【インプレッション・リポート】
日産「エルグランド」

Text by 日下部保雄


 日産自動車のLクラスミニバンとして、トヨタ自動車の「アルファード」「ヴェルファイア」軍団相手に健闘している「エルグランド」がマイナーチェンジを受けた。

 変更点は主にアラウンドモニターの仕様向上などだが、同時にエクステリアの変更なども図られており、特別仕様の追加もあってユーザーニーズを捉えたマイチェンになっている。

 ここではアラウンドモニターの仕様向上がどのようなものか。そして駐車ガイドシステムのスペック向上、さらにオーテックのライダーハイパフォーマンススペック、そして2列シートVIP仕様を紹介していく。

 アラウンドモニターについては詳しく述べるまでもないだろうが、これは外部カメラを使ってクルマをあたかも真上から見ているような映像を合成し、クルマ周囲の安全を確認することができるものだ。今回の仕様向上では移動物体も検知することができるようになり、実用性は飛躍的に高まった。

 カメラは両サイドミラーと直前視界を監視するトップエンドのカメラ、そしてバックビューモニターのカメラをマネジメントして、クリアランスソナーとも連携させている。進化したシステムは移動しているものを検知することができるので、より現実的になり、検知した時は音とモニターによって示される。従来のアラウンドビューモニターが駐車補助システムの感が強かったが、さらにレベルアップして安全面でも強化された。

エルグランドのコクピットメーターパネルアラウンドビューモニター
3列目シート2列目シート運転席、助手席

 さらに駐車ガイドについても新しいシステムが取り入れられた。車庫入れや縦列駐車に際して、これまではマニュアル操作で目標駐車枠を設定していたのが自動認識できるようになった。マニュアル操作だと実際の使い勝手がわるく、使われる出番は少なくなってしまう。後続車がいる中で駐車位置をマニュアル設定していることを考えると、大変面倒なのが想像できるだろう。

 新しい駐車ガイドは、モニター上で駐車枠モードを選択することで、白線がある場合は自動認識してくれ、あとはアラウンドビューモニターに表示される駐車ガイドラインに沿ってステアリングを切ればOKだ。

 白線がない場合はこれまで同様に駐車枠設定をマニュアルで行うことになる。この場合は設定に微調整が必要なのは従来のガイドモニターと同様だ。

アラウンドビューモニター画面で駐車ガイドを設定駐車方式を選択駐車枠を自動認識しているので、問題がなければそのまま開始
所定の場所まで前進させるガイドに従いつつ後進無事駐車完了。コインパーキングの精算ポストを左後方のセンサーが検知している
駐車を終えたエルグランド駐車ガイド実行時もコーナーセンサーは動作している。前方を人が横切れば警告が出る。横切っているのは岡本幸一郎氏

 ただ、これまでと違うのは従来、ガイドモニターに誘導されてステアリングを切っている場合、軌道を微調整するとガイドを中止してしまったが、新しいシステムでは微調整ではキャンセルされることがなくなった。これも現場の声からの実用性向上だ。

 また、アラウンドビューには実際のタイヤの切れ角と、前輪と後輪の予測進路も示すので内輪差が分かりやすく表示される。さらにアラウンドビューモニターが起動していない場合でも、四隅に配置されたソナーが障害物を探知すると自動的にトップビュー画面を表示するので、安全面でも向上した。日産の駐車ガイドは実践的になり、先進技術の実用化で駐車の苦手なドライバーにはありがたい装備だと思う。

 これら2つのレベルアップしたシステムを実際にトライしてみたが、前者は安全面では一段と向上し、後者は設定が容易で、わずかな操作で駐車でき利便性を実感した。まずはLクラスミニバンのエルグランドからというのはよい設定だ。

 このほかの安全装備ではステアリングを切った方向にヘッドランプを向けるAFSで、2.5リッターモデルから標準装備になっている。装備面ではバックドアをリモコンで開閉できるオートバックドアが3.5リッターに標準、2.5リッターにはメーカーオプションで装備できるようになった。

