【インプレッション・リポート】
ポルシェ「911 カレラ カブリオレ」

Text by 河村康彦



 

 ボディーのフロントセクションを、歴代モデルでは初めてのアルミニウム材をメインとした構造とし、それ以外にもさまざまな部位に“適材適所”の材料やデザインを採用することで、大幅な軽量化を実現させたことがまずは大きなトピックとして報じられた「991型」。2011年暮れの「カレラ・クーペ」の登場を筆頭に、フルモデルチェンジなったばかりの最新「911」が、早速バリエーションの拡充プログラムをスタートさせ始めた。

オープンでも軽量化
 前述クーペに続いてリリースされたのは、ここに紹介する「カレラ・カブリオレ」。例えオープン・モデルであろうとも、スポーツカーにとって「軽量であることは極めて重要!」と、昨今流行のリトラクタブル式ハードトップなどには目もくれないのが、ポルシェが主張を続けるかねてからのポリシー。というわけで、当然ながら991型のカブリオレもそのルーフには、歴代モデルと同様のソフトトップ方式が踏襲されている。

 ポルシェが「スチール/アルミニウム製」と呼ぶ冒頭紹介のボディー構造は、従来型比で最大60kgのマイナスという車両重量の軽量化にもちろん大きく貢献。同時に、オープン化のためにドアシル部分などに専用の補強を施した結果、「動的ねじれ剛性は従来型比で18%アップ」というニュースも伝えられている。

 一方で興味深いのは、かくも軽量化を目指しながら、「これまでよりも2.5kgほど重量が増した部位もある」という点。実は、サイドシル内部に997型では採用のなかった補強プレートを新採用し、それが前述の重量増の部分に相当するという。

 

 一方、「そのすべてが『カレラ・クーペ』に準ずる」というのが、新しい911カブリオレのランニング・コンポーネンツだ。すなわち、搭載エンジンはSグレードが3.8リッターで、ベースグレードが3.4リッター。最高出力は400PSと350PSで、それぞれが7速MT、もしくはポルシェでは「PDK」と呼ぶ7速のデュアルクラッチ式トランスミッションとの組み合わせ。

 もちろん、オープン・モデルでもCO2の削減に全力で取り組んでいるのは当然の事柄。アイドリング・ストップメカや減速時のバッテリー回生システム、PDK仕様車でのコースティング機能など、いずれもクーペで採用された“省エネ・ディバイス”は、こちらにもそのまま採用されている。


新開発ソフトトップはスタイルにも空力にも効果
 そんな新しいカレラ・カブリオレで、一見して注目に値するのはそのスタイリングだ。
 オープン時のフォルムについては、今回も“想定内”と感じる人が少なくないだろう。しかし同時に、トップを被ったそのプロポーションは「従来型よりも遥かにスタイリッシュになった」と、実感をする人が殆どであるはずだ。

 その秘密は、「全く新たに開発」というそのトップ部分そのものに隠されている。

 フロントのウインドーフレーム、リアのウインドー、そして「パネルボウ」と称されるその中間でトップ・ファブリックを支える2つのマグネシウム製パーツという計4つのエレメントをZパターンに薄く折り畳む方法の採用により、クローズ時に「クーペとほとんど変わらないルーフライン」を実現することに成功。従来型では、側面視でルーフトップ部分からリアのエンジンリッド間に存在していた小さな“段差”も解消され、スムーズな空気の流れを実現することで、実際に空気抵抗係数も0.30と、クーペの0.29に迫る好データをマークするに至ったという。

 100mm延長されたホイールベースに、より大径のシューズを履く新しいカブリオレは、だからこそ「“ルーフ閉じ”状態での佇まいがこれまでよりも遥かにスタイリッシュに見える」のだ。

 

 ちなみにアッセンブリー重量としては約35kgという、ポルシェとダイムラー・クライスラー(当時)によって1995年に設立されたカー・トップ・システムズ製によるトップ部分は、カバーリッドを開閉させる2つと、トップそのものを動かす2つの計4つの電動油圧シリンダーにより「わずかに約13秒で開閉」し、「50km/hまでの速度であれば走行中も動作が可能」であるのに加え、「リモコンキーで車外からの操作も行える」という。

