【インプレッション・リポート】
三菱自動車「i-MiEV」

Text by 岡本幸一郎



先代と新型、何が変わった?
 電気自動車(EV)として世界をリードする存在のi-MiEVは、2009年7月より法人向けの販売を車両価格459万9000円でスタート。2010年4月からは個人向け販売が始まるとともに、価格が398万円へと引き下げられた。そして発売から2年が経過した7月、ユーザーの声に基づく大幅な改良が実施された。

 ちなみにi-MiEVは、この2年間で累計約4000台が国内販売されており、輸出やPSAプジョー・シトロエン向けを含めると合計1万台以上が出荷されたと言う。

 今回の改良の主なポイントは次のとおり。

・「G」「M」という2種類のグレードの設定および低価格化(「G」=380万円、「M」=260万円)
・ブレーキペダル連動回生ブレーキによる一充電走行距離の拡大
・ASC(アクティブスタビリティコントロール)の標準装備化
・「MiEVリモートシステム」「プレミアムパッケージ」のオプション設定

 ということで、多くの人にとって気になるであろうポイントと言うと、先代とその直系の後継モデルである「G」がどのように違うのか? そして新しい「M」がどのようなクルマで、「G」とどう違うか? この2点に尽きると思う。試乗会会場には比較用に先代i-MiEVも用意されていたので、まずはそちらからドライブ。先代モデルの感覚を再確認しておき、続いて新型の「G」に試乗し、新旧の違いを比較した。

エントリーグレードの「M」
上級グレードの「G」

JC08モードでの一充電走行距離は180kmに
 新型では、回生ブレーキを従来よりも積極的にかけて回収する電力を増やしたことで、一充電走行距離が従来比で約2割も拡大したというから大したものだ。「G」のJC08モード燃費での一充電走行距離は180kmに達している。

 パワーメーターを見ていると、先代よりもより針がヒュンヒュンと深く「CHARGE」側に振れることが分かる。それだけ先代に比べて多くの電力が蓄えられていて、走行距離が大幅に伸びたわけだ。ところで、回生ブレーキをより積極的にかけると、何か違和感が出るのではないかと心配したのだが、試乗した限りではまったく問題なし。これまでどおり自然なままだ。最近ではガソリン車でも、ブレーキエネルギー回生システムを搭載したことでブレーキフィールが悪化したクルマが少なからず見受けられるのだが、i-MiEVは大丈夫だった。

 それにしてもシステムを変えることなくソフトの変更だけで、走行距離を約2割も増やす余地があったこと、それもわずか2年でここまで大幅に進化させることができたのには驚きだ。

 また、新型では走行距離等に関する表記がJC08モードに統一されている。世の中で「エコカー」と呼ばれるモデルの中でも、イメージ上は有利な10・15モード燃費による表記を、未だ前面に押し出しているケースが多い中で、あえてJC08モードのみとしたのは実に潔い。新型i-MiEV(G)の走行距離を10・15モード燃費で言うと、190~200kmになると考えてよいだろう。

Gグレードに搭載するリチウムエナジージャパン(LEJ)製のリチウムイオンバッテリー。総電力量は16.0kWhMグレードに搭載する東芝製のリチウムイオンバッテリー「SCiB」。総電力量は10.5kWh

うれしいASCの採用
 もう1つの大きな変更がASC(アクティブスタビリティコントロール)の採用だ。

 先代にもトラクションコントロールまでは装備されていたが、新型では各輪のブレーキの制御が加わった。普通に走る限りはあまり関係ないように思うところだが、i-MiEVはトレッドが小さく、車体のわりに重量が重く、重心が高く、重量配分がリア寄り(車検証によると「G」で前軸重510kg、後軸重600kg)という、パッケージ上の特徴がある。

 タイヤサイズはフロント145/65 R15、リア175/55 R15だが、フロントの細さには理由があり、これ以上太くすると横転する危険性が出てしまうのだと言う。これらの影響か、i-MiEVは通常走行においても、フロントの絶対的キャパシティが小さいのは否めない。少しでも攻めて走るとフロントが逃げがちになってしまう。

