独ポルシェ、新型「911」の詳細を公開
「911カレラ スニークプレビュー」リポート

2011年8月29日(現地時間)開催



 世界最大規模のモーターショーとして知られるフランクフルトショーの開催をおよそ半月後に控えた8月29日。ドイツ南部の町、シュツットガルト近郊に位置する本社隣接のポルシェ博物館で、ごく内輪のパーティが開催された。名付けて「911カレラ スニークプレビュー」。すなわちそれは、前出のショーで正式にデビューすることがすでに公にされている、次期型「911」の“内見会”という位置づけのイベントだ。

 通常、この種の催しで見聞きをしたことは、正式な発表が行われるまでは「口外はご法度」というのが一般的。しかし今回のイベントでは即時の情報発信はもちろん、写真撮影も自由という太っ腹ぶり! というわけで、ここでは入手をした資料に基づく各種のデータはもとより、会場に参集をした開発首脳陣から直接耳にした内容も盛り込んで新しい911の詳細な内情に迫って行こう。

911カレラ スニークプレビューはシュツットガルトのポルシェ博物館で開催された

 

デザイン責任者のミヒャエル・マウアー氏

サイズとルックスは不変でも、改良は多数
 まず、多くの人が気になるであろうそのボディーのサイズから。

 モーターショーで披露される「991型」と呼ばれる新しい911は2タイプ。シリーズ全てのベースとなる「カレラ」と、そのハイパフォーマンス版としての「カレラS」で、いずれもクーペ・ボディーを備える後輪駆動モデルだ。

 一部には「今度の911は、そのサイズが一挙に大型化する」といったスクープ情報も聞かれたものの、いざ蓋を開けてみれば全幅は不変の1808mm。全長の増加も56mmに留まるので、むしろ「大きさは従来の997型と殆ど変わらない」と表現をしてもよいくらいだ。

新型911 カレラ
新型911 カレラS

 ルーフラインが数mm単位で下げられたのは、より伸びやかで“モダーンな911”というイメージを演じると同時に、前面投影面積を縮小して空気抵抗低減を図る目的も考えられる。空力といえば、すでに911というモデルのアイデンティティになりつつあるリアの格納式スポイラーの幅が、グンとワイド化された点も見逃せない。当然これは、その効果の増大を狙ってのものであるはずだ。

 そんな新型が「大きくなったように見える」としたら、それはカレラで46mm、カレラSで52mm拡幅されたフロントトレッドと、より外側にレイアウトされた特徴的な円形のヘッドライトの成せる業だろう。

 一方のリアまわりは、LEDテクノロジーを用いたテールランプがよりシャープな薄型形状へと変更されるとともに、そのランプ上方レベルでボディー・リアエンドをぐるりと取り巻く水平ラインが強調された点が新鮮。「911として確固たるイメージができ上がっているフロントまわりに比べると、リアは手を加えられる余地が大きい」とは、プレゼンテーション終了後のディナーで隣席となった、デザイン責任者であるミヒャエル・マウアー氏のコメントだ。確かに、ガーニッシュを採用したりしなかったり等と、これまでもリアビューはそれなりに大きな変化を遂げて来た歴史もある。

 前述のように、ボディーサイズの大幅変更は避けた991型だが、ホイールベースだけは一挙に100mmもの拡大。

 マウアー氏によると、これはデザイン・サイドからの要求ではなく、レース部門からの声に代表をされた、エンジニアリング上の都合による結果という。RRレイアウト・ベースの911の場合、高速直進性の確保は誕生以来の課題であったわけだが、今回は基本的な車両ディメンションの上からも、この件に関しての“飛躍”が求められたのかも知れない。今後ハイブリッド・システムを搭載するためのスペースを予め確保した、という憶測もできるものの、残念ながら今回それは未確認だ。

 そうしたホイールベースの延長に伴い、オーバーハングはフロントで32mm、リアで12mm短縮された。それでいながら、サイドビューで決して“間伸び感”をイメージさせず、どこから見てもオーセンティックな911と受け取れるルックスをキープしたのは、カレラで19インチ、カレラSでは20インチが標準という大径シューズを履くことや、ウインドウ・グラフィックがよりスリークな形状へとリファインされたことなども、効を奏しているのだろう。

 ところで、従来はフロント・ドアガラス先端の“三角パッチ”部分に取り付けられていたドアミラーは、991型ではドアパネルからのステーに取り付けられる方法へと改められた。これに伴っての嬉しいニュースは、911シリーズとしてはその歴史上で初めて(!)、電動格納機構が内蔵されたこと。

 スプリング力に逆らってミラーを倒し、その状態を保持するため内蔵された“つっかえ棒”をかますという997型での可倒方法は、極めて扱い難いばかりか、場合によって作業中に指先を挟む危険性すらあったもの。「日本市場には電動格納式がマスト!」と事あるごとにチーフ・エンジニアであるアハライトナー氏に指摘を続けて来た当方としては、「しつこく改善を求めた成果が少しはあったかな?」とポジティブに受け取りたい小さな出来事だった。