 ソフトトップと聞くと、比較的安価で軽量なオープンカー向けのアイテムというイメージを抱く人がいるかもしれない。が、新型911のそれはかくも“贅を尽くした一品”であるということ。クローズド状態では、その内側に隙間なく張り詰められたルーフライニングにより、キャビン内の雰囲気は「ほとんどクーペと同一」という印象が再現されるに至ってもいる。ソフトトップを採用しながら、かくも“クーペ・ライクなカブリオレ”を意識したのが今度のモデルであるということだ。

魅力的なMT仕様は健在
 そんな991型カブリオレのドライバーズ・シートへと乗り込む。

 「オープン・モデルでも、まずは“屋根閉じ状態”からスタート」というのが当方のテストドライブの流儀。「どんなクルマでも、屋根を開けば爽快さが倍増!」というオープンエア・モータリングは、ある面「“走りの七難”を隠してしまう」秘密兵器でもあるからだ。

 かくして、国際試乗会が開催された大西洋上に浮かぶグランカナリア島のホテルのエントランスにオープン状態で並べられたSグレードをチョイスして、インテリアの見所でもある「ライジング・コンソール」上に設けられたスイッチを操作して、まずはクローズド状態へと再度変身させたMT仕様車にてのスタート。

 スペック上では、同仕様のクーペよりも70kgほど重い重量を表示するが、もちろん加速力はクラッチミートの瞬間から何の不満もない。シフトフィールはなかなか優れていて、“指先”は無理でも“手首の動き”ですべてが完結する操作量の小ささも好印象。

 ただし、前出コンソールの前方から生えるシフトレバーは、それゆえノブの位置も高めのレイアウト。ポルシェでは、それを「ステアリング・ホイールからの距離が近くなるので操作性向上に繋がる」とするが、個人的にはその一方で「やや脇が開き気味になる」のが気になった。

 第7速のポジションへは5速もしくは6速位置からしか操作ができないロック機構が付いているので、シフトミスの可能性は事実上皆無。100km/h走行時のエンジン回転数が2000rpmにも満たないそんなギアを選択するのは、現実には高速クルージング中に限られるので、走行中のポジションが不明になって慌てるようなシーンにも遭遇はしなかった。

 そんなこのポジションでも、100km/h付近からでもアクセルペダルを踏み込めば、それなりの加速力が期待できる。実際、このギア比がPDK仕様よりもややローギアードに設定されているのは、アクセルヘダルを踏み込めば“電光石火”のキックダウンが行えるPDK仕様に対して、それが不可能なMT仕様では「トップギアでもある程度の加速力を生み出せるようにするため」という意図的なポイントであるという。

 そんなMT仕様からPDK仕様へと乗り換えれば、もはやこちらの方が「より速く、より燃費に優れ、よりステアリング操作に集中できる」のは否定のしようがない。しかし、それでもこうしてMT仕様の設定を残しているのは、ポルシェ自身もこちらの方が「操縦の自在度が高いこと」に、まだ一定の理解を示しているからでもあるはずだ。

 例えば「どのようなスタートシーンを決めるか」という点にスポットライトを当てれば、それがアクセルワークだけで一義的に決定されてしまうPDKに対し、MTはクラッチミート時のエンジン回転数や、その瞬間のアクセル/クラッチワークの緩急を、ドライバー自身が完全に支配し、自在なシナリオを描くことができる。実は、個人的にも特に最近は、この「クラッチミートをどのように行うか」を、自身の判断に沿っていかにイメージ通りにスタートを切るかということが、MT車に乗る大きな楽しみになっている。

 

感涙もののサウンド
 そんな2台のカレラSから、ベースグレードのPDK車へと乗り換える。先に開催されたカレラ・クーペの国際試乗会にはSグレードしか用意されていなかったので、「3.4リッター・エンジン搭載の991」に触れるのは、これが初めての経験だ。