 ところが、ASCが採用されたことでそれがだいぶ抑えられた。相変わらずフロントのキャパ不足感を感じなくはないのだが、攻めるまでいかずとも、ちょっと強めのスラロームを試してみても新旧の違いは感じられ、新型の方がずいぶん挙動が安定しているのだ。メーターパネルを見ると、ASCが作動していることを示すランプが点滅していたので、やはりその恩恵だろう。ASCが採用されて本当によかったと思う。


新旧の違い
 ちなみに、新旧の見た目の違いは、まずドアミラーの大きさが挙げられる。これはi-MiEVを欧州に投入する際に開発されたもので、今回、国内向けのi-MiEVにも採用された。iのガソリン車には未採用だが、今後の改良時に採用される可能性もあるだろう。

 室内ではシート表皮を植物由来素材とし、柄が一新されるといった変更があった。新設定された「M」は一言でいうと廉価版で、バッテリーの電力量を小さくし、装備を簡略化するなどして低価格を実現したもの。一充電走行距離は短くなってしまうが、260万円という価格は「G」よりも120万円も安く、補助金を考慮すると実質的な負担額が188万円となり、ついに200万円を切ったことになる。

 さらに独自の補助金が交付される神奈川県横浜市、川崎市、相模原市などでは130万円台になるし、事業者であれば、東京都中央区ならさらに安くなるようだ(2011年度)。とにかく「M」は「G」よりも大幅に安いことから、注目度も高くなるはず。ここまでくると、いまどきの軽自動車の高級グレードと大差ないわけで、前述のターゲットユーザーにとっても、十分に現実的な選択肢になるだろう。

 ただし、「G」と「M」の装備差は小さくない。今回、「G」も価格が引き下げられながらも、カーナビやシートヒーターが標準装備されたのは歓迎だが、「M」ではオプションとなる。

 エクステリアでは、「M」のヘッドランプやリアコンビネーションランプは「G」のようにLEDではなく、iのガソリン車と同一のものとなるし、アルミホイールではなくスチールホイール+ホイールカバーとなる。

Gグレードのエクステリア

 さらに内装や装備もかなり差別化されている。また、今回2011年10月以降の生産車に装着可能なメーカーオプションとして、「MiEVリモートシステム」(6万3000円)や「プレミアムインテリアパッケージ」(4万2000円)が用意されたのだが、これが選べるのも「G」のみ。

 MiEVリモートシステムは専用リモコンにより、夜間など電力に余裕のある時間帯での充電に便利なタイマー充電機能や、エアコンの遠隔操作、駆動用バッテリー残量表示などが可能となるもので、より利便性を高めてくれる。また、プレミアムインテリアパッケージは内装のダークブラウン色でのコーディネート、インパネのソフト塗装、ドアトリムの生地張りなどにより、上質感を演出するものである。

Gグレードのインテリア
プレミアムインテリアパッケージでは内装がダークブラウン色となるインパネはソフト塗装となるドアトリムは生地張りとなるほか、ドアハンドルのシルバーの加飾をあしらい上質感を高めている

 その新設定されたエントリーグレード「M」について、上記の事情を承知の上で、興味を持ってもらえればと思うところだが、走りについてはモーターは共通で、駆動用バッテリーが異なり、制御の違いにより性能が差別化されている。バッテリーは同じリチウムイオンで、Gがリチウムエナジージャパン製であるのに対し、Mは東芝製となっている。

 スペックをいくつか比較すると、総電力量は「G」が16.0kWh、「M」が10.5kWh。総電圧は「G」が330V、「M」が270Vなのをはじめ、最高出力はGが47kW(64PS)/3000-6000rpm、Mが30kW(41PS)/2000-6000rpmとけっこう大きく違う。最大トルクはGが180Nm(18.4kgm)/0-2000rpm、Mが180Nm(18.4kgm)/0-1000rpmと、ピーク値は同じながら発生回転数が異なる。