「ライジング・コンソール」が911にも
 こうして、遠目には同じように見える(?)エクステリアに比べると、「カレラGTのイメージを受け継いだ」とされるインテリアのデザインは、一見してその“代わり映え”が明確だ。

 最大の特徴は、前出マウハー氏が「ライジング・コンソール」と表現する、ダッシュボード中央部から手前へとなだらかな下降線を描くセンターコンソール部の形状。これこそがまさに「カレラGTのイメージ」を象徴する部分であるのは明らか。同時に、パナメーラや新型カイエンのそれとも一脈通じるイメージを放ち、「最新ポルシェ車に共通の雰囲気」を形作っている。

 5連丸型のメーターリングを収めたクラスターや、ドア側にレイアウトされたキーシリンダーは、911としては当然のこだわりだろう。ドアポケットは従来のアームレスト兼用のリッド部分が開閉するタイプから、オーソドックスな横開き式に変更されたのは個人的にはちょっと寂しいが……。

カレラGTやパナメーラ、カイエンの「ライジング・コンソール」が911にも
5連メーターなどは従来通りドアポケットはオーソドックスなタイプに

 

991のキー

 気になったのは、ドアのロックとアンロック、そしてトランクリッドをアンロックするための3つのスイッチが備えられた電子キーのデザインだ。

 「今や、誰もが使うプッシュ式のエンジンスタート・スイッチにするつもりは全くなかった」というマウアー氏の意見には賛同できる。しかし、キー自体のデザインが果たして911というモデルに相応しいものかどうかには個人的には少々の疑問が残る。

 パナメーラのデビューと共に新作された現在のキーのデザインは、実は「パナメーラを模したものではなく、ポルシェ車全体のイメージを表現したもの」とは耳にしていたし、カイエンが2代目の現行モデルへとモデルチェンジした際に、初代モデル用の“カイエン型”をしたキーからパナメーラと同じアイテムに変更されたことからも、ある程度の察しはついていた。

 けれども、自分にとってこの最新モデルに共通したキーのデザインというのは、あくまでも“パナメーラの形”に見えて仕方がない。新型911を注文し、初めてこのキーを受け取ったオーナーは、そんなアイテムを目にして「オレのクルマは4ドアではないのに……」と気にならないのだろうか!?

軽量化を突き詰める
 ポルシェ911というのは、そもそもライバルに比べてその軽量ぶりが際立つモデルだった。例えば、997型で最もベーシックなカレラ・クーペのMT仕様では、DIN規格による車両重量は1415kg。「PDK」を謳う7速デュアルクラッチATを搭載するカレラS・クーペでも、それは1455kgに留まっていた。

 ところが、991型ではそんな「軽量」というポルシェのキーテクノロジーのひとつを、さらに突き詰めている。今度はベーシックなカレラのMT仕様が、わずかに1380kgと、何と1.4tの壁を下回って登場したのだ。

 ホイールベースが大幅に拡大され、わずかながら全長も伸び、「パッセンジャー・モデルとしては世界初」を謳う7速のMTを採用するなど、常識的に考えれば重量は増えて当然なのが991型。しかし、それをここまでの重さに抑えるためには幾多の困難があったことだろう。実際、安全性の強化や装備の充実、CO2低減策などのために新たに必要となった重量は60kgに近いものだったという。それを、前述の水準へと至らせるためには、単純計算でおよそ100kgもの軽量化が行われたことを意味している。

 フロントフェンダーやフード、ドアやリアリッド・パネルにアルミニウム材を用いたほか、骨格そのものにも様々な種類のスチールやアルミ、その他マグネシウムなどの軽量部材を“適材適所”に用いた991型のボディーは、実はシェル単体で70kgもの軽量化を実現。加えて、インテリア・トリムの樹脂素材の厚さを最適化することなどにより、“その他”の部分の軽量化も29kgに及ぶ。

 かくして、その車両重量はMT仕様ではカレラもカレラSも1.4tを下回り、最も重いカレラSのPDK仕様でも1415kgと、997型カレラのMT仕様(こちらは6速だ)と同一値をマーク! 口先で「軽量化」を謳うブランドやモデルは少なくないが、ここまで仕上げればライバルたちも“脱帽……”というところだろう。ちなみに、そんな重さは日本の“エコカー”代表格であるトヨタ・プリウスや、コンパクトSUVを謳う日産デュアリスに相当する。新型911がいかに軽量かを示す、ひとつのエピソードになりそうだ。

ダウンサイズしてパワーアップ
 そんな新しいカレラとカレラSに搭載されるエンジンは、従来と同様排気量の異なる2種のフラット6ユニット。ただし、カレラS用は3.8リッターのままで据え置きながら、カレラ用は3.6から3.4リッター・ユニットへと178ccのダウンを行った。欧州車で動きが盛んな“ダウンサイジング”は、911というモデルにまで及んでいるということだ。

 ただし、だからといってパフォーマンスを低下させる事はポルシェ車には許されない。実際、カレラに搭載される3.4リッター・ユニットが発する257kW(350PS)と390Nmという最高出力と最大トルクは、従来の3.6リッター・ユニットに対してトルクは同等で、出力は5PSの上乗せと発表されている。