 Sグレードに比べると、「車両重量が15kgしか軽くならないのに、364ccと50PSのマイナス」だから、当然その差は体感上も少なからず存在する。しかし、そうは言ってもそのウエイト/パワーレシオはわずかに4.2kg/PS。0-100km/h加速も4.8秒と発表されているから、こちらであっても絶対的な速さが文句ナシのものであることは疑いない。

 比べれば、同様の走りのパターンでSグレードよりも“シフトビジー”な印象を感じるが、そもそもPDKのDモード・レンジ走行シーンではシフトショックそのものが皆無。すなわち、現実には「排気サウンドがちょっと頻繁に変わるナ」という印象差に過ぎないことになる。

 ところでサウンドと言えば、オプションの“スポーツ・エギゾーストシステム”装着車でそのスイッチをONにし、ルーフを開け放ってトンネル内で耳にする音色は、もはや「感涙もの」という表現を用いても過剰ではないものだっだ。

 ちなみ、そんなオープン走行シーンでの今度の911カブリオレでのトピックの1つは、後席部分に設けられるウインド・デフレクターが、これまでの着脱式からわずかに2秒で展開と格納が行われる電動式へと改められたこと。

 高速走行時の後方からの不快な風の巻き込みを防ぐ効果はバツグンではあるものの、どうにも見栄えがスマートと言えない4シーター・モデルでのこの種のアイテムは、できれば街中をゆったりと流すシーンでは人々の視線から外しておきたいもの。新型カブリオレならば、そんな“夢”がスイッチ1つで実現できる。このアイテムは、そうした贅沢な悩みを一挙に解決する画期的なアイディアを具現させたものなのである。

 

 

贅沢でゴージャス
 991カブリオレのフットワーク・テイストは、(もちろん!)基本的にはクーペのそれに「大きな相違と遜色は存在しない」と言ってよいものだ。

 確かに、それでも実は「クーペと同じ」と断言できるわけではない。特に、ボディーの剛性感はオープン・モデルとしては文句ナシに素晴らしいものである一方、やはりクーペの方がさらに上を行っていると実感できるものだった。そうした印象は、特にオープン状態で大きな穴に車輪を落としたりすると、その後の振動収束感の違いとしてより明白でもあった。端的に言えば、走りの上質さではやはりクーペの方にわずかながらも軍配が上がると言ってよい。

 それにしても、そんな新型カブリオレの走りが、ハンドリングの点でもスタビリティの点でも、何とも“骨太”で最新の一級スポーツカーとして相応しい味わい深く、ポテンシャルに富んだものであったのは間違いない。

 中でも、電子制御式のトルクベクタリング・メカ「PTVプラス」を標準採用するSグレードに、オプション設定のアクティブ・スタビライザー「PDCC」や、セラミック・コンポジット・ブレーキ「PCCB」、さらにダイナミック・エンジンマウントを含む「スポーツクロノ・パッケージ」を加えたPDK仕様車で、用意されたサーキット・コースを飛ばした際の走りのダイナミズムは、とてもオープン・モデルのそれとは思えないほどに硬派な本格スポーツカーをイメージさせてくれるものでもある。

 従来型ではクーペとは異なるサスペンション・スプリングを採用していたというが、今回は「クーペとセッティングは同じ」という。このあたりにも、新しいカブリオレの基本的なポテンシャルの高さが現れていると言ってよいのかも知れない。

 フルオープン・モデルでしか味わえない走りの快感を、クーペと同様のフォルムと快適性の下に表現させた上に、走りのポテンシャルは紛う事なき世界一級のスポーツカーの水準――恐らくこの後には、4WDモデルやターボ・モデルがスタンバイをするのを承知の上でも、「一体これ以上、何を望むのか!」と口をついて出てしまうすこぶる贅沢でゴージャスなモデルが、この新型911カレラ/カレラSカブリオレなのである。


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2012年 5月 1日