 そして、気になるJC08モードでの一充電走行距離は、Gが180kmであるのに対し、Mが120kmとなっている。満充電の所要時間の目安は、AC200V(15A)で、「G」が約7時間、「M」が約4.5時間、AC100V(10A)では「G」が約21時間、「M」が約14時間。80%まで充電される急速充電では、「G」が約30分、「M」が約15分となっている。

 三菱によると、「M」のターゲットは軽自動車のメインユーザーである主婦層、すなわち家族の送迎や買い物などで実際にクルマを日常的に生活の一部として使っている層として、割り切ったと言う。つまり、高速にはあまり乗らず、市街地をメインに使う人を想定したのだ。

 さらに、もともとバッテリー容量が小さいため、出力の上限をあえて抑えることで、仮に荒っぽい運転をしても、エネルギーを無駄にすることなく、公称値である走行距離120kmを極力出せるように味付けしたのだという。そう考えると、実に理にかなった設定といえるだろう。具体的には、「M」のDポジションでの上限が、「G」のEco(出力を抑えて消費電力をセーブする)ポジションでの上限と同じ制御になっているそうだ。

キャラクター分けが鮮明に
 ご参考まで、車検証を見ると前後軸重ともに「M」では20kgずつ軽くなっている。実際にドライブしたところ、「M」のDポジションでの加速感は、「G」のEcoポジションよりもわずかに速いかなという印象。前述の動力性能と車両重量の関係を考えると、納得である。回生ブレーキについては、先に「G」を試乗したときの感覚よりも、心なしか「CHARGE」側によく触れたような気がした。

 なお、i-MiEVのセレクターレバーは、通常のゲート式ATと同じ形をしていて、Dポジションの下にEcoポジションがあり、その下が回生ブレーキをもっとも強く働かせるBポジションとなっている。

 DポジションとEcoポジションによる加速感も、「G」と「M」では違いがあり、「G」ではDポジションにするとかなり力強く、Ecoポジションではおとなしく感じられるのに対し、「M」はDからEcoに変えても、それほど落ち込まない印象だった。

 「M」の絶対的な動力性能や走行距離については、遅いとか距離が短いと評する人もいることと思われる。筆者は先代や「G」のEcoポジションでも、一般走行であれば十分と思っていたので、「M」の性能でもあまり不満は感じなかった。

 今回のように、きつい上り勾配の連なる箱根のワインディングを走ると、さすがにもう少しパワーが欲しいと感じるシチュエーションもあったのは否めないものの、「M」で想定している用途であれば、十分に不満なく使えることと思う。このあたりは人によって見解が異なるだろうが、とにかく新型i-MiEVは、「G」はより走行距離が伸びて装備が充実したし、さらに低価格の「M」も設定されたことで、選択の幅が広がったことを歓迎したいと思う。軽自動車という特質を考えると、今回追加された「M」のほうがi-MiEVのキャラクターに似合うのではという見方もできるだろう。

i-MiEVのバッテリーを活用した電源供給装置

1500W級の電源供給を可能にする電源供給装置は今年度中に商品化
 また、試乗会会場の一角では、i-MiEVのバッテリーを活用した電源供給装置も披露された。

 i-MiEVの「G」には、一般家庭の約1.5日分に相当するという大容量バッテリーが搭載されている。これを直流を交流化することで、1500W級の電源供給を可能にするもの。震災後、ライフラインとして重要な電源の確保への関心は高く、同システムにも注目が集まることと思われる。同装置は今年度中に商品化する予定。

 さらに、ミニキャブMiEVの試作車にも乗ることができた。

 あくまで試作車のレベルなのでインプレは差し控えたいのだが、こちらも2011年内に市販予定があるとのこと。ミニキャブのフロアにi-MiEVの駆動システムを移植したというもので、市販化されれば排出ガスを出すことなく、宅急便などのビジネスシーンで活躍してくれることだろう。

ミニキャブMiEV

インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2011年 10月 18日