 一方の3.8リッター・ユニットも当然パフォーマンスはアップされ、294kW(400PS)と440Nmというデータは従来型から15PSと20Nmの上乗せ。ちなみに、そんな最大値の発生回転数はどちらのエンジンも出力が7400rpm、トルクが5600rpmと、従来ユニットよりも遥かに高く、ここだけを見ると「大幅に“高回転型”になっている」とも推測できる点も興味深い。

 かくもパワーアップをした心臓を前述の軽量ボディーに組み合わせるのだから、その走りのポテンシャルもブラッシュアップされているのは当然のこと。発表された発進加速タイムと最高速は次の通り。〈〉内のデータは欧州市場に向けてはオプションの扱いとなるPDK仕様車のものだ。

モデル0-100km/h加速0-200km/h加速最高速
カレラ4.8秒〈4.6秒〉16.2秒〈15.7秒〉289km/h〈287km/h〉
カレラS4.5秒〈4.3秒〉14.4秒〈13.9秒〉304km/h〈302km/h〉

 ちなみに、PDK仕様車でオプション設定の「スポーツクロノ・パッケージ」をチョイスしスポーツプラス・モードを選択すると、ローンチコントロール機能が作動してどちらのモデルも、0-100km/h加速タイムが0.2秒、0-200km/h加速タイムは0.3秒短縮される。すなわち、その場合のカレラとカレラSの0-100km/h加速タイムは4.4秒と4.1秒! 世界的な第一級スポーツカーとして満足の行くデータであることは言うまでもないだろう。

 そんな動力性能を受け止めるシャシーにも、入念なチューニングが施されていることは想像に難くない。拡大されたトレッドを擁するフロント・アクスルに対して、リアは「完全新設計」を謳う。電子制御による可変減衰力ダンパー「PASM」が用意されるのはもちろん、さらに20mmのローダウンが図られる「PASMスポーツ・サスペンション」も設定。

 また、オプションの「スポーツクロノ・パッケージ」には今回、すでにGT3に設定済みの「ダイナミック・エンジンマウント」も用意される。さらに、左右間での駆動力可変配分を行うトルクベクタリング機構を2タイプ設定。MT仕様にはメカニカル・デフロック機構を用いた「PTV」、PDK仕様には電子制御によるブレーキング機能を用いた「PTVプラス」を用意し、それぞれカレラSには標準採用、カレラにはオプション設定となる。

 ところで991型のトピックは、そんなこのモデルが長きに渡る911の歴史の中で始めて、CO2の削減/燃費の向上に本格的に取り組んだモデルという点にもある。

 前述の軽量化はもちろんのこと、0.29というCd値をマークした優れた空力性能やアイドリング・ストップの新採用、コースティング状態でエンジンとトランスミッションを切り離すPDKへの「セーリング」機能の追加、操舵時以外はエネルギーを消費しないフル電動式パワーステアリングの採用等々と、最新のテクノロジーを総動員してこの目標へとトライをしているのが、今度の911の大きな特徴でもあるのだ。

 かくして、そんなこのモデルがマークをしたCO2排出量は、ヨーロッパでの最新計測法NEDCによるデータでカレラのPDK仕様が194g/kmと、驚きの200g/km割りを達成!

 「全くノーマル状態のカレラSで、ニュルブルクリンクのラップタイムが7分40秒!」という走りのポテンシャルと、誰もが到達できなかった前出の環境性能を両立させた新しい911は、この年末にはヨーロッパ市場向けからデリバリーが開始される予定だ。

911
〈〉内はPDK仕様の数値
カレラカレラS
全長×全幅×全高[mm]4491×1808×13034491×1808×1295
ホイールベース[mm]2450
前/後トレッド[mm]1532/15181538/1516
重量[kg]1380〈1400〉1395〈1415〉
エンジン水平対向6気筒DOHC
3.4リッター
水平対向6気筒DOHC
3.8リッター
ボア×ストローク[mm]97×77.5102×77.5
最高出力[kW(PS)/rpm]257(350)/7400294(400)/7400
最大トルク[Nm/rpm]390/5600440/5600
トランスミッション7速MT/7速PDK
NEDC燃費:市街地(L/100km)12.8〈11.2〉13.8〈12.2〉
NEDC燃費:高速道路(L/100km)6.8〈6.5〉7.1〈6.7〉
NEDC燃費:総合(L/100km)9.0〈8.2〉9.5〈8.7〉
CO2排出量[g/km]212〈194〉224〈205〉
駆動方式RR
ステアリング電動機械式
前/後サスペンションマクファーソンストラット/マルチリンク
前/後ブレーキベンチレーテッドディスク(330mm)ベンチレーテッドディスク(340/330mm)
前/後タイヤ235/40 ZR19 / 285/35 ZR19245/40 ZR20 / 295/30 ZR20
前/後ホイール8.5J×19/11J×198.5J×20/11J×20
定員[名]4

(河村康彦)
2011年 9月 1日