 さて、日産のスポーツブランドはNISMO(ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル)を前面に押し出す戦略と言われているが、エルグランドのスポーツ仕様?のトップエンドはオーテックから登場した。もともとスポーティ仕様はライダーのネーミングが与えられているが、これをベースにして「エルグランド ハイ パフォーマンススペック」として仕上げている。

エルグランド ハイ パフォーマンススペック

 このモデルの狙いはボディー、サスペンション、タイヤをトータルチューニングして、適度にスポーティな走りを目指している。そしてここが重要なのだが、日産ディーラーで販売される以上、新車保証を受けられることが大きく、安心感がある。

 エクステリアはフロントグリル、前後バンパー、2本出しのスポーツマフラー、専用アルミホイールで一層迫力あるデザインに仕上げられている。つまり“ワル”な感じが漂う。インテリアは黒和紙調のフィニッシャーと本革のステアリングホイール、そして黒、あるいはオフホワイトの本革シートが標準としている。

 先ずボディーのチューニングだが、フロントとリアのエンドのステーを配置し、さらにボディーセンター下部にクロスバーを入れることでボディーのねじれ剛性を中心に強化し、さらにリアのマルチリンクサスペンションのサスペンションメンバーを補強し、左右のサスペンションをつなぐパフォーマンスダンパーを装備している。

 パフォーマンスダンパーとはサスペンション左右をつなぐバーにダンパーを使ったもので、ヤマハが最初に開発し、トヨタがカルディナなどの一部車種で使ったことがある。ボディーのしなりをコントロールする効果がある。

 サスペンションはバネレートとダンパーをチューニングしている。標準仕様に対してバネレートはフロントで15%、リアで20%アップし、ダンパーの減衰力はフロントで伸び側130%、圧側140%。リアは伸び側100%、圧側60%のアップとしている。車高は10㎜のダウンにとどまっているので、実用性は標準車とほとんど変わらないだろう。

 このサスペンションに合わせてVDCもチューニングされている。装着タイヤはミシュラン Primacy(プライマシー) LCの245/45 R19でホイールサイズは8Jとなる。ちなみに標準車のライダーは225/55 R18に7.5Jである。

 もちろんパワートレインも専用チューニングされている。排気系の変更とECUチューニングからなり、排気系は背圧を低減させるために左右のバンクからのマニフォールドの長さを最適化。その干渉を防ぐためにオイルパン形状を変更している。この結果、最高出力は280PS/6400rpmから300PS/6400rpmへ、最大トルクは35.1㎏m/4400rpmから36.8㎏m/4400rpmへ、20PS、1.7㎏mの向上を図っている。

 エンジンの出力変更に伴いCVTもこれに合わせた制御を行っており、変速パターンを変えることでスポーティさを強調している。試乗は高速道路と市街地で行った。エキゾーストノートは音圧がやや高いもので力強い。ハイパフォーマンススペックの仕様を知らない人でも、ちょっと力強い音ぐらいにしか聞こえないだろう。

 発進時のアクセルのレスポンスはちょっと過敏だ。アクセルワークを少し丁寧にしないとグンと発進してしまう。素早く走りたい時にはシャープなアクセルの反応は小気味よいが、多人数を乗せるミニバンにとってのセッティングと考えると個人的にはあまり好きではない。その代り加速は伸びやかで、アクセルを踏んでいるとずっと加速が続くような感触を得られる。標準の3.5リッターエンジンでも十分に力があるのに、ハイパフォーマンススペックではさらに気持ちよく、力強く加速していく。

 発進時のアクセルの反応にはあまり賛成しないが、この加速の伸びはなかなか気持ちよい。実際の20PSの差は実用上はそれほど影響しないが、気持ちの良いエンジンの回転フィールと加速の伸びはLクラスミニバンとは思えない小気味よさだ。またエキゾーストノートはエンジン回転が上がってもそれほど音圧が上がらず、室内に音がこもることは少ない。クルージングでもノイズとして感じられることはないのは好ましい。

