ロールも抑えられたセッティングなので、コーナーリングでの安定性が高く、ハンドルの切り返し時でもよく追従してくる。ボルボはおとなしいだけではなく、「R-Designe」シリーズのようなシャキシャキとしたハンドリングを持つクルマ作りにも慣れているのだ。急な山道でも動力性能には全く不満はなく、トランスミッションのギヤ比もワイドで、カバー範囲が広い。

 ボルボには冒頭に記したような優れた安全思想、そして技術を標準化しようとしているだけではなく、同じパワートレインでもキャラクターの異なるラインアップを揃えているメーカーでもあり、安全を軸としたユーザーのクルマ選びの選択肢を広げている。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 9月 20日