 CVTは無段階変速だがシフトスケジュールがアクセルの踏み加減で高回転側に維持されるので、いつでも加速にスタンバイ状態になっている。アクセル操作やスピード、勾配、コーナリングでは変速スケジュールが決定され、エンジンのチューニング分を効果的に引き出している。コーナーが続くところではエンジン回転を高めに維持し、アクセルをあまり踏まなくてもよい条件であればエンジン回転を低めに抑える。

 テストドライブでは確認するすべはなかったが、排圧を下げているために、効率が向上しているために、燃費は標準のライダーと変わらないところに収まっていると言う。燃費はそのままに出力が上がるという2つの性能を両立させている。ライダーにあるECOモードはそのまま活かしているので、アクセルの反応が鈍くなって燃費運転も従来どおり可能だ。

 乗心地は硬い。段差でゴツンとした強い衝撃が来るほどではないが、路面の形状はかなり正確に伝わってくる。突き上げは強いのだ。また速度域に応じて緩いピッチングが生じる。前後のダンピングフォースの比率の影響だと思われる。その代わりコーナリングはロールが抑えられており、背の高いミニバンとは思えないほど安定感の高い。素早いレーンチェンジでもステアリングの応答性は高く、すんなりと姿勢を変化させる。

 ボディー剛性も高く、ハイスピードでもチューニングされたサスペンションと共に、安心感の高いハンドリングとなっている。ちなみに高速の直進性もかなり向上しているのでアベレージ速度は自然と高くなる。ミシュランタイヤはクセのない性格で、ハイグリップではないがタイヤそのもののハーシュネスは少なく、ハイパフォーマンススペックとのマッチングはわるくない。

 ライダー・ハイパフォーマンススペックは、標準のライダーよりももっと迫力のあるエクステリアとそれに見合った走りを求めるユーザーには丁度よいグレードだ。価格は504万円、ナビゲーションやオートスライドドア、それにクロームを多用したエクステリアなどを装備したブラックラインでは559万6500円となる。標準のライダー3.5リッターは454万6500円からとなるので約50万円高くなるが、内容としてはバリュー・フォー・マネーだ。

 一方、この大きなボディーを4人乗りとした贅沢なVIP2列仕様もラインアップに加わった。リムジンの代わりにVIP用として使ってもらおうというものだ。最近は大きなミニバンをリムジンとして使っているケースも少なくないが、まさにVIP2列シートはそんなニーズに応えた仕様だ。リアシートはオットマンを持った完全パワーシートで2席をたっぷりと使っている。LED照明の読書ライトや保温冷蔵庫などを備え、一杯にシートを倒してオットマンを伸ばしても足下には十分に余裕がある。贅沢なインテリアである。

 VIPの場合は後席の乗り心地が当然重要になるが、多少のゴツゴツ感があるものの概ね良好だ。ただリアのバックドアからの風切音とDピラーを伝わってくるロードノイズが大きめだ。もともとエルグランドはLクラスミニバンとしてはノイズがよく抑えられている方だが、純粋なリムジンからすると気になるところだ。クルマの性格からして贅沢に遮音材を使ってでも静粛性は上げてもよいと思う。

VIP 2列シートの後席VIP 2列シートの前席

 ちなみにエンジンは3.5リッターの標準仕様、サスペンションも標準車と共通、タイヤは225/55 R18を履く。VIPには3列シートの7人乗りもあり、こちらの価格は577万5000円、2列シートは630万円となっており、いずれも4WDを選択できる。

 エルグランドは標準車にハイウェイスター、それにライダーに加えて、ライダーパフォーマンススペック、VIP、福祉車両のアンシャンテなど、ラインアップは一気に充実することになった。


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2012年 3月 22日